最近ではMMORPG専用ライセンスエンジンとして知られる,
「HeroEngine」の開発元
Simutronicsだが,実は1987年から存在する業界最古参のMMORPG開発会社である。MMORPGといっても,当時はいわゆる「テキストMUD」ゲームなのだが,「GemStone」や「DragonRealms」など,その分野の晩期ソフト群の代名詞的なタイトルを多数生産している。また,1998年にはSony Online Entertainmentブランドで,3Dロボットを使ったオンライン専用ゲーム「CyberStrike」も開発している。
「Hero's Journey」の開発企画が上がったのは,その翌年の1999年にまで遡るという。
会場のブースで,このHero's Journeyのリード・デザイナーを務める
Stephanie Shaver(ステファニー・シェイヴァー)氏と話す機会に恵まれた。本作の発売が長引いている理由として,氏はゲームエンジンの
ライセンスビジネスへの参入を挙げていた。実は,Hero's Journeyのデモを同社の資金提供者に見せたところ,ゲームそのものよりもゲームエンジンの販売に興味をもたれたからだという。それにより,ゲームとしての開発はしばらく中断し,まず他人に販売できるようツールなどの整備を優先させることになったというわけだ。
そんな甲斐があってか,今ではBioWareの新作MMORPGを含める,四つほどのライセンシーがまとまっている。そしてゲームエンジンの開発も終盤に差し掛かった今,ようやく本格的なゲーム開発に乗り出せるだけの余力ができたというのである。「逆に,今度はライセンシーよりも先にゲームをリリースできるように頑張らなきゃ」と,冗談っぽくシェイヴァー氏は笑い飛ばしていたが,古参メーカーのデザイナーとして,ようやくゲームのほうに陽の目が当たってきていることを感じているようだった。
Hero's Journeyは,かなり
オーソドックスなMMORPGといえる。どこか,「World of Warcraft」をイメージさせるような淡い色使いと,あまりリアリスティックに偏り過ぎないキャラクターや建物などのオブジェクトが印象的だ。
舞台となるのはエランシア(Elanthia)という大陸で,そこに9種族が散らばって生活している。デモで用意されていたヒューマン族がIlvari(イルヴァリ)と呼ばれているように,ドワーフのような見覚えある種族でも,名称は本作独特のものになっているようだ。エランシアという地名は,ほかのSimutronicsのテキストMUD作品でも頻繁に登場しており,古いファンの中には親しみを感じる人もいるかもしれない。
本作には,Journey Systemというクエストシステムが実装される予定で,プレイヤーの判断によって,短中期的なクエストがさまざまな内容に自動変化していくことになるという。「ゲームを積極的に紹介するのは10月のイベントで」とのことで,もはや今年度中のリリースの可能性は消滅したに等しいが,コミュニティサービスやMUDの遊び方といった分野では,尋常ではないほどのノウハウを蓄積している同社のこと。まずは長い目で,本作の完成を待つことにしよう。 (ライター:奥谷海人)