レビュー
大人向けというよりは玄人向けのストーリー重視なシングルRPG
The Witcher
日本語マニュアル付英語版
記憶を失った伝説的なWitcherの過酷な旅が始まる
作品の主題でもあるが,この世界で描かれる「Witcher」とは,過酷な修行により超人的な能力を会得した人物のことを指す。Witcherは住民達に恐れられながらも頼りにされている,魔物退治屋のような存在と考えてよい。本編の主人公はそんなWitcherのなかの一人「Geralt of Rivia」。Witcherになるための修行の副作用で白髪と化してしまい,その外見から「ホワイト・ウルフ」との異名を持つ人物だ。
その後,Geraltは倒れていたところを救われ,Witcher達の拠点である「Kaer Morhen」砦で目覚めるものの,ほどなく砦はWitcherの秘密を狙う蛮族からの襲撃を受け……といったところからゲームがスタートする。そしてGeraltはクエストや戦闘を経てレベルアップすることで,以前の能力を“思い出す”という形で成長していく。
原作小説を知らないとイメージがつかみにくいかと思うが,Geraltは「コナン・ザ・グレート」よりさらに根の深い狡猾さを持ち合わせており,目的のためなら手段を選ばない人物だ。また言葉遣いも荒く,ゲーム内の選択肢によっては,出会った美女らと浮名を流すことも厭わない。ちなみにこのとき,ムフフな演出も一応用意されていたりする(もちろん過度の期待はしないように)。
アンチヒーローである彼のタイプを喩えるならば,世界観は異なるものの,初期のインディ・ジョーンズに近く,そんな泥臭さのある人物像がヨーロッパでは受けるのかもしれない。
戦闘のアクションはそれほど難しくはない。画面内のアイコンが変わった直後にタイミング良くクリックすると,剣技によるチェーンコンボが発生する |
例えば酒場の前には掲示板があり,そこに貼られた手紙などを通じてサブクエストを受けられる。クエストやNPCとの会話などの節々から,陰鬱としたこの世界の様子が伝わってくる |
原作小説をベースとしているからか,ゲーム内で描かれる世界描写のクオリティは全体的に高い。例えば街では子供達が無邪気に遊びまわっており,話しかけると好き勝手なことをわめいたり,Geraltの後ろをついてきたりする。その一方で民家の前には乞食がたむろしていたり,酒場ではごろつき共が昼間から酒を煽ったりしており,話しかけるとたっぷりのスラングで返されたり,場合によっては喧嘩を吹っかけられたりもする(こういったミニゲーム的なイベントはほかにもいくつかある)。プレイ中はゲーム内の隅々にまで,中世ヨーロッパの陰鬱とした空気が立ち込めているように感じられるだろう。
NPCに話しかけると,まずは酒を飲んだり作業している手を止め,こちらを向いてからようやく喋りだす。細かい挙動まで手が込んでいる |
ゲーム内には昼夜の概念がある。同じ場所でも夜間ではグールなどの魔物が頻繁に登場したり,特定のクエストの進展に影響したりする |
本作でとくに感心したのが,NPCの表情や体型などのバリエーションがかなり豊富で,使い回しがほとんどないこと。またクエストなどで合間に挿入されるゲーム内ムービーの数が多く,中には数分に及ぶものも少なくないが,演技などの描写に不自然さがないこと。この手のシングルRPGだと,バストアップのカメラワークを多用して動きの乏しさを誤魔化すタイトルもあるが,そういった逃げを打っていないのは好感触だ。
筆者はWitcherの原作小説を読んでいないので,ゲームでの再現度については評価できないが,少なくとも本作で描かれる世界はかなり完成度が高いと思えた。プレイ中に,思わず原作小説が読みたくなってしまうという人も,少なからずいるのではないだろうか。
プリレンダーだけでなく,リアルタイムレンダリングムービーの数がかなり多い。キャラクターの動きに躍動感があり,またそれぞれに個性があるので見ごたえがあり,退屈しない |
登場する美女達とムフフな展開も。一応,ストーリー上ちゃんとした理由付けがされるので,Geraltが軽率な男だという印象は受けにくい(かも) |
クリックゲーの単調さを撤廃しつつ
RPGの成長要素を取り入れたゲームシステム
武器による戦闘時は,相手をクリックすることで攻撃を繰り出していく。このとき一度攻撃してからしばらく操作せずにいると(2秒前後)アイコンの形が変わり,その瞬間に再びクリックすることでチェーンコンボをつなげることが可能だ。チェーンコンボは初期段階でも3回まで行え,しかも一度のクリックで複数攻撃でき,Geraltの発する咆哮や見た目も含めかなりの迫力がある。ただし関係ないときにクリックをしてしまうと,チェーンコンボはつながらず最初からやり直しとなってしまう。適当にクリックしていてはダメなのだ。
本作の武器による戦闘をまとめると,最初に敵のタイプを見極めてコンバットスタイルを選ぶ。次にアイコンが変わるタイミングを待って無駄なくクリックする,といった流れである。一応,近くの地点をダブルクリックしての短距離ステップ(移動キーを2回連続で叩くことでも可)などの動作も行えるが,基本的にアクション性はそれほど高くはない。また,ゲーム中はいつでもSpaceバーによるポーズが可能で,その間にスタイルの変更などを行える。落ち着いて戦闘が楽しめる半面,分かりやすい爽快感や,シビれるような緊迫感といったものが本作の戦闘にはない。
とはいえそれなりに頭を使う要素はあり,チェーンコンボのモーションも流れるように美しく迫力もあるので,慣れれば慣れるほど上達を実感できるシステムといえるだろう。
Geraltは剣による戦闘を最も得意としているが,Witcherの修行で会得した,そのほかの技も扱える。中でも「Sign」と呼ばれる魔法はなかなか強力で,念力で物を動かす「Aard」や,防御シールドを張る「Quen」,そしてトラップを仕掛ける「Yrden」など,大きく分けて五つの系統が存在する。例えばAardで相手を気絶させたあとに剣で喉元を掻き切る,といった戦術も可能なほか,クエストを進展させるのにSignが必要になる場面も出てくる。
同じ相手と戦う場合でも,的確なスタイルを選択すると大きなダメージを与えられる。画面のような状況では,迷わず「Group Style」だ |
最初はチェーンコンボを発生させるだけで精一杯かも。しかし周りを見る余裕が出てくると,モーションがなかなか優れていることに気づく |
さらにGeraltは錬金術にも長けており,ポーションを自分で調合してアイテムとして使用できる。飲むことで武器を振るうスピードを素早くしたり,毒として武器に塗りつけて攻撃力を上げたり,あるいはモンスターに投げつけて爆発させたりといった豪快なものもあり,一言でポーションといっても幅は広い。作成可能なポーションの種類は,冒険中にレシピを入手することで増えていき,作成時に必要な材料は採取した薬草や鉱石,倒したモンスターの死骸といったものを用いる。一度に大量のポーションを飲むと副作用が出てしまうのだが,使いどころをわきまえれば,かなりの効果が期待できるだろう。
Talentの習得画面。このような放射状のツリーが全部で15種類あり,自分のスタイルに合った強化を選んでいけるのだ |
ポーションや食事などでドーピングをすると,その効果が画面左上に赤丸のアイコンで表示される。自分でもポーションを作れるので積極的に使っていこう |
また剣技や魔術などの能力は,項目別にパワーアップが可能だ。本作の成長システムはレベル制で,レベルアップ時や特別なクエストの達成時に「Talent」というポイントを獲得できる。Talentとはいわゆるアビリティポイントに近いもので,これを任意の項目に振っていくことで,例えば基本戦闘能力を上昇させたり,チェーンコンボや各Signをパワーアップしたりできる。Talentの項目はかなり幅広く,どれに振るかによってキャラクターの個性が次第に芽生えてくるというわけだ。
肉弾戦闘に関する項目にTalentを振っていくのがオーソドックスなスタイルだと思うが,魔法関連にどれだけTalentを割り振るかで,プレイスタイルは微妙に変わってくる。基本的に本作はストーリーを重視した作りだが,キャラクターの育成におけるリプレイアビリティはそこそこあると見てよい。
ゲームの進行上,必須ではないサブクエストの数は多い。あまり先を急ぐようなタイトルではないので,じっくり取り組んでストーリーを深く理解したいところ |
焚き火や民家などの特定ポイントでは好きなだけ“瞑想”を行える。体力を回復できるほか,Talentの習得もこのとき行える |
大人向けというよりは玄人向けのRPG
ストーリーを重視し,なおかつ英語が堪能な人にお勧め
Geraltは情報収集の過程で,城塞都市「Vizima」の郊外にある村や,寺院や商業区などを訪れ調査を進めるが,Salamanderの組織は想像以上に大きく,そして深く入り組んでいるようだ。各地に点在する悪の根を一つずつ絶やしていくことが,序盤〜中盤の主なゲーム展開となる。
物語はVizimaの内外を中心に展開し,やがてエルフやドワーフなどといった種族をも巻き込んでいく。次第に明かされるSalamanderの黒幕,そしてGeraltが記憶を失った本当の理由とは? このあたりがストーリーの見どころといえるだろう。
また,本作で求められる英語力のハードルの高さには,多くの人が音を上げるかもしれない。例えばイベントシーンでの会話内容は一応字幕でも表示されるが,一度に3行分が表示されることもざらである(表示ペースも速く一時停止はできない)。また独特な言い回しやスラングも頻繁に使われており,中〜高校生や機械翻訳程度の英語力では,会話の細かなニュアンスを汲み取ることは難しいだろう。
ゲーム内に登場する土地やNPC,モンスターなどに細かい部分に至るまで,しっかりとした設定がある。こういったログも一通りチェックしたい |
Geraltは,城の郊外にある村でひと悶着起こした後に入城しようとするものの,いきなり投獄されてしまう。いわゆる王道的な展開からは大きく外れたストーリーが続く |
一応,マップ内に次へ向かう場所をマーキングしてくれる機能があるので,ある程度は参考になる。しかし,その場所で具体的に何を行えばよいのか,という部分までは分からず,クエストログを見ても分かりやすく解説されていない。そのためクエストの内容をしっかり理解しながらのプレイが必要だ。それに本作はストーリー重視のタイトルであるため,会話を読み飛ばすような遊び方だと,十分には楽しめないだろう。
最後にもう一つ,現在は原作のシリーズ小説が一冊も翻訳されていない点が結構気になった。このゲームをもし気に入ったら,Witcherの摩訶不思議な成り立ちや,Geraltの過去の冒険談などに興味を持つのはごく自然な流れだと思うが,「The Witcher」というファンタジー作品にゼロから接し始めるには,日本語環境があまりにも整備されていない。
この点,基本的に1本のゲーム内で起承転結している「The Elder Scrolls IV: Oblivion」「Fable」や,ほかにもD&Dの広大なバックグラウンドストーリー群が翻訳されている「Neverwinter Nights2」などといったタイトルと比べると,本作は手ごわい作品といえる。
サイコロを使ったミニゲーム「ダイスポーカー」の最中。こういった些細な小道具なども含めて,世界観の描写全般はしっかりしている |
クエストログには,次に成すべき内容が黄色の文字で大まかに書かれている。しかし実際には,これだけを頼りに先へ進めることは難しい |
チェーンコンボによる戦闘や,Talentによるキャラクター育成のシステムなど,それなりに新鮮さはあるものの絶賛するほど画期的なものではなく,あくまで良作のレベル。総合的に見た場合,本作はRPGファンなら全員,辞書を引きながらでもプレイすべきだと強くお勧めする域には達していない。
ただし言語のハードルさえ乗り越えられるなら,その情け容赦ない世界観や,Geraltのひねりの聞いた言い回しなど,楽しめる点は多いにある。街の掲示板などを通じて膨大なサブクエストを受けられたりと,ゲームとしてのボリュームはたっぷりだ。おそらくメイン/サブクエストを隅々まで堪能しようと思ったら,一度のプレイでも80〜100時間前後はかかるだろう。それだけに,仮にこれらがしっかりと翻訳された環境で遊べるのなら,もしかすると“化ける”タイトルかもしれない。
プレイ後の感想としては,本作は「大人向け」というよりも,完全に「玄人向け」といっていいタイトルである。ストーリーを重視し,なおかつネイティブレベルで英語を理解できるコアなRPGファンにとっては,Oblivion以降,久々に満足できるシングルRPGとなるだろう。
また4Gamerでは立場的に一切関知できないが(4Gamer,イーフロンティア共に何もお答えできないので質問はご容赦を),有志による日本語化も行われているようである。自力で見つけ出し,自己責任のもと導入できる力のある人なら,探してみるのも面白いだろう。
ともあれ本作が気になった人は,デモ版からプレイしてみることをお勧めしよう。
Geraltがとある悪の集団に鉄槌を下す瞬間。画面の会話内容を見ても分かるように,汚い言葉が当たり前のように飛び交うタイトルなので覚悟しておこう |
本作は洋物RPGの中でもとくに人を選ぶが,ハマればかけがえのないタイトルになる可能性も。個人的には,本作の原作小説をぜひ一度読んでみたい |
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