インタビュー
「グラナド・エスパダ インフィニティ」が持つ真の意味とは? 中尾圭吾氏×西本直樹氏が語る韓国ゲームの限界と日本に設立された運営開発チームの狙い&今後の展開について
すでに「インフィニティ」として告知されているこのアップデートは(関連記事),どういう意味を持つものなのか。4Gamerでは,今回のアップデートのコンセプトや今後の展開などを,GEの日本運営プロデューサーを務めるHUEの中尾圭吾氏に聞いてみた。また,今回のインタビューには,かつて大型MMORPGのプロデューサーを務めるなど,国内でサービス中のさまざまなオンラインゲームタイトルに携わっている西Pこと西本直樹氏が同席することとなった。というのは,そもそも今回のアップデートを企画するきっかけとなったのは,親交の深い中尾氏と西本氏の「日本のオンラインゲームは,今後どうなっていくのか」という,とりとめのない雑談だったからである。
海外産タイトルを最も適した形で提供できるのは現地の運営チーム
先に「グラナド・エスパダ インフィニティ」の主軸を説明しておくと,IMC Gamesの開発したコンテンツを,HUEに設けられた運営開発チームが日本向けに調整するという部分がキモとなる。これだけだと,一般的な海外産オンラインゲームにおけるローカライズやカルチャライズ,あるいは“日本独自”のコンテンツ提供やバランス調整と大きく変わらないようにも思えるかもしれないが,ポイントは「HUE側に調整の権限が与えられる」ところだ。
実のところ,GEのように複数の国/地域で展開しているタイトルは,バージョン違いによるアップデートのトラブルを最小限に抑えるために,各種の調整は各運営チームからのリクエストをもとに,開発チームが行うのが普通だ。各国からの要望は部分的に取り入れるが,ゲーム自体は同じものを提供するというところもある。
本来,ゲームの開発チームには,コンテンツを企画するにあたって「これまでの展開を踏まえて,今回はゲームをこうしたい」「プレイヤーにこう遊んでほしい」といった確固たる意図が存在する。その意図を理解していない外部の人間により,安易に変更を加えられてしまっては,その後の展開に支障を来たすかもしれないという危惧もあるだろう。
「MMORPGは,長くサービスを続けていく中で,開発面よりも運営面の割合が大きくなっていきます。そして国ごとの事情を最も理解しているのは,各国の運営チームです。ですから,本来は各国に運営開発チームがあって然るべきなんですよ。しかし,それをやるには資金面でも人材面でもリソースが足りませんから,サービスを提供している中で最も売上の多い国──多くは,そのタイトルの本国ですが──を優先した開発や調整を行うことになります。そうなると売上的に不利な日本からのリクエストはまず通りません。おそらく多くの海外産タイトルが同じ状況でしょう」(西本氏)
西本氏は,自身がプロデューサーを務めた韓国産タイトルにおいて,サービスイン前に日本向け運営施策を準備したという。ところがその施策は,日本のオンラインゲーム事情を理解していない開発チームにより多くが却下されたそうだ。
呑んでいるときにも話したと思いますが,とくに海外産のオンラインゲームは全体的にユーザーのニーズ,とくに運営面が追いつけなくなってきている印象がありますよね。まぁ,すべての海外のクリエイターに日本の今後の運営の事まで熟考してもらいつつ,クリエイティブな仕事も続けてもらう,ということ自体,そもそも無理難題なんですけど」(西本氏)
西本氏は,決裁権限のある開発者を日本に招聘し,日本向けコンテンツの開発や調整にチャレンジしたという。当初,日本に来た開発者達は「なんでそんな調整が必要なんだ?」という態度だったそうが,1年が経つ頃には日本の事情を理解し,西本氏の意見に賛同するようになったそうだ。西本氏は当時を振り返り,「メールでのやり取りでは伝わらない部分も,距離が近くなると伝わるようになる」と話す。
「西本さんの話を聞いて考えたのは,海外タイトルのサービスを日本で成功させるためには,運営面だけでなく,企画開発面においても日本に権限を集中させなければならないということでした。というのは,私がこれからやろうと思い描いていたことは,西本さんが先に実現しようとして,結果,1年もの時間が掛かってしまっていたからです。正直,1年もの工数がかかるのは,運営チームにとっても開発チームにとっても損失ですからね」(中尾氏)
そこで中尾氏が2013年5〜6月頃にIMC Gamesに提案したのが,開発チームにはクリエイターとして自由にコンテンツを作ってもらい,それをプレイヤーの動向を知る運営チームが調整して提供するという今回の施策の原案である。同時に日本運営での各種のデータを送ったところ,IMC Gamesのトップであり,GEの生みの親であるキム・ハッキュ氏は「正直,日本のGEがこんな状態になっているとは思わなかった」「確かに現地にいない人間には,各国の動向を理解できない」と即座に日本の運営チームに調整権限を与えることに賛同したとのことだ。
「実は韓国のGEでは,今回の件よりも先にコンテンツ開発チームと,プレイヤーの動向に合わせて調整する運営開発チームに分かれていたんですよ。そうしないとゲーム内の動向についていけないんだそうです。その事例と,これまでのHUEとの信頼関係があったから,ハッキュさんの判断も早かったんじゃないでしょうか。当時は韓国の運営開発チームが日本向けの調整も担当するという話が進んでいたので,周囲はかなり驚いていたようですけれど(笑)」(中尾氏)
中尾氏は,今回の施策を実行するにあたり,「これまでと同じことや,競合他社と同じことをやっていたのでは,いずれ立ち行かなくなる」とも考えたそうだ。単純に売上だけを考えるなら,好調だった2012年の施策を踏襲すればいいのだが,そうではなくゲームとしての魅力を提供し,プレイヤーに受け入れられなければ,この先,GEの日本での運営は成り立たなくなるというのが,中尾氏の考えである。
「実際によいオンラインゲーム運営をするのは,開発・運営とも自国・自社でやっても難しいですもんね。まして,ユーザーが求めるゲーム像は国ごとに異なりますから,サービスの現地化も初期は本当に大変です」(西本氏)
「とくに日本は先進国なので,娯楽文化やサービスレベルがとても発展しています。ゲームだけプレイできたら幸せですっていう人は,さすがに少なくなってきていると思うので,そういった意味でも,日本でよい運営をするには,日本に運営開発を置くしかありません。それで,やっと勝負ができるんじゃないかというのが本音です」(中尾氏)
日本の運営開発チームが目指すのは「MMORPG本来の遊びの復活」
日本の運営開発チームに与えられる権限の範囲は,新キャラ/アイテムの設定,モンスターのパラメータやドロップアイテムの調整,イベント/クエストの設定や既存ミッションのハードモードの作成などだそうだ。基本的にはゼロから何かを作るのではなく,既存の要素を組み合わせて,新しく何かを作り出すとのことで,例えばボスモンスターのスキル入れ替えなども可能だという。
パラメータ調整というと大したことがないようにも聞こえるが,それだけでゲームの手触りはまったく別物になることを察した人もいるだろう。開発陣のスキルが上がってくれば,凝ったスクリプトなども作れるようになるはずだ。
逆に,メインシナリオや根幹となるプログラム,3Dモデリング,アニメーション,デザインの監修などはIMC Gamesが担当するので,従来のGEのテイストが損なわれる心配はない。
「運営開発チームにかなりの裁量が与えられた半面,今までの運営チームの人員を割いて調整作業を進めているので,正直大変です(笑)。これまで半年掛けて,さまざまなテストを行ってきましたが,10月から2回に分けて実施したネットカフェでの先行体験会もその一環です。新コンテンツの反応を確認したかったのはもちろんですが,同時にプレイヤーの皆さんが実際にどんなキャラを選択し,どういうプレイをするのか,装備の差をいかにしてプレイヤースキルで乗り越えるのかなどを目の当たりにできたことは大きな経験でした。あれで運営開発チーム一同,調整の方向性が明確になったという感じです」(中尾氏)
韓国と日本では,どうしても好みが別れる部分があり,そこを理解してもらうところから始めなければならないため,無駄な手間がかかっていた。ご存じのように,ブリスティアの報酬改善やミッションのハードモード追加など,最近のGEでは日本主導の各種調整が増えてきているのだが,それでも限界はあり,部分的に日本の要請を入れた仕様に留まっていた。国内開発が始まったことでようやく,真に日本のプレイヤーに適したコンテンツを提供できる環境が整ってきたともいえる。
今後,運営開発チームの手により実装されるコンテンツのテーマは,「MMORPG本来の遊びの復活」だ。これも中尾氏と西本氏の雑談の中から浮かび上がってきた課題とのことだ。両氏は,まずインスタンスミッションの周回が中心となってしまった昨今のMMORPGのプレイに,フィールドでの狩りを,最新の手法を用いて現代のクオリティで復権させたいと話す。
しかし今は,多くのコミュニティがリアルの知り合いだけで構成されていたりします。また『World of Warcraft」でも大規模レイドには人が集まらず,10人の固定グループで遊んでいるケースが多く見受けられます。ある意味でMMORPGは,ソーシャル化しているというか,知り合い同士で遊ぶものになっているんですよね。昔のカオスな感じがなくなっています。祭り好きの日本人にとっても,あのフィールドが賑わっていてちょっとカオスな感じを再現するのはポジティブなことだと思うんですよね。それで呑みのときにも『フィールドをなんとかできないの』って話で盛り上がっていたんですよ」(西本氏)
「その一方で,多くのインスタンスミッションはプレイヤーが数人集まらなければ楽しめません。しかし多くの人はリアルの生活と並行してゲームを遊んでいますから,たとえ知り合いといえども毎日時間を合わせて一緒にプレイするのは難しいです。そのため最近では,知り合いが集まるまでの時間に一人で遊べるコンテンツの需要が高まっているのですが,それなら一人でフィールドで狩りをしているときに,ドロップアイテムがポロポロと出るのは悪くないんじゃないでしょうか。
GEインフィニティの最大の意義は,完全にインスタンスミッションが主流になった“Fake MORPG”に終わりを告げるというのが大きいです。フィールドプレイが死んでいたらMMORPGではないという意味です。ただ,単にフィールドを再生するのではなく,同時にゲームの拡張・レベリングやアイテムのトレハンや課金の構造など,面白味が足りないと判断した部分はすべて修正します。それが実現できる体制が完成に近くなりましたからね(笑)
全方位に展開することで,退屈どころか,どれを遊ぶべきか迷う状態,“それはつまりインフィニティ!”ということで,GEインフィニティです。ネーミングセンスへの突っ込みはご遠慮ください」(中尾氏)
ただし,インスタンスミッションが台頭した一因には,botの増加があったとも中尾氏は語る。botがフィールドで大量にドロップアイテムを収拾し,流通させることにより,フィールドのレアアイテムが希少性を失ってしまい,結果,フィールド自体に価値がなくなってしまうというわけである。したがって,フィールドでソロプレイのアイテム収拾を楽しませるためには,bot対策を考えなければならない。
また,GEのメインシナリオは「フェルッチオ・エスパダの遺産」を追う本来の展開に回帰し,新キャラクターは数ではなくクオリティを重視した方向に立ち返る。後者に関しては,現在,韓国で行われているプレイヤー投票のデザインバトルを勝ち残った3キャラクターが3Dモデル化され,実装される予定だ。ちなみにモデリングは,グランディス並か,それ以上のクオリティを目指すという。ちなみに「バハマル」アップデートでプレイアブルキャラクターとして再登場するシエラ・ローズも,クオリティ向上のため,モデルを作り直したとのことである。
「前回ブリスティアで失敗したじゃないですか,それで開発元もコンテンツ開発の根幹の方向性を見直していたんですよ。韓国ではすでに運営開発が存在しますので,中で遊んでいるユーザーに向けたキメ細かい調整をしっかりとやってしのげてたんですが,日本はブリスティアフィナーレから,提供できるものが少なくて,本当にユーザーの方に申し訳なかったと思っています。これからは大元のメインディッシュの拡張も入ってきますし,運営開発も頑張って,以前の数倍,楽しんでもらえるようにします」(中尾氏)
運営面でのチャレンジはさらなる無料化と「アップデート選択システム」の導入
運営面では,悪い意味での“セレブゲー”からの脱却を図る。具体的には装備強化やガチャでのみ入手できる武器,有料ダンジョンなどの対価を支払わなければ利用できない部分をすべて廃止する。
「普通に『有料アイテムモールでお買い上げください』って言いましたよね(笑)。ここは正直なところ,強く支援してくれるプレイヤーの方々に我々が甘えていた部分です。そこでどう直すかと考えた結果,ゲームプレイでも有料でも入手できるという形態を取ることとしました」(中尾氏)
無料のまま全ゲームプレイを可能にすることについて,中尾氏は以前のインタビューで「艦隊これくしょん -艦これ-」を参考にしたと発言しているが,今回,あらためて「あらゆるシミュレートを試して,このくらいドラスティックなことをやらなければ,やがてプレイヤーは一人もいなくなってしまうという結論に達しました」と語る。また西本氏も,これまでのGEが採用していたような課金形態は,短期的な売上を上げる手法としてはアリだが,1企業の看板として長くサービスを続けるタイトルであれば,今回の変更は絶対にプラスになるだろうとコメントする。
「経営を考えると,正しい,やりたいと思っても,なかなか中尾さんのような判断は難しいんです。運営の現場ではどうしても毎月の売上に追われてしまいますから,『今月はノルマに達しないから,最強武器のエクスカリバーを売れ』なんてことが普通にあるんですよ。それなのに,GEではメイン部分の無料化が許されたってことがすごいですね」(西本氏)
さらに運営面では,「アップデート選択システム」が導入される予定だ。これは,アップデートの方向性をプレイヤーに示し,どれがいいかを選択し投票させるというもの。ただし,実際はまったくプレイしていない人の意見が反映されないよう,データベースに登録されているアカウントの情報により,個々のプレイヤーが投票できる選択肢が設定される。
「プレイヤーにとっては,運営チームが同じ目線でゲームを見ているというか,一緒にゲームを作っている感覚が大事なんですよね。そういう意味では,このシステムがうまく機能すると非常にいい結果が出るんじゃないでしょうか」(西本氏)
さて,主に2013年末から本格化するGEの新運営開発体制と,アップデートの概要について中尾氏と西本氏に語ってもらった。さらなる具体的な情報は,12月3日のオフラインイベントにて公開される予定となっている。同イベントはニコニコ生放送でも中継されるので,興味のあるGEプレイヤーはぜひチェックしてみよう。
最後に中尾氏による,GEの新運営開発体制に期待している人に向けてたメッセージを掲載して,本稿の締めとしよう。
「今回の大型施策実施以降のGEは,日本開発コンテンツの追加によるアップデートボリュームの増加と,バランス調整力の向上がポイントとなります。これまで日本と韓国とでGEのサービス内容が10%異なっていたと仮定すると,この先1年では30%近くが違ったものになりますから,体感はまるで変わってしまうかもしれません。これまでどおり,韓国で開発した各種コンテンツと日本で開発したコンテンツが両方とも提供されるようになりますので,コンテンツ量も倍増します。今後の展開にぜひ期待してください」(中尾氏)
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