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[E3 2007#05]シリーズ最新作「Medal of Honor:Airborne」では,旧来作品とはまったく異なるゲームシステムを追求
スクリプトとは,ゲームの進行によって敵が登場したり攻撃が始まったりといったイベントが順序よく発生する仕掛けを指す。メダル オブ オナーシリーズだけでなく,コール オブ デューティーでもスクリプトを巧みに使用することによってプレイヤーがさながら戦場にいるような雰囲気を作り出し,その演出のうまさが人気の最大の理由だったのだ。そうしたスクリプト主体のゲーム性を根底から覆すような判断をMoHAの開発で下したわけである。
Airborne(空挺)とは,狭義には輸送機などを使って敵前線の背後にパラシュート降下し,地上部隊の進出を待つ間に重要拠点の確保,破壊,安全の確保などを行う機動作戦のことを指す。
第二次世界大戦初期,ドイツ軍のエバン・エマール要塞の急襲,日本陸軍のバレンバン降下などの華々しい成功で「新世代の戦術」として脚光を浴び,大戦全期を通じて大規模な降下作戦が何度も実施された。だが,例えばドイツ軍のクレタ島降下作戦や,連合軍のマーケット・ガーデン作戦など,大損害を被ったり完全に失敗したりした作戦も多い。
考えてみればAirborneは,対空兵器や戦闘機に対して,脆弱な輸送機を使って重火器類を持たない歩兵を大空からばらまくという,いささか無茶な戦術である。第二次世界大戦後はヘリコプターによる空中機動作戦,つまり「へリボーン」の急速な発達で,限定的かつ小規模な作戦を除いてほとんど実施されなくなった。降下兵の勇気と献身に頼った,あだ花のような作戦という見方も可能かもしれない。
メダル オブ オナーシリーズは,オクラホマの2015がデベロッパで,2002年に発売された「Medal of Honor: Allied Assault」(邦題 メダル オブ オナー アライド アサルト)によってブレイクした人気シリーズである。もともとは1999年にDreamWorks Interactive(当時)からコンシューマゲーム機用に発売されたタイトルだったが,PC版が世界中でスマッシュヒットを飛ばし,一躍,第二次世界大戦モノFPSとして大きな人気を獲得したのである。
だが,2015の主要メンバーが離脱して設立したInfinity Wardが2003年に発売した,「Call of Duty」に,第二次世界大戦モノFPSのデファクトスタンダードの地位をあっさりと奪い去られてしまったのはよく知られた話だ。その後2015は,2004年末にシリーズ続編である「Medal of Honor: Pacific Assault」(邦題 メダル オブ オナー パシフィック アサルト)をリリース。また,ベトナム戦争をテーマにした新作「Men of Valor」(邦題 メン オブ ヴァラー)を発売したが,残念ながらどちらも高い評価を得ることはできなかった。
さて,展示されていた試遊台では,連合軍がイタリア戦線で行ったシシリー島攻略「ハスキー作戦」がプレイできた。1943年7月10日,連合軍は約3000人の兵士をパラシュート降下させ,ドイツ軍拠点,とくに対空陣地などの制圧を目指したという作戦である。
MoHAの最大の特徴は,先にも述べたがまったくスクリプトを使っていないことだ。シシリー島の夜空,対空砲をかいくぐって飛行する連合軍輸送機の編隊。一発の砲弾に機体の床を撃ち抜かれ,あわてふためく空挺隊員達。ここで使われているのは,高度なモーションキャプチャー技術によるリアルなアニメーションだ。怒声,悲鳴が渦巻く狭い機内で,グリーンライトを待ちきれない兵士達がドアに殺到する。一人が砲弾の破片に撃ち抜かれて倒れ,後続の兵士がその体をひょいとまたいで歩き続ける,といった混乱した様子が迫力たっぷりに描かれ,プレイヤーをたちまち阿鼻叫喚の戦場に引き込んでいく。
やっとのことで機外に飛び出すと,そこからいよいよ戦闘開始だ。しかし,驚いたことにプレイヤーは戦場のどんな場所に降下してもかまわないという。足下には混乱する戦場が広がり,夜空を切り裂いて対空砲の曳光弾が撃ち上がっていくが,そんな戦場のあちこちに緑色のスモークが上がっているのが分かる。
これは,パスファインダー(降着誘導員)と呼ばれる先遣降下兵が配置していったもので,このスモークの付近は比較的安全という目安だ。プレイヤーはどんどん降下していき,やがて戦場を走り回るドイツ兵の姿も視認できてくる。もちろん,スモークの傍らに降りるか,あるいは画面上に示される目標地点のそばを目指すかはプレイヤー次第だ。安全地帯に降りて体勢を立て直し,進撃ルートを選んで戦うか,敵のひしめく目標地点に直接降りて血路を開くかはまったく自由というわけだ。
こうしたゲームシステムでは,当然ながら敵AIの出来がゲームの評価を左右することになる。スクリプトを使用するリニアな構造のゲームでは,プレイヤーキャラクターがどこをどう通ってどこに出現するのか容易に予測できるので,適宜AI兵士を配置すればいい。
だが,MoHAのようなシステムでは,プレイヤーキャラクターがどこに落下するのか開発者にも分からない。そのため,敵AIはあらゆる方向の敵に対応できなくてはならない。眼前に落下したのに,こちらに気がつかないようなAIでは興ざめだ。したがって,AIには周囲の状況に対する高い認識力が求められるうえ,こちらの姿を発見したあとの行動も適切でなければならない。
AIには,まず周囲の環境を認識しつつ敵に対して適正な位置を取ろうとし,それができない場合は机をひっくり返すなどして,自らアフォーダンスを作りだす能力が与えられている。また,協調行動も可能で,一人が制圧射撃をしている間に,もう一人が接近してくるといったことがある。
そのため,彼らの認識力は高く,スニークによる接近はほとんど不可能といった雰囲気だ。プレイ中,何度も敵に囲まれて撃ち殺された筆者が言うのだから間違いない。もっとも,敵が適正なレベルを超えて強すぎてもまたプレイアビリティが低下するので,このへんのバランスは重要だろう。また,パスの発見ができず,壁に当たっているのになお走り続けているAIの姿もたまに見られたが,発売までにはさらなるチューンナップが行われるはずだ。
それにしても,細い通路が縦横につながり,大小の障害物や高低差のある複雑な地形,半壊した建物などが建ち並ぶシシリー島の廃村をデモンストレーションの舞台として選んだあたりに,デベロッパのAIに対する自信が感じられなくもない。
ゲームには,1943年のハスキー作戦以外から1945年のライン渡河まで,第二次世界大戦のエポックとなった空挺作戦のシナリオが6種類用意される。それぞれの作戦はいくつかのマップに分かれるため,全体のボリュームは十分とのこと。また,キャンペーンではなく,プレイヤーは好きなシナリオを選んで作戦に参加できる。
最大8人対8人の計16人が参加できるマルチプレイは,オブジェクティブ,デスマッチ,キャプチャー・ザ・フラッグ,そしてCo-opの4種類のモードが用意されるという,FPSとしてはごく普通の内容。やはり本作は,シングルプレイの迫力に重きを置いているのだろう。
MoHAは,Medal of Honor: Pacific Assault以来3年ぶりとなる新作で,最大80人の開発者と2年以上の開発期間が投じられたElectronic Arts期待のタイトルだ。現在ゲームは最終調整の段階に入っており,発売は既報のとおり2007年8月が予定されている。(松本隆一)
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