テストレポート
GECUBE製ファンレスX800 XLカードのテストレポートを掲載
製品名にもあるように,2005年7月時点におけるATI Technologiesの"序列第3位"に位置するRadeon X800 XLを搭載し,さらにグラフィックスメモリを512MB搭載。それでいてファンレスなのだから,性能と静音性の両方を求める人にとって気になる存在といえるだろう。
ファンレス化は,カードを両側から挟むようなイメージのヒートシンクで実現しており,ヒートシンクどうしは2本のヒートパイプでつながっている。グラフィックスチップから見て裏側へ熱を送り,それをCPUクーラーからの風や,ケース内のエアフローで冷却しようという仕組みだ。ただし,グラフィックスメモリにヒートシンクはない。以前「こちら」の記事で紹介した,ATI Technologiesのグラフィックスメモリ512MB搭載リファレンスカード(以下ATI X800XL)では,カード両面のグラフィックスメモリをヒートシンクが覆っていたことを覚えている人もいるだろう。この点は若干気になる。
なお,動作クロックはコアが400MHz,メモリが990MHz(実クロック495MHz)。出力インタフェースとしてDVI-I×2とコンポーネントビデオを持っている。
■若干ながらリファレンスカードより性能はいい
まずは性能面からチェックしてみることにしよう。今回は比較用にATI X800XLを用意して,「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05),「Far Cry」,「DOOM 3」のタイムデモ(Timedemo)でチェックした。テスト環境は表のとおりだ。
3DMark05では,1024×768/1280×1024/1600×1200ドットの解像度において,アンチエイリアシング(以下AA)や異方性フィルタリング(以下Anisotropic)を適用した場合のスコアも計測しているが(グラフ1),そのすべてにおいて,値の大小はあるものの,X800XL SCEがATI X800XLよりも高い結果を示している。とくに1024×768ドット,「標準状態」(3DMark05のデフォルト設定時)における差は216にもおよび,X800XL SCEの持つポテンシャルの高さがうかがい知れる。X800XL SCEとATI X800XLは配線や部品レイアウトが同じように見えるが,X800XL SCEではグラフィックスBIOSレベルでの最適化が施され,それが好結果につながっているのではなかろうか。
Far Cryでもほぼ同じ傾向だ(グラフ2)。一部でATI X800XLのほうがスコアは上であるものの,全体的にはX800XL SCEのほうが優位といっていいだろう。
DOOM 3では,ドライバ側の問題なのか,AAやAnisotropicをCatalyst 5.6から設定しても反映されなかった。このため,標準状態と,DOOM 3側で設定したAA 4xのみでテストしているが,やはりここでもX800XL SCEのほうがスコアは上である(グラフ3)。
■やはり"熱い"ファンレスRadeon X800 XL
温度測定に当たって,OSが起動して30分後を「アイドル時」,3DMark05のリピート実行30分後を「高負荷時」として,X800XL SCEとATI X800XLについて測定を行った。検証時の室温は24℃。機材調達スケジュールの都合,そしてデジタル放射温度計で複数個所の温度を検証する都合上,このテストは平面に置いたマザーボードに対してグラフィックスカードを垂直に差した状態で行っている点をあらかじめ断っておきたい。また,ATI X800XLは,チップクーラーにカバーが取り付けられており,そのままではヒートシンクの温度を直接測定できない。なので,(1)(2)の部分については,カバーの上からだけではなく,カバーを取り外して,ヒートシンクの直接測定も行った。
まず,グラフィックスチップに最も近い部分(1)の温度だが,X800XL SCEだとアイドル時は45℃,高負荷時で約70℃とかなり高い(グラフ4)。ATI X800XLではチップクーラーのカバーを外してヒートシンクを直接測定した状態で順に30℃,47℃。グラフィックスカードとヒートパイプの向きが一般的なPCケースと異なるのを割り引いても,やはり冷却能力はATI X800XLのチップクーラーより数段劣ると言わざるを得ない。
この傾向は(2)〜(6)でも同じで,総じてX800XL SCEのほうがヒートシンクは高温だ。また,前述したようにグラフィックスメモリにはヒートシンクが装着されていないが,メモリチップ(7)は高負荷時に約72℃と,かなり高くなっている。必ずしも温度が原因と断定はできないものの,テスト中に3DMark05がフリーズした場面も見られた。
■安定運用にはケースファンを推奨
PCケースに組み込んだ状態でも検証してみよう。今回はCooler Master製ATXケース「Centurion 530」に組み込んでみた。Centurion 530は,標準でケース前面に回転数1200rpmの120mm角ファンを搭載しているほか,ケース背面には120mm角ファンを取り付けられるスペースが用意されている。そこで今回は,現実的なPCの利用形態に即して,背面に回転数1600rpmの120mm角ファンを取り付け,それがヒートシンクの冷却にどの程度貢献するかを調べてみることにした。ただし,ファンの向きは一般的な排気のほか,吸気も試している。
なお,PCケースに組み込むと,放射温度計は利用できない。そこで,ここでは接触式の温度計を用い,熱伝導シールでヒートシンクの(5)の部分に密着させた。
結果はグラフ5のとおり。120mm角ファンの有無でヒートシンクはアイドル時で4〜5℃,高負荷時で5〜7℃,温度が下降した。また,排気よりも,吸気して直接吹き付けたほうが効果そのものは上だった。
ケース内で動作させたときにはファンなしでも熱暴走(フリーズ)はしなかったが,これはCenturion 530のテスト環境に,電源ユニットやケースの吸/排気ファンが取り付けられ,ケース内にエアフローが確保されているためだ。その意味で,完全ファンレス動作しているわけでは決してない。ファンの数を減らしたり,回転数を落としたりしていけば,先ほどのバラック状態におけるテスト結果に近づいていくだろう。長時間のゲームプレイに当たっては,X800XL SCEの近くに冷却用ファンを用意したほうが安全といえる。
ファンレス=無音というイメージが先行しがちだが,ハイエンドクラスのグラフィックスカードの場合,この「=」は成り立たないと考えたほうがいい。ケースファンを利用して,ケース内の冷却をしっかりと行うのが使用の大前提だ。
とはいえ,パフォーマンスは良好なので,静音性の高いケースファンを用いれば,本製品がファンレスであるという魅力は損なわれないだろう。「こちら」ですでに説明しているので,512MBというグラフィックスメモリの価値についてここでは触れないが,できる限りPCを静かに運用したい,しかしゲームにおける3D性能はなるべく妥協したくないPC上級者にとって,X800XL SCEが大いに意味のある選択肢であることは間違いない。(宮崎真一)
- 関連タイトル:
ATI Radeon X800
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