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[G★2005#041]なぜ今,韓国ではカジュアルゲームがブームなのか。業界の重鎮Lee,Won Sool氏に聞く「スタイリア」の事業戦略とビジネスモデル
今回4Gamerでは,Gravityが展開する新概念のゲームポータルサービス「スタイリア」の開発を手がけるsonnori社のCEO Lee,Won Sool氏にインタビューを実施。スタイリアの事業戦略やビジネスモデル,ひいては韓国におけるカジュアルゲームの台頭についてなど,いろいろな話を聞くことができた。
Lee氏は,韓国ゲーム業界の古株の一人で,これまでにも数々のゲーム(パッケージの時代から)を手がけてきた人物。韓国国内では非常に有名な,業界のキーマンである。そんな彼が何を考えてスタイリアというサービスを立ち上げたのか。
※ちなみにスタイリアのサービス概要については,以前に別途掲載した記事を参照してほしい。
単刀直入にお聞きしますが,スタイリアというポータルサービスを立ち上げようと思った経緯とはどんなものなのでしょうか。また既存のゲームポータル……例えば,ハンゲームやネットマーブルなどといったサービスとの違いはどういった点になるのでしょうか?
Lee,Won Sool氏(以下,Lee氏):
そうですね。まず私が常々考えていたのは「現在のポータルサービスが,果たして本当に使いやすい/便利なものなのだろうか?」ということでした。
4Gamer:
具体的にはどういったことですか?
Lee氏:
例えば,各ゲームを起動するときにいちいちIDを入力しなければいけない場合があったり,それぞれのゲーム間でコミュニティ的な連動性がなかったりなどなど。ユーザーさんの立場から見て,もっともっと便利にできるのでは? ということですね。
4Gamer:
なるほど。
Lee氏:
例えば,アイテムの管理や課金情報の管理などにしても,ユーザーさんから見たら一括でできるほうが便利に決まってるじゃないですか。もちろん,現在それができていないことにはいっぱい理由があるんですけれど,そういった不便さを解消していくことって,実はものすごく大事なことだと思うんですよね。スタイリアでは,そういう部分についての取り組みができないかなと。
4Gamer:
自分が持っているキャラクターを「ゲーム側で」使うことができるというのも,そういった便利さを追求した結果の一環なのでしょうか。
Lee氏:
サービスごとに「境界線」がなく,それぞれを(ユーザーから見て)シームレスに繋げていくという意味では,そのとおりですね。
ただユーザーさんの視点に立った問題点の解決もモチロンなんですけれど,スタイリアの取り組みはそれだけではなくて,コンテンツを制作する開発者から見た「より良いゲームポータル」を構築するというアプローチが,盛り込まれているのも大きな特徴なんです。
4Gamer:
開発者から見た「より良いゲームポータル」ですか?
Lee氏:
そうです。私はコンテンツを制作する側に身を置く人間ですけれど,そういう立場からみると,従来の形式のポータルサイトというのは,我々が活動するに当たって,決して良い環境というワケではありませんでした。具体的な話をしますと,従来のポータルサイトというのはあくまでもパブリッシャが主導し,自分のサービス内で展開する作品を開発会社に資金を提供して作らせるというような形が主流です。
でもそういう形だと,小粒だけど素晴らしいゲームのアイデアが生かされるチャンスや,小さいけど若く将来性のある企業が大きく成長するチャンスは(下請けで開発を担当するだけになってしまうので)薄いですよね。これは業界の発展にとって大きなマイナスなのではないかと。
4Gamer:
それは確かにそうですね。
スタイリアでは,そういった素晴らしいアイデアを持つ小さなデベロッパが,参加/活躍しやすい環境を,オンラインゲーム市場で構築していくことが大きな目標の一つになっているのです。……というより,裏っ側(?)に当たるこちらの目標こそが,(開発者である)私にとっては一番大きい目的になるかもしれませんね。
4Gamer:
それはつまり,スタイリアは,既存のポータルサイトなどとはビジネスモデルがまったく違っているという意味でしょうか?
Lee氏:
ええ,そのとおりです。
4Gamer:
ビジネスモデルの違いについて,具体的に話を聞かせてもらってもよいですか?
Lee氏:
スタイリアのサービスとしての最大の特徴は,プレイヤーが持つキャラクターをスタイリア側で一元的に管理し,スタイリアで作成したキャラクターを,そのまま各種ゲームサービスで使っていけるという部分になります。
通常のゲームポータルだと,ポータルサイトのアバターと各ゲーム内のキャラクタは別々になっていて,各ゲームの課金ステータス(買ったアイテムなど)は,それぞれのサービスに入らないと見られないですよね。スタイリアでは,その部分を一元化させてしまい,すべてを"スタイリア側"で管理できるようにする,という形を考えています。
4Gamer:
ふむふむ。ただそうなると,ゲームを制作する側にスタイリアのシステムを前提にしたコンテンツ作りが求められますよね。それって,今までのポータルサービスのスタイルと何が違ってくるのでしょうか。ポータルのアバターと一体化したコンテンツは,今までにもすでにいくつかありますよね。
Lee氏:
良い質問ですね。
スタイリアでは,先ほど話したようなサービスを実現するために,各コンテンツメーカーさんにスタイリアのシステムを利用するために必要なライブラリを公開し,開発ツールを提供していくことになります。
要するに,スタイリアにコンテンツを提供するゲーム制作者はゲームのキャラクターモデルやコミュニティシステム,課金システムなどといった煩雑な部分を自分で作成する必要がありません。あくまでも「ゲーム性」……言い換えれば「ルール」とでも言うのでしょうか,そういったゲームが本来追求するべき部分にのみ注力すればよい形になっているんです。
4Gamer:
なるほど。
Lee氏:
また先ほどキャラクターをスタイリアで一元的に管理するという話をしたと思いますが,スタイリアでは,大きく二種類の収益源を考えていて,一つは「キャラクターとそれを着飾るアイテムの販売」,そしてもう一つは「ゲーム内だけで有効なアイテムの販売」といった感じになります。
つまりスタイリアの基本的なビジネスモデルは,アバタービジネスのようなものになるワケですが,そのアバタービジネスによる収益を,コンテンツを提供している各社で分け合おうというのが,スタイリアがビジネスとしてほかと大きく違う部分だと思います。
要するに,アバタービジネスというのは,多くのユーザーさんが居着いてくれて初めて成り立つサービスだと思うのですが,その居着かせるサービスを維持していくため(アバターの売り上げを維持するため)に,ポータルサイトの運営側が定期的にコンテンツを投入しているというのが現在の形ですよね。
スタイリアの考え方はちょうどその逆で,アバターの売り上げに貢献するコンテンツを提供してくれたメーカーさんには,その貢献度に応じたペイバックを与える……という形になっているんです。
4Gamer:
つまり,同時接続者数などに応じてアバターの売り上げをシェアしていくという意味ですか?
Lee氏:
まさにそのとおりです。服装やキャラクターのモデル(形)といった全般的な部分の売上は,同時接続者数などをベースにGravity/sonnoriと参加企業全体でシェアし,「ゲーム内だけで有効なアイテムの販売」……例えば,「Love and Fourty」の場合はラケットなどになりますが,こちらはGravity/sonnoriとゲームを作ったメーカーとの間で利益をシェアする形になります。
4Gamer:
シンプルですが,一番うまく動く形ではと思います。
あとプレイヤーが使うキャラクターに関してですけど,アバターという言葉を使うのにはちょっと抵抗を感じていますね。アバターというと,なんか「自分の分身」じゃないですか。そうじゃなくて,もっとコレクション性があったりだとか,その日の気分によって切り替えられたりだとか,スタイリアではそういった方向性を考えていますね。だからキャラクター(あえてアバターとは言わない)は,今のようなスタイリア独特のキャラクターデザインだけではなくて,他の作品/ジャンルのキャラクターが使えても良いと考えています。例えばラグナロク風のキャラクターであったり,ミッキーマウスのような有名なキャラクターでもよいのかなと。プレイヤーが,キャラクター自体を何個も揃えたくなる,そんな仕掛けを現在企画中です。
4Gamer:
なるほど。しかし,キャラクターモデルすらも作らなくて良い,という考え方は面白いですね。
Lee氏:
これは日本のゲーム業界でも近い問題があると思いますが,例えば,今何か新しいオンラインゲームをサービスインさせようと思うと,ゲームのルール設計やプログラミング,キャラクターのグラフィックモデルなどに加えて,サーバーの設計やユーザー管理システムなど,必要となる周辺部分のシステムを作らなくてはならなくなり,非常に大規模な開発にならざる得ないですよね。
パズルなどのミニゲームの場合はさらに深刻で,事実上,コストをかけずにコンテンツを制作するというのが非常に難しくなっている。それが有料サービスに耐えうるレベルとなればなおさらで,グラフィックスも含めて,結局はいろいろな部分にコストをかけざるを得ません。これは,オンラインゲームの参入障壁を極めて高くしてしまっている要因だといえます。
スタイリアでは,キャラクターのグラフィックスモデルが“ゲーム側”のものではないため,逆にそういう部分を作る必要ないという見方ができるのではないかと。
4Gamer:
こういうビジネススタイルだと,例えば「テトリス」みたいなゲームを大ヒットさせて大儲けする……というような可能性も生まれてきそうで,確かに面白い試みですね。
Lee氏:
例えば,日本でもアーケードからコンシューマに市場の重点がシフトした時期がありましたけど,日本でコンシューマ市場が盛り上がっていった要因としては,やはりサードパーティが参入/活躍しやすい環境が出来上がっていたというのが大きいと思うんです。オンラインゲームでも,そういった環境をなんとか作れないかと。この思いはかなり強いですよ。
4Gamer:
ふむふむ。コンシューマゲーム市場におけるプラットフォームというのも,実はハードウェアを提供しているだけではなくて,ゲームの売り先であるユーザー(ひいては店舗)確保や,そこへの流通機能の提供であったりと,ゲームメーカーに対するトータル的なソリューションを提供している側面は見逃せないですよね。もっと言えば,任天堂などが作り上げたビジネスモデルは,パッケージゲームビジネスというビジネスモデルそのものの提供でもあったかなと。ゲームメーカーからすると,製品を作って納品さえすれば金銭が得られたワケで,ビジネスモデルは非常にシンプルでした。
Lee氏:
そうそう。ところが今のオンラインゲーム市場を見ていると,デベロッパ側がビジネスモデルを考えたり,課金システムなどゲーム以外のシステムを作らなくていけなかったりと,ビジネススタイル自体が非常に複雑で,なおかつそれが儲かるかどうかも分らないような状況です。やっぱり,これってどうなのかな,って思うんですよ。体力がある大手は"実験"ができますけれど,小さい会社にそれは無理なんですよね。私自身,会社の立ち上げ初期の苦労などは身をもって知っているつもりですし,このままではだめだなと。
4Gamer:
確かにミニゲームの制作からビジネスを展開していけるという状況ができれば,参入障壁が下がって参加してくる企業が増え,市場がもっと盛り上がるかもしれませんね。
Lee氏:
そうなるといいですね。
4Gamer:
そういえば,韓国のゲーム市場は最近カジュアルゲームがトレンドになっていますよね。スタイリアを展開するGravityもそうですが,NC Softなどといった大手MMORPGメーカーもカジュアルゲーム/ゲームポータルサービスに進出してきています。このあたりの業界的な流れについてはどう考えていますか? なぜ今,韓国ではカジュアルゲームがこれほど注目されているのでしょうか。
Lee氏:
韓国には,オンラインゲームが大ブレイクしたことをキッカケにして,ゲームというものが一気に大衆化していった流れが数年前にありました。それまでのオンラインゲーム……例えばMMORPGにしても,マニア寄りの要素が非常に強かったワケですけど,ゲームが大衆化した結果として,マニアックなゲームの需要を,簡単に遊べるゲームの需要が上回ってきた。それが,ここ最近の韓国のオンラインゲーム市場の端的な分析になると思います。
4Gamer:
非常に分りやすいですね。ありがとうございます。
Lee氏:
個人的には,こういった流れは韓国だけの話ではないと考えています。,台湾や中国といった韓国と近い形で市場が立ち上がってきている地域は,数年後に今の韓国と近い流れになってくるのではないでしょうか。日本市場は……ちょっと分かりませんが(苦笑)
4Gamer:
スタイリアも,そういった将来の展開を見越してのプロジェクトになるのでしょうか?
Lee氏:
もちろんそうなのですが,将来的な話はまだする段階ではないかな,というのも本音ですね。先ほどお話ししたような,よりよい業界構造の構築という部分も大切ですけれど,それを実現するためにも,まずはスタイリアをユーザーさんにとって,便利で面白いものにしたいと考えています。
4Gamer:
ぜひ楽しみにしたいと思います。本日は面白いお話を聞けて楽しかったです。ありがとうございました。
世界有数のブロードバンド普及率を誇り,オンラインゲーム市場の先駆者として数々のタイトルを世に送り出して来た韓国ゲーム業界。その動向は,今後各国のオンラインゲーム市場が歩むべき道筋を占ううえでも非常に重要である。
今回のインタビューでは,そんな韓国で沸き起こっているカジュアルゲームという大きなトレンドと,またその背景にある問題点,あるいは戦略についての話を聞くことができたという意味で,非常に有意義であった。
Lee氏を含め,ほかの業界関係者から話を聞く限りだと,MMORPGが飽和状態となって行き詰まるなか,韓国では,アバタービジネスが大きな収益を生むビジネスとして確立されており,その方向性をベースとして,韓国の大手ゲームメーカー各社が新たな取り組みを行っているという構図。ちょっとした業界のパワーシフトの時期に当たると考えてよさそうな雰囲気である。
MMORPGで支配的な地位を確立してきたNC softやGravityといった大手メーカーが,既存のゲームポータルサービスとどう戦っていくのか。スタイリアともども,今後の動向が気になるところ。オンラインゲームビジネスにおける(ビジネス上の)「川上とは何か」,それを考えさせられた一日であった。(TAITAI)
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