イベント
[GDC2008#43]「Crysis」はこうやって作られた。Crytekが語るCrysisメイキング物語
ハイレベルなグラフィックスやオープンエンドのデザインを実現して評価を得た前作,「Far Cry」(2004年)の終了後,Crytekはその反省として以下の点を挙げた。
・B級映画のようなストーリー
・クイックセーブの欠如
・高すぎる難度
・モンスターAIの貧困さ
筆者的にもなんとなく分かるような気がする,これらの問題の改善は当然のこととして,Crytekはさらに高い“ビジョン”を掲げて来るべき次回作に挑むことになった。2004年後半の話だ。目標とされたビジョンとは,以下の4点。
・凍りついた楽園(Frozen Paradice)
・最高のゲーム表現(Maximum Game Expression)
・優れた戦略性(Outsmart Core Gameplay)
・エイリアンの侵略を描くリアルなSF(Realistic Sci Fi)
凍りついた楽園とは,文字通り雪と氷に覆われたトロピカルアイランド。「南の島に雪が降る」という東宝映画が1961年に作られているが,たぶんそれとは全然関係なく,開発チームでの話し合いの結果出てきたコンセプトだとYerli氏は語る。一見して謎めいており,おそらく誰も見たことがない風景でもある。何があったのだろうかとゲーマーの興味をひくはずだ。次の,「最高のゲーム表現」とも関連するが,リアルな雪や氷などの再現はグラフィックス的にも挑戦すべきテーマである。
個人的に知りたかったのは,またしてもエイリアン/クリーチャーが登場するSFをメインに持ってきたことで,Crytekのモンスター好きは業界(筆者の周囲の2名ほどだが)でも有名な話。レクチャーでは「次もSFにする」とだけであっさり流されてしまったが,考えますに,もともとゲームエンジン開発を目指して設立されたCrytek。当時開発中のCry Engine 2をアピールするのには,前作と同じシチュエーションにしたほうが何かと良かったのだろう。
というわけで,2005年にパイロット版として作られたのが「Core X」と名付けられたデモ。会場で公開された3本のムービーのうち,「Alian」と題された一本を直撮りしたので,まずはご覧あれ。
ディレクターのCevat Yerli氏 |
開発はステップ・バイ・ステップで進んだとYerli氏。彼らは「ジャングルとは何か? ゲームの舞台となるのはどんな土地なのか」を探るため,片道4日間かけて,ドイツのハンブルグから南太平洋フランス領ポリネシアのタヒチ島へ取材旅行を観光する,じゃなくて敢行する。ドイツにジャングルはないのだ。タヒチではジャングルをビデオ撮影したり,葉っぱの裏表を撮影したりと,知らない人が見たら「何やってんだろう」的な取材をしたそうだが,スクリーンに映し出されたスチル写真はCrysisそのもの。プレイしていると,ああ,オレもこんな島に住んでみたいとときどき思うのはそのせいだったのだ。ただの現実逃避かもしれないが。
一般公開といっても,E3には業界関係者しか来ないので厳密にはメディアの反応なわけだが,Crysis開発チームはそこでいろいろな意見を耳にすることになる。例を挙げれば,グラフィックスはオッケー。驚きだ。とくにBreakable Vegetationと名付けられた,撃てば倒れる樹木のフィーチャーがリアル。Far Cryでは,木の陰から正確に当ててくる敵がうざかったが,今度は木ごと倒してしまえばいい。さまざまな機能を持ったナノスーツも,使いどころが今一つピンとこないけど,まあオッケー。とはいえ,ゲームをプレイした感覚はなんというか,あまりよくないなあ……。
ここは,多数のフォーカスグループ(つまりテスターのこと)を使って改良を繰り返したという。Huebler氏によれば,便利だろうと思って加えたフィーチャーにテスターがまったく興味を示さなかったり,拒絶されてしまったり(「いらねー」ですね),相反する要望があがったりと,苦悩の連続だったとのこと。ただ,結果として考えてみれば常にプレイヤーのほうが正しかっと彼らは振り返る。
オブジェクトの配置を検討する。箱一つの配置にも気をつかう必要がある |
そんな中,彼らはいくつか思うことがあるようだ。Yerli氏は,ゲームの開発にはビジョンを持ち続けるということがなにより大切だという。開発中,いろいろと選択に迷う状況も出てくるが,ビジョンに従って混乱なく作業を進めることが必要だ。ビジョンはチーム中で共有されなければならないし,さりとて教条主義に陥ることなく,それなりの柔軟性も維持していなければならない。
Crysisの開発において,開発チームは再びさまざまなことを学んだ。例えば,「Agile development is your best friend」もその一つ。これは,さっさと作るのはいいことだ,というような意味になる。Crysisのリリース延期にヤキモキした筆者としては微妙なのだが,「完成したときに発売します」というのはチームにとってはよくないことだとのこと。
というわけなので,プレイヤーとしてはCrytekの次回作がさっさと出てくることをぜひ期待しよう。Crysisの拡張版にも期待したいところだ。
- 関連タイトル:
クライシス 完全日本語版
- この記事のURL:
キーワード
(C) 2007 Crytek. All Rights Reserved. Crytek, Crysis and CryENGINE are trademarks or registered trademarks of Crytek. EA and the EA logo are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All other trademarks are the property of their respective owners.