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[GDC#09]ピーター・モリニュー氏,実験作「The Room」を公開
しかし近年はライトなゲームがもてはやされる風潮のためか,「Black & White」や「Fable」など,氏の奇抜にして大作感のある作品のウケは,イマイチよろしくない。
2004年の氏は,計画していた恐竜時代のシミュレーションゲームや音楽ゲームをキャンセルしてまで同社の体制を整えたこともあり,2005年中にリリース予定の「The Movies」と「Black & White 2」は,是が非でも成功させたいところだろう。
さて今年のモリニュー氏は,GDCで例年以上に大活躍している。ザッと挙げるだけで「Game Design Challenge:The Emily Dickinson's License」(ゲームデザイン競争:エミリ・ディキンソン詩集のライセンス),「Fable:Lesson Learned」(Fableの開発で学んだこと),そして今回筆者が視聴した「Gameplay Moves Forward into the 21st Century」(ゲームプレイは21世紀へ進んでいる)という,三つのレクチャーに登場しているのだ。
「Gameplay Moves Forward into the 21st Century」は,"モリニュー氏の考えるゲームの未来"というもので,彼らしく自らが手がけたゲームを引き合いに解説を始めた。
「The Movies」は,Activision社から6月に発売される,ハリウッド映画産業のシミュレーションゲーム。本作は,映画の草創期からスタジオを切り盛りし,クルーや俳優を雇用して映画を制作,さらに撮影したものを公開するなど,モリニュー氏お得意の"ゴッドゲーム"の一種で,映画ビジネスを多角的に遊べるという意欲的な作品である。
今回発表されたのは,キャラクターの雇用方法の部分である。スタジオの敷地内には「映画学校」のような建物があり,"神の手"を使って役者志望のキャラクター達をそこへ運んでやれば,彼らは俳優としての道を歩み始める。神の手が建物を通過すると自動的に屋根が消えて内部を表示するようになっており,「役者の部屋」や「監督の部屋」に放してやるだけで,まるで「シムピープル」のシム人のように衣装が変わって,彼らのキャリアが始まることになる。
そのまま何もしなければ,キャラクター達はスタジオ内を徘徊して勝手に映画を撮影し始めたりする。プレイヤーが直接管理しなくても,かなりの部分で自動制御されている印象を受けた。
キャラクターが役者になったあと,そのまま建物の壁を突き破って外に出たのには心配させられたが,全体的には相当完成に近づいている感じ。ロックスターの恋人がゾンビになるという'80年代のB級映画風の短編も公開され,場内で爆笑が沸き起こっていた。
気がついてみると,「Black & White」の発売から丸4年。モリニュー氏のスケジュール管理能力のなさにはホトホト呆れるが,それでも業界での献身的な活動やカリスマ性が衰えていないのは,会場で立ち見の人が出ていることからも分かる。しかし,モリニュー氏自身も何とかB&Wシリーズのてこ入れをしたいと考えているようで,今回は新たな人材が追加されたことを発表した。
その人材とは,モリニュー氏を取り巻く痩せ型のイギリス人達の中にあって,大きな体とアメリカのアクセントが目立つロン・ミラー(Ron Miller)氏。その名前を知らなくても,元Blizzard South社で「War Craft」「War Craft II」「Star Craft」「War Craft III」などのデザインに関与してきた人物といえば,そのインパクトが分かるだろう。
ミラー氏は,自由度が高すぎるためにゲーマーの理解を得られなかったという「Black & White」を,さらにリアルタイムストラテジー風にするためにコンサルタントとして迎えられた人物で,2日にわたってB&Wシリーズのダメな部分を,モリニュー氏の面前でためらうこともなくブチまけたのだという。
その一例が,デモで行われたような「平和」と「悪」のせめぎ合いという,一層分かりやすくなったテーマ。モリニュー氏とミラー氏のコラボレーションによって,最終的にBlack & White 2がどのように仕上がるのかは楽しみだ。
ゲームデモを始めるに当たって,モリニュー氏が"21世紀型のゲーム像"として挙げたのが,「鮮明なコンセプト」「手軽にプレイできること」「遊びと実験の楽しみ」,そして彼の造語である「モーファブル・ゲームプレイ」という言葉。これは,プレイヤーがゲームに合わせるのではなく,「ゲームがプレイヤーの遊び方に順応してくる」という意味で,モリニュー氏が「今挙げた項目のすべてを持っているのが,これから紹介する作品」と言って公開したものが,「The Room」である。
The Roomの舞台は,非常にリアリスティックに表現された緑の壁紙に覆われた,小さな洋風アパート。オブジェクトをより現実的に見せるバンプマッピングやスペキュラーライティングなどのテクスチャ技術が施された,床のタイルや木製の家具,布製のソファといった調度品は,まるでCG映画のような作り込みだ。照明器具のランプは周囲に淡い光を当て,ソフトシャドウがかかっているといった具合。
こじんまりとした部屋内のオブジェクトは,すべてインタラクトできるようになっていて,壁にかけられている絵画を揺らしてみたり,ブロックを崩してみたり,テーブルの上のフルーツを投げてみたりといった行動がとれる。本棚の本は,1ページごとにめくっていけるというマニアックなモデリングが行われているうえ,少し離れた場所はピントがボケていて,カメラではよくある遠近法も採用されているのがユニークだ。
モリニュー氏は,「我々ゲーム開発者は,プレイヤーの環境に対する知覚も操ることができる」と断言する。そこでThe Roomの舞台は,部屋にあるポータルドアを潜り抜けて,中世風の大理石の柱が並ぶ城のホールへと移動。しかし,その反対側にある石棺のフタを開けて飛び込んでみると,なぜかまた緑の部屋に戻っているのである。まるで,騙し絵を体験しているかのような不思議な感じであった。
さらに中世の部屋に戻り,モリニュー氏は横の壁に付いていた別のポータルドアの前に立つ。一つは大きく,一つは小さいドアで,ポータルに映る向こう側は,プレイヤーが今いる部屋そのものである。そのポータルのどちらかにオブジェクトを投げ込むと,別のポータルドアからオブジェクトが返ってくるのだが,通過するときにオブジェクトのサイズが変更される。小さなドアにオレンジを投げ込むと大きなドアから大きなオレンジが登場し,大きなドアにオレンジを投げ込むと,小さなドアから小さくなったオレンジが戻ってくるわけだ。
このデモにはもう一つ仕掛けが用意されていて,デモ担当者は,中世の部屋の中央にある白い長方形の物体をカーソルでいじり始めた。これは,モリニュー氏が"デジタルクレイ"(デジタル粘土)と呼んでいるもので,長方形のクローンを自由に注ぎ足して,いろいろな形状に変化させられる。ソフトウェアが形状を認識できるようになっているのか,椅子の形にデジタルクレイを整えれば椅子に変化し,「T」の形にすれば電話へと変化するのが面白い。
The Roomは,ゲームというには早すぎる段階の実験的なソフトで,物理シミュレーションと呼ぶべきシロモノだ。実際,モリニュー氏は,「このソフトに発売日はない。ゲームじゃないんだから」と語る。しかし,実験デモにBGMを付けたりタイトルを用意したりする人なんてモリニュー氏くらいのもので,彼の口から漏れていた次期作品「Dmitri」(ドミトリ/仮称)プロジェクトではないかとも少なからず推測できる。今回のデモからは,どのようなゲームへと発展できるのかは予想すらできないが,モリニュー氏秘蔵の一本であるのは間違いなさそうだ。(奥谷海人)
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