インタビュー
4年の歳月を経て“真の姿”に生まれ変わる? オンラインRPGの常識を覆すかもしれない「グラナド・エスパダ ルネッサンス」運営スタッフインタビュー
このリニューアルにより,GEルネッサンスには,キム・ハッキュ氏が「グラナド・エスパダ」(以下,GE)の企画段階から構想していたが,諸々の事情──その多くはビジネス上の理由や,周囲が抱く「MMORPGとはこういうもの」という固定観念に基づく批判である──によって思うように実現できなかった要素が,あらためて詰め込まれ,再構築されることになるわけだ。
また,リニューアルに合わせて新規ワールド(サーバー)が開設されるのだが,その運用方針もこれまでに例のない,新たな試みになっているという。
4Gamerでは,HUEで事業部長兼プロデューサーを務める中尾圭吾氏と,マーケティングチームの村松直也氏に,GEルネッサンスについてのインタビューを行い,コメントをまとめた形式で掲載したので,その内容を確認してほしい。
「グラナド・エスパダ プラス」公式サイト
もし4年分のコンテンツを持つ新作がリリースされたら? その思いが起点となったリニューアル企画
日本でのGEは,サービス開始から4年が経過しました。その間,アップデートを重ねてきたおかげで,質・量ともに十分なコンテンツが揃っています。そこで『今,これだけのコンテンツを備えた新作としてスタートすることができたなら,どう評価されるだろう?』というアイデアを発端に,リニューアルの企画がスタートしています。
村松氏:
GEは,開発当初から計算すると,もう8年も続いているタイトルです。このリニューアルでは,その膨大なコンテンツを,プレイヤーから見たときに最適な形にできるかという課題に取り組みました。リーダーシップを取ったのは,もちろんキム・ハッキュさんです。私達は今,それを受け取り,みなさんに提供する段階に至りました。
GEルネッサンスでは,本作を新規タイトルとして再評価してもらうべく,企画・開発を進めてきたと,中尾氏は述べる。中尾氏曰く,オンラインゲームの新作は,美麗なグラフィックスや目新しい内容によって世間の注目を集めるものの,βテストを経て本格的なサービスに入ると,すぐにプレイヤーからさまざまな不満をぶつけられることがほとんど。その不満の原因には,サービス開始当初は作品本来の魅力が発揮しきれないことや,コンテンツが不足しがちなことなどがある。とくに,コンテンツの開発速度がプレイヤーの消費速度に追いつかなくなることは,オンラインゲームでしばしば指摘されるところだ。
ここで開発速度を上げるのは困難なので,運営・開発は消費速度を抑えるための対策を施すことになる。GEでも,クエストクリアに必要なアイテムの数を増やす,あるいはそのドロップ率を低く設定するような,いわば“時間稼ぎ”の施策が見られたこともあった。しかし,それは「同じ作業の繰り返しでつまらない」「マゾい」という別の不満を生んでしまうため,根本的な解決策にはならない。
今回のリニューアルでは,新規プレイヤーをターゲットの中心に据えている。そのためゲームバランスも,初めてオンラインでRPGを遊ぶ人に向けて徹底的に調整されている。具体的には,日本のコンシューマRPGを強く意識し,これまでよりもかなり短いスパンでレベルアップし,次のレベル帯のマップへと移動できるようになる。
ゲーム序盤では1〜2時間のプレイで次々に上位のマップに行けるとのことで,それに伴って異なる風景やモンスターが続々と登場する。またモンスターがドロップするアイテムも,ある程度強化されていたり,ソケットが空いていたりする装備や,多用途アイテム「輝く水晶」のドロップも少なからず含まれており,ハックアンドスラッシュ的な楽しみ方が増しているという。
コンシューマRPGのようなプレイフィールをもたらすために,短い時間の中で,常に何かしらの“喜び”と“楽しさ”を体験できるように変化しています。またクエストの内容と報酬も見直されており,プレイしてストレスになる時間稼ぎの要素は排除しました。
村松氏:
例えば,アップデートで追加されたクエストにレベル制限があると,これまでは,プレイヤーが長時間をかけてレベル上げをしなければならなかったりしました。しかし,リニューアルでそうした部分を見直し,ストレスなく進行できるようになっています。
GEは,3体のキャラクターを同時に操作する「MCC(Multi Character Control)システム」が特徴となっており,局面に応じてキャラクターを入れ替えていくのもゲームの楽しみ方の一つだ。しかしMCCは,独自のシステムであるがゆえに,難解になってしまっている部分でもある。
さらに,1プレイヤーが3キャラクターを操るため,パーティ編成も複雑になる。すなわちプレイヤー5人がパーティを組んだ場合には,キャラクターの総数は15体に及ぶわけだ。
そこでプレイヤーにより分かりやすく,より臨場感を伝えるためにユーザーインタフェースを一新した。
さらに本タイトルは,プレイヤーから「ほかと比較して,有料アイテムの価格が高い」という指摘を受けてきたが,価格設定もリニューアルされ全般に安価となり,一部は無料となる。
無料化の最たる例は,キャストキャラクターの編入だ。つまり,ストーリー上で仲間にできるキャストの編入には,有料アイテムがほとんど不要になるのである。今後は,キャスト編入クエストを進めて,最後の最後で有料アイテムが必要だと判明し,愕然とすることがなくなるわけだ。
ただしストーリー上,仲間になるエピソードのない「賢者エミリア」や「海賊アデリーナ」のような,いわばバージョン違いのキャストは,今後も有料での提供となるのでご注意を。
なお,レベル100ごとに必要だった,次の段階に進むための有料アイテムも不要になる。
中尾氏:
『スタンス』の変更により,キャラクターの性能を調整しています。ほぼすべてのゲームシステムに手が加えられているので,まったく新しいゲームといっても過言ではありません。
ハッキュさんは,クリエイターとして,GEが自分の求めるゲームの水準に達していないと常々考えていたようです。HUEでも『GEはこんなものじゃないはずだ』と考えていましたので,1年以上前からハッキュさんと共にGEルネッサンスへのリニューアル作業を水面下で進めてきました。そして今回,ようやくお披露目できる運びとなったのです
村松氏:
MMORPGには“長く遊んでいただく”という目的があり,それに基づくビジネスモデルが存在します。しかし,そのために,プレイフィールやテンポといった本来の“RPG”たる部分が疎かになっていたのも,また事実です。そこでリニューアルでは,ビジネスの枠を無視し,既存のMMORPGの概念に捉われることのない調整を目指しました。今回,敢えて“理想のRPG”“RPGとしての完成度”を謳っているのは,そこを表現したかったからです。
新ワールドには段階的にコンテンツを追加。初心者も経験者も公平にスタート
リニューアルと同時に,新規ワールド「セレスタイト」が新設される。このセレスタイトでは,当初レベルキャップが100に設定され,全コンテンツの4分の1程度の範囲のみが公開される。また,たとえリボルドウェであっても,地下水路など高レベルプレイヤー向けの場所は閉鎖されている。さらに武器や防具,あるいはキャストが持つスタンスもすべてレベル100以下に制限される。
これは上記のとおり,GEルネッサンスを“新規タイトル”として市場に投入するための施策であるが,それ以上の思惑もあるようだ。
“理想の運営”を提供したいんです。GEでもそうだったんですが,オンラインゲームのアップデートはコンテンツ開発の進捗に左右されます。しかしGEルネッサンスでは,すでに膨大なコンテンツが存在しますから,それを実際に遊んでいるプレイヤーのみなさんの動向に合わせて実装していくことができます。これは私達も含めて多くの運営が理想として掲げてきましたが,事実上,実現不可能でした。
セレスタイトにレベルとマップの制限を加えたもう一つの理由は,まったくの初心者と,経験者の格差をなくすためだ。例えば経験者が,キャラクターのレベルを上げる効率的な方法を知っていたとしても,その制限があるせいで実行できなくなるわけである。
ある意味,強制的に初心者と足並みを揃えることになるわけで,経験者側にストレスが溜まってしまわないか? という意見もありそうだが,セレスタイトは,あくまで新規プレイヤー向けという位置付けであることに注目してほしい。
中尾氏:
セレスタイトのレベルキャップは,当初,50くらいを考えていたのですが,それだと,GEルネッサンスがウリとする豊富なコンテンツを十分体験できないんです。レベル100までなら,メインストーリーを追うクエストや,キャスト編入クエストはもちろん,ボスモンスター戦や各タイプのPvE,各タイプの対人戦,あるいは『チームアリーナ』や『スーパーファイト』といったPvEと対人戦を組み合わせたさまざまなコンテンツを,一通り楽しむことができます。
新規タイトルで,これだけのコンテンツを揃えるのはまず不可能です。しかも,あとからリリースされたからといって,必ずしも優秀なタイトルとは限りません。しかし,GEルネッサンスを新ワールドで新作としてプレイするなら,最初から洗練されたゲーム性と大きなボリュームが約束されているわけです。
GEルネッサンスの企画を進めるにあたり,MMORPGは多人数が空間を共有するものであるからこそ,一つに特化してはいけないといった,多様な遊び方を提供しなければならないという考え方がありました。そこでボス戦もインスタンスミッションだけでなく,フィールドにも登場させるわけです。
まだまだ完全とはいいきれませんが,GEは正式サービス開始以来,これだけの成長を遂げました。今回,セレスタイトには制限をかけていますけれども,GEというゲームの特徴を損なうことのないよう配慮しています。例えば,GEでは同じボスモンスターでも通常のフィールドで,みんなで競争しながら討伐する形式と,インスタンスのミッション形式の二つを用意して,プレイヤーが選べるようになっています。後者は報酬面で若干劣るのですが,それはフィールドよりも難度が下がることを考慮した設定です。こうした選択肢の多さを,セレスタイトでも十分に体験していただけます。
MMORPGだと競争に特化してしまいがちなのですが,GEルネッサンスでは幅広いコンテンツを,皆さんの選択によって楽しんでいただこうと考えています。一人でも,少人数向けのMOとしても,そしてもちろん大人数でMMOとしても楽しめます。
今回のリニューアルに限らず,GEはサービスを続けてきた中で,さまざまな新規プレイヤー獲得の施策を講じてきた。例えば,新規プレイヤーと先行プレイヤーの差をなくすために,獲得経験値を増やしたり,あるいは最初から強力な装備をプレゼントしたりといった,ほかのMMORPGでも見られるような手法である。
しかしそれは,街にいるさまざまなNPCを,クエストを通じてキャストとして仲間にし,さらに育成して戦力に加えていくというGEのゲーム性とはマッチしなかった。
村松氏:
そのやり方は非常に雑ですよね。あとから来た人に『早くここまで来い』というだけの,いってみれば我々のエゴです。多様性を提示するなら,もっと段階を踏まなければなりません。
今まで,我々はレベル100までを“低レベル帯”と呼び,ある意味で軽んじてきました。そこを今回はきちんと見直し,レベル1からみんなでゆっくりとコミュニティを育み,さまざまなコンテンツを一緒に楽しんでいける環境を提供しようとしているわけです。
中尾氏:
当時は,上位のプレイヤーに追いつかせることが重要だと考えていたんです。ところが,それは失敗でした。経験値や装備を提供しても,プレイヤー視点で見ると,プレイが作業になってしまうだけなのです。レベルがサクサク上がるとはいえ,単調な作業を続けて面白いかといえば,そんなことはないですよね。
また先行プレイヤーは,それまで時間をかけてコミュニティを築いているわけです。初心者が追いついてコミュニティに加わったり,対人戦で互角に戦ったりするには,やはりプレイヤーの方がしっかりゲームを楽しみ,キャラを育てていくのが1番です。能動的な動きに頼るしかありません。
長くサービスされているタイトルには,それだけの魅力がある。その事実を証明すべく,業界に一石を投じる
今後,セレスタイトでは,プレイヤーの動向に合わせ,レベル100ごとに四つの段階に分けてコンテンツが開放されていく。開放のスパンは実際に蓋を開けてみないと分からないとのことで,コンテンツもすでに存在することから,敢えて予定も立てていないそうだが,当初のレベル100までの段階は,短くとも2か月程度を見込んでいるようだ。
GEの面白さの8割は,レベル100までの間に一通り体験できます。あとはその面白さが縦方向に伸びていくイメージです。そこで序盤は少し時間をかけて,なるべく多くのコンテンツを楽しんでいただこうと考えています。
村松氏:
一口に低レベル帯や序盤といっても,コンテンツ量は結構ありますからね。決して試食のようなものではなく,いろいろなコンテンツを楽しみながらゲームの今後を期待できる内容になっています。
中尾氏によれば,3体のキャラクターをレベル100にするのはあっという間とのこと。それを成し遂げたからといって,そこで終わりとはならない。むしろ,GEでは,多くのキャストを集めて育成し,さまざまなシーンに対応できるようになって初めて,一人前になったといえるわけだ。
また,セレスタイトでレベルキャップに達してしまい,早く先に進みたいというプレイヤーを,既存のワールドに移住させるようなサービスも検討しているとのこと。逆に,既存のワールドからセレスタイトへの移住はまったく考えていないという。
また村松氏は,この試みが成功すれば,今後の新規ワールド追加時にも同様のことを行うと述べ,HUEで扱うタイトルに応用する可能性を示唆した。
さらに中尾氏は,今回の試みがHUEという一社の中だけに留まらない,もっと大きなスケールでのMMORPG業界の再生に繋がるかもしれないと展望を述べる。つまり,長くサービスを続けているタイトルには,必ずそれだけの理由──プレイヤーにとっての魅力──があるというわけだ。
そうしたタイトルが,ただ「古いから」という理由だけで敬遠されるのであればもったいない,人気を集める既存タイトルと新規タイトルがせめぎ合うことで,業界がさらに盛り上がっていくのではないかと,中尾氏は述べる。無論そこには,長い期間の中でどんな苦境に立たされても,諦めずに自分の理想を実現しようとする熱意を持った,キム・ハッキュ氏のようなクリエイターの存在が欠かせないだろう。
中尾氏:
他社のものも含めて,新規タイトルが大きな注目を集めて新規プレイヤーの流入を促すのは喜ばしいことです。しかし,その一方で『老舗に行けば間違いない』という空気を市場全体に作っていきたいですよね。
それでは最後に,両氏からGEルネッサンスに期待している読者に向けて,メッセージをいただいたので掲載しておこう。
村松氏:
8月12日に,GEルネッサンスとしてタイトルリニューアルを行ないます。そして,そのリニューアルのデビューを飾る新規ワールドを用意しました。GEルネッサンスを名実ともに皆さんにお届けできることを,私達は嬉しく思っています。
GEは日本で4年間の歴史を持っていますから,そこにはポジティブな面もネガティブな面もあります。古いと思う方もいるでしょうが,その一方で我々は,コンテンツが充実しているという部分に自負を抱いています。まったくのオンラインゲーム初心者という方も,何本も遊んできたという方も,今回のユニークな取り組みをお楽しみいただきたいと思います。
中尾氏:
GEを作ったキム・ハッキュさんは,日本の古きよきRPGに憧れ,非常に大きな影響を受けたクリエイターです。初めてオンラインゲームをプレイされるという方にも,GEは非常に安心して遊んでいただけると思います。また,小林智美さんのキャラクターデザインや,久保田 修さんの楽曲に代表されるように,今なお色褪せない魅力を誇っており,多くの人にアピールできるタイトルです。
またオンラインゲーム慣れしている人,以前GEに触れたことのある人に向けては『ようやく理想のGEが登場します』と声を大にしてお伝えしたいです。そして新規ワールドでは,理想の運営をお届けできる準備が整いました。
最後に,現在,GEをプレイしている方に向けては,あらためて最大級のアップデートが来ることをお伝えします。皆さんの期待に添えるものになっていますので,ぜひ楽しみにしていてください。
なおGEルネッサンスのリニューアル当日の混雑を避けるため,8月3日からセレスタイトで先行キャラクターメイキングキャンペーンが実施されている。期間中に,セレスタイトにキャラクターを作ったプレイヤーにはゲーム内アイテムがプレゼントされるとのこと。この記事を読んでGEルネッサンスに興味を持った人は,ぜひセレスタイトでキャラクターを作り,8月12日からのスタートに参加してみてほしい。
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