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世界で最も克明なネット恋愛本? 「妖精の詩」の著者・中山千夏さんインタビュー
著名人の中山さんが,自分の素性を隠してプレイしていたというCardinal Sagaの中で,実在するプレイヤー(兼キャラクターである)「破壊神天馬」さんと,どのように出会い,ゲーム内でどのような会話が交わされ,恋に落ちていったのか……。そこにはどのような喜び,苦しみ,秘め事があったのか。そして現在,二人の恋愛はどうなっているのか。そのすべてが,この1冊の中に隠すところなく赤裸々に書かれている。
このたび,東京某所にある中山千夏さんのオフィスで,著書に関してご本人にインタビューする機会をSeedCに設けてもらった。オンラインゲーマーが積極的に語りたがらない,むしろ,なんとなくタブーのようなイメージすらある,ネットゲーム内の恋愛話。それをこれでもかと言わんばかりにストレートに赤裸々に綴った本書の著者は,我々のインタビューにも実に赤裸々に受け答えしてくれた。
■最初は“ネット恋愛”の本を書く気は微塵もなかった!?
4Gamer:
なぜこの「妖精の詩」という本を書こうと思ったのか,改めて聞かせていただけますか?
中山氏:
オンラインゲームを始めたときに,ゲームの中にいる人間,つまり「ユーザー」という存在が面白いと感じて。自分でもびっくりするような体験だったから,これを人に伝えたいなと思ったのがきっかけ。ええとCardinal Sagaが始まったのって,いつでしたっけ?
SeedC:
正式サービスは2005年の7月ですね。
中山氏:
ネットゲームに関する本を書こうと思ったのは,2004年の12月末頃,まだ「ベジタリアン(仮)」(※書籍内での表記に揃えました)をプレイしてる頃の話かな。オンラインゲームで遊び出したのは2001年頃で,その頃から基本プレイ無料のゲームを探しては,何かしらプレイしていたね。
4Gamer:
最初から「ゲーム内の“恋愛”がテーマの本を書こう」と,意識されていたのですか?
中山氏:
最初はなんでもいいから,ネットの世界について書きたいなと思っていたの。私達の世代でパソコンというと,まったく知らないか,ビジネスに使っているかぐらいでしょう? ゲームみたいに役に立たないと思われているものは,私達の世代は知らないから(笑)。でも,オンラインゲームの世界だからこそある,人との関わりというものを伝えたかったの。
4Gamer:
あらら。最初は全然恋愛の本になるはずではなかったんですね。
中山氏:
そう。その頃の私は,本来の仕事そっちのけでゲームばかりしていたの(笑)。「これは半分取材!」と,自分に言い訳しながら遊んでいたところもあるね。
4Gamer:
半分は取材だったんですね(笑)。ええと,確か本書と同名のBlogが,ゲーム内のことを綴ったそもそもの始まりですよね。最初から,いずれは本にまとめるつもりでBlogを始めたんですか?
中山氏:
いや,むしろBlogを始めたころは,このことを本を書くのはあきらめてた。ゲーム内で友達が出来過ぎちゃって,下手なことを書きづらくなってしまっていたし。ところが,そこで恋愛しちゃった。自分でもパニックですよ。書くという行為は,ものを考える行為でしょう,だから「とりあえず書きながら考えよう」と思って,まずはBlogを作ったの。これはBlogだけで留めておこうと思ったんだけど。ところが,相手(破壊神天馬さん)が「本にすれば?」と言ってくれて驚いたんだけど,とにかくすべての事柄が,この本を書く方向に転がっていったの。
4Gamer:
なるほど。Blogを始めた段階では,どういった内容にするつもりだったんですか?
中山氏:
PCやネットの技術的な情報をネットに書く人は大勢いるし,ゲームの批評をする人もいるけれど,人の心の中で何が起きているかを書く人,書ける人をあまり見たことがないのね。とくにゲームをプレイする人は,あまりそういうことを書きたがらないでしょ。海外のサイトだと“ネットゲームの心理学”なんて感じで書いているところを見かけるけれど,それはあくまで学問だから。そうではなくて,本当にゲーム恋愛を体験した人が,どういう気持ちになるか? それをそのまま書いてみたかったの。
本当に,ご自身のネット恋愛を,変に取り繕うことすらなく赤裸々に書かれてますよね。中山さんほど著名な人は,自分のネットゲーム越しの恋愛話なんて公表しないものだと思っていました。
中山氏:
この本の中に書かれていることは,嘘も誇張もまったくないの。すべてゲームを通じて私が体験した,見たまま聞いたままのこと。
4Gamer:
恥ずかしながら私も,本書を読んで「あぁ,自分もこういうことを体験したな。通ってきた道だな」と,個人的に共感を覚えました。でも,今まで誰も書かなかった本を敢えて執筆するに至った,ネット恋愛の魅力って何なんでしょうか?
中山氏:
恋愛なんて,一種の病気みたいなものでしょ。ましてやゲーム内の恋愛なんて,相手の容姿とか年齢とかそういった要素がすべて取り払われて,心と心のぶつかり合いになるんだから。下手をすると普通の恋愛より深みにはまりやすいと思うし,誰もが経験するような普通の恋愛とは別のもの。誰にとっても興味深い話題のはずなのに,そのことをちゃんと書いている人って誰もいないんじゃない?
4Gamer:
なるほど,より重い“病気”になりやすいんですね。
中山氏:
ゲームは「誰かと一緒に戦う」という行為をするでしょう? あれは人と人の絆を深めるのに,すごく大きい役割を果たすの。現実社会だと,たとえ夫婦でも「男は働いて女は家事」というふうに,結局は分担作業になって一緒に何か一つの作業をやることは少ない。でもゲームの中だと,一緒に行動して,敵と戦って……頑張れば一緒にレベルが上がる。この一体感は,ほかではちょっと得られないものだと思うの。おまけにそれを毎日繰り返すんだから,ゲーム内で恋愛なんてしてしまうと,余計“病気”が進むのかな。
4Gamer:
日常生活では味わえないほどの一体感が,ときには危険なほど作用してしまうんですね。
中山氏:
うん。だからこそ,人との距離のとり方を学ぶのに,オンラインゲームって実は良いんじゃないかな。プレイヤースキルがとても優れていて「すごいなぁ」と思っていたら,実は中学生だったなんてことも,しばしばあるでしょう。本当はどんな人で何歳か分からないからこそ,まずは誰とでも平等に接する,その鍛錬には最適なのよ。そこで最初は,ゲーム世界での処世術を本にしようと思ったんだけどね。
4Gamer:
処世術ですか! 例えば,どんなテクニックがありますか? 興味あります。
中山氏:
まず,相手と論争しないこと(笑)。それから他人のことを,やたらと聞かないこと。でも,「聞いちゃいけない」という空気を作ってしまうのも良くないから,あくまで,ここは違う世界を,違う姿で楽しむための場所という心構えでいることかな。
4Gamer:
なるほど(笑)。確かにそれを知らないでオンラインでの人付き合いを始めると,痛い目を見てしまうかもしれませんね。
■Eメールを使えない年配の世代にも伝えたい「ネット恋愛」
4Gamer:
「妖精の詩」の冒頭では,かなり丁寧に「オンラインゲームとはどんなものか」「RPGとは何か」について説明されていますが,これは普段PCにゲームもあまり触れない人達が,本書の対象読者になってるんでしょうか?
中山氏:
そうなの。ゲームをやったことがない,それこそEメールも送れないような人が読んでも,オンラインゲームというものが絶対理解できるように書いたつもりなのね。実は,この本を担当してくれた編集者さんも社長さんも,二人ともEメールも使えないタイプの人達だったの。最初に原稿を見せたときなんて,「なんとか縦書きにならないか? 読むのに3倍の時間がかかる」なんて言われたりもしたのよ(笑)。ネットゲームを知らない人でも分かるような本を作るうえでは,編集がそんな人達だったおかげで,逆に助かった部分も大きいかな。
4Gamer:
なるほど,そういった人達も本書では読者として想定されているのですね。
中山氏:
そういう世代の人達というのは,「ゲームなんて悪いもの」と頭から決め付けていたり,「ゲームでばかり遊ぶから変な事件が起こるんだ」なんて口にしたりするでしょう。ゲームなんかで遊んでいるから,今の子達は人の心が分からないとか決め付けてしまっている。私も言うならばその世代の生まれだから,そういった気持ちも分かるんだけれど。
4Gamer:
そうですね。ゲームが市民権を得るには,まだまだ時間がかかりそうです。
中山氏:
でも,ゲームといえど,そこには人がいて,表現方法は少し違うかもしれないけれど,やっぱり人間同士の感情や動きがあることを,そういう人達にこそ伝えたかったの。この本で書きたかったのは,私達の世代が知らない「ゲーム」という世界の話ではなく,誰でも日常で経験している「心の問題」。ゲームの世界に詳しい人達だけに分かるような,単なるゲームの本にはしたくなかったのよ。
4Gamer:
はい,ゲームで遊んだことのない人でも,「心のふれあい」について考えさせられる内容だと思います。
中山氏:
ただ,やっぱりネットの世界には,わざと人の心を傷つけようとする人達もいるし,そんなつもりはなくても,人の心の痛みに鈍感な人達はいるでしょ。ネットやオンラインゲームが当たり前という世代の人達でも,そこは現実の人間社会と同じように「心のふれあい」がある場所なんだよってことに,気付きにくいと思うの。だから,ゲームに慣れている人達に伝えたいメッセージというのもあるのよ。
4Gamer:
確かに,日常的にゲームをプレイしている私でも,改めて気づかされるところがありました。中山さんは,両方の立場の気持ちが分かるのですね。
中山氏:
そう,私はコウモリみたいな立場かな(笑)。どちらの世代の言いたいことも分かるし,それを相手に伝えたいのよ。
■傷ついてもヘコたれない,実は根っからのゲーマー!?
4Gamer:
どんな相手か分からないのがオンラインゲームの世界ですけれど,会話の端々から「この人は10代だな」とか分かることって多いですよね。今時の子の話を聞いてて,とくに何か感じることってありますか?
中山氏:
世代が全然違うんだなぁって,話を聞いてて感じることはあるかな。チャットで,男の子が学校でスカートめくりが流行ってるって話をしていてね,私達が学生の頃にもスカートめくりはあったけど,当時の女の子は,みんな泣き寝入りだったの。でもその男の子は「逆にごつい女の子に反撃されてイテェのなんの」なんて言ってるのよ。それだけの話なんだけど,なんだか面白くてね。私達の頃とは全然違うんだな,最近の女の子達は強いんだなって嬉しくなったりもするわ。
4Gamer:
ちなみにゲームは1日平均どれぐらいプレイされるんでしょう。
中山氏:
多いときと少ないときで差があるんだけれど,多いときで6時間ぐらい。仕事があるときはまったくやらないか,2〜3時間程度かな。でも日曜日なんかは朝から晩までやっちゃうかな。
4Gamer:
いくつかのオンラインゲームを経験された,と本には書かれていますが……著書にある「果てしなき闘争(仮)」では,性別や年齢をゲーム内で明らかにしたために,嫌な思いもされたそうですね。
中山氏:
そう。それはコアなゲーマーの間では割と有名なタイトルで,戦争がメインのゲームなの。私は戦争反対だから,国を作って攻め合うゲームにも関わらず,そこで「非戦宣言国」というのを作ったらひどい目に遭っちゃって(笑)。みんなから袋叩きにされたのよ。それで平和なゲーム「ベジタリアン(仮)」に移ったの。
4Gamer:
そこでオンラインゲームというものをやめず,タイトルを変えてプレイし続けたのはなぜですか?
中山氏:
私,しつこいのよ(笑)。家族では有名な,子供の頃のエピソードが一つあってね。付録が付いてくる子供向け雑誌があるでしょ。4歳ぐらいの頃かしら,当時買った雑誌に,紙でできた「お魚釣り」という付録がついててね。子供の頃の私はそれにはまっちゃって,朝から晩まで1週間も遊び続けたのよ。しまいには首も腕も痛くなって,そこでやめるのが普通だと思うんだけど,親が「楽に遊べるように」って小さな椅子を買ってくれたの。そうしたらまた1週間,朝から晩まで魚釣りで遊びっぱなし。私は昔から,すぐ中毒になってしまうのね。
4Gamer:
子供の頃から大変なゲーム好きでいらしたんですね(笑)。
■SeedCの社内を騒然とさせた「Cardinal Saga」本
4Gamer:
執筆にあたって,SeedCさんとは何か協力体制をとられたんですか?
中山氏:
いいえ,まったく。スクリーンショットと二人(中山さんと破壊さん)のIDは本物を使いたかったから,出版社の社長さんに,SeedCさんに許可がもらえるよう交渉してくれって頼んだの。「ゲームにとってイメージダウンになる」とか言われて,駄目だったらどうしようと思っていたんだけど,SeedCさんに無事に許可してもらえて。
SeedC:
1月ごろ,出版社の方からメールをいただきまして。そのときは,こんなゲームに密着した内容の本だとは思っていませんでした。ちょこっと1ページぐらい,CardinalSagaについて触れている程度かなと思ってたので……。
4Gamer:
二つ返事でOKしたんですか?(笑)
SeedC:
はい,まず表紙を見てびっくりしました。最初にお話が来たときは「ゲームのプロモーションになるかな」なんて考えていたのですが,実際に本が届いて社内は騒然となりました(笑)。家に持ち帰ってじっくり読むうちに,本に引き込まれてしまって……。これは大事にしなければいけない物語だなと思いました。
4Gamer:
そうですね。やっぱり中山さんと破壊さんは今も,Cardinal Sagaをプレイされているんですか?
中山氏:
今はちょっと別のゲームに浮気しててね(笑)。
4Gamer:
ええっ!?(笑)
中山氏:
Cardinal Sagaの後には,四つぐらいプレイしたの。まず「シルクロードオンライン」にいって,今は「DEKARON」で,その後は「R.O.H.A.N」待ち。それ以外にも,えーっと,職業病みたいなもので全部メモを取ってあるのよ(といって奥の部屋にメモを探しに行く)。……「デコオンライン」と「WYDII」だわ。絵が好みだったのはシルクロードね。破壊が次から次へと見つけてきて,私は頑張ってついていくだけで精一杯なんだけど。
4Gamer:
次々にゲームを変えているのは,中山さんの意志じゃないんですね(笑)。
中山氏:
そうよ,あの人が次から次へと見つけてくるんだもの! ほとんどはβテストの間だけだから,数週間しか遊んでないものばっかり。今,一番待ってるのは「真・女神転生オンライン IMAGINE」なんだけれど,全然始まらないのよ。
4Gamer:
ところでそれらほかのタイトルと比べて,本の舞台ともなっているCardinal Sagaだけの魅力って何でしょう。
中山氏:
Cardinal Sagaはそうね,絵が可愛いし,熊も可愛いし,騎乗できるし……。何より恋愛するうえでは,「ポジショニング」システムというのが最高ですよ(編注:ポジショニングとはCardinalSagaの独自要素で,人間キャラクターと妖精キャラクターが合体して戦えるシステム)。
4Gamer:
本のラストの話ですが,3月の時点で「破壊神天馬」さんとは,まだお会いしていないと書かれていました。せっかくですから6月現在の恋愛の進展状況を教えていただけますか。
中山氏:
実は今もまだ本人とは会ってないの。進展は少しあったけどね。
4Gamer:
やや,それはどのような?
中山氏:
ようやく○○を××したのよ(プライベートな話なので割愛)。
4Gamer:
最後に,4Gamerの読者はどちらかというと「PCを触ったこともない人達」よりは「コアゲーマー」が多いんですが,そういった読者に何か一言いただけますでしょうか。
中山氏:
きっと,これを読んでいるあなたによく似た人が登場しますから,ぜひ「妖精の詩」を読んでみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「ただゲー」という言葉も普通に出てくる中山さんは,とにかくPCに,そしてネットの利用に積極的。「学校ごっこ」というWebサイトを運営しているが,これもすべて本人の手作りという。MIDIファイルで演奏される「校歌」も手探りで作曲し,フリーウェアで打ち込んだという。「ネットはなんでも無料のツールが用意されていていいね!」と,さまざまな「お気に入り」のフリーウェアを紹介してくれた。この恐るべきバイタリティで,世界最先端の恋愛といえなくもない「ネットゲーム恋愛」まで体験し,それを1冊の本にしてしまったのだ。
「ネットゲーム恋愛」の,固い殻を打ち破った中山さん。4Gamer読者の多くがネットゲーム経験者であることを考えると,きっと本書を読んでいて「あっ,自分も同じ経験が……」と思う人もいるのではなかろうか。中山さんの周辺では,読後の感想に「とにかく切なくなる」というものが多かったという。きみもぜひ,この他人事ではないネット恋愛物語を読んで,切なさを追体験してほしい。(Text by 麻生ちはや / Photo by kiki)
■著者サイン入り「妖精の詩」プレゼント&出版記念イベントキャンペーンのお知らせ
このたび,中山千夏さんご本人にサインしていただいた「妖精の詩」を,2名の4Gamer読者にプレゼントしよう。プレゼントの応募は6月19日から受け付けを開始するので,欲しい人は6月19日更新予定の「今週のプレゼント」から応募してほしい。
また,SeedCでは,本書の発売を記念したCardinal Sagaのイベントキャンペーンを実施する。中山千夏さん本人も参加する予定のゲーム内イベントなので,詳細は公式サイトの特設ページを参照してほしい。
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