レビュー
すべてが新しい「高速キーボード」の実力検証
G910 Orion Spark RGB mechanical gaming keyboard
オムロンスイッチアンドデバイス(以下,オムロン)との協業により開発された,まったく新しいメカニカルキースイッチ「Romer-G」(ローマーG)を採用し,それを,これまた新開発のキートップ「Facet Keycap」(ファセットキーキャップ)と組み合わせてあるなど,その新規性で,ゲーマーだけでなく,ハードウェア好き,ガジェット好きからも高い注目を集めてきた製品だ。
では,その新規性は,ゲーム用途での高い使い勝手として結実しているのだろうか? このタイミングで実機を入手できたので,4Gamerのライターであるハメコ。氏とBRZRK氏よるインプレッションも交えつつ,細かくチェックしてみたい。
大きめのボディに追加のキーも備えるG910
Facet Keycapはよく錬られている
下に示したのは,通電した状態で真上から撮影したカットだ。LEDについては後段で述べるので,ひとまずは全体を見てもらえればと思うが,メインキーボードの左や上に追加のキーやボタンが用意されたことで,日本語108キーベースのキーボードとしては,大きなものになっている。
実測サイズは550(W)
[MR]キーの左隣に並ぶ[M1]〜[M3]キーは,9個のG-keyに設定したキー入力やマクロ(LGSではまとめてコマンドと呼ぶ)の割り当てパターンをワンタッチで切り替えるためのものだ。[M1]〜[M3]キーのそれぞれに異なるコマンド割り当てパターンを設定できるので,最大では9キー×3パターン=27種類のコマンドを割り当て可能となっている。
キートップはざっくり「左右と奥側のエッジが立ち上がった形状」と「左右のエッジが立ち上がった形状」「左側のエッジだけ大きく立ち上がった形状」「中央がわずかに盛り上がったかまぼこ形状」で,棲み分けとしては以下のような感じになっている。
- 左右と奥側のエッジが立ち上がった形状:メインキーボードのうち左手の指で操作することになるキー,G-key,矢印キー
- 左右のエッジが立ち上がった形状:メインキーボードのうち右手の指で操作することになるキー,[M1]〜[M3]キー,[MR]キー,10キー
- 左側のエッジだけ大きく立ち上がった形状:[Tab][Caps Lock]キー,左[Shift][Ctrl]キー
- 中央がわずかに盛り上がったかまぼこ形状:[Windows]キー,右[Alt]キー
もっとも,打鍵ミスが減った最大の要因は,エッジが立ったことよりも,G710+で[半角/全角]キーの隣に置かれていたG-keyが廃され,単なる「G」ロゴに変わったことのほうにあるのではないかという気もするが。
ただ,手をホームポジションに置き,親指を寝かせるような格好で[Space]キーの上に置いてみると,この傾斜に意味があると分かる。親指を無理矢理中空に浮かせるようにする必要がなく,無理がないのだ。
ただ,公正のため,本体の厚みが意外にあることは,指摘しておく必要があるとも感じた。G910の本体は横から見るとフラットな形状で,その厚みは実測約23.5mm。手前側が薄く,奥側が厚い形状の,一般的なキーボードと比べると,手前側が極端に高い。
幸いにして,チルトスタンドが用意されており,高さというか,角度は調整できる。また,G910の製品ボックスには,より大きめの交換用パームレストも用意されているのだが,それでも,人によっては高すぎると感じることもあるだろう。ここは,可能な限り,店頭などで事前にチェックしておいたほうがいいように思う。
ただ,少なくとも体感はできなかった。もちろん,厳密に横並びで一般的なキーボードと発汗量を比較できたわけではないものの,体感レベルで,手汗をかく量が減った印象はとくにない。
Romer-Gキースイッチは確かに速い
慣れれば相当に快適な打鍵が可能
さて,いよいよRomer-G(ローマ―G)キースイッチである。
東京ゲームショウ2014におけるインタビュー記事でもお伝えしているとおり,
Romer-GでLogitech G/Logicool Gが狙っているのは,キー入力の高速化と,より美しいLEDイルミネーションの実現だ。
ちなみに,キーストロークは3mm±0.2mmなので,キーストロークもCherry MX比で25%短い。
ホームポジションに指を置いているだけで押し込みが入りそうになり,一瞬不安になるほどなのだが,ギリギリ押下されないレベルが保たれている。そして押せば簡単に下がり,押下後,スイッチがオンになるまでの時間も短い。
最初はこの軽さに戸惑って,底打ちが多発するかもしれない――というか,まず間違いなく底打ちが多発して,「本当に速いか?」と疑問を抱く瞬間すらあるだろう――が,慣れてくると,俄然,高速に入力できるようになるはずだ。「高速キーボード」という触れ込みは,看板倒れになっていない。
誤解を恐れずにあえていえば,メンブレンキースイッチのそれを高級にした感じだが,その原因の一端は,キースイッチの構造自体に求めることができるかもしれない。というのもRomer-Gのキースイッチは,一部のメンブレンスイッチで,キートップのグラ付きを抑え,入力特性を向上するために採用される「プランジャー」に似た,中が空洞となった柱のような部材が,台座とキートップの間に用意されているからである。
ちなみに,中央部分の底にはつぶつぶしたものが見えると思うが,これは,光をキレイに拡散させるためのレンズユニットとのことである。
自由度は高くないものの
LEDの色や光らせ方は簡単に変更できる
本稿の序盤で紹介したとおり,G910の設定にはLGSの利用が必須だ。製品ボックスにCD-ROMなどは付属していないため,使う場合は,ロジクールのサポートページからダウンロードする必要がある。
インストールして起動すると,G910のイメージ画像がどーんと開いたウインドウが立ち上がる。右下に並んだアイコンが各種設定へのリンクボタンで,電球マークのアイコンをクリックすると,色の設定が可能。一方,家アイコンの右にあるキーのアイコンをクリックすると,G-keyの設定が行えるようになるといった具合だ。
LGSの場合,キーの光らせ方は以下の4パターンから選択可能。本体左上の「G」ロゴ,そしてエアフローを生むための凹み部分の色も設定できるようになっている。
●フリースタイル
キーごとに,約1677万色の中から任意に選択して点灯させられる機能。点灯のみで,光に動きを与えることはできない。
●ゾーン
複数のキーをまとめた「照明ゾーン」ごとに,任意の色で点灯させられる機能。照明ゾーンはさまざまなプリセットが用意されているが,ユーザーが任意のゾーンを作ることもできる。これも点灯のみで,光に動きを与えるのは不可である。
●コマンド
ゲーム中に使うキーのみを選択して光らせたり,使わないキーを別の色に光らせたり消灯したりできる。こちらも発光パターンは常時点灯のみだ。プロファイルの切り替え(※詳細は後述)に合わせて,キーの色を変更できるので,ゲームごとに光るパターンを変えておくと便利かもしれない。
●文字飾り
キーボード全体に対して,動きのある発光パターンを設定できる。常時,うねうねと動くような効果や,星がまたたくような効果,押したキーだけ光るような効果など計5パターンから,速度設定とともに指定可能だ。なお,ここではキーごとの発光色を選択することはできない。
フルカラーをキーごとに変更できるキーボードとしては,「Cherry MX RGB」搭載のCorsair Gaming製ゲーマー向けキーボードが先行しており,あちらは徹底的なカスタマイズが可能だ(関連記事)。それに比べると,G910のLEDイルミネーション機能は非常にシンプルで,少なくとも,「オンラインRPGのクールタイムを色で把握できる」ような,ゲームプレイを便利にする効果は用意されていない。
ただ,イルミネーションなオマケ程度で十分と考えているなら,「フリースタイル」と「コマンド」「文字飾り」で足りるのではなかろうか。また,LGS側で発光パターンを制御できる以上,今後,機能が追加される可能性はあり,その点では期待も持てそうだ。
■キーカスタマイズ周りとARX Controlもチェック
そのほかの機能も簡単にチェックしておこう。
G910で機能をカスタマイズできるキーは9個のG-keyのみ。LGSからは,キー操作やキーマクロ,Windowsの基本操作などをコマンドとして登録し,それをG-keyに割り当てるという仕組みでカスタマイズを行える。このあたりは,Logitech G
またLGSには,PC内に存在するゲームを検索して,対応プロファイルのあるゲームを見つけたら,登録してくれる機能もある。コマンドを自分で作る手間が省けるので,それを積極的に使うのも手だ。
ただし,プロファイルが用意されているのは,欧米市場で著名なタイトルに限られる。国内でサービスされているオンラインゲームをプレイするのにG-keyを使いたいといった場合は,結局,自分でプロファイルを作ることになる。
LGSを初めて起動したときには,PC内に存在するゲームを検索して,対応プロファイルがあれば登録してくれる。もちろん自分でプロファイルを作成することも可能だ |
右上に並んでいるのが検出されたゲームのプロファイル。プロファイルを選択すると,左に登録済みのコマンドが並ぶので,割り当てたいものをドラッグして,キーボードのイラスト上にある任意のG-keyにドロップすれば登録完了 |
ヒートマップ機能自体は他のLogitech Gキーボードでも利用できるのだが,G910ではそれに加えて,各キーのバックライトをヒートマップと同じ色で光らせることで,キーボードを見るだけで確認できるという仕様も取り入れられていた。いちいちLGSの画面に切り替えなくても,キーボードを見るだけでヒートマップが把握できるというのは面白い。
機能としてはもう1つ,「ARX Control」(アークスコントロール)も取り上げねばなるまい。
これは,従来のLogitech G/Logicool G製キーボード上位モデルで採用されていた「GamePanel LCD」という機能に代わるものだ。App StoreもしくはGoogle Playから無償でダウンロードできるARX Conrolアプリを導入したモバイルデバイスを,G910が接続されたPCと同じネットワーク上に置くと,無線LAN接続したモバイルデバイスから,ゲームを起動したり,PCの情報を見たり,メディア操作を行ったり,設定したG-keyの情報を確認したりできるようになっている。
Logitech G/Logicool Gは,ゲームデベロッパに対し,ARX Controlの利用を呼びかけているが,それで画期的なツールが出てきたりしない限り,看板倒れに終わる可能性のほうが高いだろう。
ハメコ。氏とBRZRK氏がG910を試す
総じてグッドだが,現時点では問題も
というわけでここからは,ハメコ。氏とBRZRK氏によるインプレッションをお届けしたい。
■ハメコ。
また,Romer-Gメカニカルキースイッチの感触も,LoLを遊ぶうえでは良好と感じた。筆者が普段使用している東プレ製の静電容量スイッチ採用キーボード「Realforce 91UDKーG」と比べると,押下時の感触は少し軽く,それでいて確かなクリック感もある。本稿の序盤で,Romer-Gは慣れると素早い操作に向くと述べてあるが,とくに「Lee Sin」のような,素早いキー操作が必要とされるチャンピオンを使用するときに,その恩恵を強く得られる印象だ。
……とまあ,基本的な操作感に関しては申し分ないのだが,標準で用意されているLoL用の公式プロファイルを試していると,問題も発生した。これはテストに用いたLGSのバージョンに依存する問題ではないかと思う――というか,そう信じたい――のだが,G-keyに「[Ctrl][Alt][Shift]キーと別のキーの組み合わせ」を登録しても,なぜかそれがLoL中では認識されなかったのだ。たとえば[G6]キーに[Ctrl]+[Q]キーを割り当てると,LoL中で[G6]キーを押したときに入力されるのは[Q]キーだけになってしまうのである。
この症状は,筆者のPCだけでなく,担当編集のPCでも確認されたので,環境依存ということはない気がする。LoLでは,「スキルキーと[Ctrl][Alt][Shift]キーの同時押し」の使いこなしが重要になるケースが多いので,ここは早急になんとかしてほしい。
■BRZRK
一方,肝心のRomer-Gメカニカルキースイッチだが,個人的には,愛用しているZOWIE GEAR製キーボード「ZOWIE CELERITAS」と比べ,打鍵時に発する音が小さいのと,押下し切ったときの感触が独特ということもあって,最初は,「打鍵感の薄さ」が気になった。まあ,これは,慣れるまでの辛抱という気もする。
筆者は通常,Windows上の音量設定は40%くらいにしているのだが,ステルス重視のゲームでは,それだと敵の足音が聞こえにくい場合がある。そういうときに,このホイールを回転させるだけで音量が上げられ,敵の気配をたやすく察知できるようになるのだ。アナログ操作できるため,ちょうどいい塩梅の音量に変更できるのは,とても便利だと思う。
筆者は最近,ゲームをプレイしているとき,普段から「ShadowPlay」でプレイ内容を録画することにしている。そして,手動録画のトリガーはデフォルトの[Alt]+[F9]キーで,今回テストに用いた「CSGO」や,いま筆者が最も好んでプレイしているタイトルの1つである「ARMA 3」では,この[Alt]+[F9]キーをG-keyに割り当てると問題なく録画を行えた。だが,「Styx: Master of Shadows」ではダメだったのだ。環境依存なのか,相性なのかは分からないが,「こういうこともある」ということはお伝えしておきたい。
Facet KeycapとRomer-Gは「本物」
機能を絞ったシンプルなモデルの登場に期待
まず,G910の総合評価だが,「Logitech G/Logicool Gの新世代フラグシップキーボード」として見た場合は,発売を急ぎすぎてしまった感が否定できない印象である。
LEDイルミネーションは,現状では文字どおり「ただ光るだけ」で,Romer-Gの「キーごとに光らせ方を変えられる」メリットを使い切れていない。Corsair Gamingが実現した「クールタイムを把握できるタイマー」がベストなのかどうかはともかく,ゲーム用途で明白なメリットのある何かを打ちだしてほしいところだ。
ARX Controlは「開発途上」と判断すべきか,「案の定,GamePanel LCD後継になってしまった」と判断すべきかはまだなんとも言えないものの,いずれにせよ,現時点では新製品の機能として評価できるレベルに達していない。
ハメコ。氏とBRZRK氏が揃って指摘している,G-keyの挙動周りも,今後のLGSアップデートによって改善されるべきポイントといえるだろう。
しかし同時に,Facet KeycapとRomer-Gが紛れもない「本物」なのも確かである。ゲーマー向けキーボードとしての基本性能に,疑いの余地はない。使い始めに底打ちを連発すると,その性能に疑問が生じるかもしれないが,そこは通過儀礼だと割り切って,浅く軽く打鍵できるように練習すべきであり,また,その価値もある製品だ。
G910の登場によって,ゲーマー向けキーボード市場は,新たな時代に入ったといえる。次は,“余計な”機能を絞った,Facet KeycapとRomer-Gの実力を素直に味わえるシンプルなモデルの登場に期待したい。
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ロジクールのG910製品情報ページ
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