インタビュー
中村繪里子さんが歌い,佐々木宏人さんが作曲した「ペーパーマン」の“売れない”主題歌とは? 関係者にその実態をインタビューしてみた ※主題歌PVを追加掲載
そのペーパーマンが,さらに新たな試みとして,主題歌を作ったという。しかも,その主題歌を歌うのはテリシア役の中村繪里子さんで,作曲は佐々木宏人さんという,知っている人にはぐっとくる豪華布陣だ。今回4Gamerでは,この主題歌のレコーディング現場にお邪魔し,インタビューをする機会を得た。
出席してくれたのは,ゲームポット エンタテインメント事業本部 本部長代理を務める朝倉脩登氏,同 第一事業グループ ペーパーマン運営チームのテリマネ・へウォン氏,そして中村繪里子さん,佐々木宏人さんの4名である。
今や主題歌のあるオンラインゲームも珍しくはないが,ローンチ時のプロモーションで使われるといったケースが多く,サービスを開始して1年半後に主題歌をつけるようなタイトルは,今回の「ペーパーマン」くらいしか思い当たらない。
また,インタビューの前に主題歌「お食事」を聴かせてもらったのだが,歌詞の内容がなんというか斬新すぎる。まあ,キャライメージに沿っているといえば沿っているのだが……。こう言ってはなんだが,ゲームのプロモーションに結び付くとは到底思えないほどだったのだ。
そこで今回は,なぜこのような主題歌を,なぜこのタイミングで作って“しまった”のか,その経緯や意図などを聞いてみた。
※17:20頃,主題歌「お食事」のPVを追加しました。
「ペーパーマン」公式サイト
社内では誰も本気にしなかった?
「ペーパーマン」今さらの主題歌制作の経緯
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回,「ペーパーマン」の主題歌を作ろうと思ったきっかけなどを教えてください。
テリシアのキャラクター設定が大きなヒントになりました。アイドルを目指しているけど99回もオーディションに落ち続けているテリシアは,パピルス王国の「歌って踊れて撃てるアイドル」に最後のチャンスを賭けているんです。
また,テリシアは中村さんに演じていただいたこともあって,非常に固定ファンが多いんですね。独特のツンデレキャラで個性も立ってますし。
そこで,実際にテリシアの歌を作ると面白いんじゃないかと考えたというのが,そもそものきっかけです。
4Gamer:
ゲームの主題歌というよりは,テリシアのキャラクターソングを作ろうという感じだったんですね。
最初は,普通にきちんとした曲を作ろうという企画でした。
ただ,よくよく考えてみると,テリシアが99回もオーディションに落ちているのには,何か理由があるはずなんです。その理由をどこに持っていこうかと考えた結果が,歌詞なんです。
テリシア本人は大真面目に歌っているし,見た目も可愛い。だけど歌っている内容がこれじゃあ落とされて当然だよね,というところを表現しようと思ったんです。なので,歌詞はプロの方にお願いするのではなく,あえてゲームポットの社内で公募という形を取りました。
朝倉氏:
あとは,サービス開始の1年半後に主題歌を作るケースもあまりないので,挑戦してみたいという気持ちもありました。ゲームポットとして,初めてのチャレンジです。
4Gamer:
たとえば,サービス前や開始時に,プロモーションの一環として主題歌を作るケースはありますよね。チャレンジとはいえ,なぜこのタイミングで主題歌を作ることにしたんですか?
テリマネ氏:
8月18日に行ったアップデートで,ゲームの内容的に「ペーパーマン」が次のステージに向かう体制が整ったからです。
新しいステージでは,当然,キャラクターを取り巻く環境も変化します。そこで各キャラの個性をより打ち出していこう,より皆さんの想像を膨らませる方向に持っていこうと考えたわけです。
朝倉氏:
内情をバラしてしまえば,先日のアップデートでゲーム内容の改革が一段落したので,ようやくほかのことに取り掛かる余裕ができたからなんです(笑)。これまでは,やりたくてもできませんでしたから。
4Gamer:
主題歌を作るということは,今のところプレイヤーに一切告知していませんよね? どのような反響があると思いますか?
テリマネ氏:
テリシアのドジっ子アイドルという設定は皆さんご存じでしょうから,「うわー,ゲームポットが本当にやっちゃったよ……」という反応を予想しています(笑)。
朝倉氏:
僕が企画を出したとき,社内は非常に冷ややかな反応でしたね。「あの人,また変なこと言い始めた」みたいな感じで(笑)。
どうも本気にされていなかったみたいなんですが,それでも社内で歌詞の案を募って,最終的に歌詞の原案ができ上がりました。
でも,そういう風に「何やってるの?」と呆れられながらも実現しちゃうノリが,ゲームポットの運営である,と僕は捉えているんですけどね。
4Gamer:
本部長代理自らが身体を張って示しているわけですね(笑)。
朝倉氏:
これをやったからといって,新規獲得に大きく貢献できるわけじゃないんですよね。売るつもりもないから,売上が上がるわけでもないし。
4Gamer:
商品化の計画はないんですか?
テリマネ氏:
ええ。基本的にはファンサービス企画なんです。
“子持ちのししゃも”は道ならぬ恋の比喩?
中村繪里子さんの深読みを加速させた凄まじい歌詞とは
4Gamer:
佐々木さんは,その“やっちゃった”的な主題歌を,どのような経緯で手掛けることになったんですか?
最初は,「やれるかどうか分からないけれど」という前提の相談だったんです。面白そうだなとは思っていたんですが,保留期間がけっこう長くて(笑)。
自分はコンシューマゲームの仕事が中心で,オンラインゲームは初めてだったんですが,それも面白そうだと思った理由の一つですね。
4Gamer:
佐々木さんは,歌詞の内容を知ったうえで作曲したんですか?
佐々木さん:
いえ,朝倉さんからテリシアのイメージを説明していただいて,まずデモを作ったんです。それが好評だったので話が先に進んだという感じですね。
そのあと,3通りの歌詞を見せてもらいました。一つは恋愛をテーマにしたアイドルの曲っぽい内容,もう一つは“夢を追って”みたいな,いかにもゲームっぽい内容でした。そして3つ目は,こう言ってはなんですが,どうも雰囲気が違ったんですね。
4Gamer:
これは明らかに“変”だと。
佐々木さん:
ええ,「生ごみ」とか(笑)。でも,それがすごく刺さったんです。もうこれしかないでしょうと,すぐに朝倉さんに伝えました。
朝倉氏:
まさか佐々木さんがこれを選ぶとは予想していなかったので,逆にどうしていいか分からなくなっちゃいましたよ(笑)。
佐々木さん:
アイドルの曲でもないし,ゲームの曲でもないし,一体どこに向かおうとしているんだろうと。ただ,そこには「何かあるな」という直感がありましたね。
4Gamer:
なるほど。そこに朝倉さんの言うゲームポット“らしさ”を感じ取ったのかもしれませんね。
実際の作曲にあたっては,どのようなことを意識したんでしょうか?
佐々木さん:
実は,作曲の依頼があったのと前後して,偶然にも猫を飼うことになったんです。これまで犬を飼ったことはあるんですが,猫は初めてだったので,非常に新鮮でしたね。自分の仕事場に猫がやって来て邪魔するのを見ながら,何となくテリシアもこんな感じかな,というインスパイアを受けました。
4Gamer:
中村さんは,初めてこの曲と出会ったときどのような感想を持ちましたか?
最初は,仮歌の状態で聴かせてもらったんですけど,そのときは,メロディがすごく可愛い曲だと思いました。
佐々木さんは,いつも「曲は適当に作る」と言うんですけど,だからなのか,気がつくと鼻歌を歌っているような,すごく頭の中に曲が残るんです。そういった,感性に訴える曲でした。
4Gamer:
では,歌詞を見たときはどう感じましたか?
中村さん:
私は佐々木さんと長年お仕事させていただいているんですけれども,佐々木さんは曲に合わせて歌詞のイメージまで作ることが多いんです。
言葉の裏にある意味なんかも佐々木さんがイメージして,それをもとに作詞家の方が曲に合うよう,歌詞を組み立てていくんですね。
4Gamer:
なるほど。
中村さん:
なのでこの歌詞も,てっきり佐々木さんのイメージだと思って,一生懸命その意味を読み解こうとしました。
「一緒に食べよう」の直後に「レッツBABABANG!」とか出てきて,一緒に食事したのに殺し合っちゃうんだ! とか(笑)。
「子持ちのししゃも」も,ひょっとすると不倫の暗喩なのかもと思って,「何これすごい!」「面白すぎる!」と,二度三度,四度と噛みしめて読んでいました。
4Gamer:
ものすごい深読みですね(笑)。
中村さん:
「唯一のオンリー」みたいな言葉の被せ方とか,生ごみを漁っているのに「刺身が一番」っていうのもすごいですよね。もう本当に「佐々木さんワールド全開だ!」と思っていたんですが……。
4Gamer:
幸か不幸か,今回,佐々木さんはあまり歌詞に関わっていなかった,と。
中村さん:
でも,最初にそう感じたのは,佐々木さんの感性に近い内容だったってことなんじゃないかと。
佐々木さん:
そうですね(笑)。
中村さん:
ともかく,これはすごく面白いなあ,と思いました。
テリマネ氏:
ゲームポット社内でも,かなりの物議を醸しました。「こりゃ何なんだ」と。
4Gamer:
そして本日,実際にレコーディングしたわけですけれども,どんなところにポイントを置いたのでしょう?
中村さん:
キャラソンの場合は,どこまでキャラに寄せるかという部分があるのですが,実はテリシアには,これが絶対というものがなかったんです。そこでいろいろ考えながら,これで行こうと決めて,じゃあ,歌ってみましょうとなったんですが,今度は聴こえてきた1音目が仮歌のデモと全然違ったアレンジで……。
デモは流行りのピコピコした感じで,それはそれで完成していたので,そのイメージで歌い方を考えていたんですが,今日聴いたら,激しい感じのロックになっていました。それで少し試行錯誤したんですが,いざやってみると,けっこうスススッとできましたね。
佐々木さん:
すみません,いい加減で……。いつもデモは最低限の音しか入れていなくて,どうしてもアレンジは後回しになってしまうものですから。
中村さん:
それと私は歌詞のイメージを優先してしまうので,ピッチがおろそかになってしまうことが多いんです。そのあたりも佐々木さんにうまくバランスを取っていただけて。テリシアが踊っているイメージで,楽しく歌うことができました。
主題歌のPVを使ったプレイヤー参加企画を展開。ゆくゆくはアニメ化も?
4Gamer:
それでは,この主題歌を使った「ペーパーマン」のプロモーションについて教えてください。基本的にファンサービス企画であると先ほど話していましたが,具体的にはどのような形で展開されるんでしょうか?
テリマネ氏:
主題歌は非常に耳に残るメロディですので,ログイン画面やロビーで待機しているときなど,ゲーム内のさまざまな場面で流れるようにする予定です。
また,現在テリシアが踊るプロモーションビデオを制作中です。ゲームに出てくるゴミ箱や料亭といったステージをうまく組み合わせて,歌詞の内容を可能な限り再現しようと,今,四苦八苦しているところです。
4Gamer:
なるほど,楽しそうですね。
さらに,何とかテリシアをデビューさせようという企画も考えています。たとえば,みなさんからも「これなら絶対デビューできるであろう」というムービーを作ってもらったり,あるいはCDレーベルをデザインしてもらったりといったことを考えています。優秀な作品は,ゲームポットできちんとCDにしてプレゼントしようかと。
そのほか,プロモーションビデオを使った,ペーパーマンの最新ニュースやメンテナンス情報などが表示されるブログパーツも開発中です。
朝倉氏:
皆でテリシアを盛り上げていこう! というプレイヤー参加型の企画ですね。
テリマネ氏:
これが盛り上がるようであれば,もっともっと大きな企画を考えています。最終的にはペーパーマンをアニメ化したいんですよ。
4Gamer:
もう何か具体的に話は進んでいるんですか?
朝倉氏:
まずは,今回の試みを成功させてからの話です。現段階では,「そうしたい」「できたらいいな」という希望ですね。
4Gamer:
なるほど。
それでは,今回の主題歌を含めて,「ペーパーマン」に期待している人にメッセージをお願いします。
中村さん:
今日この場で,さまざまな展開を予定していると,あらためてお聞きしたので,私自身,より多くの方にお会いできる可能性に期待しています。それもプレイヤーの皆さんの応援や期待,熱意が形になった結果だと思います。私もそれに応えられるよう頑張っていきます。
佐々木さん:
皆さんが,今回作った主題歌を盛り上げてくださると非常に嬉しいです。評判がよければこれに終わらず,ペーパーマンのほかのキャラクターの曲も作ってみたいですね。ぜひよろしくお願いします。
テリマネ氏:
今回,私がプロモーションを手がけることになりました。私自身,大変楽しんで仕事をさせていただいていますが,それよりも,プレイヤーの皆さんの「これをやってほしい」という声をきちんと汲み上げられるよう努力しています。ほかにはない,ゲームポットならでは,「ペーパーマン」ならではのサービスを提供していきます。
朝倉氏:
どうやれば喜んでもらえるか,常に考えてさまざまな楽しみ方を提供していきます。今回のような,ある意味,バカげた企画は,会社や組織が大きくなるとなかなか実現が難しくなるのですが,そういうことは度外視していろいろやり続けたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
本主題歌は,キャンペーン「テリシアメジャーデビュー大作戦」として,9月15日からの実施が予定されている。テリシアへの応援メッセージを掲示板に書き込んだ人全員にオリジナル称号「テリシア大好き♪」が配布されるほか,抽選で「テリシアのデモCD」がプレゼントされるとのこと。
「ペーパーマン」は,8月18日のアップデート直後には,サービス開始以来最高の同時接続者数を記録したとのことで,こうした,いわば傍流の企画を展開できるほどの好調ぶりは数字にも現れている。
また海外展開についても,先日発表されたタイに続き,台湾でのサービス開始が決定したとのことで,朝倉氏念願の世界大会開催も現実味を帯びてきた。
それに先駆け,8月29日の兵庫を皮切りに,東名阪でネットカフェでのイベントを次々に開催し,日本でもペーパーマンを盛り上げていくと,朝倉氏とテリマネ氏は意気込みを見せる。続く展開にも期待したいところだ。
「ペーパーマン」公式サイト
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