連載
ここ半年ぐらいの間に「ももクロいいよね」なんて思い始めた人は,「ももクロChan DVD」で歴史と物語を追体験すべき(「買い物Surfer」第2回)
3月21日にスタートしたこの不定期連載「買い物Surfer」は,4Gamer編集部の面々が,お小遣いで購入したものを,いかなる理由でそれが自分にとって必要であり大事な代物なのかということを,極めて真面目に語っていこうものである。
前回,auekiが一風変わったPC周辺機器を紹介したことで,「ああ,ガジェット系のお話だね」と思った人もいるだろうが,実はそういうわけではない。極論,思い入れがあるならば,それがネタとして許される。auekiいわく「危険きわまりない」というのは,このあたりのゆる〜い制限のことを指しているのだ。
さて今回は,「仕事よりも大事なものを見つけた」と言って憚らない編集部TeTが,「ももクロChan DVD -Momoiro Clover Channel- 決戦は金曜ごご6時!」というDVDボックスのことを,とても真面目に紹介していく。
アイドルを見るのが楽しいのは,そこに物語があるから
それこそ小学生の頃,たまたま眺めていたアニメ誌で存在を知った獣神ライガー(現 獣神サンダー・ライガー)を入り口としてプロレスにのめり込み,新聞や雑誌などで「プロセス」という言葉を目にした瞬間に間違えてドキドキしてしまった時期,そしてやがて活字プロレスの洗礼を受け,SWSを本気で悪い団体だと思っていたときぐらいの勢いで,ももクロのことを考えている(当時は同時に東京パフォーマンスドールがすげえ好きだったりもした)。
筆者がももクロにはまったきっかけは,友人に勧められて「行くぜっ!怪盗少女」のプロモーションビデオを見たことにある。
なんせ映像内で,古典的なプロレス技「キーロック」(鍵穴固め)が使用されていたのだ。それが妙に気になってしまい,繰り返し見ているうちに楽曲の虜になり,メンバー一人一人の個性に惹かれ始め,ついにはイベントやライブへ足繁く通うようになった。その間,わずか1か月程度だ。
現在,ももクロはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せており,世間での認知度も急速に高まっている。なので,「ああ,名前ぐらいは知ってるよ」とか「男色ディーノがパロディやってるやつでしょ?」みたいな形で,おぼろげながらその存在を知っている人も,4Gamer読者には少なくないことだろう(そうだといいな)。
今,なぜももクロに勢いがあるのか? といった分析は,ここではしない。ただ,筆者にとっての“ももクロの面白さ”の一つとして,グループが持つ“物語性”を抜きにはできないんだよ! ということを,これから全世界に向けて訴えてみたい。
そもそもアイドルという存在は,その名が表しているように「偶像」,いわば虚構(フィクション)の存在である。だが,数ある優れたノンフィクションが単なる事実だけではなく,ある種の物語性を内包しているのと同じように,アイドルにもさまざまな事実と数々の物語が含まれている。
それらは,実時間と同期した形で提供されており,一度思い入れを持ち始めてしまうと,常に何かしらの物語が紡ぎ出されていることに気付く。ここに楽しみを見出してしまうと,「歌がうまい」とか「ダンスがど迫力」とかは二の次になる。二の次になるというか,物語を形作る一つのパーツでしかなくなるのだ。
それゆえ,アイドル全般に興味のない人から,「アイドルって歌が下手じゃん。何で好きなの?」「ダンスもそんなにうまくないじゃん」みたいなことを言われたところで,それが的外れだと感じてしまう。確かに歌やダンスはうまいに越したことはないが,それだけに価値を求めるのであれば,ほかのジャンルの,完成度の高いものを見れば良かったりするからだ。
しかし,技術的に稚拙だったはずのアイドルが経験を重ねて成長していく過程,そして徐々にファンが増えていく過程には,間違いなく物語がある(迷走の結果,どんどんファンが減っていく場面にも居合わせたことがある。あれはしんどい物語だった……)。いわば,点が線になっていく過程にこそ,物語が立ち上るのである。
最初から完成度の高いもの,一定以上の評価を得ているものを,点で見ているだけでは,こうした経験はなかなかできないだろう。
もちろん,これはももクロだけに限った話ではなく,ほかの多くのアイドル,さらにはほかのジャンルにだって当てはまる。特定のジャンルを長く見ていれば見ているほど,知識と経験が集積されていき,それが次に新しいものを見るときの礎になっていくこと,それ自体を喜びと感じられる人は,決して少なくないはずだ。
ゲームで例えてみると,長年続く人気シリーズを初期作品から遊び続けてきた人は,そのシリーズの歴史そのものを自分のプレイ体験を含めた物語として自身の心に刻んだ上で,最新作をプレイできる。一方,最新作しかプレイしたことのない人は,その作品単体の体験しかできない(もちろん,どちらが上でどちらが下という話ではない)。大ざっぱに言うと,そんなようなことだ。ただ,アイドルの場合,(悲しいことだが)旬の時期が短い分だけ,密度も濃度もとんでもないことになりやすいっていうのは,たぶんある。
余談だが,ももクロのイベント会場などで「すれちがいMii広場」(ニンテンドー3DS)のすれちがい通信をONにしてうろうろしていると,けっこうな人数とすれちがえる。ニンテンドー3DSが値下げされる前の2011年3月頃ですら,ほかのアイドル現場と比較しても,倍以上のすれちがい率だった。
このことから筆者は,ももクロファンにはゲーム好きが多く,4Gamer読者には潜在的ももクロファンが多いはず! という仮説を打ち立てている……んだがどうだろう。
「ももクロChan DVD」で,あの日々を再体験できる
ももクロChanとは,ももクロが「真のアイドル力を身につけるため、様々なバラエティ企画にチャレンジ。さらに!彼女らのLIVEへ向けた汗と涙のドキュメントも!!」(番組公式サイトの紹介文)という有料番組(1話あたり150円相当のポイントが必要)で,現在でも,毎週金曜日に最新回が配信されている。
実はこの番組こそ,前述したももクロにおける物語性(その中の象徴的な一つをあげるなら,青春群像劇っぽさ)を,存分に楽しめるものなのだ。
番組の内容は,ももクロがお笑い芸人のオテンキと共に“バラエティ番組”的な企画に挑戦するものと,ライブや各種イベントや,PV撮影などの舞台裏に密着したものの2パターンに大きく分かれている。バラエティ企画はバラエティ企画で,メンバーの人間性やメンバー同士の関係性が垣間見えるという意味で楽しいのだが,個人的にはドキュメントもののほうが物語性に富んでいて好きだ。
例えばDVDの第1集〜第3集では,2010年12月24日に開催された,ももクロにとって初の単独ホールコンサート「ももいろクリスマス 〜脱皮:DAPPI〜」に向けてのレッスン風景や,当日の舞台裏を見ることができる。そして第4集〜第6集では,2011年4月10日に開催された「4.10 中野サンプラザ大会 ももクロ春の一大事 〜眩しさの中に君がいた〜」の第2部,「早見あかりFINAL そして…」までの軌跡,および当日の舞台裏を覗くことができる。
ももクロChan DVD第2集 うなれ!桃色鬼軍曹 の巻 |
ももクロChan DVD第3集 跳べ!小さな緑の大巨人 の巻 |
とくに印象深いのは,ららぽーと柏の葉で行われたファンに向けての脱退発表(2011年1月16日)の直後,舞台裏であかりんがリーダーである百田夏菜子に,これでもかとばかりに頬を寄せ,「夏菜子,出来るよ」と声をかけるシーンだ。
あかりんは,サブリーダーである自分が抜けることで,リーダーの夏菜子が最も不安を抱くであろうことを案じていた(たぶん)。夏菜子は夏菜子で,親友の決意を尊重したいのに,不安と寂しさが先に立ってしまうことに葛藤していた(おそらく)。だから二人は,抱き合ってひとしきり泣き,あかりんは先の言葉を夏菜子にかける(のだろう)。そこに脚本も演出もない。
筆者は脱退発表から4月にかけての一連の流れを,現場やPCの前でファンとして悲しみながらも,間違いなく娯楽として消費していた。そこに一抹の後ろめたさを感じなくもなかったが,そんなことより,あかりん推しとして猛省していた。もっと応援して,もっと自信を持たせてあげられたら? と。
そして「決意は変わらなくてもいい。でも,あかりんはももクロに必要だ」ということを,ちゃんと伝えなければ! と意気込んで握手会や2ショット撮影会のあるイベントに足を運んでは,「でへへ。えっと,頑張ってください」程度のことしかいえず,帰りの電車の中でひどく落ち込んだものだ。正直,今でも悔いは残っている。
そして迎えた4月10日は,中野サンプラザの2階席最後方に立ちながら,自分でも引くレベルで泣いた。あれからもう,1年か……。
ももクロChan DVD第5集 じゃれろ!黄色の若大将 の巻 |
ももクロChan DVD第6集 戦え!紫ブロンコ の巻 |
ももクロの物語が続く限り,まだまだ見守っていきたい
筆者が現場で感じていた雰囲気としては,2010年11月10日発売されたシングル,「ピンキージョーンズ」あたりから目に見える形でももクロに追い風が吹き始めた(レコード会社の移籍も大きなきっかけだろう)。そこでついた勢いを決定づけたのは,あかりん脱退発表が一般の芸能マスコミによって大々的に報じられた頃,つまり,2011年1月のことだったように思う。
そしてあかりんの脱退をもってグループ名に「Z」が付き,よみうりランドやさいたまスーパーアリーナでの公演を成功させ,さらなる加速を続けている……というのが現在進行形のももクロだ。
こう考えると,今のももクロ人気の礎は,あかりんの置き土産ではないだろうか? という,あかり史観を唱えたくすらなる(もちろん,メンバーやスタッフ陣の奮闘,さらにもっと前に在籍していたメンバー一人一人の存在も忘れてはならないし,それを考え始めるともっと昔の映像が豊富にあったらなぁ……と無い物ねだりをしたくもなる)。
だからこそ! Z以降のももクロに興味を持った人,最近テレビで見て気になっている人は,CDやライブDVDだけでなく,このDVDボックスを買ってみてほしい。そしてじっくりと,そこに刻まれているあの日々の物語を繰り返し見てほしい。この記事の冒頭で,アイドルを見る楽しみの一つが,“実時間と同期した形のドラマ”にあると述べたが,こうしたDVDが世に出ることで,どのタイミングからファンになったとしても,手軽に追体験ができるのは素直に喜ばしいことだ。
それに,まだももクロ人気に本格的な火が点く前のあのタイミングから,インターネットを通じた有料配信という,商業的に難しそうな形でももクロChanという番組を始めてくれた関係各者に,あらためてお礼を言いたい思いである。しかも気付けば最近の配信分は以前の倍ぐらいの尺になっているのに,1回あたりのお値段が据え置きというのも嬉しいというか,次回パッケージ化はどうするんだろ……。
さて今回,唐突にこんなことを書き連ねてしまったのは,ももクロにとって初の横浜アリーナ公演(しかも2日間)が,4月21日(土),22日(日)に開催されるからにほかならない。最近になってももクロに興味を持ち,横浜アリーナで初めて生のももクロを体験するという人には,その前に是非,このDVDを見ておいてほしいのだ。そして,彼女達の歴史の一端……その中でも,大きなターニングポイントとなったあの日々のことを胸に刻んだうえで,ももクロに接してほしいのだ。そうしておいたほうが,きっと,もっと楽しめるはずだから。
なお,ここ最近になってテレビや雑誌などへの露出が急激に増えてきたももクロに対し,背後で何か大きな力が動いているのではないかといぶかしむ向きもあるようだが,筆者の体感では,ごく当然というか,ここまで引っ張りだこになるのが,むしろ遅いよ! ってなところである。なんせ,ライブチケットの入手難度だけを見ても,確実に,かつ明らかに高くなってきているのだ。
具体的には,
(1)チケットが余裕で買えた(入手できた)時期
(2)前売り券の抽選販売でほとんど落選しなかった時期(≒自分が落選しても,友達が複数枚当選しているからセーフだった時期)
(3)前売り券の抽選販売で落選する頻度が高まり始めた時期(≒友達も落選してるから会場に行けない回数が増え始めた時期)
(4)前売り券の抽選販売で当選した人が周囲に全然いない時期
(5)本当に前売り券は売られているのかと不思議に思っちゃう時期
を2年弱で順番に味わってきている。現在も(5)の真っ最中だ。横浜アリーナ2日分のチケットが,一般発売後即完売ですってよ奥様。
こうも前売り券が手に入りにくくなると,どこかで誰かが業界関係者に向けて大量の招待券をばらまいているが故に,一般に流通するチケットの枚数が極端に減っているのでは……? みたいな陰謀論を唱えることで,無理やり自分を納得させたくもなるのだが,運良くチケットを購入して会場に入れると,会場内を埋め尽くす熱のおかげで,「ああ,本当にももクロを好きな人が,こんなに増えているのだなぁ」という現実を認めざるを得なくなる。これは素直に嬉しいことだ。
だけどやっぱり,ちょっぴり寂しい。実際,チケットがとれないことを理由にももクロから離れ,ほかのアイドルに乗り換えた人も決して少なくはない。その気持ちは,痛いほど分かる。
でも筆者は,まだそうしたくはない。ももクロという物語,そしてそこから派生した早見あかりという物語を同時に楽しみつつ,その二つの物語が最高の形でクロスする日まで,離れるわけにいかないのだ。そのあとのこと? そのときに考えます。
テレ朝動画「ももクロChan〜Momoiro Clover Z Channel」
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