インタビュー
HORIの新作アーケードスティック「ファイティングエッジ」インタビュー。監修のプロゲーマーsako氏に聞くその狙いと,sako嫁ことakikiさんが明かすプロゲーマーの生態とは
そのほかにも,[START]や[SELECT(BACK)]ボタンのタッチパネル化や,さらにはデバイス上でボタンアサインの変更が可能となることなど,多彩な新機能にも注目が集まり,予約開始から2日と持たずに完売。早くも二次予約が開始されていることから,本製品に対する期待度は,想像するに難くない。
そこで4Gamerでは,監修を行ったプロゲーマーsako氏と制作を担当したHORIの“スタッフA”こと浅葉祐輔氏,そして“sako嫁”として知られるマネージャーのakikiさんのお三方にお話しをうかがった。ファイティングエッジの開発に至る経緯から,sako氏のゲーム観,果ては嫁から見たプロゲーマーsakoの生態まで,盛りだくさんのトピックスでお送りしていこう。格闘ゲーマーのみならず,ゲーマーの彼氏/彼女を持つ読者も必見のインタビューだ。
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PlayStation 3版「ファイティングエッジ3」製品ページ
Xbox360版「ファイティングエッジEX」製品ページ
日本で3人目のプロ格闘ゲーマー,sakoとは
4Gamer:
まずはsakoさん,TOPANGAリーグ※の優勝おめでとうございます。
※TOPANGAリーグ……ニコニコ生放送で配信された,「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション」(以下,スパIV AE 2012)を題材としたリーグ形式のイベント。12名の強豪プレイヤー達が参加し,sako氏は見事優勝を果たした。対戦格闘ゲームを扱った番組として,初の有料配信を行ったことでも話題を呼んだ。
sako氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
予選リーグの段階から素晴らしい試合運びだったと思うのですが,TOPANGAリーグに臨むにあたっては,どんな練習や対策を準備していたのでしょうか。
sako氏:
特別TOPANGAリーグのためになにか,という感じではなかったですね。普段通りです。
4Gamer:
決勝戦は予選ステージで苦渋を飲まされた,ハイタニさんとの試合でした。
ハイタニ君とは以前のコンセプトマッチでも戦っていて,対策はそのときにしっかり作ってあったんで。予選に関しては,単純に完敗でしたけど。
4Gamer:
決勝は,終始良いペースでしたね。
sako氏:
そうですね。そこは完全に読み勝ちというか,流れがこっちにあったように感じました。
4Gamer:
TOPANGAリーグでは,とくに関西勢が結果を残した形になりましたが,sakoさんご自身は,地域によってプレイスタイルなどに差を感じていますか?
sako氏:
うーん,アーケードでの対戦がメインだった頃は,地域によってプレイスタイルやキャラクターが違ったんですけど,今はオンラインが主流になったし,動画で色々な人のプレイが見られるようになったので,そこまで差はないかなあ。
4Gamer:
では,TOPANGAリーグで関西勢が結果を残せた理由はなんだと思いますか?
sako氏:
それは前作(スパIV AE)の時分から,関西勢はユンとかヤンのような強いキャラクターを使わずに,ハイタニ君はまこと,うりょ君はさくらで頑張ってきたから……。
4Gamer:
そこに一日の長があったと。
sako氏:
そう。経験値の面で優位に立てたかなって。スパIV AEの頃にしんどい思いをしましたし(笑)。その中で精神力が鍛え上げられたところもあるじゃないかと思います。
4Gamer:
なるほど,分かりました。では改めて,4Gamerでsakoさんにインタビューさせていただくのは,今回が初になります。まずはsakoさんがプロになられた経緯や,プロになったあとの心境など,基本的なところからお聞かせください。
sako氏:
プロになったきっかけは,2010年6月の「GODSGARDEN online #1」にウメハラ君から招待されて,そこで優勝したことですね。そのあと海外の大会でスカウトされて,今に至ります。
4Gamer:
プロゲーマーになりたい,というような気持ちは,以前からあったのでしょうか。
akikiさん:
そもそもウメハラさんがプロになったことも知らなかったんですよ,この人は(笑)。パソコンもメールも,ホントに見ないので。
4Gamer:
ではウメハラさんがプロになったと知ったときは,どう思われました?
sako氏:
なるんやったらコイツやろな,って。昔からトップを走り続けてきている人なので。なって当然と思いましたね。
akikiさん:
実はプロのお話も私経由でいただいたんですよ。それで「どうしよっか?」って家族会議になって……。
sako氏:
別段プロになりたいと思ってたわけじゃないんです。でも,僕の試合を見て喜んでくれる人がいるなら,ゲームは好きなんで別にええかな,って。でもプロになったからといって,別段どうということもない。これからも楽しみながらゲームをやっていければ,というつもりです。
4Gamer:
プロになっても,ゲームとの接し方は今までどおり変わらない?
sako氏:
それは変わらんですね。あくまでゲームを楽しみたい,っていう。ただそれが人に認めてもらえたのは,嬉しかったですね。僕はただ,ずっと楽しくてゲームをやってきただけなんだけど。
4Gamer:
ウメハラさんやsakoさん以来,プロゲーマーがどんどん増えてきていますけど,それについてはどう思いますか。
sako氏:
プロを目指そうとする人が出てきてくれるんなら,僕らとしては嬉しいですよ。やっぱり,誰かの目標にされるのは,嬉しいことやしね。
sakoの振う“刃”,「ファイティングエッジ」はこうして生まれた
4Gamer:
ではさっそく,今回のテーマである「ファイティングエッジ」についてお聞きしていきたいと思います。まずは製品コンセプトからお聞かせ願いますか。
はい。HORIとしては今まで「リアルアーケードプロ」(以下,RAP)というブランド名で,長らくアーケードスティック製品をやらせていただいてきたのですが,海外を視野に入れて考えると,海外ってそもそもアーケード筐体がないんですよね。
4Gamer:
確かに。日本以外には,そもそもゲームセンターってほとんどないですよね。
浅葉氏:
「アーケード互換スティック」というラインは,当然これからもやっていくんですが,国内外で格闘ゲームがこれだけ盛り上がっている中で,「家庭用でのプレイに最適化した製品もアリなんじゃ?」という発想が,そもそもの発端になっています。
4Gamer:
なるほど。本製品は,sakoさんが監修を行っていると聞いていますが,これはどういう経緯で決まったのでしょうか。
浅葉氏:
Team HORIの一員となったsakoさんと,縁あってお話しする機会がありまして。その中で弊社の製品を長く使っていただいている。それもものすごく使っていただいている,という話を聞きまして。
4Gamer:
「ものすごく」とは,つまり壊してしまうわけですね(笑)。ちなみに今まで,何台ぐらいのアーケードスティックを壊してきたか,覚えてます?
sako氏:
うーん,10台じゃきかないですね。
4Gamer:
これは聞いた話なんですけれど,関西のプレイヤーがsakoさんにPlayStation 2版「beatmania IIDX」のソフトと専用コントローラを貸したら,sakoさんがやり込み過ぎて壊してしまった,とか。
sako氏:
ありましたね,そんなこと(笑)。1回何かのゲームにハマると,ずっとやってしまうんです。
浅葉氏:
「ファイティングエッジ」の開発にあたって,sakoさんに耐久試験用のコントローラをお渡ししたときも,大概は想定よりも大幅に早いタイミングで「壊れました」って言われて,その度に改良や調整をしなければならなかったんですよ。おそらく,世の中の皆さんが想像している以上の密度でやり込まれているのでしょう。
akikiさん:
仕事がある日で2〜3時間はやってますからね。休みの日は,「頭おかしいんじゃないの?」ってぐらいやってます(笑)。
sako氏:
朝起きて電源を入れて,夜寝るまでやり続けます。疲れたらほかのゲームをやって休憩するという。
akikiさん:
結婚前に私の家に泊まり込んだときも,私のPlayStation 2を壊されましたからね! その頃はずーっと「ギルティギア イグゼクス」をやっていて,ずーっと電源が入っているからか,熱でおかしくなっちゃったらしくて。ハードを壊されたのは初めてですよ(笑)。
(一同笑)
浅葉氏:
ファイティングエッジの開発がスタートしてからも,使っていたアーケードスティックが最低3台は壊れたと聞いています。1〜2年に最低3台のペースですね。我々としても「sakoさんこそが世界で一番家庭用のジョイスティックに触れているプレイヤーだ」と確信を持っています。つまり,そんなsakoさんに満足して使ってもらえるコントローラを出したいね,というのがそもそもの経緯なんです。
4Gamer:
RAPだって業務用の部品を使っているだけあって,相当に頑丈なはずですよね。一般的なプレイヤーが使っている限り,1年に1台も壊れないと思います。開発はいつ頃スタートしたのでしょうか。
浅葉氏:
コンシューマゲーム機専用の製品として試作品を作り始めたのが2010年から。2010年の6月に「Team HORIモデル」として,sakoさんファンにはお馴染みの試作器ができたのですが,それがまさにファイティングエッジの源流になっています。
開発期間がかなり長引いた理由は,sakoさんからのこと細かな要望を実現するために,独自のレバーとボタンユニットの開発しなければならなかったから。「正解」へと到達する作業に,時間がかかってしまったんです。
RAPのレバーやボタンは,業務用でお馴染みの三和電子やセイミツ工業のものが使われていますが,本製品はいずれもHORIさん独自のものを採用しているとか。
浅葉氏:
はい。我々としても,長年コンシューマゲーム機の周辺機器を作ってきて,アーケードスティックも20年ぐらいやってきていますが,ようやく本当の意味で,ユーザーと二人三脚で作ったコンセプトモデルを出せたな,と。ゴールは割と早くから見えていたのですが,ゴールまでの道のりが長かった。
4Gamer:
では,そんなsakoさんの理想のアーケードスティック――ファイティングエッジが目指したゴールとは,どんなものだったのでしょうか。
sako氏:
アーケードに行くと,自分好みのレバーの固さとかボタンってあるじゃないですか。でもコンシューマゲーム用のアーケードスティックだったら,1つ気に入ったものがあったら,それだけ使っておけば間違いないですよね。ファイティングエッジは,そんな1本にしたかったんです。
4Gamer:
家庭用だからこそ,こだわりたいと。
sako氏:
家庭用だからこそのマイコントローラですね。これ1本あったら自分は満足する。そういうものが作れたらいいなあと思っていました。
浅葉氏:
ファイティングエッジでsakoさんのご意見をいただいていない場所は,筐体の形や厚さなどのデザイン面,あとはLEDライトぐらいでしょうか。操作感に関しては,おそらくほぼすべての部分に手が加えられていると思います。機能,性能の部分は妥協していません。
sako氏:
ボタンの押し具合やレバーの固さ,軽さにはかなりうるさく言いましたね。あと,ボタンを叩いたときの音とか。
浅葉氏:
どちらもかなりのリテイクをいただきまして。これなら大丈夫だろうって自信作を持っていっても,割とサラっと「違う」と言われちゃう(笑)。弊社の開発はもともと職人気質なタイプが多いので,負けるものかと発奮していましたね。
4Gamer:
ちなみにsakoさんのレバーやボタンのお好みは,既存の製品でいうとどの辺りなんでしょうか。三和電子派かセイミツ工業派か,みたいな。
sako氏:
……ちょっと固めがいいんですよね。
akikiさん:
この人,メーカーの名前とか覚えていないんですよ(笑)。
4Gamer:
ああ,なるほど(笑)。今のアーケードは三和電子製レバーがほとんどですが,「ヴァンパイアセイヴァー」や「ストリートファイターZERO」の頃は,三和電子製より固い,セイミツ工業製のレバーが多かったですよね。なので,昔からアーケードで格闘ゲームを遊んでいる人には,セイミツ工業製レバーが好きな人が多い気がするんですが……。
sako氏:
それだと,どっちかといえば三和電子製レバーがいいけど,でももうちょっと固めが好みです。三和電子製とセイミツ工業製の,ちょうど中間ぐらい。
akikiさん:
とくにレバーに関しては,「固すぎても柔らかすぎてもダメ」って,何度も言ってましたね(笑)。
浅葉氏:
もう,うちの開発スタッフが,ほぼ全員で腕組みして悩んでましたよ(笑)。プレイヤーが体感で感じる意見と,技術的な数字を付き合わせるというのは,なかなかに得がたい経験でした。本当に有意義な開発になったと思います。
4Gamer:
ちょっと本筋とは離れるのですが,いかに耐久性が高いといっても,レバーやボタンがヘタってしまう可能性はあるわけですよね? その場合はどうするんでしょう。本製品とは別に,レバーやボタンの個別販売は行われるのでしょうか。
浅葉氏:
基本的には製品一式含めた保証を用意していますので,その枠内で対応させていただく形になります。要望が多ければ,レバーやボタンの個別販売も考えるべきかなとは思いますが,まずはファイティングエッジを皆さんのお手元に届けて,ご意見をいただいてからですね。
sako氏:
僕はボタンをかなり強く叩くほうで,なのに壊れないんだから,大丈夫だと思うけど。
4Gamer:
sakoさんが壊せないボタンなら,普通の人はまず大丈夫でしょうね(笑)。ではレバーやボタン以外の部分はいかがですか? レバーやボタン以外にも,「ボタンアサイン機能」や底面のマット加工など,これまでには無かった要素が本製品にはたくさん詰め込まれていますよね。
sako氏:
実は一番最初にお願いしたのが,[START]や[SELECT(BACK)]ボタンを使った,「コパン辻式」※をやりやすい製品にしてほしい,という要望だったんですよ。
※コパン辻式……ストリートファイターIVシリーズなどで用いられる特殊入力方法。弱パンチ(コパン)と[SELECT(BACK)]ボタンを,1フレーム(1/60秒)ズラして押すことで,弱パンチを使ったコンボの入力難度を大幅に下げるテクニックを指す。ただし[SELECT(BACK)]ボタンは,通常のボタンと離れた場所に配置されていることが多く,実際の運用は難しい。
なるべく押しやすい位置に[START]や[SELECT(BACK)]ボタンを付けてほしい,というお話をいただいて。最初は基本のボタンレイアウトの上に1つボタンを付けてみたんですが,生産面で現実的ではないと,ずっと悩んでいたんですよ。
でもたまたま同時期に「タクティカルアサルトコマンダー」という製品が弊社から発売されまして,それにボタンアサイン機能があったんですね。で,これを使えば,ボタンを物理的に追加しなくてもいいんじゃないかって。
4Gamer:
ああ,PlayStation 3用のマウス&キーボード型コントローラですよね。
浅葉氏:
はい。その結果,これまでのコントローラより手の動きが少なくて済みますし,手が小さくてできなかったという人にとってのハードルは下がると思います。とはいえ,これは偶然の産物だったんですけど(笑)。
4Gamer:
まあ,アーケードスティックに限っていえば,ニッチな要望ではありますね(笑)。
浅葉氏:
でもsakoさんが普段プレイするためには必須のテクニックなので,sakoさんのために入れたといっても過言ではない機能です。それに今後格闘ゲームでどんなテクニックが登場するかも分かりませんし。ライセンスを取るための説明が大変でした。「なんでSELECTなの?」「なんでBACKなの?」って(笑)。
4Gamer:
sakoさんとしてはいかがでしょう。納得のいくアーケードスティックになったでしょうか。
sako氏:
かなり満足しています。ボタンアサイン機能以外にも,さっきの底面のマット加工だったり,持ち運びやすいように裏に溝を付けてもらったりと,細かい要望も反映してもらってますから。
浅葉氏:
僕らが不安に思った部分には,すべてsakoさんからアドバイスをいただいています。そういう意味で,これはプロゲーマーsakoの完全監修によるモデルです。
4Gamer:
これは個人的な感想なんですが,今までのアーケードスティックって,結局のところ目指すのは「アーケード環境の再現」だったわけじゃないですか。それを突き詰めていくと,最後は「じゃあアーケード筐体買うか」となるわけで,その路線を進む限り,アーケードスティックという製品には限界があったと思うんです。なのでファイティングエッジのコンセプトには,すごく可能性を感じますね。
浅葉氏:
我々としても,これまでアーケード互換やアーケード完全再現を目標としてやってきましたが,おっしゃるとおり,元々ゴールが見えていることもあって,他社さんとの差別化が難しかった側面があります。でも一方で,コンシューマー用に特化した方向性というのは,まだまだ無限の可能性があると思うんですね。
4Gamer:
「HitBox」のレビューをしたときにも感じたことなんですが,アーケードスティックがアーケードのくびきから解放されていくところに面白味というか,ワクワクさせられるものがあるんです。ファイティングエッジも,「どう使ってやろうか?」と考えさせてくれる要素が詰まっていると感じました。
浅葉氏:
ファイティングエッジもこれで終わりではなく,ユーザーからフィードバックをいただいて,もっともっとよりよい物を作りたいと思っています。……とはいえ,これ1台に2年かかっちゃってますので,なかなかすぐ次というわけにはいかないですけど(笑)。まずはこのファイティングエッジで,コンシューマー専用アーケードスティックという製品の是非を皆さんに問いかけてみたいと思います。
4Gamer:
なるほど。今後の展開にも,期待させていただきます。
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