インタビュー
2011年,ハンゲーム×コンシューマゲームメーカーの共同開発ラッシュが始まった! でも……なぜ!? 黒川文雄事業部長に,その真意を聞いてみた
これまでも,バンダイナムコオンラインの「プロ野球 ファミスタ オンライン」(2006年)やシステムソフト・アルファーの「大戦略WEB」(2010年)など,同様の取り組みを単発で行っているNHN Japanだが,今回の一連の新作ラッシュは,新規事業として本格的にこれらを展開していくものの一環になるのだという。
今回4Gamerでは,この“新規事業”のトップを務めるNHN Japan コンテンツ営業企画事業部 事業部長 エグゼクティブプロデューサー 黒川文雄氏に,事業展開の狙いと概要,そしてその背後にある意図や思いなどを聞いてきた。
「ハンゲーム」公式サイト
「ブラウザ カルネージハート」インタビュー
「シュヴァリエ サーガ タクティクス」インタビュー
「プラネットフロンティア」インタビュー
新規事業ではオンラインゲームと
コンシューマゲームを繋ぐ架け橋を目指す
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。黒川さんはこれまで日本のゲーム業界の各方面で活躍されていましたが,現在,NHN Japanでどんなお仕事をなさっているのでしょう?
これまでの経験を生かして,今はNHN Japanで日本のコンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパさんとの共同開発案件を手がけています。
私はもともと,セガでゲーム会社の企画開発支援や対外的なお付き合いのやり方などを学び,そのあとデジキューブに入社しました。さらに自分で会社を創りオンラインゲーム(※「アルテイル」)をリリースしたわけですが,その当時に,NHN Japanやガマニアさんとお付き合いをさせていただきました。さらにそのあとブシロード,短い間でしたがKONAMI……そして今,NHN Japanでこの仕事をしています。
4Gamer:
錚々たる経歴ですよね。
黒川氏:
こうしてあらためて挙げていくと,一巡したという感がありますよね。「エンタメのグランドスラム達成者」と評する人もいます(笑)。ただ,だからこそコンテンツの企画や作り方,プロデュースに関して,これまでの経歴と“やってきたこと”を,すごく生かせる立場になれました。
NHN Japan側としては,この事業を通じて,ハンゲームのユーザー層を今までよりも広げていきたいという狙いがあります。最近でこそ「TERA」のような重厚感溢れるタイトルも導入されましたが,やはりハンゲームのお客様は今でもライトなゲーマーさんが中心です。そこで,より広いユーザー層にアピールすべく,日本のコンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパとの共同開発を推進することにしたわけです。
4Gamer:
もともとNHN Japan側に計画があって,それに適した人材として,黒川さんに声がかかったという流れですか?
黒川氏:
どちらかといえば,そうですね。とはいえ,私も今回の事業については「人生の集大成にしよう」と考えるくらいの意気込みを持って臨んでいますよ。
ここ最近,世界的なレベルで見て日本のゲーム産業は厳しいという話をよく聞きますが,日本のゲーム業界が蓄積してきたノウハウは,やはり凄いんです。今,海外パブリッシャが業績を伸ばしているのは,そうした日本のノウハウを研究した結果じゃないでしょうか。
4Gamer:
たしかに「ファミコン時代」から積み重ねられてきた日本のノウハウは,今もゲーム業界の根幹を支えるものだと感じます。
黒川氏:
そうした日本のノウハウには,まだまだ生かせる場や作品があるはずです。これまでの日本ゲーム業界のノウハウに,オンライン要素やネットワークでユーザー同士が繋がっていく要素を加えることで,コンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパとオンラインゲームパブリッシャは共存できる。これが,私の手がける事業を強力に推進している理由です。
4Gamer:
その取り組みの成果として,2011年夏に数タイトルがハンゲームからローンチされますが,すべて黒川さんが企画から携わっているんですか?
黒川氏:
それらのタイトルは,私が入社する前から動いていたものです。私が最初から携わったタイトルは,2011年末から順次ローンチ予定となります。
4Gamer:
なかには結構,大きなタイトルもあると耳にしました。
黒川氏:
そうですね。詳細はまだ公表できないのですが,すでにコンシューマゲームとして一定以上の成功を収めている作品で,PSP版なら20〜30万本のセールスが見込める実績のあるタイトルを,オンラインゲーム化しようというものがあります。単純なオンラインバージョンというよりは,コミュニケーション要素や育成要素を付加して,もともとのゲームとは少しテイストが異なるものになると思います。とはいえ,もちろんテーマと世界観は一貫していますが。今,お話できるのはこのくらいですね。
ほかにも,完全オリジナルの新規タイトルも開発中です。これはNHN Japanとゲームパブリッシャ/デベロッパとが,今まで以上に密接にやり取りして,企画から一緒に作っているもので……こちらもいずれ,詳しくお話できるかと思います。
4Gamer:
分かりました。その日が来るのを楽しみにしています。
では話は変わりますが,黒川さんの手がける事業はNHN Japan内で,どういった位置付けになっているのでしょう? 共通しているのは,すべて「ブラウザゲーム」であること。しかしハンゲーム内においては“コア寄り”の作品ばかり,といった印象を受けるのですが。
位置付けというと少し難しいのですが,まずNHN Japan内の事業を整理してみましょうか。「TERA」や「ドラゴンネスト」のようなオンラインRPGは,韓国で業績のあるタイトルをローカライズして提供していますよね。一方でスマートフォン事業は,3年間という期間で100億円という予算をかけて,これから市場を作ろうとしています。加えて,昔ながらのアバター事業もあります。
そんななかで私の事業が目的とするのは,まさに新しいユーザー層──“コンシューマゲーム層”の開拓なんです。
4Gamer:
新しい顧客層として,コンシューマゲーム層をターゲットにした理由は何でしょう?
黒川氏:
一部のコンシューマゲーム層には,「オンラインゲーム」や「ソーシャルゲーム」を,格下のゲームとして捉えている風潮を感じています。
しかし私自身は,文化やコンテンツ,ジャンルは,より細分化されて変化や進化を遂げていくと捉えています。デバイスも進化していますから,今やあらゆる端末でさまざまな遊び方ができるわけです。
そうしたなかで,特定のハードにこだわる従来のコンシューマゲームビジネスは閉塞してしまうといえますし,またユーザーがオンラインゲーム/ソーシャルゲームに偏見を持っていることも,現状を見れば“何か違うんじゃないか”と感じます。そこで我々は,「コンシューマゲーム層も満足できるようなオンラインゲームを提供できる」という信念をもって,事業を進めているわけです。
4Gamer:
ただ一方で,その「市場が細分化された」結果として,最近は,一部の超大作を除いて,個々のビジネスのバジェット(予算)が小さくなる傾向にありますよね。例えば,以前なら1種類の商品を100万人に届けるような,ミリオンセラーを狙ったビジネスが可能でしたが,今は100種類作ってそれぞれ1万人ずつに届けるようなビジネスをやらざるを得なくなっているのではないですか。
そうなると,1種類ずつの規模はどうしても小さくするしかないというところからも,現在,ブラウザゲーム/ソーシャルゲームのビジネスが勢いを増している背景は見えると思うんです。
黒川氏:
そういうことですね。以前と比較して,ビジネスバリューやビジネススケールは小さくなっています。しかしその一方で,そこから生まれる大きなビジネスのチャンスも増えました。つまり,小さなビジネスから大きなビジネスに転換させていける可能性があるんです。
4Gamer:
なるほど。単にビジネスが縮小して終わりという話ではないのですね。
黒川氏:
私個人は,ビジネスの流れのなかで,こういう厳しい時期もあるだろうと捉えています。季節の移り変わりと同じでしょう。残るべきものは残るし,淘汰されるべきものは淘汰されるんです。今でいえば「SAP」(Social Application Provider,ソーシャルサービスの開発・提供を手がける企業)と呼ばれる会社はたくさんありますが,チャンスをものにしたところは残るし,そうでないところは,いずれ淘汰されたり吸収されたりしていくでしょう。
「予算を出すから作れ」ではなく
一緒にいいゲームを作っていくための共同開発
4Gamer:
黒川さんの手がける事業では,ブラウザゲームを専門に手がけるデベロッパを開発元に起用しているのですか?
いえ,基本的にはあくまで“コンシューマゲームのパブリッシャ/デベロッパ”のみです。ネットワーク管理の部分はNHN Japanが担当しています。
かつて私がオンラインゲームを作ろうと思ったとき,私と同じくコンシューマ系メーカーから独立したデベロッパに話を持ちかけたのですが,バジェットなどの関係で一蹴されました。そのため,当時はシステム開発などを本業としている会社に依頼するほかなかったんです。
ところが今ではバジェットが一段低いにも関わらず,コンシューマゲームのデベロッパも開発を受けてくれるようになりました。時代は変わりましたよ。
4Gamer:
それは技術的なハードルが下がったからでしょうか?
黒川氏:
それもありますし,ツールやライブラリー的なものが行きわたったとか,比較的簡単に開発ができることが分かったというのもありますね。あとは先ほどもお話ししたような,ゲーム市場の変化という実情もあるからでしょう。それまで億単位だった予算が千万単位になり,場合によっては百万単位になることもあって,もはやブラウザゲームは選択肢として外せなくなったと。
4Gamer:
少し話が違うかもしれませんが,今はコンシューマゲーム1つを完成させるのに2〜3年かかるので,開発者1人あたりが世に送り出せる本数は減り,若い開発者が完成品を消費者に評価してもらう機会も減っていますよね。そこでそうした経験を積ませるために,比較的短期間で済む小規模プロジェクトとして(ブラウザゲームやスマホアプリなどの開発を)若手に任せてしまうケースがあると聞いています。
黒川氏:
確かに,その話も最近よく聞きますね。ただ,私からすると,かつてどこかで見た光景なんですよ。
この事業に取り組んで半年以上,いろんなところを回って話を聞きましたが,とある大手パブリッシャは「開発資金として数千万円出すから好きに作れ」と言ってきたり,本当に大きい会社だと「数億円出すから5年間コンテンツを自由に使わせてほしい」というオファーがきたりするそうです。
しかし私は,「開発資金を出すから作れ」では,本当にいいものは生まれないんじゃないかと思うんですよ。もはや,単純にアカウント数が多いからサービスが成り立つ時代ではないんです。これはマインドの問題かもしれませんが,“いいサービスやいいゲームを作ること”には,常にこだわるべきだと考えます。
4Gamer:
そうした開発競争を続けていくうえでは,現状,MobageやGREEが競合となりますよね。過当競争に陥ったりはしないんですか?
黒川氏:
既になっていますよ(笑)。デベロッパに開発を依頼しようとしても,「もう受注がいっぱいで新作は受けられません」という返答になったりしています。
ただ,デベロッパと話していて思うのは,やはり皆さん開発者としてのプライドは捨てていません。「いいモノを作りたい」と言うんです。
私個人は,「いいモノを作りたい」という意志が共通であれば,途中で揉めたりこじれたりすることはあるにせよ,結果,いいモノにに仕上がっていくんじゃないかと思っています。もちろん収益の部分も保証しなければなりませんが,儲けよりも「結果が次につながるような“いいモノ”を一緒に作っていきたい」という気持ちがありますね。まあ理想論ではありますが。
4Gamer:
体力のある大手IT企業が資金を提供し,生粋のゲームデベロッパが開発を担当するという現状の図式ですが,これもまたどこかで見た光景です。
黒川氏:
といいますと?
4Gamer:
例えばオンラインゲーム周りでいえば,かつてソフトバンク系列の会社がファンドを立ち上げて,開発会社に投資して新しい作品を……というスキームがありましたが,そこから生まれたオンラインゲームの多くは,ビジネスとしてあまりうまく回りませんでした。というか,あまり多くの作品は生まれませんでした。その理由は,純然たるビジネスマターの話というよりは,そもそも“ゲーム”という商品に対する根本の考え方が,お金を出す側と開発会社とで食い違っていたからだと思うのです。それと似たようなことが,今後起こりかねないと考えてしまうのですが。
黒川氏:
コンシューマゲームのデベロッパの多くは,オンラインゲームを否定しているわけではなく,作り方が分からないんですよね。企画はあるけれども,オンラインゲームとしてどう面白くできるかが分からない。なので「その部分をいかにサポートできるか」という話を,我々はかなりさせていただいていますよ。
4Gamer:
NHN Japan内部に,開発支援チームのようなものがあるんですか?
黒川氏:
そうです。あとは運営支援とサーバー管理を担当する会社のNHN STが,中国の大連と東京,そして福岡にあります。NHN JapanとNHN STが連携してバックエンドの仕組みを作っていますから,24時間体制の運営サポートもできますし,ゲームのレビューなども対応できます。
4Gamer:
ゲームパブリッシャにしろデベロッパにしろ,オンラインゲームの運営経験がないところが多いですよね。それでも適切なサポートが受けられるのでしょうか?
黒川氏:
実は私自身,入社するまで,今のNHN Japanでここまでいろんなことができるとは思っていなかったくらい,かなり充実しています。というのも,かつて自分で起業し「アルテイル」をチャネリングしてにいた頃にNHN Japanと付き合ったときは,サービスが行き届いていなかった感があったんです。もちろん,ハンゲームにゲームを提供することでお客様は増えましたが,それ以上はとくに何もしてくれなかったような感じで。
その頃と比較すると,今のNHN Japanはサポートも行き届いているし,サーバー管理やバックエンドの仕組みもクオリティが上がっています。
4Gamer:
なるほど,それは説得力がありますね(笑)。
黒川氏:
デベロッパが作るシステムに,オンラインゲーム的な要素や販売の仕組みを入れたり,といったことも同様です。そこはNHN Japanに任せていただければ,お互いにいいものができるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
具体的にゲームパブリッシャ/デベロッパと,NHN Japanでどういった役割分担をしているのですか?
黒川氏:
私が企画から携わったタイトルを例にとりますと,大雑把に言えば,ゲームの企画骨子は先方が考えて,いわゆるマネタイズの部分をNHN Japanが担当しています。
デベロッパがコンセプトやシステムを考えて,NHN Japanがそこに「保証」「誇示」といったネットゲームに必要なキーワードに沿って,いかにしてプレイヤーの皆さんに気持ち良く遊んでいただき,お金を払っていただくに値するゲームにしていくかを加えるんです。例えば海を舞台にしたゲームを先方が企画した場合,海に潜るには何が必要か,潜ったときに何があるか,より深く潜るためにはどうするか,それをビジネス的に考えるのが我々というわけです。
4Gamer:
NHN Japan側のプロデューサーがマネタイズについての企画書を作り,デベロッパに提出するというイメージですか。
黒川氏:
そうです。もっとも単に提出するだけでなく,必ず協議という形のやり取りがあります。そうすることで,我々の側がデベロッパから気づかされることも多いんですよ。こんなやり方があるのか,じゃあここでこうするともっとスムーズな販売の仕組みが作れるかもしれない,というように。いい意味で,デベロッパとオンラインゲーム運営双方のノウハウが化学反応を起こしているんです。
かつて自分で会社を興してオンラインゲームを運営していたときは,過去の実績も相談する相手もなくて“明日が見えない仕事”に立ち向かっている感覚でしたが,今は“明日が見える仕事”をやっているという実感があります。ここをこうすれば,次のプロジェクトに繋がる,というのが分かるのはいいですね。
4Gamer:
なるほど。他社との協議と聞くと正直,面倒くさそうという印象も受けますが,次につなげていくためにも必要な工程なんですね。
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