インタビュー
サービス開始が遅れた「ヤン魂。」の開発現場では,何が起きていたのか? 安藤プロデューサーに聞く
iPod用のゲームを作って,ヤン魂。に向けての自信がついた
ヤン魂。以外に,iPod用の「ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律」というゲームを作られたのも,革命戦士だからこそですね。
安藤氏:
あれは,何か新しいものを作ろうと思っているときに,iPod用のRPGを誰も作ったことがないことに気づいて,じゃあ僕がやってやるよ! と。実はスタッフこそ違うメンバーなんですが,ヤン魂。とまったく同じ会社と作ったんですよ。
4Gamer:
え,そうだったんですか。
安藤氏:
ヤン魂。と似たような問題は起きましたけどね。ただこれは,会社がどうとかではなくて,集団で物作りをするときには,いろいろな問題が起きるものなんですよ。ただ,ソングサマナーでは一時期,ヤン魂。の比じゃないぐらいエラいことになってしまったんです。で,「お前ら,スクウェア・エニックスの名前でファンタジーRPGを作ることの意味が分かってるのか!」と,指揮だけじゃなくてとにかく自分で手出ししまくることになって,仕様,世界観,シナリオなんか全部作りました。
4Gamer:
ヤン魂。と並行して……ですよね?
安藤氏:
時期的にはそうなんです。だから一時的にヤン魂。に割ける時間が物理的に少なくなってしまったことがあって,それは心残りではあります。ただ,いろいろと手を出すことで面白くなったと思いますし,売れ行きもなかなかいいんですよ。二桁万ぐらいかな。
4Gamer:
iTunes Storeを使えば販路は世界中に広がりますもんね。
安藤氏:
英語圏なんかでもけっこう売れてますね。おかげさまで。
4Gamer:
ただ飯食らいとは呼ばれなくても済むようになりましたか?
安藤氏:
自分の食い扶持ぐらいは,なんとか(笑)。頑張って良かったなって思いますし。でもそれ以上に,プロデューサーとしての自信になったっていうのが大きいんですよ。
4Gamer:
といいますと?
安藤氏:
プロデューサーの仕事って,良い選手を揃えることだと思っているんですよね。それなのに選手兼監督でもないのに「代打,オレ!」なんてしゃしゃり出て,決勝ホームランを打つような姿勢って,どうなんだろう? って。これを崩してまで,自分で手出しをしまくっていいのかなぁって悩みもあったんですよ。
4Gamer:
でも現実には,あれこれ手を出すことに。
安藤氏:
そう,「あ,これはやらないといかん!」という直感があったから,それに従ったんです。で,僕が面白いと思うものを直接作ってみて,世の中の皆さんに喜んでいただけたことで,腕試しができたというか。それこそ,ヤン魂。のプロジェクトを進めていくうえでも,「これはちょっと違うな」と思ったことに対して,「こうやってくれ」って直接手を下すことができるという自信がついたんです。
批判はすべて僕に向けてくれていい
4Gamer:
そんなこんなで,一番最初に発表された予定から1年も遅れてしまったわけですが,逆にこれだけの期間を費やしたことで,得たものはありますか?
開発資金は厳しくなりましたけど(笑),助走期間があったことで,僕がヤン魂。を作るうえで大事にしている部分だとか,公式祭斗なんかのデザイン,言葉の使い方なんかが,ゲームポットに受け継がれたっていうのは,大きいですね。
伊勢氏:
受け継ぎました(笑)。
安藤氏:
公式祭斗は毎週1回必ず更新してるんですけど,最初のうちは僕が考えていることに伊勢さんがついて来られなかったんですよね。だからいちいち「それは違う。ヤン魂。はそうじゃないんだ」っていう話をしなきゃいけなくて。
伊勢氏:
最初のうちは,「この人は何を言ってるんだ?」って思いましたね。
安藤氏:
それこそ「堀井さんは句読点をここでは使わない」みたいな話をしてましたし(笑)。
伊勢氏:
でもだんだん,安藤さんが考えていることをエミュレートできるようになってきて,今ではこれは私しかできないことだっていう自信もついてきました。
4Gamer:
だんだん,伊勢さんが安藤さんの依り代のように(笑)。
だから公式祭斗のデザインや文章について,今はほとんど文句なしなんですよ。僕が直接作ったんじゃないかって思えるぐらいに。
プロモーションなんかも相当応援していただいていて,そこの展開にもまったく問題ありませんし,だからこそ面白いものを作るということだけに注力できるんです。これは,助走期間が長くなったからこそですね。
伊勢氏:
深いコミュニケーションもできるようになりましたからね。普通は運営って,開発に対して仕様レベルから口を出すようなことはないんですが,ヤン魂。に関してはかなり細かく注文しています。そういう意味でも,運営を含めたいいチームになってきたのかなと。
4Gamer:
そういやってチームが一丸となってくると,プレイヤーにとって不満をどこにぶつけるべきなのか? っていう悩みも出てくると思うんですよ。運営なのか開発なのか,それとも安藤さんなのかという。
安藤氏:
そこはもう,僕でいいです。僕が名前を出してブログもやってるわけですから。プロジェクトによっては,あんまりこういうことはしないんですけど,ヤン魂。に関してはね。
4Gamer:
ヤン魂。と安藤さんは,完全にイコールで結ばれているような印象すら受けます。
安藤氏:
作品ってそれ自体がメッセージでもあるんで,作り手が前に出過ぎちゃうと作品の邪魔になることもあるんです。でもヤン魂。に関しては,自分が出て行けば出て行くほど,プレイヤーとのコミュニケーションが深まっていく感じがするんですよね。
「コイツが作ってるのか」「コイツがダメなのか」「コイツがたま〜にいいことしてくれんのか」っていうのがプレイヤーに分かってもらえれば,それ自体もキャッチボールになるし,そこから弾んでいくものもありますしね。
4Gamer:
批判は全部受け止める! と。
安藤氏:
ええ。それが開発に直接向いちゃうとね……。中にはそういうのに慣れていない人もいるし,そこで凹んで作業が遅れたりしたら一番困りますから。
4Gamer:
ブログや掲示板にはぱっと見た感じだと厳しいコメントが並んでますから,あれをすべて一人で受け止めるのは安藤さんご自身もキツイんじゃないかと思うんですが。
安藤氏:
いやでも,かれこれ1年半ぐらいブログやっていて,文字面だけ見ると本当に酷いことが書かれていたりしますけど,その向こうで僕らに何を伝えたいのか,なぜ怒っているのかというのが分かるようになりましたから。「安藤氏ね」とか「つまんないからアンインストールしました」とか,本当にそのままの意味ではないこともけっこうあるんです。
4Gamer:
本当に気に入らないだけだったら,何も言わずにアンインストールしてほかのゲームやりますよね。
安藤氏:
こいつ乱暴なこと書くなっていう人ほど,やり込んでくれてるんですよね。だって,オープン特攻テストが始まってからまだ,一週間も経ってないのにレベルキャップに到達してる人までいますから。あれ,寝ないでやらないと無理ですよ。
作品を良くしていくためには「まだダメ」という声が大事
4Gamer:
そういう熱いプレイヤーの存在は,ヤン魂。にとってかけがえのない財産だと思うんですが,第一期が大好きだった人が求めているものと,安藤さんが作ろうと思っているものの間に,けっこう大きな溝があるように感じるんです。結果,第一期が大好きだった人達は第二期に対する不満を叫び,そういう不満を先に目にしてしまうことで,新しい人が入りづらくなっているような気もします。
安藤氏:
そうですねぇ……。新しい人は第一期からの人に比べて少ないですね。今は。
ゲームポットでも初めからそれは想定していたことなんです。だから,第一期からの人達と第二期が初めてという人達をいかにして融合するかということを考えていて,そのための施策が「“絆”プロジェクト」だったりしたんです。
ただ,サービスが遅れたことで,第二期の発表時に初めて興味を持ってくれた人も,ほかのゲームに流れてしまった部分があると思うんですよね。その結果,第一期からの人が目立つような形になっているというか。
4Gamer:
ああ,サービスが遅れるとそういうリスクも生まれるんですね。
ただこの先,何かのきっかけで初めてヤン魂。に触れようと思った人も,第一期の人達が不満を抱えている様子を見ると,萎えてしまうんじゃないかとも思うんです。
安藤氏:
あー,確かにこれまでのヤン魂。を知らない人があれを詳しく読むと,まず萎えますよね。
伊勢氏:
「なんだ,このコミュニティは?」って思いますよね。作ってる人間にあそこまで言うゲームって,あんまりないですし。
4Gamer:
安藤さん達は厳しめのコメントの真意を分かっていても,それが新しく遊ぼうという人にとってのハードルになってしまったら,結局のところ第一期からのプレイヤーにとっても不幸だと思うんです。このあたりは,どうお考えですか?
まず第一期が好きだった人に対しては,まだ足りていないところを埋めていく作業っていうのが大事だと思っています。今は,家に家具を置いて,そこでのんびりチャットするようなことすらできないですし,刺しゅうを見せびらかしてコミュニケーションすることもできません。フォーメーションバトル待望論にも,いずれ応えていきたいですしね。
そうやって第一期からの人達が納得してくれたら,厳しめのコメントも少し収まるかなーとは思ってるんですけど(笑)。そしたら,新しい人達も安心して入ってこれるんじゃないかなって。
4Gamer:
ただ,フォーメーションバトルが入れば,それでいいのか? という気も……。
安藤氏:
第一期のフォーメーションバトルの評判の悪さといったらなかったですからね(笑)。
伊勢氏:
最初の1回は爆笑するんですけどね。なんだこりゃって。ヤンキーが繋がってるじゃん! って。
4Gamer:
失礼ですけど,もの凄く評判の良かったシステムというわけではありませんでしたよね。あそこで生まれたほかのプレイヤーとのコミュニケーションこそが,重要だったのではないかとは思います。あと,限定復活のときは短期間だったからこそ楽しめたっていうのもあるでしょうし。
ヤン魂。ではそういうのも大事なことではあるんで,何らかの形で応えたいとは思ってるんですけどね。ただ,杓子定規的に第一期に戻します! というのじゃなくて,それこそ2009年1月7日に実装する「バンボーバトル」みたいに,フォーメーションバトルでは実現できなかったような,本当のヤンキーの世界を踏襲した新システムも用意しているんで,まずはこれを楽しんでほしいというのがあります。
4Gamer:
本当のヤンキーの世界……?
安藤氏:
バンボーバトルは4対4の対戦ができるんですけど,総長,親衛隊,特攻隊長みたいに役割があるんですよ。親衛隊は総長を守り,特攻隊長は相手に切り込んでいくみたいな。こういう役割分担って,フォーメーションバトルが過去に存在したからこそ,生まれたものなんですよね。
やることはフォーメーションバトルとは違うけど,画面はなんとなく似ているし,チャットもできるし,駆け引きも楽しめると思うんです。
4Gamer:
単純にフォーメーションバトルを復活させるんじゃなくて,フォーメーションバトルを下敷きに,新しいものを作っていきたいということですね。
安藤氏:
フォーメーションバトルを求める声はありがたいですけど,そういう要望を全部聞いているとゲームとしてしっちゃかめっちゃかになっちゃうんで,要望を自分なりに解釈して提示していきたいなと。何を作っても要望がゼロになるようなことはないでしょうけど。
4Gamer:
要望がなくなったら,それはそれで怖いことですし。
安藤氏:
作品を良くしていくためには,OKをなかなか出さないクライアントって大事なんですよ。「もういいよ」って言われちゃうのが一番怖くて。「まだダメ」「まだダメ」って言ってくれるというのは,そりゃ相当な数の駄目な部分もあるんですけど,改善が期待されてるからだと思うんですよね。
たとえ自分の中で納得して「お,これは面白い」ってなっても,きっと「まだダメ」って言われると思うし,こちらもそれに応えるようなものを作っていきたいですし……。
少々長くなってしまったので,とりあえずここまでを前編とさせていただきたい。とりあえず,開発の現場で何が起きていたのか,そしてそれをどんな気合いで乗り越えてきたのかが,お分かりいただけたのではないだろうか。サービス開始が遅れようとも,不備があろうとも,安藤氏はヤン魂。に対して熱い情熱を持って取り組んでいることは確実である。
さて,明日(12月26日)掲載する後編では,現在賛否両論の「喧嘩ストロングモード」についての考えや,オープン特攻テスト直前に突然発表された,開発元シンクアーツの解散などについて聞いている。そちらも合わせてお読みいただきたい。
「疾走、ヤンキー魂。」公式祭斗
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