レビュー
2万円台前半で買える薄型10キーレスのワイヤレスキーボード
ロジクール G515 LIGHTSPEED ワイヤレスゲーミングキーボード
薄型キーボードといえば,ノートPCで主流のパンタグラフ支持構造を採用したメンブレンキースイッチというのが定番だが,G515は,Logitech独自の薄型メカニカルキースイッチ「Low Profile GL Switch」(以下GLスイッチ)を採用するのが大きな特徴だ。また,独自の低遅延ワイヤレス技術「LIGHTSPEED」とBluetooth,そしてUSBによる有線接続という3方式の接続に対応するという,今どきのトレンドに沿った製品だ。
選択肢が比較的少ない薄型キーボードを好むゲーマーにとっては,見逃せないキーボードといっていいだろう。その実力を,借用した試用機で検証してみよう。
GLスイッチで超薄型フォームを実現した低価格版キーボード
キーボードの高さといえば,[Space]キー列のキートップで,机上から30mm強が一般的だ。ボディ部分が薄いキーボードであっても,キートップの机上からの高さは,あまり変わらないことが多い。というのも,「Cherry MX」シリーズに代表される標準的なメカニカルキースイッチの高さは,軸を含めて18mm程度あるからだ。そこにキーキャップを載せて,基板やスイッチを支えるパネルを組み合わせて筐体にいれると,それなりの高さになってしまうわけである。
[Space]キーの高さが30mm台だと,手首の角度はやや不自然になる。そういう理由もあって,パームレストなどを使って調整しているゲーマーは多いだろう。
その一方で,高さの低いキーボードへの需要もあり,いくつかのスイッチメーカーが,メカニカルキースイッチの構造を踏襲しながら背の低い薄型キースイッチを開発した。薄型キースイッチと言えば「Cherry MX Low Profile」シリーズが代表例だが,G515が採用するGLスイッチも,比較的早い時期に登場した薄型メカニカルキースイッチのひとつだ。
GLスイッチは,2019年に発売となったワイヤレスキーボード「G915 LIGHTSPEED」(国内では「ロジクール G913 ワイヤレスRGBメカニカル ゲーミング キーボード」,以下 G913)シリーズで初採用となったLogitech独自開発のキースイッチだ。押下感の異なる「GLタクタイル」「GLリニア」「GLクリッキー」という3つのバリエーションがある。
名称から推測できるとおり,GLタクタイルは,バネの荷重変化によるクリック感で,スイッチがオンになるアクチュエーションポイントを体感できるスイッチだ。いわゆる「Cherry茶軸」タイプのスイッチである。GLリニアは,バネの荷重変化が直線的でクリック感がないタイプ。こちらは「Cherry赤軸」似た感触である。GLクリッキーは,バネのクリック感とクリック音でアクチュエーションポイントが分かるタイプだ。「Cherry青軸」に似たスイッチという理解でいい。
G913シリーズは,ハイエンド市場向け製品で,税込直販価格は現在でも3万3000円と,相応に高価だ。2万円台前半の薄型キーボードとしては,ワイヤードタイプの「Logitech G815 LIGHTSYNC」(国内では「ロジクール G813 RGBメカニカル ゲーミング キーボード」)があるものの,こちらは10キーありで,日本で人気の10キーレスモデルはない。それに対して,今回のG515は,ワイヤレス&ワイヤードの3方式接続に対応する10キーレスキーボードでありながら,2万円を少し上回る程度という手を出しやすい価格なのがトピックと言える。
なお,G515の日本語配列モデルは,GLリニア搭載モデルと,GLタクタイル搭載モデルの2種類だ。筆者が今回試用したのは,GLタクタイルモデルである。
それでは実機を確認していこう。
G515は,フットプリントが実測355(W)×146(D)mmで,10キーレスキーボードとしては標準的なサイズと言っていい。
繰り返しになるが,特徴は薄さだ。キーキャップを含まない筐体の高さは,[Space]キー列で机上から実測約11mm,ファンクションキーの列でも約14mmしかない。キーキャップの高さは,筐体天板から約8mm弱なので,[Space]キーの列におけるキートップの高さは,机上から約19mmほどである。一般的なメカニカルキーボードに比べると10mm以上低く,パームレストなしでも快適にタイプできるだろう。
写真でも分かるとおり,標準ではキートップの傾斜がわずかで,キーキャップもほぼフラットに取り付けられている。キーボードに傾斜が必要なユーザーは,後部底面にあるチルトスタンドを利用することになる。
チルトスタンドは2段階式で,背面から見ると,スタンドに使用時の傾斜角が記されている凝った作りだ。角度は,1段目が4度で,2段目が8度。参考までに,1段目を立てた状態で,ファンクションキー列の筐体の高さは,机上から約19mm,2段目は同約26mmだった。
日本語配列モデルは,日本語109キーボードをベースに10キーを省略した配列を採用している。標準配列との違いは,右[Windows]キーが[Fn]キーになってる点だけ。キーピッチも,実測約19mmと標準的で,日本語キー配列のユーザーなら違和感はなく使えるだろう。ちなみに,英語配列モデルの国内販売は予定がないそうだ。
なお,[Space]キーの幅は実測で約100mmだった。[変換][無変換]キーが19mm幅なので,その分だけ,標準的な日本語キーよりも[Space]キーの幅が少しだけ広くなっている。
キーボードの左奥にある3つのボタンは左からLIGHTSPEED接続の選択,Bluetooth接続の選択,「ゲームモード」のオン/オフボタンだ。
背面の右側に電源スイッチがあるが,このスイッチをオフにすると,ワイヤレス使用時だけでなくUSB接続時もキーボードがオフになる。ただ,バッテリー充電はオフにならないので,未使用時に充電したい場合は,スイッチをオフにしておけばいい。
G515の筐体は,オール樹脂製である。高級感はないが,黒とグレイのツートーンでシックにまとめられており,落ち着いた雰囲気のキーボードと言えよう。ちなみに,LEDイルミネーションを消灯するとキートップの文字が薄っすらと見える程度になり,さらに落ち着いた雰囲気になる。
見た目の高級感に欠けるとはいえ,ダブルショットの射出成形によるキーキャップは,耐久性に優れたPBT樹脂を使用しているそうだ。
また,本体内部には,キースイッチを保持する金属製のパネルだけでなく,防音フォームが組み込まれており,打鍵時の質感も良好だ。
ちなみに,本体重量は実測で約877g(ケーブルを除く)だった。製品サイズのわりには重めで,しっかりとした打鍵感がある。樹脂製筐体と製品のサイズから,いかにも軽そうな印象を受けるが,重厚な使用感があるキーボードと評していい。
高速キー入力が可能なショートストロークの薄型GLスイッチ
G515の特徴は,なんと言っても薄型のGLスイッチを採用している点だ。GLスイッチの特性については,公式サイトに載っているのだが,G515の製品情報ページで公開されている仕様とは若干の違いがある。
ゲーマー向けで使われる高速入力タイプのメカニカルキースイッチでは,アクチュエーションポイントが1.2mm前後というスイッチも珍しくない。GLタクタイルを特徴づけているのは,総ストローク距離のほうだろう。
ちなみに,筆者が主に使用しているキーボードのスイッチ「Kailh Super Speed Silver Switch」(以下,Kailh Silver)は,アクチュエーションポイントが1.1mm,総ストローク3.5mmというスペックである。薄型ではないものの,諸元については結構近い感じだ。
ただ,45gというGLタクタイルのバネ圧は,やや重め。実際にタイプしてみると,しっかりした打鍵感がある打ち心地だ。総ストローク距離がKailh Silverよりも短い一方で,バネ圧の変化がほぼリニアなことから,押し始めのバネ圧が高めなことも,しっかりとした打鍵感を生み出す理由のひとつと思われる。
薄型のキースイッチでバネを極端に軽くしてしまうと,反応が過敏になりすぎるので,タイプミスの原因になってしまう。その点を考慮して,ゲーマー向けとしてはやや重めのバネ圧にチューニングしているものと推測できる。実際,操作のシビアさはKailh Silverのほうが上で,Kailh Silverは,少し指を添えているだけでも入力されてしまう傾向があるのに対し,G515では,そのような使いにくさは感じなかった。
今回は,G515を使って,よくプレイしている「Fortnite」を中心に,いくつかのゲームで試してみたが,やはり3.2mmというストロークの浅さが効いている印象が強い。わずか0.3mmの違いだが,それでもストロークが浅いことをすぐに体感できる。
キーの押し込み距離が小さいので,ついついキーを深く押し込んでしまっても,わりと高速に操作できるのがショートストロークの利点だ。キーを深く押し込みがちなゲーマーなら,G515に変えるだけでゲームの操作を少し速くできるだろう。
とはいえ,キーキャップが傾いて入力をミスったとか,ゲームをうまくプレイできなかったということは,まったくない。そのため致命的な問題とは言えないが,ゲームに熱が入ってキーを強く押し気味になると,わずかに傾くのが気になるというところはある。
なおG515は,全キーAnti-Ghosting(アンチゴースティング)と同時押しにもきちんと対応している。実際にテストしてみても,20キー以上の同時押しができることを確認しているので,事実上の全キー同時押しと考えて間違いない。
さらに,Bluetooth接続時でも20キー以上の同時押しが可能だ。他社製品では,Bluetooth接続時に機能面や同時押しに制限のあるものが多いので,そうした制限が少ないという点は,G515の特徴として押さえておいていいだろう。スマートフォンやタブレット,あるいはゲーム機でキーボード対応のアクション系ゲームをプレイするときにも,G515が重宝するかもしれない。
Bluetooth接続時にも大半の機能が利用可能
繰り返しになるが,G515は,LIGHTSPEED接続とBluetooth接続,USB接続の3方式で接続できる。
LIGHTSPEEDは,ロジクールGブランドのマウスでも使われているワイヤレス接続技術で,「体感遅延ゼロ」とLogitechは謳っている。実際に使ってみても,USB接続と違いを感じないことは確かだ。
USB接続とワイヤレス接続時には,統合設定アプリ「Logicool G Hub」を用いて,キーの機能割り当てカスタマイズや,LEDイルミネーションの機能をフルに利用できる。
G515で特筆できるのは,Bluetooth接続時でもほとんどの機能が利用できる点だ。Bluetooth接続時の制限は,LEDイルミネーションの発光パターンにプリセット済みのパターンしか選択できない程度で,それ以外はUSB接続やワイヤレス接続時と変わらない。
ワイヤレス接続時の公称連続使用時間は,最大36時間となっている。未使用状態が続くと自動的にスリープモードに移行することもあり,実使用ではそれよりも長くなりそうだ。
G Hub上では,バッテリー残量と残り使用時間の推定値が表示されるのだが,筆者の試用時には,40時間前後となっていることが多かった。1日8時間として,1度満充電にすれば,だいたい5日間程度は使えるというイメージだ。数日おきにUSBケーブルにつないで充電しておくという使い方で,問題なく扱えそうだ。
バッテリー駆動時には,未使用時に自動でスリープ状態に移行する。スリープすると,キーボードはPCからオフラインになるが,復帰は極めて高速だ。スリープした状態でキーを押すと即座に復帰するうえ,復帰のために押したキーもきちんと入力される。ゲームプレイ中にスリープしてしまえば,復帰のときに待たされる感じがするだろうが,そういう事態にでもならない限りは,スリープのせいでレスポンスが悪かったり,キーを取りこぼしたりといったことは起きない。
このあたりの作りは,ワイヤレス技術で先頭を走ってきたLogitech製品らしく,こなれているなという印象だ。
イルミネーションはWindows 11の「動的ライティング」に対応
G515の設定は,いずれもG Hubで行う。設定できる基本的な内容は,キー割り当てのカスタマイズとLEDイルミネーションの発光パターンだ。
そのうちLEDイルミネーションの設定は,ゲーマー向けキーボードとして珍しいものではないが,今のところ珍しい要素と言えば,Windows 11の「動的ライティング」機能を利用できる点だろう。動的ライティングとは,メーカーごとに異なるカラーLEDイルミネーションの設定を標準化して,Windows 11から設定できるようにMicrosoftが定義したLEDイルミネーション機能のことである。
簡単に言えば,メーカー独自の特別なアプリを使わなくても,Windows 11が標準搭載する機能で,カラーLEDイルミネーションを制御できるのだ。ただ,メーカー独自の設定アプリを使うのに比べると,設定できる内容は,かなりシンプルではある。
G Hubを使ったイルミネーションの制御は,Windows 11の動的ライティングよりも高機能だ。動的ライティングとは排他となっているので,どちらか一方でしか設定できない。
G HubにおけるG515のLEDイルミネーション機能は,「プリセット」や「フリースタイル」,「アニメーション」という3種類のカテゴリから,LEDイルミネーションのパターンを設定でき,プリセットには11種類の発光パターンが用意されている。
任意のキーをまとめた「エリア」を指定して色を変える「フリースタイル」や,イルミネーション全体の発光パターンを複雑に動かす「アニメーション」は,いずれもユーザーが細かくカスタマイズできる。かなり凝ったイルミネーションのパターンも作成が可能だ。
キーカスタマイズは柔軟だが,やや複雑
G Hubではキー割り当てのカスタマイズも行える。これまで,ロジクールGのキーボード製品は,機能割り当てをカスタマイズできるのは,マクロキーなど一部のキーに限られていた。しかし,2024年5月発売の「ロジクール G PRO X 60 ワイヤレス」から,「KEYCONTROL」と称するほぼ全キーのカスタマイズ機能が実装され,G515でも柔軟なキーカスタマイズが行えるのだ。
KEYCONTROL機能では,メインキーの機能割り当てができるだけでなく,メインキーと[Fn]キーとの同時押し,および「Gシフト」と称する追加レイヤーの合計3パターンの割り当て設定を各キーを割り当てられる。
Gシフトは,ユーザーが設定する任意のキーコンビネーションで有効になる割り当てレイヤーだ。たとえば,[Fn]+[G]キーをGシフトへの切り替えに割り当てておくと,[Fn]+[G]+任意のキーで,Gシフトのレイヤーに割り当てた入力を行える。たとえば,Gシフトレイヤーで,[A]キーに別のキーや機能を割り当てると,[Fn]+[G]+[A]の同時押しで,その別のキーが入力されるという仕組みだ。
[Fn]キーなど,一部のキーは再割り当てができないものの,3つのレイヤーを使い分ければ,キー数のほぼ3倍ものキー割り当てを設定できるわけだ。キーの割り当てでは,[Shift]キーなどの修飾キーを付けたり,複数キーの入力を設定したりできるなど,機能面では他社の設定ソフトに劣らない充実したものとなっている。
カスタム割り当てを,通常は無効にしておき,[Fn]+[F1]の同時押しで有効化するという使い方も可能だ。デスクトップにおけるアプリのショートカットなどに活用したいときには,デフォルトで無効にしておくほうが使いやすいだろう。
また,キーボード左奥のゲームモードボタンや,左ペインのメニューで「ゲームモード」に切り替えることで,ゲームモード有効時に無効化するキーを設定できる。[Windows]キーは,デフォルトで無効化対象になっているが,それ以外に無効化したいキーがあれば,ここで設定できるわけだ。
カスタマイズした内容は,プロファイルとして保存しておけて,アプリごとの自動切替にも対応している。プロファイル機能もなかなか良くできていて,インストールしているメジャーなゲームに対して,自動で専用プロファイルを作成する機能もある。手動でゲームやアプリごとにプロファイルを作ることも,もちろん可能だが,自動で作れるなら手軽に使えるだろう。
以上のように,G515のキー割り当てカスタマイズは,なかなか充実している。だが,ゲームにおいてGシフトまで使用しなければならないケースは,ほとんどないように思える。ショートカットを多用するRTS系のゲームでも,せいぜい[Fn]との同時押しにコマンドを割り当てる程度で十分に対応可能だろう。3つのレイヤーにキーが割り当てられる柔軟さの代償として,設定が少々複雑な印象を受けるのは,マイナスかもしれない。
キーを深く押し込み気味のゲーマーにお勧めしたいキーボード
G515は,ノートPCの薄型キーに慣れていて,ゲーマー向けキーボードでも薄型キーの製品が欲しいという人には,持ってこいの製品だろう。同じ薄型10キーレスであるG913 TKLより,安価な点も嬉しいところだ。また,薄型でショートストロークという利点からすると,G515は,キー入力時に深く押し込みすぎる癖のある人にも向いているかもしれない。
なお,本文で触れたキーキャップの傾きは,気になるなら実際に触って確かめてみてほしい。実使用上の問題はまったくないので,傾きやすさをどう感じるかという主観の問題になるからだ。
ワイヤレス接続や設定ツールの完成度は,Logitech製品らしいそつがないもので,Windows 11の動的ライティングという割と新し目の機能に対応しているのもG515の利点と言える。為替の影響もあり4万円程度のキーボードが珍しくなくなっている現状では,2万円前後ならリーズナブルと言えるほど。薄型のゲーマー向け10キーレスキーボードを探しているゲーマーやPCユーザーは,G515を選ぶ価値があるだろう。
- 関連タイトル:
Logitech G/Logicool G
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