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AMD,「4×4」ことコンシューマ向けデュアルCPUプラットフォーム「Quad FX」を発表 2個のデュアルコアCPUで“4コアシステム”を実現
11月1日に開催された報道関係者向け事前説明会の内容では,AMD本社のプロダクトマーケティングマネージャーで,Athlon 64 FX担当のIan McNaughton(イアン・マクノートン)氏が,Quad FXのキーワードとして「Mega Tasking」(メガタスキング)を強調。複数のタスクを同時に実行させることの多いパワーユーザーが,Quad FXの主なターゲットであると説明した。
■Quad FXを実現する“コンシューマ向けOpteron”
■Athlon 64 FX-70シリーズ
こう説明するとピンと来る人もいると思うが,Athlon 64 FX-70シリーズを一言で説明するなら,それは「デュアルCPUソケット構成を実現するため,Coherent HyperTransportを採用したAthlon 64 FX」ということになる。ただし,既存のAMD製CPUと比較してみると分かるが(表),その実態はAthlon 64 FXの特別版ではなく,「デュアルCPUソケット向けのOpteron 2000シリーズを,コンシューマ向けのアンバッファードメモリに対応させたもの」だ。
CPUソケットは既存のAthlon 64ファミリーとは異なり,Opteron 2000シリーズと同じ1207ピンのSocket Fを採用する。そのため……かどうかは分からないが,Athlon 64 FX-74は,AMDのデュアルコアCPUとして初めて,動作クロック3GHzの大台を突破した。
快挙といえば快挙だが,「ケース内温度はこの数値以下にしないと安定動作を保証できない」という目安であるケース最大温度(Tcase)が,56℃という低い値になっている現実もある。さらりと流してしまいそうな数字だが,実際のところ,Athlon 64 FX-70シリーズの熱設計消費電力(TDP)は125Wで,言ってしまえば,125Wの白熱電球を2個内蔵するようなもの。そんなシステムを56℃以下のケース内温度で運用するのはかなり難しく,扱いやすいCPUとは言えそうにない。空冷する場合には,大きな動作音への覚悟が必要になる。
Athlon 64 FX-70なら599ドル(約7万円)。同じ2.6GHz動作,L2キャッシュ1MB×2のAthlon 64 X2 5200+の実勢価格は2006年11月29日時点で5万2000円前後だから,これもかなり安価。最上位のAthlon 64 FX-74/3GHzのセット価格も,IntelのクアッドコアCPUであるCore 2 Extreme QX6700/2.66GHzと同じ999ドルだから,かなり気合の入った価格設定といえそうだ。
エラー訂正機構がなく,多くの枚数を差すのが難しいアンバッファードタイプを採用するといっても,Socket AM2でAthlon 64ファミリーは4DIMMをサポートしている実績がある。そうなると,Athlon 64 FX-70シリーズが2GBまでという制限を持つのは,ハードウェア的な理由というより,Opteronを売りたいというマーケティング上の理由である可能性が高い。さすがに,Opteronと同等のスペックを持つ製品を,そのまま半額で投入するわけにはいかず,どこかで差を付ける必要があったのだろう。
■Athlon 64 FX-70シリーズ+nForce 680a SLI
■=Quad FXプラットフォーム
なお,これも9日の記事で説明されているが,NVIDIA SLIを構築するには,同一のnForce 680a SLIで提供されている16レーンと8レーンのPCI Expressを利用することが推奨されている。
そしてAMDは,Quad FXを特別に「DSDC」(Dual Socket Direct Connect)アーキテクチャと呼び,専用のロゴまで用意している。
事前発表会でAMDとNVIDIAは親密さをアピールをしていたが,AMDがATI Technologies(以下ATI)を買収した以上,CrossFire Xpressチップセットベースで,同じような環境が将来的にリリースされる可能性はある。仮にそういう製品が登場したとき,その組み合わせはQuad FXなのだろうか?
この点,AMDは将来について言葉を濁しつつも「パートナーとの関係を重視する方針は従来どおり変わらない」と述べる。AMD64の将来を考えればNVIDIAとの協力関係を崩すわけにはいかないが,NVIDIAの強力なライバルになった現実もある,AMDの立場の微妙さを示した発言といえそうだ。
■将来は8コアにグレードアップ可能
■……だがゲーマーにとっては?
厳しい言い方をすれば,Quad FXは,Core 2 Extreme QX6700に対抗するため投入された,単なるデュアルCPUソリューションにすぎない。Athlon 64 X2を「真のデュアルコアCPU」と位置づけていたAMDからするとエレガントさに欠けるのは間違いなく,苦し紛れの対応策と言われても仕方のないデキだ。
もちろん,“クアッドコア”にこだわらなければ,洗練されたアーキテクチャなのも確かである。
Core 2 Extreme QX6700は,2個のCore 2 Duoダイを一つのCPUパッケージに封入した製品であり,4コアシステム用のCPUとして,効率のいいものとはいえない。この点,内部構造がほぼOpteronそのままのAthlon FX-70シリーズなら,両デュアルコアCPU間は高速に接続され,メインメモリもCPUごとに直接接続されている。理屈のうえでは,4コアの効率はQuad FXのほうが上だ。AMDの主張するMega Taskingは,この効率のよさが根拠なのだろう。
Barcelonaでは,単にCPUコアが4個になるだけでなく,コア自体にも大幅な改良が加えられる。まず,メモリコントローラを刷新してメモリバス帯域幅を拡大。新たにL3キャッシュを搭載して,コア数の増大に合わせたメモリ周りのパフォーマンスアップが図られる。
また,SSE系命令を実行する浮動小数点演算ユニットの性能が現行製品の2倍に引き上げられ,整数演算ユニットにも改良が加えられて性能がアップする。1コア当たりの性能はCore 2 Duoと同等レベルになると予想されており,同じ動作クロックなら凌駕するかもしれない。それが,クアッドコア動作に最適化された形,いわば「真のクアッドコアCPU」として実現されるのだ。
メモリ容量の制限があり,バランスには欠けるものの,Barceloraコアの次世代Athlon 64が登場すると,8コアまでスケーラブルにCPUコア数を拡張できるプラットフォームとして,Quad FXには相応の価値が出てくると思われる。
しかも,Quad FXの弱点は決して少なくない。
Quad FXプラットフォームを採用したシステムは,2007年1月にホワイトボックス系PCメーカーから登場する見込み。将来的には「Athlon 64 FX-70シリーズ2個入りボックス」なども登場するようだが,少なくとも発売当初はシステムのみになる。nForce 680i SLIとは異なり,nForce 680a SLIマザーボードの単体販売も,今のところは予定されていないので,せっかくCPUのコストパフォーマンスが高くても,PC単位でしか購入できないとなると,どうしても価格的な魅力は失われる。
まあ,TDP 125WのCPUが2個に,最大でグラフィックスカードが4枚ともなれば,1kWクラスの電源ユニットや,強力な冷却機構が必要になり,かなり大がかりなシステムになるわけで,自作したところでそれなりのコストはかかるのだが。
また,「2個のCPUソケットに対応するWindowsが必要」という点もコストパフォーマンスを悪化させる。
例えば,Windows XP Home Editionはライセンス上,Quad FXを利用できず,Windows XP Professionalが必要になる。また,Windows Vista世代ではさらに厳しく,2個のCPUソケットをサポートするのは最上位のUltimateか,企業向けのEnterprise,あるいはBusinessに限られる。個人で企業向けバージョンを購入するメリットがほとんどないことを考慮するに,Quad FXシステムでWindows Vistaを動作させようと思ったとき,ゲーマーの選択肢はUltimateしかない。
次世代の3Dゲームでは,マルチスレッドへの最適化が進む可能性が高いため,そうなれば最高8コアが可能なQuad FXは魅力的だ。ただ,メモリ周りの制限も考えると,Quad FXの導入は,Barcelornaが登場して,そのパフォーマンスが明らかになってからでも遅くないように思われる。レビュー記事を見ても分かるように,安価にワークステーションクラスのPCを導入したい人はともかく,ほとんどのゲーマーにとって,Quad FXを導入してまで,4コア環境の整備を急ぐ必要はなさそうだ。(米田 聡)
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