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[GDC07#20]売れっ子ストーリーライター,Susan O’Connor氏が物語作りの秘密を公開
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印刷2007/03/09 21:10

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[GDC07#20]売れっ子ストーリーライター,Susan O’Connor氏が物語作りの秘密を公開

熱弁を振るうSusan O'Connor氏
 Susan O'Connor氏は,1998年からゲームのストーリーを書いてきたベテランライターで,これまでもMicrosoft,Midway Entertainment,Irrational Games,Ubisoft Entertainmentなど,数多くのゲームメーカーのさまざまジャンル,60本以上のタイトルにスクリプト(シナリオ)を提供してきた。
 最近の仕事であるEpic Gamesの「Gears of War」は世界中で大ヒットを記録。さらに2007年発売予定のFPS「BioShock」や,Xbox 360用の「Blacksite: Area51」などにもストーリーライターとして参加しており,まさにゲーム開発の最前線で活躍している人物だ。このようにタイトルを並べてみると,男臭い体育会系のタイトルが目立つが,ご本人は小柄で快活な女性である。

 そんな彼女が,Game Developers Conference 2007で「Writing for the Hero with a Thousand Faces: Storytelling Challenges and Gears of War」(千の顔を持つヒーローを描く:物語創作への挑戦と「Gears of War」)と題した講演を行ったのだ。これさえ聞けば明日から売れっ子ゲーム作家になれる(つまり,これを読んでいるあなたも売れっ子ゲーム作家になれる)のではないか? という淡い期待を抱きつつ,私もレクチャールームの端っこに座ったのである。



 「当然ながら小説や映画の“ストーリー”と,ゲームの“ストーリー”は異なる」と,O'Connor氏は切り出した。つまり,映画「インディ・ジョーンズ」は,冒険家で歴史家であるインディアナ・ジョーンズ博士の物語だが,「Gears of War」は主人公Marcus Fenix二等兵の物語であると同時に,プレイヤー自身の物語でもあるというわけだ。この講演のタイトルにある「千の顔を持つヒーロー」というのは,つまりプレイヤーの顔のことで,ジョーンズ博士があくまで一人しかいないのに対し,Fenixは300万の顔を持つという意味である。
 続けて彼女は,ストーリー作りにおける三つのステップとキーワードを挙げた。経験上,個々のプロジェクトは違っていても,良いストーリーの基本はどれも似ていると言う。

ステップ1:Mirror Neuron(ミラー・ニューロンを利用しろ)
ステップ2:Backstage(ストーリーは舞台裏)
ステップ3:Throughline(長期目標を与えよ)


 またもや謎めいた言葉が並ぶが,これはどうやらO'Connor氏の計画のうち。その答えがどんなにつまらないものであっても,謎は人の興味をひくものである。
 O'Connor氏によると,ミラー・ニューロンはチンパンジーの研究により明らかにされた脳の機能の一つだ。突然,スクリーンに写し出されたチンパンジーの姿に観客はどよめいたが,これもまた彼女の計画のうちであるのは明らか。驚きは観客の心をがっちりつかむのである。って,うるさいですか?
 ミラー・ニューロンは,言語の発達と密接に関わっており,別名「物まねニューロン」とも呼ばれる(らしい)。人間は「物まね」をせずにはいられず,ミラー・ニューロンが他者の行動を理解することによって,言葉や行動を学習するのだ。それが敷延され,他者への共感が生まれるとも考えられている。つまり,人間が他人の痛みや喜びを感じたりするのは生得の機能であり,程度の差こそあれ,ゲームを遊んでいるプレイヤーは自分のキャラクターに抗いがたく感情移入せざるを得ない,というわけだ。知ってました?
 「これを最大限に生かさない手はない」とO'Connor氏は言う。ミラー・ニューロンをうまくコントロールできれば,プレイヤーはキャラクターとの一体感を「必ず」感じ,さらにゲームに没頭する。
 「しかも,ミラー・ニューロンはとてもクール。現在も研究が進んでいて,将来,どのような新発見があるか分からないのです」と語るO'Connor氏だが,「文章入門」などでありがちな,“冒頭にイベントを起こしましょう”とか“意外な結末を用意しましょう”といったレクチャーを予想していた私は,いきなりのミラー・ニューロンでかなりびっくりだ。さすがはアメリカであるといえるかもしれない。



 人類の脳の仕組みを紹介したあと,「ゲームには二つのレイヤーがある」とO'Connor氏はステップ2の説明に進む。小説や映画は“物語”が一つあるだけだが,ゲームの場合,表にあって最も重要なのは“ゲームプレイ”それ自身であり,物語は背後に置かれるべきなのだそうだ。この観点に立つと,最近のグラフィックスを売りにしたゲームで多用されるムービーシーンは,ストーリーテリングにとって危険であるという。ムービーは,プレイヤーをゲームプレイから引き離し,背後にあるべきストーリーに必要以上に目を向けさせ,結果として必要以上の情報をプレイヤーに伝えてしまうのが,その理由だ。
 ストーリーは,プレイのただ中にさりげなくごく少量(bite-size chunk)ずつ知らされるべきであり,ゲームを中断させてはいけないとO'Connor氏は主張する。人間の脳は(と再び脳の話だが)電話をしながら料理をしたり,音楽を聴きながら本を読んだりと,一度に複数のことを平気でこなす能力があり,プレイ中にストーリーの断片を混ぜ込んだところでプレイヤーが混乱することはなく,むしろプレイを通じて物語が作られていくような感じが好ましいのだそうだ。つまり,プレイヤーに物語を教えるのでなく,プレイヤーの周囲を物語が取り囲んでいるような雰囲気が理想的ということである。
 実際,Gears of Warにおいてゲーム冒頭に伝えられる情報はごくわずかだ。プレイヤーはいきなり撃ち合いに巻き込まれ,Fenixがなぜ刑務所に入れられているのか,敵は誰なのか,なぜ地底生物と戦っているのか,そもそもここがどこなのかを知るのは先の話。ゲームプレイを通じ,そうした数多くの情報が自然に分かるようになっている。
 だが,最初はどんなに面白いプレイだとしても,やがて避けようもなく飽きるはず。そんなとき,プレイヤーの興味を維持し続け,最終的にゴールに導くのがストーリーの最も重要な仕事であり,それを実現するのが,ステップ3のThroughlineというわけだ。



 大きな辞書でないと出てこない単語なので,ここでは便宜上,長期目標と訳すが,もうちょっと奥深い意味を持っているようだ。いずれにせよThroughlineは物語そのものであり,ゲームの構造を決定するものだという。目標は必ずしも明確である必要はないが,これが設定されることによって,単純なゲームプレイの繰り返しも意味を持ち,プレイヤーのモチベーションを維持できるのである。

 以上,三つのステップを適宜使用すれば,それがより良い物語になるばかりでなく,開発スタッフの理解の統一も図れ,無駄な行き来をなくすことで予算の削減にも貢献するとも,O'Conner氏は語っていた。要するに,ストーリーはゲームの基本であるだけに,土台をしっかり作ることが大切というわけだ。


 とまあ,こうした内容のレクチャーだったわけだが,昨日紹介したWarren Spector氏の講演が,大局的な視点からゲームと物語の関係を概観していたのに対し,O'Connor氏は,より実際に即したストーリーテリングの秘訣を語ってくれた。なにしろ,フリーランスのライターである彼女は,クライアントからジャンルや内容に関するある程度の指定を受け,締め切りに合わせて仕事をする。したがって彼女の場合,“ゲームにおけるストーリー性の是非”などという根本的な問題はハナから興味の外なのだ。これは,レクチャーとしてどちらが奥が深いかなどという話ではなく,単に視点の違いに過ぎないのは言うまでもない。
 「ストーリーはゲームの一部」と彼女は何度も繰り返す。ストーリーはグループワークであり,決してライター一人の仕事ではないのだ。全体の一部として,たとえ自分が「素晴らしい物語だ」と思っていても,プログラムや予算の制約によって次善のものに切り替える必要がしょっちゅう生じてくる。たいてい,スケジュールの余裕はほとんどない。



 O’Connor氏は,「非常にエキサイティングで,やりがいのある仕事ですが,同時に非常に厳しい仕事でもあるんです。ライターになることを希望している人は,ぜひそれを心に留めておいてください」と締めくくった。
 今回は,コンシューマ機用のGears of Warがテーマだったが,ゲームストーリーの基本はPCゲームでも同じだろう。なんだか難しいストーリーを持つらしい「BioShock」も,もうじき発売される。O'Connor氏がそれをどうさばいているか,という点に注目してプレイしてみるのもまた一興かもしれない。
 まあ,それにしても,売れっ子ライターになるのもなかなか難しそうだなあ,と思った筆者。世の中,そんな甘い話はないのである。いやまあ,当然ですけど。(松本隆一)

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    Gears of War

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    バイオショック 日本語版

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    BlackSite: Area 51

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