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「ステア」に何が起きたのか? キーマン達が語る空白の4か月――満を持して行う3回目のクローズドβテスト――
ステアは,2006年7月に1回目のクローズドβテスト(以下,CBT)が行われるなど,開発は順調に進んでいるように思われたのだが,9月に行われたCBT第2弾は予定よりも早く終了。その後は,なんの情報も出てこないまま時間だけが過ぎていき,企画が動いているのかどうかも分からない状況になっていた。
そして,CBT第2弾から約4か月経った2月2日,ゲームポットはCBT第3弾を2月9日から実施することを発表した。しばらく音沙汰がなかっただけに,この発表に驚くとともに,4か月もの間に何が行われていたのか,といった疑問が浮かんだ人も少なくないだろう。そんな疑問を解消すべく,ステアの開発に携わるキーマン達に話を聞いた。
■CBTの早期終了から4か月,3回目のCBTは大丈夫?
――見た目は似ていますが,中身は別物です――
本日はよろしくお願いします。ステアの開発には,主に4社が関わっているということですので,担当している仕事の説明も兼ねて,まずは各社の役割を説明してください。
クロスゲームズ 安田典史氏:
クロスゲームズは,開発支援と版権管理を担当しています。基本的にクロスゲームズが全体の指揮を執っているのですが,実際の運営や広報活動はゲームポットさんにお願いしています。
元気 宮沢俊之氏:
元気は,ステアの企画/開発を担当しています。簡単にいえば,仕様を決めて,それをゲームに落とし込む作業になりますね。私自身は企画作業を行っており,弊社及川が開発スケジュールの管理などを主に担当しています。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
ステアの開発には,うちのVCE(Virtual Community Engine)という,ミドルウェアが使われているので,そのサポート/コンサルティングという形で携わっています。我々がVCE自体の開発を行い,弊社森岡が元気さんへのコンサルティングを担当しています。
4Gamer:
どういった経緯でこの4社が協力することになったのですか?
クロスゲームズ 安田典史氏:
まず,企画の大枠をクロスゲームズ/ゲームポットが元気さんへ提案しました。そして,ゲームの中身については元気さんが詰めていき,通信関係の部分にはVCEを使うことになり,コミュニティーエンジンさんに協力していただくことになったのです。
4Gamer:
コミュニティーエンジンさんのVCEは,さまざまなオンラインゲームで採用されていると聞いています。ステアの話に入る前に,どんなものか簡単に説明していただけますか。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
VCEは,通信を利用したコンテンツを作るための基礎となる,通信ミドルウェアです。オンラインゲームをメインターゲットに設計しており,開発環境だけでなく,運営時に役立つツールも含んでいます。採用実績としては,「信長の野望 Online」「大航海 Online」「女神転生IMAGINE」などですね。
4Gamer:
例に挙げられたタイトルは,すべてMMORPGですが,ステアのようなMOタイプのレースゲームにも対応できるのですね。
あくまでもネットワークアプリケーションの開発環境なので,最終的にどんな形になるのかは,実際にゲームを作る人によります。ただし,VCEは,独自プロトコルを用いたアーキテクチャを採用しているので,数万というクライアントが1秒間に1〜2回アクセスするサーバーを,少数のPCで構成できます。オンラインゲームであればどんなものでも通信が発生するので,ジャンルは問わず,運営コスト削減に役立つと思います。
とはいえ,Direct Xを使えば必ず凄いゲームができるわけではないのと同じように,VCEの機能を引き出すためにも,踏むべきステップや,考えておくべきことが色々とあります。そういった部分をサポートする形で,ステアの開発に携わりました。
4Gamer:
なるほど,ありがとうございました。では,ステアについて聞いていきます。2006年9月に行われた2回目のCBTは,ほとんどプレイできなかったと記憶していますが,あらためてそのときの状態を説明してください。
クロスゲームズ 安田典史氏:
お恥ずかしい話ですが,1日半程度しか稼働できませんでした。テストを止めずに修整していければよかったのですが,そのまま続けていても被害が大きくなっていくだけだろうと判断して,テストを予定よりも早めに切り上げたのです。ステアを楽しみにしていた方達には本当に申し訳ないことをしたと思っています。
4Gamer:
止めなければならない状況というのは,具体的にどんな状態だったのでしょうか?
元気 宮沢俊之氏:
想定していた以上にサーバーに負荷がかかってしまい,まともにプレイしてもらえなかったのです。対戦相手のカートがレース中にワープしてしまったり,ゲーム自体が落ちてしまったりと,ゲームとして成立していませんでした。すぐに改善できる手だてもなかったので,やむなくテストを終了しました。
4Gamer:
いくらCBTとはいえ,さすがに厳しい状況ですね……。では,3回目のCBT開催を決定するまでの間,どのような作業が行われていたのでしょうか?
元気 宮沢俊之氏:
テスターの方々に快適に遊んでもらえる環境を提供できるように,通信に関わる部分を修正していました。またそのために,コミュニティーエンジンさんに手伝ってもらい,サーバーを構築し直しました。
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
この部分は私から説明いたします。前回のテスト時は,クライアントサーバー方式のみだったのですが,サーバーへの負荷を減らすため,P2P方式も併用できるようにしました。これで,P2Pを確立できない場合に,従来通りのクライアントサーバー方式で対応するようになりました。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
4Gamer:
コミュニティーエンジンさんは,初めからステアの開発に携わっていたということですが,つまり2回目までのCBTとそれ以降では関わり方が違うのでしょうか?
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
2回目までは,あくまでもVCEの製品サポート的な対応で,それ以降はもっと踏み込んだ形でお手伝いさせてもらいました。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
つまり2回目のCBTまでは,「○○関数の呼び出し方を教えてください」といった質問に対して,汎用的な解決方法を提示していたような関わり方です。それ以降は,ステアの仕様を公開してもらったので,同じような質問の答えでも,「この仕様の場合はこうすべきです」と,より具体的なサポートができるようになりました。
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
そういったやりとりを何度も行い,徹底的にステアの仕様に合わせて調整したので,2回目のCBT時と比べると,見た目やカートの挙動はそのままで,3分の1ぐらいの通信データ量になっています。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
サーバーに負荷がかかり過ぎたのは,前述のように通信データ量が多すぎたためです。ですからクライアントサーバー方式とP2P方式を併用したわけですが,両方使うには,ゲームの細かい部分に合わせてチューニング作業を行わなければならず,ある程度まとまった時間が必要になりました。
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
また,P2Pを併用すると,プレイヤーのPC性能や通信環境に依存する部分が多くなり,チートされやすくなるという問題点があります。クライアントサーバー方式とP2P方式の併用は,そういったことも考慮しなければならないので,経験やノウハウが重要になってきます。
プレイヤーのPCに依存するということは,実際に遊ぶ人に求められる通信環境やPCの動作環境スペックが上がるのでしょうか。
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
いいえ,通信データ量を大幅に減らしたので,むしろ必要な通信環境は下がっています。
元気 及川信正氏:
ゲームデータのシェイプアップも行ったので,動作環境も改善されています。まあ,これは通信データ量を減らすことを目的にやったことの副産物に近いのですが。
4Gamer:
ここまでのお話を聞いていると,サーバーを最初から作り直したように感じるのですが,そうとらえて問題ないでしょうか?
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
全部を構築しなおしたわけではありません。問題のあった部分を割り出し,該当箇所の問題を一つずつ潰していきました。
元気 及川信正氏:
たとえて言うなら,すべてを部品レベルにまで分解して再構築したわけではなく,一度パーツレベルにばらして,パーツとして機能しないところだけを,部品レベルまで分解して作り直した,といった感じです。
4Gamer:
場合にもよると思いますが,一から作り直すのと,ある程度できているものを改善していくのとでは,後者のほうが時間がかかることもありますよね。全部作り直すことを迷ったりしませんでしたか?
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
もちろん,おっしゃるとおりの場合もあります。ただ,改善すべき点と目的がはっきりしているときは,部分的に修正するほうが簡単なことが多いです。今回は,通信データ量を減らすという目的と,修正箇所がはっきりしていたので,データの流れをシンプルにしたり,サーバーへのアプローチ方法を変えたりして対応しました。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
ステアがオンラインのことをまったく考えていないゲームだったら,4か月での対応は無理だったと思います。オンラインで遊ぶことが前提に設計されていたので,作り直す部分は多かったのですが,捨てる部分は少なかったですね。
元気 宮沢俊之氏:
なるべく使える部分は生かしつつ,問題のある箇所をしっかり修正し,社内で十分にテストを行い,数千人規模で接続した場合をシミュレートしました。その結果を見てCBT開始の判断をくだしたので,今度こそ問題なくテストしてもらえるでしょう。
4Gamer:
1回目,2回目のCBTを行う前にも,同じように社内テストを行っていると思うのですが,今回は何が違うのでしょうか。
元気 宮沢俊之氏:
前回の失敗を踏まえて,さらに細かい検収項目を設けてテストを行いました。
この検収項目の設定自体が大変で,自分で作ったゲームを自分でどうやって痛めつけるかってことばかり考えていましたね。コンシューマー機用のゲームだと,遊んでいる人の環境は基本的に同じですが,PCだと全員バラバラなうえに,ゲームのほかに別のソフトを動かしていることもあるなど,想定外のことが多くて大変でした。
元気 及川信正氏:
スタンドアロンのゲームの仕様書は,場面ごとに切り出せるのですが,オンラインゲームの仕様書は最初から最後までつながっていて,切り出せないんです。そんな違いもあるので,仕様書から割り出す検収項目の決め方も,前回は甘かったといえるでしょう。ですが今回は,コミュニティーエンジンさんのコンサルティングを受けることによって,オンラインゲームの検収として,より精度の高い項目を設定できたと思っています。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
私達は数多くのオンラインゲームに携わってきた経験がありますので,大きな問題になる兆候を事前に察知し,対応策を講じられます。そして,その対応策も非現実的なものではなく,現状のリソースで対応可能なものを提案しました。
元気 及川信正氏:
一緒に仕事をしていて感じた,コミュニティーエンジンさんの印象は,良い意味で「夢がない,=現実的)ということです。我々が大丈夫だろうと判断したものも,「いまのままだと,これだけのパーセントの人が遊べないことになりますよ」と,調査ツールなどを使ったり,過去のデータを基に計算したりして,はっきりと数字で現実を見せてくれますからね。
普通,社内のテストでは数千人規模の検証は行えません。数十人規模でのテストを行い,その結果をもとに数千人で行った場合をシミュレートします。同じシミュレーションを行って出た数値の捉え方も,我々とコミュニティーエンジンさんとでは異なっていました。楽観的な見解は一切なく,より現実的でしたね。
コミュニティーエンジン 森岡宏之氏:
いままでの経験をもとに現実的な着地地点を割り出し,そこにたどり着けるようにお手伝いさせてもらったわけです。
元気 及川信正氏:
コミュニティーエンジンさんには,次々と現実を突きつけられたのですが(笑),同時に着地地点も明確にしてもらえたので,なんとかがんばりながら開発を進められました。これだけやったので,3回目のCBTは大丈夫だと思いますよ。
4Gamer:
分かりました。その大丈夫という言葉を信じて,3回目のCBT期間は予定を空けておきますね。
■正式サービス開始後のステアはどうなる?
――国産というメリットを生かし,要望に応えます――
それでは次に,今後のスケジュールを教えてください。
クロスゲームズ 安田典史氏:
3回目のCBTの結果にもよりますが,3月頃にオープンβテストを行い,ゴールデンウィーク前までには,正式サービスを開始したいと考えています。
4Gamer:
正式サービス時のサービス形態は,基本プレイ料金無料のアイテム課金と考えてよろしいですか?
クロスゲームズ 安田典史氏:
ええ,そうですね。
4Gamer:
有料アイテムは,どんなものを考えているのでしょうか。
クロスゲームズ 安田典史氏:
具体的にはまだ決まっていません。オープンβテストなどを通してプレイヤーの方々の意見を聞きつつ,決めていきたいと考えています。また,そういった柔軟な対応が素早くできるのが国産であるステアの強みだと思っています。今では似たタイプのゲームもいくつかありますが,開発元が海外というパターンが多いと思います。その点ステアは,元気さんが開発を行っているので,プレイヤーの要望に素早く応えられます。
4Gamer:
確かにプレイヤーの要求を応えていくことが必須のオンラインゲームでは,レスポンスの速さというのは強みですね。
実際に,1回目のCBTでは,毎日仕様を変えていたんですよ。元気さんは大変そうでしたが,要望が次の日に実装されて,喜んでいるテスターの方がいて,反響も大きかったです。ただし,今回は,テストの期間が4日間ということもあって,仕様を途中で変更することは行いません。いただいた要望は,次回のテストで反映したいと考えています。
4Gamer:
その強みはオープンβテスト以降に発揮するということですね。では,今後ステアをどういったゲームにしていくのか,意気込みを聞かせてください。
元気 宮沢俊之氏:
元気のレースゲームというと,プレイヤーさんもある程度イメージが出来上がっていると思いますが,良い意味でそのイメージを壊していきたいですね。そのためには実際にプレイしている人の意見や要望を聞いて,できる限り応えていきたいと思います。
元気 及川信正氏:
車メーカーのライセンスを受けたゲームだと,車をひっくり返してしまうなんていうことはできないのですが,ステアではそういったことも可能です。自由な発想で,プレイヤー達の意見を積極的に取り入れていきます。
4Gamer:
お二人とも,プレイヤーの意見に耳を傾けることに注力されるとのことで心強いですが,厳しい指摘をされることもありますよね。
元気 宮沢俊之氏:
私も及川も初めてオンラインゲームの開発に携わったのですが,実際にプレイしている人の声を聞きながら開発できるというのは,とても新鮮でした。もちろんきつい意見をもらうこともありますし,反省すべき点も多いですが,いい経験ができていると思います。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
実際に遊んでいる人の声に向き合って,リアルタイムで反映させていくというのは,面白いゲームを作り上げるための手法の一つだと思っています。そして,それはオンラインゲームだからこそ可能ですし,オンラインゲーム作りの醍醐味でしょうね。苦労も多いですが,一度オンラインゲーム作りの面白さを体験したら,スタンドアロンのゲーム開発では,物足りなく感じてしまうと思いますよ。
オンラインゲームを開発する楽しさに目覚めたら,ぜひ声をかけてください。お手伝いしますので(笑)。
元気 及川信正氏:
オンラインゲーム開発の面白さ,苦しさを味わいながら,がんばっていきます。もう失敗はできないですし。
コミュニティーエンジン 中嶋謙互氏:
今までの個人的な経験では,無料ゲームのほうが,失敗したあとにゲームへ戻ってきてくれるプレイヤーは少ないと感じています。先にパッケージで売るゲームは,買った人も元を取ろうと思って,戻ってきてくれることが多いのですが,無料ゲームは一度不快な思いをすると二度と戻ってきてくれないようです。そういった意味でも,もう失敗できないですね。
元気 宮沢俊之氏:
なんか,かなりプレッシャーをかけられていますね(笑)。まあ,やることはやったので大丈夫……だと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。3回目のCBTを楽しませてもらいますね。
同じゲームでも,オンラインゲームとスタンドアロンのゲームの開発では,必要とされるものがまったく異なるということを,あらためて認識させられたインタビューだった。そして,元気,クロスゲームズともに,前回の失敗を素直に認めていたのが印象的だ。あまりおおっぴらにメーカーが失敗を公言することは多くないが,あえてここで失敗を認めているということは,もう失敗はないという自信の裏返しとも取れる。テスト開始直前にインタビューを受けていること自体,大丈夫だというアピールなのではないだろうか。もちろん物事に絶対はないが,テスターに当選した人は,ぜひその目で確認してみよう。
そして今後は,インタビューにも出てきたとおり,国産というメリットを最大限に生かし,プレイヤー達と一緒にステアを作り上げていってもらいたい。(Text by デイビー日高 Photo by kiki)
2007年1月29日収録
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