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ATI,デュアル16レーンPCI ExpressのCrossFireをサポートするチップセット「CrossFire Xpress 3200」を発表
CrossFire Xpress 3200は,その名のとおり,ATI独自のデュアルグラフィックスカード・ソリューションであるCrossFireにフォーカスしたチップセットであり,より正確を期せばノースブリッジだ。組み合わされるサウスブリッジについての発表はなく,ATIのIXP400や,ULiのULi M1575/M1573といった,従来製品のRadeon Xpress 200シリーズで採用されているのと同じものを利用することになる。
ノースブリッジだけのアップデートとなるCrossFire Xpress 3200だが,最大の特徴は,単体で40レーンのPCI Expressを実装していることだ。
CrossFire Xpress 3200では,この40レーンのうち,4レーンをサウスブリッジとの接続用,別の4レーンを汎用のPCI Expressスロット用に,そして,残る32レーンを,2本のPCI Express x16スロット用に割り当てている。
Radeon Xpress 200でもPCI Express x16スロットは2本用意されていたが,電気的には8レーン×2でCrossFireを実現していた。これに対してCrossFire Xpress 3200では,カード側のスペックである,16レーンのPCI ExperssのままCrossFire動作できるようになるのである。
■“真のデュアル16レーン”を実装
この点について,事前説明会で登壇した,ATI本社のチップセットプロダクト マーケティングマネージャのWilliam Tsao(ウィリアム・ツァオ)氏は,CrossFire Xpress 3200が,nForce4 SLI X16に対して,明確なアドバンテージを持つと説明した。
CrossFire Xpress 3200では,「Xpress Route」という機能により,二つの16レーンPCI ExpressがPCI Expressネイティブで接続される。nForce4 SLI X16を引き合いに出したTsao氏は,「競合他社の製品は二つのノースブリッジ機能を接続するような形になっている。このため,2個のグラフィックスチップがデータをやり取りするとき,PCI Express x16のスピードでは行えない部分,つまりボトルネックが生じてしまう」と指摘。これに対して,PCI Expressのネイティブ接続となるCrossFire Xpress 3200を「これこそが,真のデュアル16レーンなのだ」と強調する。
これについては若干の解説が必要だろう。よく知られているように,NVIDIAのnForce 4 SLI x16チップセットは2チップ構成で,それぞれはHyperTransportバスで接続される格好だ。そもそも,nForce4 SLIはノース/サウスブリッジの機能を統合した1チップ仕様のチップセットなのだが,nForce4 SLI X16ではそこに,18レーンを実装する“追加のノースブリッジ”を用意することで,2チップ構成になっている。
こういった,チップごとに16レーンをサポートするという仕様のため,どうしても2枚のグラフィックスカード間のデータ転送には,HyperTransportバスを利用しなければならない。NVIDIAはnForce4 SLI X16のチップセット間バス帯域幅を公開していない(CPUとの間は上り下りの合計で8GB/s)ため,実際にはどの程度か分からないが,確かにPCI Expressを一度HyperTrasportに変換して,さらにそれをPCI Expressへ再変換しなければならないわけだから,理論値よりは下がるはず。仮にCPU−チップセット間と同じ帯域幅,つまり,PCI Express x16と同じ8GB/sの帯域幅を持っていたとしても,ボトルネックが発生する可能性は確かにある。
一方,CrossFire Xpress 3200には,2系統のPCI Express x16が直接接続されており,チップセットに内蔵されているスイッチを利用してPCI Express x16を切り替えている。これなら,仮にPCI Express x16の帯域幅をすべて使い切っても,ボトルネックは発生しない。Tsao氏が言っているのはこのことだ。
ただ,PCI Express x16の帯域限界まで,各グラフィックスチップがデータをやりとりしているような状況,つまり,それなりに負荷のかかった状態が生じなければ,Tsao氏のいうアドバンテージは享受できない。また,NVIDIA SLIでは「SLIブリッジコネクタ」を利用するが,このコネクタを利用して,データはPCI Express x16を介さずに少なからずやりとりされている。この2点は,気をつけておく必要があるだろう。
■サウスブリッジに課題を抱えたATI
また,CrossFire Xpress 3200には,死角……とまではいかないものの,不安要素がある。それは,今回発表されなかったサウスブリッジだ。
2005年12月のインタビューでお知らせしたように,ATIは「ATI製チップセット採用マザーボードの9割以上がATI製サウスブリッジを採用する」と主張している。だが,単体販売されるマザーボードの多くは,この主張に反し,ATI製サウスブリッジのIXP400ではなく,ULi製サウスブリッジを採用しているのが現状だ。この理由は明確で,IXP400はRAID機能がレベル0/1のみのサポートだったり,High Definition Audioコーデックがサポートされていなかったりと,他社製チップと比べて,機能面が1世代以上遅れているから。オフィス用PCなどのいわゆるOEM市場向けには悪くないので出荷量は多くても,ハイスペックさが要求される,本誌読者のような一般ユーザー向けのリテール(あるいはチャネル)市場向けとしては,十分なものとはいえないのである。
「ULi製チップセットは,これまでもマザーボードメーカーが独自にULiから購入してきた。彼らからは,今後もULiの供給に問題はないと聞いている」とTsao氏はいうが,これは,問題の根本的な解決になっていない。この点について尋ねると,同氏は「弊社の次世代サウスブリッジは,他社に追いつき追い越すような最新の機能を実装した製品になるよう計画中だ。それがリリースされれば問題は解決できるだろう」と述べ,ATIとしてサウスブリッジにも力を入れていくという方針を明らかにした。ただし,現時点において,それがいつどのような形で投入されるのかは言及を避けた形だ。
このほか気になる点としては,グラフィックス機能統合版の存在が挙げられるだろう。CrossFire Xpress 3200には,開発コードネーム「RS580」とされる,グラフィックス機能統合版の存在が取りざたされていたからだ。実際,ATIはこれまでも,グラフィックス機能統合版と「ディスクリート」と呼ばれる単体版でダイを同一にしており,グラフィックス機能を“殺す”ことで単体版を投入してきた。CrossFire Xpress 3200(RD580)は,RS580の派生品なのである。
だが,今回このRS580は発表されなかった。これについてTsao氏いわく「グラフィックス機能統合版はOEM市場をターゲットにしている。現時点ではOEM市場において,CrossFireをサポートするような製品は必要とされていないから,まずはハイエンドユーザーが多いリテール市場向けに投入する。だから,グラフィックス機能統合版はないのだ」とのこと。言われてみれば,Radeon Xpressでも,CrossFire Editionは単体版だけだった。まずはハイエンド向けに投入し,広まって,OEMからの要求が上がってくるようになったら,統合版を投入するという戦略なのだろう。
■CrossFireプラットフォームの選択肢が増加
前述したASUSTeK Compute製マザーボードの予想実売価格は2万6000円前後。販売代理店のアスクによれば,Sapphire TechnologyやDFI製のCrossFire Xpress 3200搭載マザーボードも登場するとのことなので,入手のしやすさはある程度確保されるだろう。今後,CrossFireシステムでゲームをしてみたいと考えているなら,予算や,別記事のパフォーマンス比較を見比べながら,CrossFire Xpress 3200搭載製品にするか,Radeon Xpress 200 CrossFire Editionで行くかを考えることになるはず。CrossFireの選択肢が増えることを,素直に歓迎したい。(笠原一輝)
- 関連タイトル:
AMD 580X/480X CrossFire
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(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.