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[G★2005#076]極私的G★雑感――韓国ゲームが世界市場に出られる日――
元々韓国のゲームショウは,KAMEX,DICON,SOFTEXPO,KOPAという四つに分かれており,政府組織である文化観光部と情報通信部が意地の張り合いのようにして開催していたが(しかしなんでまた四つも),今年からそれがすっきりまとめられ,このG★となった。今回は,その記念すべき第一回だ。4Gamer編集部が取材チームを組んで今回の4日間の日程に臨んだのは,サイトを見てくれている読者なら知っているだろう。
場所は,韓国国際展示場「KINTEX」。3万3000平方メートルのスペースに,150社が新作を構える,韓国最大のゲームショウだ。後援は文化観光部,情報通信部という前述の韓国政府直系で,運営する「G-Star組織委員会」も,文化観光部の直系組織。上から下まで政府系が後押しするという,いかにも韓国らしさを感じるショウとなっている。
お隣かつ大量の作品が日本に入っているにも関わらず,業界で韓国ゲーム市場を語れる人はほとんどいないし,ましてや細かい部分まで把握している人はもっといない。私も例外ではなく,行く前には「マンネリ気味になったMMO市場を受けての停滞ムードとカジュアルゲームの台頭」を予想していた。業界人ならたいがいはそう思っていただろうし,なにせ行く前からMMORPGの完全新作が展示されないのは分かっていたのだ。必ずどこかに,ぼんやりとした“市場の危機感”が出ているはずだと予測していたというのが正直なところだ。
がしかし,全体感としてはまったく違った。むしろ,ある種の勢いさえ感じさせる。メーカーは自分の作品をこれでもかと誇示し,来ているユーザーはそれにかじりつく。完全にユーザー主導で動かされており,微妙な差異こそあるものの,全体的にはドイツのGCに雰囲気が良く似ていたかもしれない。
来ている客は大人ばかりで,最初は「あれ?」と思っていたのだが,週末に差し掛かるやいなや,会場は子供連れの一般客ですし詰め状態。会場自体は(ほかのショウに比べると)小さく,三大ゲームショウの中でもっとも小さいTGSに比べても,さらに小さい。取材する側としては動き回る範囲が少ないのでありがたいのだが……。
客層の大半は中学生/高校生くらいで,小学生低学年の子供を連れた一家というのも,よく見られた光景。子供が簡単にプレイできるように「踏み台」を置いてあるブースも多く,小さい子供がオンラインゲームを遊ぶのが本当に一般的なんだな,というのを感じる光景だ。お父さんお母さんが子供の行きたいところに引きずられ,そこでジッとプレイに飽きるのを待ったり,人によっては自分達も列に並んで一緒に遊んだり。アチラではプロゲーマーが相当な稼ぎで花形商売のようだし,もしかしてこれも一種の英才教育なのかと思ってしまうくらい,両親も真面目に取り組んでいた。
E3やTGSのように,「一部の巨大メーカーが,会場中央付近の重要エリアを占拠している」という構図があまり感じられないのも,ちょっとした驚きだ。Hanbit,NC soft,Nexon,Gravityの4強は確かに大きなブースで派手な展示をしていたが,それとてほかのショウに比べると“巨大”というほどではない(ブースの広さの上限値である60コマを超えている会社もあったという話だが)。コンシューマで唯一展示をしていたSCEでさえ,非常に質素だ。
まだまだ安泰な韓国オンラインゲーム市場
異論反論がある人もいるかもしれないが,韓国オンラインゲームが猛威をふるっているのは,れっきとした事実だ。欧米のオンラインゲーム市場が事実上死滅していて,日本の開発陣にまだまだその開発ノウハウが溜まっていない現状では,陰で日なたで,世界のオンラインゲームを支えているといっても過言ではないだろう。LineageIIやRagnarok Onlineなどはアカウント数で言うならば世界のTopクラスだろうし,Hellgate:LondonやGuildwars,Tabula Rasa,City of Heroesなど,事実上韓国ゲーム業界の資本で作られていたり,資本が大量に絡んでいたりする作品も,今となっては珍しくない(後者三つに至っては,事実上韓国ゲームだ)。
そこへ持ってきて,政府のお金が投下されているという安心感,一般に広く浸透しているという市場の規模感などから,お金をやりくりするのも(日本や欧米よりは)やりやすいし,何より国が推進している事業のせいか,教育体制までもが整っている。優秀なクリエイター達は,次世代のオンラインゲームを,オリジナリティのあるものを,常に作ろうと努力しているし,2年前にはオンラインゲーム専門の高校まで出来たくらいだ。
国が一体となってオンラインゲーム市場を盛り上げているというのはだいぶ前から聞いていた話だし,「まぁそうなんだろうな」という程度の認識は持っていたが,今回のG★は,その認識を確かなものにしてくれた。
確かに韓国内でもMMORPGの市場は下火になってきつつあり,誰が見ても明らかなようにライトゲーム(≒カジュアルゲーム)方向にシフトしている。とはいえ“オンラインゲーム”という広いくくりをするならば,あと2年くらいは韓国オンラインゲーム市場は安泰だろうと思ったのが,編集者としての私の偽らざる感想だ。
それと同時に,「政府主導の展示会」の色がやや出てしまっていたという感も否めない。元々からして政府機関主導型なのである意味仕方のない話ではあるが,今後改善していくべき点ではないかと思われる。華やかなショウの裏では,民間主導で動いていないがゆえの問題点が,そこかしこに散見されたのだ。
ショウ期間中にさまざまな韓国業界人に話を聞いたが,「B2B商談会」(Business to Business)の失敗を挙げた人が多かった。運営サイドが各社(売り手および買い手)のニーズをよく調べずにミーティングのマッチングだけを行ったので,回数こそ確かに多かったものの,あまり役には立たなかったとのことだ。「ゲーム業界の中で組織を作って,そこがニーズを調べてキチンと運営すればよいのではないかと思います」とは日本人バイヤーの言葉だが,なるほど,せっかく売り手と買い手がたくさんいるのだから,まだまだうまく回す方法はあるように思われる。
韓国オンラインゲームが世界に出られる日
なるほど,確かに韓国内だけを見るとオンラインゲームはまだまだ盛んだし,ショウ自体も成功したといってもよいと思う。ショウ自体の問題点は上記のようにいくつかあるが,それは時間と経験で解決できると思っている。
しかし市場を広い目で見た場合には,問題はまだある。ここまで巨大な市場になって作品も山ほどあるにも関わらず,いくつかのメーカーを除いていまだに世界市場に打って出られていないのは,その問題によるところも大きいのではないかと思っている。
文化的な背景などは非常に論じずらいし私がそれに触れるのも本筋ではないので,最も大きな理由だけに触れておこう。それは,いわずもがなの「類似品/模造品」の問題だ。わざわざ言うまでもない問題ではあるのだが,やはりいまだに健在。展示作品の多くは「いつかどこかで見たゲーム」であり「どれも見分けが付かないゲーム」なのだ。この問題は過剰に反応する人も少なからずいるので誤解なきように私見を言っておくと,多かれ少なかれ,ここ最近の日本のゲームや欧米のゲームもその傾向は強い。しかし韓国はその数が多くて,なんというか「度」を超えているのだ。
類似品だけに話を絞ると,パッと見て目につくだけでも,いわゆる“似ている”作品が数多く見受けられる。記事を読んでいる読者から見ても,それは明らかだろう。ゲーム先進国と言われている(もはやそうでもないと思っているのだが)日本のものばかりか,欧米,果ては自国韓国のものさえも貪欲に吸収して作品に仕立て上げている。
かつて別件で,著作権問題で韓国のメーカーと争っている日本メーカーと話をする機会があったが,「韓国は,著作権法がすごく整っているんですよ」と聞いて,驚いたことがある。ゲーム市場の状況から見てにわかには信じられなかったからだ。私がよっぽど不審な顔をしていたのだろうか,その後続けて「そうでなければ争ったりしませんよ,徒労でお金の無駄だし。そう言えば分かってもらえますか?(笑)」とのこと。なるほど,言われてみればそのとおりだ。絶対に勝ち目のない訴訟など,リーガル(法務関連を扱う部署)が起こすはずもない。裏を返すと,それだけ法が整備されているのに,ゲーム開発は,その状況なのだ。
“模倣”――あえてこの言葉を使わせてもらおう――は,悪いことだとは思わない。その言葉が示すレベルの差こそあれ,かつて日本もそうやってゲーム文化をはぐくんできたのだし,いまはまだ韓国がその途上にあるだけなのだろう。遅かれ早かれ,中国やタイも,同じ道を歩んでいくと思う。
かつてWarren Spector(ウォーレン・スペクター:ThiefやDeus Exなどの開発者)と雑談をしたときに,彼は「コピーされるのは,いいものだと認められた証さ(笑)」とにこやかに笑っていた。私自身はモノを作る立場でこそないが,個人的には同じように考えている。オリジナルはまず模倣から始まるのだ。そして,いいものは前向きに吸収するべきだ。
ファッションやライフスタイルという大きなもの,車のデザインやレストランの内装など小さいものなどにまで万遍なく目を広げてみれば,日本もいまだに模倣で構成されているものが思ったより多いことに気付くだろう。というより,貪欲に色んなものを吸収して,それに手を加えて新しいものを作り出すのが,昔から綿々と引き継がれる日本人の得意技だと思う。ゲームも,その中の一つに過ぎない。
だがしかし。
韓国のオンラインゲームも,華開いてから5年ほど経っている。そろそろ,オリジナリティの高いものを作るべきときに差し掛かったのではないだろうか。あとから同じ道を歩むであろう,中国やタイ,台湾などの道しるべとなるべきときではないだろうか。市場が熟成して最初のウェーブ(=MMORPG)がやや下火になってきて,満を持して開催したG★という国際的ゲームショウの会場がこの状態では,やや疑問を持たざるを得ない。一体彼らは,いつまで模倣し続けるのか。
潤沢な資金で新しいことに挑戦できる大きな会社もいくつかあるし,Granado Espada,Styliaなどの先進的な思想を持った作品も現れてはいるが,まだ全体的には少ない。「ぼ,ボンバーマンですよね?」としか思えない作品の紹介で「我が社が満を持して放つ自信作です」と言われても,いささか当惑してしまう。完全にコピーしたのでなければ悪いことではないと頭では分かっているのだが,それを目の当たりにすると,ついこちらも冷めた目になってしまう。そう,精神的に,諸手を挙げて歓迎できないのだ(私の度量が小さいのだろうか)。
せっかく世界でトップレベルの「オンラインゲームを作る技術力」があるのに,肝心の作品が追いついていない。非常にもったいないし,一人の業界人として残念でならない。「海外展開するものは外国人に作らせる」という非常にクレバーかつ抜本的解決ともいえる手を打っているNC softのような例もあるが,資本力の問題などから,まだまだ一般的ではない。
かつてTGSのとき,韓国ゲーム業界の著名人を10人つかまえて記事にしたが(「こちら」と「こちら」),彼ら自身,その状況には非常に危機感を覚えている。そして韓国のプレイヤー達も,インターネットの普及と共に世界の情報を仕入れてきて,「どうもオリジナルの作品ではないらしい」ということに気づき始めている。メディアは言わずもがな,だ。
時代は,キチンと動き出しているのだ。あとは,開発者と市場が変わっていくだけだ。世界最高の(と断言してもよいだろう)オンラインゲーム開発ノウハウを持っている韓国が,オリジナリティの高い作品を作れるようになったとき。そのときが,韓国ゲームを諸手を挙げて歓迎できるときであり,韓国の作品達が世界のゲーム市場に打って出るときだ。今後2,3年で変わっていくであろう彼らに,心から期待したい。
メーカーとユーザーの距離が広がりつつある韓国の今後はいかに
その問題を抜きにすると,原稿序盤で書いたように,ショウ自体はうまく回っていたと思う。「国際ゲーム展示会」にも関わらず,大半のブースがプレスキット(メディアが記事を書くための素材/資料集)を用意していないとか,あってもダウンロードだけだったり英語版がなかったり,ユーザーに遊ばせるための展示なのに,強いキャラクターですぐ敵に出会えるところにセッティングされていないとか(=面白さが5分ほどで体験できない)色々な問題はあったが,ある意味些細なことだ(余談だが,E3やTGSを経験している大手メーカー以外は,「プレスキット」という言葉さえ通じない。私の言い方が悪かったのだろうか……)。
ブースに立っている展示説明員は非常に忙しそうにフレンドリーにユーザーに接していたし,韓国のユーザー達はネガティブな要素をモノともせずに作品のハシゴをしていた。帰るときには,色んな販促グッズをもらって新作を体験できて,みなホクホク顔だ。幼稚園児の遠足(?)や学生の社会見学(引率の先生がそう言っていた)なども当たり前のようにいて,なんというか,国の産業が多くの国民に受け入れられていて,みなが応援している雰囲気が伺える。
とはいえ,韓国内でのオンラインゲームの生き残りは現状で相当厳しいせいか,みな売り込みも真剣だ。ユーザーにはもちろんのこと(しかしG★もChinaJoyも,なぜ女性ユニットのダンスイベントが多いのだろう?),我々メディアへの売り込みの熱心さといったら半端じゃない。
私が「メディア」という札を掲げて歩いていたからかもしれないが,E3でもGCでもTGSでも見たことがないほどの熱心さで,売り込みに励んでくれた。韓国内でのオンラインゲームの“経営”が厳しくなって来た現状を受けてのことだろうが,“お得意様”であり,いくつものサクセスストーリーを作ってくれた日本への売り込みには,まったくもって余念がない。その熱心さときたら,「日本に売るために作ってるんじゃないだろうか」と邪推してしまいかねないほどだ。
いつもE3でそこはかとなく感じるのだが,欧米のゲーム業界人はアジアにやや冷たい。ましてやWebメディアが軽視されている欧米では(その理由はいつか語ろうと思う),アジアかつWebメディアである我々はちょっと異端児なのかもしれない。アジアのプレスは発表会に入れないとかそういうダイレクトなことをするわけではないが,なんとなく全体的な空気としてそう感じるし,毎回E3に行っているが,それはあながち間違いでもないと思う。欧米産のゲームが日本でメガヒットを飛ばしてビジネスとしてうまくいった例がほとんどないから仕方ないとは思うが(なんといっても,ゲームとてビジネスだ。会社として利益を優先するのは当たり前),ほんの少しだけ,寂しい思いをすることがある。
なので今回の韓国の体験は,非常に斬新だった。ガンホーのラグナロク然り,パンヤの大ヒット然り,韓国産のゲームのいくつかが日本で成功を収めていることを,再認識させられた次第だ。中国への進出も問題山積みで失敗に終わりつつあり,“センス”の違いからか欧米へ輸出することもままならず,いま頼れるのは日本だけなのだろう。しかも,お金持ちのせいか妙に高値で売れたりすることも多いし。
韓国のユーザーも非常にクレバーになって目が肥えてきているのか,人気のある作品とない作品が,かなりくっきりと分かれていた。“面白くない”という烙印を押された作品は,日本に売るか(買う会社があるのも困った話だ),中国やタイに売るか,もしくは会社ごとM&Aされるかチームだけ引き抜かれるか。どうなるかはそれぞれだと思うが,生き残る道はあまり残されていなさそうだ。
なにせオンラインゲームは――プレイしている読者なら分かると思うが――もはやユーザーの時間の取り合いなのだ。もはやこの段階では,利用料金は些細な問題にすぎない。誰もが平等にしか持てない24時間という時間の中で,何分をプレイに割いてもらえるのか。その勝負になってきている。
先に「今後の2,3年で大勢が決する」と書いたが,それにはそんな意味も含まれている。その流れまでもが見え始めたG★は,一部の業界人には非常に興味深かったのではないだろうか。
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人件費が高く,ノウハウもまだあまりなく,オンラインゲームコンテンツを作る体制にない日本。誰もがノウハウを持っているが,これ以上あっても仕方ないんじゃないかと思うくらい似たような作品が量産されている韓国。高校生以上のゲーマーが多い日本,小学生から大人まで万遍なくオンラインゲームが普及している韓国。それらのくっきりとした対比が見られた,非常に興味深いショウだった。真の意味で韓国ゲーム市場を理解する,最初の一歩が踏み出せたと思う。
日本がノウハウを溜めるのが先か,韓国がコンテンツ制作パワーを溜めるのが先か,はたまた両者の共同作業で作られる作品が増えるのが先か。いかなる場合にしても,ここ2年くらいが大きな山ではないかと思われる。今後の動向にも注目していきたい。(Kazuhisa / photo by kiki)
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