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[GDC06#1]最近注目されるカジュアルゲーム
カジュアルゲームの定義を明確にするのは難しい。カジュアルという言葉からは“いつでも気軽に楽しめる”くらいの感じしか伝わってこないが,GDC2日目に一日がかりで行われていたチュートリアル「Casual Game Summit」(カジュアルゲーム・サミット)を聞く限り,低予算と少ないマンパワーで制作され,オンライン配信によって一般家庭に普及するゲームのことを意味しているように思われた。この場合,たとえば「Xbox Live!」で配信されているJewelのようなゲームはカジュアルゲームとなるが,予算とマンパワーを注いだNintendo DSの「Nintendog」のようなゲームは該当しない。
「ゲームが売れていない」ことに不安感を持っている業界の関心は,これまで“金のなる木”だと思われていた既存のMMORPGよりもむしろ,カジュアルゲームへ移行しているようだ。なんといっても,アメリカでは“サッカーマム”とも揶揄される低年齢層の子供の育児に奔走する20代後半から40代あたりの女性が,カジュアルゲーマー層の半数以上を占めているという事実がある。
つまり,これまでなかったゲーマー層が開拓され,市場が一気に広がったということだ。今回の参加者の中にも「2008年までには100億円を超す市場規模になる」と予想するものもいたほどである。もともとカジュアルゲームが予算も販売価格も安いことを考えれば,いわゆるコアゲーム(本格的なゲーム)との比率でも,急激にシェアを伸ばしている,いやパイの外枠を広げていると言って良いだろう。ブロードバンドや携帯電話の普及によって女性ユーザー層が増大し,パイが急激な拡大を続けているのである。
GDCで,このようなカジュアルゲームが“一つの分野”として認められ,Casual Game Summitとして取り上げられたのは初めてのこと。パネルディスカッションやゲームのデモなどが行われ,ゲーム制作からマーケティングにいたるまで多岐にわたる議題が取り上げられていた。
スピーカーとして参加したのは,「Chuzzle」や「Bookworm」などを制作したPopcap GamesのJames Gwertzman(ジェームス・ガーズマン)氏や「Oregon Trail」という教育系名作ソフトを制作した経験を持つDave Rhohl(デイブ・ロール)氏,最近では「Magic Match」というパズルゲームが人気となったOberon MediaのDave Nixon(デイビッド・ニクソン)氏,MacromediaでShockwave.comを率いるDave Williams(デイブ・ウィリアムス)氏,そしてカジュアルゲーム配信システムでおなじみのWildTangentからAlex St. John(アレックス・セントジョン)氏らなど。
カジュアルゲームへの明るい展望のためか,スピーカー達の言動には余裕さえ感じられたが,乗り越えなければならない問題もまだ多い。例えば,カプコンの「パズループ」を盗作したのではないかと日本でもウワサになっているPopcapの「Zuma」のように,低予算であるがゆえに開発者のモラル低下が見過ごされていると思われる事例も少なくない。いかにプレイヤーにソフトの存在を伝えるかなど,多くの問題点が今回のディスカッションでも議論されていた。カジュアルゲーマー層が洗練されれば,やがてはコアゲーマー層へのコンバージョンが起こる可能性も大きく,それは人気作の続編を作るうえでも考慮されていくべきことだ。
カジュアルゲームは,長きにわたってゲーム業界とは距離を置いた西部の荒野のような状態であったため,乗り越えていくべき課題も多いのである。(奥谷海人)
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