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[GDC06#7]ウィル・ライト基調講演 〜 ゲームリサーチの重要性
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印刷2006/03/24 21:29

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[GDC06#7]ウィル・ライト基調講演 〜 ゲームリサーチの重要性

GDCでは,巧みな話術と凝ったビジュアルで会場を盛り上げるウィル・ライト氏。今回は,ここ数年間熱中してきた天文生物学についての話題を交え,企画のためのリサーチの重要性を説いた
 ゲーム業界一の人気者といっても過言ではない,Will Wright(ウィル・ライト)氏。「Sim City」や「The Sims」の大成功で,不動の「名ゲームデザイナー」の地位を得ている割には,誰とでも気さくに対応する氏の近づきやすさが,多くの人に敬愛される理由であるのは間違いない。頼まれると断れないのか,ライト氏のGDC講演は毎年恒例の名物行事になっているが,どんな部屋でも必ず満員にする巧みな話術も持ち合わせており,時間がなくても彼のレクチャーは聞いてみようという人も少なくない。

 さて,「もうあまり話すことがない」と言うライト氏だが,今回の議題である「What’s Next in Game Design?」(ゲームデザインの次は何か?)は,主催者側に勝手に決められてしまったものだという。そこでライト氏は,「Why I Obsessed with Game Research」(なぜ,私はゲームリサーチにハマってしまうのか)というテーマに変え,独特の写真やグラフを使ったスライドを駆使しながら,基調講演を進めていった。

「Astorobiology」(天文生物学)? ライト氏の話は,いつも何か奇妙な話題から本質へと流れていくのが面白い
 ここでいう「ゲームリサーチ」とは,ゲームの統計学や社会学といったことではなく,次の企画を考えるうえでのリサーチである。読書好きなライト氏は,とにかく目に留まった話題の本を買い漁る習性があるらしく,過去に彼が手がけた作品は,すべて本の内容を膨らませていったものと考えて間違いない。
 ライト氏の新作「Spore」のコンセプトが誕生した当時,彼が熱中していたことは「Astrobiology」(天文生物学)だったのだそうだ。火星から飛来したといわれる隕石に,微生物の化石のような痕跡が残されていたことに,異常なほどの興味を覚えたという。
 「この微生物が,そもそも地球に存在していたものなら,火星に条件さえ整っていれば生命が移植されていた可能性がある。地球は月や木星のような周囲の星に守られていたが,もし隕石と惑星との衝突が繰り返す場所にあれば,惑星から惑星へと生命が広がり,やがてさまざまな異星人が誕生していたはずだ」。……これは,次々と異なるスライドを見せるライト氏の脳内を,筆者が想像して整理してみたものだが,このような発想が展開されてSporeのコンセプトが整っていったというのは,あながち間違いでもないだろう。

 ライト氏の面白さは,この自分本位なリサーチの結果を,独自にプロトタイプ化してみせることにある。この段階では,まだゲームとは直接関連付けておらず,どのようにして生命が広がっていくか,どのように地域差が生じるかなどを,グラフやマップを制作して考えてみるのだそうだ。ライト氏は,これを「Simulation Prototype」と呼んでいる。さらに,このシミュレーションを煮詰めてゲーム化できるかどうか考慮し,新たな議題が生まれると,さらにリサーチ段階に戻ってアプローチし直すなどのステップを踏んで,実際に「Gameplay Prototype」へと昇華させていくらしい。

左:リサーチからプロトタイプへと流れていくライト氏の企画行程図。本を読むことから始まることが多いらしい
右:アーティストに描かせた生物キャラクターの絵を,部位ごとに分け,さらに進化過程を示すツリーにしている


 このGameplay Prototypeが整うと,ここから製品として成り立つかどうかを考えるのだが,この行程をライト氏はいくつかの項目に分けていた。中でも,何か新しい要素を加える「Innovation」,開発が進行するうえで考えられる問題点「Project Risks」の洗い出し,そして誰にどのように受け入れられるかを考慮する「Multi-Genre Gameplay」を,ポイントとして挙げていた。
 Sporeを題材に考えると,プレイヤーの創造性を最大限に活用するプロシージャルなコンテンツ制作というInnovation,インタフェースのユーザビリティやゲームデザインをまとめられるかといったRisks,そして大人から子供まで,攻撃的なコアゲーマーから平和的に進めるカジュアルゲーマーまでに対応できるGameplayということになる。

どのような生物を作るかは,まさにプレイヤー次第。どんなプレイヤー層でもクオリティの高いコンテンツを作れるよう,努力が注がれているようだ
 さてこのあたりから,ユーザビリティやプロシージャル・アートといったキーワードをもとに,ライト氏は少しずつSporeを使って説明を進めていく。Sporeのゲームプレイを説明したわけではないが,Sporeの生物は,「ファインディング・ニモ」のような可愛らしい容姿にすることも,「エイリアン」のようなおぞましい姿にすることも可能な,柔軟なエディティングツールを持っているという。また,惑星にはさまざまな気象条件があり,生命体の文明は環境に合わせて進化していくらしい。
 さらに,ちょっと気になったのが,ガス星雲や太陽の爆発といったさまざまな天体事象が,ゲームのアートとして公開されていたことだ。2005年のGDCでSporeが初公開されたときには,ライト氏は銀河までの説明しかしていなかった。今回のこれは,ある段階で半強制的に文明が滅んでしまうということを示唆しているのではないだろうか。なにやら意味深である。

 ライト氏は,最後に「(企画のためのリサーチには)なるべく時間をかけて,大きな網を仕掛けておくようにしてください。何かに熱中することを,楽しむべきですよ」として,この講演を締めくくった。当初の議題からSporeの具体的な実演を期待していた筆者にとっては,少し期待はずれ。しかし,話を聞いているだけでも楽しいのがライト氏なのである。(奥谷海人)

左:天体の気象条件や,それに見合う自然も,さまざまなものが用意されているようだ。プレイヤーの文明にも影響しそう
右:ライト氏が「すでにモデリングしている」と口にした,ガス星雲など数々の天体事象のアート画。その意味するところは……?
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