連載
【月イチ連載】友野 詳の「異世界Role-Players」第3回:ホビットとその類縁種族〜ヤツらはどうしたって僕らを戸惑わせる
とある日のたいそう騒がしい冒険にて
虫や草花と会話できる小柄な種族,グラスランナー。
動きが素早く手先も器用な盗賊種族,ケンダー。
たぐいまれな意志力を秘めた小さな人,ホビット。
罠に満ちたダンジョンの奥でモンスターに遭遇したとき,この3人を導いてきた戦士と魔術師は,すでに疲れ切っていた――。
グラスランナー:ぼくねー,ぼくねー! 虫さんとお話するの!
戦士:ああ,うん。そうだな。でも,その巨大アリくんは酸を吐いたり,おまえの頭をかじったりするから,おとなしくなってからにしような
グラスランナー:ちがうよー。そうしないようにお話しするんだよう
語り手:できなくはないが。で,ケンダーくんはどうする?
ケンダー:ねーねー,ここにあるスイッチ押していい?
魔術師:罠だと言ったのはおまえだろう! よさんか!
ケンダー:……うぇーん! 怒られたー! (マジ泣き)
魔術師:(おろおろ)あああ,いや,そんな。お,おちつけ。な? じゃ,じゃあ,危ないから,おじさんが押すぞ。ぽち(←冷静な判断力を失っている)
語り手:(冷静に)うむ,巨大石の罠が作動する。いまの位置関係だと,まず巨大アリBがつぶれて……
グラスランナー:あーっ,虫さんがーっ
語り手:そして,それと対峙していた戦士くん,回避
戦士:ぎゃー,失敗した! か,かろうじて生きてる
ケンダー:(きゃっきゃと笑っている)
語り手:……ううむ。予想外の早さでダンジョンの最深部まで辿りつかれてしまった
ホビット:ここから遅くなるよ。そろそろ使い果たすから
語り手:……なにを?
ホビット:体力。あっという間にバッテリーが切れるから,子供は
グラスランナー&ケンダー:(すやすや)
魔術師:完全に寝落ちしている(つぶやく)
語り手:少し休憩をとろう。しかし,きみはよく平気だな
ホビット:双子の男子小学生の親とかやってるとね,耐久力のパラメータは鍛えられるんだ。ホビット並にね
トールキンの名前は,エルフの回にもドワーフの回にも出てきました。そう,「ホビットの冒険」と「指輪物語」の作者です。共に現在のファンタジーの基礎になった作品ですね。実はこの2作のほかにも,トールキンが物語の舞台としたミドルアース――中つ国には,世界の成り立ちを語った「シルマリルの物語」など多くの作品があって,緻密な世界観が作り上げられてます。エルフなどは,独自の言語体系までが用意されているくらい。というか,トールキンはもともと言語学者でしたので,まずエルフ語を創るところからスタートしたそうなんですけど。
とはいえ,無から何もかもを創ったわけではありません。これまでお話ししたように,エルフやドワーフはヨーロッパの古い伝承に由来を持ちます。ですが,ホビットという種族は違います。その名称からして,トールキンのオリジナルなのです。
彼らは人間の子供くらいの小柄な体格で,手足はちょっと大きめ。
髪の毛はもじゃっとしていて,ひげを生やす風習はないけれど,体はけっこうふさふさ。
足はくるぶしあたりまで毛が生えていて,足裏の皮が分厚いので靴を履きません。
気性は陽気で,パーティー好きですが,警戒心の強いところもあります。ホビット庄という自分達の土地から,めったに出かけようとしません。
そう,出かけないんです。
ファンタジーに登場する,こういった小柄な種族は,旅を好むイメージがありますが,そもそもホビットは旅なんてしません。自分の家を長いこと留守にするなんて,変わり者のやることです。だから「ホビットの冒険」の冒頭で,ドワーフ達に宝物の探索へと誘われた主人公ビルボは,行きたくないとさんざんゴネるのです。居心地のいい我が家から離れるなんてとんでもない!
そのビルボの甥で,「指輪物語」における「一つの指輪」の担い手フロドは,使命感にかられて旅立ちますが,従兄弟のメリーとピピンに「そんなの,まっとうなホビットのやることじゃない」とさんざん言われます。丘に穴を掘った我が家でパイプ草(ようするにタバコですね)をくゆらせ,エールでも飲んでいるのが「ちゃんとしたホビット」なのです。
ビルボが宝物の探索に招かれたのは,「しのびのもの」「斥候」としての役目を期待されたから。すなわちファンタジーにおける基本職の一つ「盗賊」としてですね。まあ,昨今はそのまま「盗賊」という名称を使っているゲームは少なくなったように思いますけど。
もう一つ,ホビットの特徴として挙げられるのが,見た目や普段の言動からは思いもよらぬ「心の芯の強さ」です。邪悪なサウロンに力を与える「一つの指輪」を破壊するための旅を乗り越えたフロドとサムの主従が見せた,誘惑に負けない魂の力。それこそが,ホビットをホビットたらしめる最大の特徴と言えましょう。
ちなみに,トールキンは,ホビットさらにいくつかの氏族に分けて,それぞれの特徴まで仔細に設定しています。髪の毛の質とか,目の色はこういうのが多いとか,好きなお酒とか。
余談ですが,フィクションではなく現実にいたホビットというのも存在します。トールキンよりずっと後の時代,西暦2003年に,インドネシアのフローレス島で化石が発見された人類亜種,ホモ・フローレシエンシスがそれです。現生人類と同じ祖先から分岐したらしい種ですが,非常に小柄なのが特徴だとか。その特徴にちなんで,人々から「ホビット」と呼ばれているようです。
さすらう「小さな人々」
さて,今のファンタジー冒険もので,ホビット系の小柄な種族が「旅をする」イメージになったのは,やはりエルフやドワーフのときにも出てきた,とある作品によるところが大きいと考えられます。もうお分かりかと思いますが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)ですね。テーブルトークRPGのみならず,すべてのRPGの元祖となった作品です。
初期のD&Dには3つの異種族が登場します。エルフ,ドワーフ,そしてハーフリングです。そう,ホビットではなくハーフリング。なぜそうなったのかは定かではありませんが,伝承ではなくトールキンの創造による種族だけに,やはり著作権への配慮があったのではないかと考えるのが自然でしょう。当時の証言を元にした研究も行われているようですが,すでに鬼籍に入ってしまった関係者が多いことから,なかなか難しいみたいですね。ちなみに私は実物を見たことがないのですが,最初期のバージョンでは「ホビット」だったとか。
なおホビットという名称は,中つ国で彼らが自分達を指して呼ぶ言葉(を,さらにトールキンが英訳したもの)ですが,エルフあたりからは「小さい人々」,つまり「ハーフリング」と呼ばれていました。種族名としてのハーフリングはここから来ているのですね。当人としては,「わしらの何が半分なんじゃ。おまえらが無駄にでかいんだろ」くらいに思っているかもしれませんけど。
ちなみにこの「小さい人々」というのは,伝承で「妖精全般」をさす言葉でもあるんです。盗賊向きなのは,見ようとすると姿を消してしまう,いたずら妖精のイメージを引きずっているからなのかもしれません。
ともあれ,このハーフリングはゲーム的には戦士の亜種でした。小柄なので大きな武器は持てませんが,丈夫ですばしっこく,タフなメンタルを持つのでダメージをもらいにくいし倒れない。そんなイメージです。先の「指輪物語」におけるホビットと重なる部分も多いですが,のちにどんどんと独自性が出てきます。
このケンダー,ひとところにとどまらず,あちこちを旅して,そしてとても手癖が悪い。綺麗なものや面白いものを見たら,「いつのまにかボクのカバンに入っていたよ。不思議だね」としれっと言ってのける。まあ,ろくでもない連中です。まさに盗賊向きの種族と言えましょう。「ドラゴンランス」は以前にも紹介しましたが,同作の中でも一,二を争う人気キャラクターであるタッスルホッフ・バーフットがこのケンダーです。タッスルは,このケンダーの中でも,とくにタチが悪いんですけれど。でも憎めないんだよなあ。
今の我々が,ホビット的な小柄種族に抱いているイメージの始祖は,むしろケンダーなのではないかと思えます。とにかく,こいつのせいで,主人公達は次々にトラブルに巻き込まれます。大事な交渉相手の貴重品をふところにおさめちゃったり,ダンジョンで押さなくていいスイッチを押したり,空気を読まずに会話をまぜっかえしたり。しかも本人はまったく悪気などなく,むしろこちらのことを思っての行動なのがタチ悪い。怒るに怒れず,たとえ怒鳴りつけたってケロっとしてる。
確かに,自分のチームにいると迷惑ですが,はたから見てるとこんなに面白い奴はいません。あと,ゲームマスターや作者からすれば,勝手に窮地に飛び込んで,止まりかけたお話をどんどん前に進めてくれるので超便利。それに効率と倫理でぎゅうぎゅう詰めになっているときに,あるいは世界と自分の軋轢ですりつぶされそうなときなんかに,タッスルみたな奴がいてくれると,本当に救われるのもまた確かです。まあ,普段はストレスの根源みたいな存在ですけど。
旅から旅に日々を暮らし,吟遊詩人として歌と演奏が得意で,虫や草花と会話もできたりする。とにかくメンタルがタフで――つまり図々しくて空気読まなくてあれこれ無頓着で,おまけに移り気で能天気。「ソード・ワールドRPG」を遊んだ人なら,さんざん迷惑をかけられた人も多いんじゃないでしょうか。
ただ,いたずら者として疎まれている,という設定に忠実なのは,実は同じフォーセリア世界を扱った「ロードス島戦記」に登場するマールくらいで(彼もけっこう周りから言われてるだけにも思えますが),小説やリプレイに登場したほかのグラスランナー達って,意外に真面目な連中も多いんですよ。パラサとか。言葉使いは変ですけど。ま,あれはパーティに白粉エルフがいるせいで,比較的まともに見えているだけの可能性はあります。でもリプレイ「ぺらぺらーず」のブックとか,「死せる神の島」のプラムとか,すごい真面目に盗賊やってますから。……真面目な盗賊ってなんだ,とは思いますが。
むしろ「まわりを気にせず,自分の興味のままに好き放題」という,タッスルホッフの系譜にあるグラスランナー像は,手前味噌ですが,どうもけっこうな割合で私のせいなんじゃないかと思うことがあります。
「最近の〜」という言うにはやや古いかもしれませんが,1991年に出た拙作「コクーン・ワールド」シリーズと,その続編に登場する草原妖精のピコは,それはもう大暴れで,著者の私も実に振り回されたキャラクターです。ま,テーブルトークRPGのセッションを基にしたあの作品で私を振り回さなかったのは,NPCだけですけど。
まあそんなわけで,いま流布しているホビット系種族のイメージは,ケンダーとグラスランナーによる部分が大きいわけです。にゅう。
最近のホビット族事情
というわけで,ホビットから派生したハーフリングは,ケンダーを経て,グラスランナーとなり,さらにいろいろな名前でもって広がっていきます。ここからは,一風違った名前で登場した近年のホビット族の系譜について紹介していきましょう。
そう,諸作品に登場するホビット系種族は,体格が小さいからといって,侮れないのです。耐久力と器用度は,闇から忍び寄る暗殺者としても活きてきます。子供のような姿の陽気な種族,というイメージだけでは語れません。
その好例の一つが,ライトノベル「ゴブリンスレイヤー」の「師匠」ですかね。この作品でのホビット系種族「圃人」には,レーアとルビが降られています。しかし,素直に漢字を読めば「ほびと」なので……まあそういうことなんじゃないかと。
主人公であるゴブリンスレイヤーさん(以下,ゴブスレさん)に戦い方を教えたのが,この圃人の「しのびのもの」でした。ゴブスレさんの回想に登場するばかりで,ほかのキャラクターとの絡みはありませんが,印象的なキャラクターと言えましょう。同作ではこのほかにも,「悪党」や「脇役」という形で,さまざまな圃人が登場しています。
ところで「ダンジョン飯」は,どのエピソードも「そうきたか」と感心するものばかりなんですが,種族絡みの設定では,「ふつうの人間」を「トールマン(背の高いものたち)」と呼んでいるのに唸らされました。人間が基準だからホビットやドワーフは「背が低い」となるわけですが,なるほど彼らの側からすれば,人間のほうが「無駄に背が高い」わけです。こういう視点,忘れないようにしなくちゃと思います。
最近のということでは「ソード・ワールドRPG」の後継作である「ソード・ワールド2.5」の背景世界・ラクシアにも,グラスランナーが存在します。「ソード・ワールド2.5」のエルフやドワーフは,能力的にも設定的にも「ソード・ワールドRPG」と異なる種族として登場しますが,グラスランナーは,実はラクシアの外からやってきた種族ということになっています。
同作には異世界から召喚されてくる怪物に魔神というのがいたりするのですが,グラスランナーは,しばしばその魔神と同時に目撃されることが多いとか。ほかにもグラスランナーの話す言葉が魔神のものと似ているとか,魔神の設定自体「ソード・ワールドRPG」と共通点が多いとかありまして,どうも故郷を同じくするところがあるのかもしれません。本当は怖いグラスランナー? さてはて。
同作に登場する7人のこびとは,時空をほっつき歩く盗賊団。神様からちょろまかしたタイムホールの地図を使い,歴史上のあちこちに出かけては,お宝をいただこうと迷惑をふりまきます。彼らはホビットというより,妖精としてのドワーフのイメージではありますが,イギリス流のブラックなギャグが詰まった名作で,この時期の映画としては「ダーククリスタル」と並び,後世に大きな影響を与えたといえるでしょう。
とあるダンジョンの底にて
ケンダー:おはよー!
ホビット:はい,おはよう
グラスランナー:あれ,お兄ちゃんたちは?
ケンダー:寝てるの?
戦士:悪の魔術師の眠り魔法にひっかかってな(ぐーぐー)
魔術師:なんで,見え見えの魔法陣に突っ込んでいったんだ,ホビット(ぐーぐー)
ホビット:かからない自信があったから。まさかベテラン冒険者の君らが耐えられないとは思わなかったんでねえ
戦士:……筋トレで魔法への抵抗も鍛えられればいいのに
魔術師:まあ,とにかく,我々は眠ってしまった。目覚ましの魔法歌などで起こしていただけると助かる
ホビット:……なんの話?
語り手:ホビットは宴会では陽気に歌うけど,それで魔法をかけたりはしないねえ
グラスランナー:はーい! ぼくが歌う。動物さんを呼ぶ歌を知ってるから
戦士:いや,それじゃねえし
グラスランナー:(でたらめに歌いだす)モゲラだって,オクラだって,生きているー。てのひらをファイアボールにすかして,ともだちになろー♪
魔術師:……なれないだろう
語り手:うむ。では,洞窟の地面がごごごと揺れて,肉食の巨大モグラが出現する。ダイスによれば……腹が減って気が立ってようだ。ちなみに,鼻先が花のようになっている
ケンダー:きれい! 欲しい。スリとります
魔術師:いくらゲームの中でも,子供がものを盗むとかしちゃいけません!
戦士:おまえ,けっこうモラリストだったのな
ケンダー:……うぇーん!
ホビット:(淡々と)闇にひそんで背後からモグラの急所を刺す
語り手:いいけど,モグラ相手に影に隠れて意味あると思う?
ホビット:……あ
このパーティが,無事地上に戻れたのかは……お察しいただきたい(ヒント:語り部もけっこう子供に甘い)。
ホビットから派生した種族は数あれど,そのものずばりの「ホビット」を遊ぼうと思ったら,デジタルであれアナログであれ,まずは「指輪物語」に関連したゲームを探すのが一番かと思います。
しばらく前には,MMORPGで「ロード オブ ザ リングス オンライン アングマールの影」なんてのがありましたが,日本での展開は2009年に終わってしまいました。指輪物語の舞台である中つ国を自由に歩きまわれるこのゲームでは,もちろんホビットとして冒険することも可能だったんです。本国アメリカではまだサービスが継続しているので,英語が苦にならないのであれば,挑戦してみるのも良いかと思います。
ボードゲームもあります。高名なゲームデザイナーであるReiner Knizia(ライナー・クニツィア)氏がデザインし,Fantasy Flight Gamesから発売された「ロード・オブ・ザ・リング 〜指輪物語〜」(2001年)は,本編に登場したホビット4人(プラスもう1人)となって,“一つの指輪”を滅びの山に捨てに行くまでのストーリーを再現したボードゲームでした。シンプルなゲームシステムで「指輪物語」のストーリーを1〜2時間で体験できる良作です。2002年にはカプコンから日本語版も出ていましたが,今では入手困難なのが残念です。
「指輪物語」を題材にしたもの以外で,ホビットが登場するゲームといえば,真っ先に思い出されるのは「ウィザードリィ」の初期シリーズでしょう。日本オリジナルでテーブルトークRPG版も出ています(デザインはグループSNEが担当しました)。
とはいえウィザードリィでは,種族の細かい設定はさほどゲームに反映されていませんでした。キャラクターがしゃべったりすることもないですし,種族の違いは能力値の初期値に反映されるくらい。それも上限値は一緒なので,カンスト近くまで行くと差がなくなってしまいます。
ホビットから離れ,その派生種族になるとそれこそいっぱいあって挙げきれません。最近ので今ぱっと思いついたのでは,「ファイナルファンタジーXI」のタルタルとかでしょうか。ただ,このへんになるとホビット的な特徴が「ほかの種族より小柄」くらいしかない気もします。そのほかのゲームでも,なにかとマスコット的な立ち位置に収まることが多い印象ですね。
ホビット系種族の心得
というわけで,ホビットと一口に言っても,さまざまな種族に分岐しているわけですから,まずはそのどれを演じるのか,舞台になっている世界に応じて考えてる必要があります。
基本であるホビットを演じる場合,これはもう誰をロールモデルにするかによるでしょう。普通のホビットは冒険に出ないので,冒険に出ている段階で,普通じゃありません。どうして冒険に出ることになったのか,そこのところをまず決めるといいんじゃないでしょうか。
フロドのように何らかの使命を背負うはめになったのか,サムやメリー,ピピンのように,友情や親戚の情で手助けしているのか。あるいはビルボのように,ついうっかり欲望に負けて,流されたあげく引き返せなくなったのか。
ただし,一旦冒険に出ると決めたなら,ホビットはその目的を決してあきらめません。辛くても苦しくても,忍耐力でがんばります。愚痴ったり,もうヤダと言ってみたり,ちょっと心を病んだりはするかもしれませんが,それでも絶対にあきらめないんです。体格に優れていたり,こちらを見下してきたりする相手に対しても,彼らは意志を貫き通します。この「揺るがない芯の強さ」と「表面上の弱さ」をうまく表現できれば,
本物のホビットだ――。
ということになるでしょう。さっきゴブスレさんの師匠の話をしましたが,例え悪に染まったりまっとうな道を外れても,ホビットは一途です。堕落したホビットといえば,忘れていけないのはゴクリ(映画ではゴラム)ですね。
一度手にした“一つの指輪”に魅入られて,「いとしいしと」(My Preciouss)と呼びかけながら,ただひたすらに指輪を追い求める,あの彼。「指輪物語」のもう一人の主人公と言っていい気がしますが,このゴクリ(この名前が染みついてるのでお許しください)が,闇に取り込まれたホビットのロールモデルにして,「ああなってはいけない奴のお手本」なんじゃないでしょうか。
ホビットのロールプレイについてもう一つ挙げるなら,「子供のような外見と子供ではない内面のギャップ」なんて,素敵じゃないですか。陽気ではしゃぐのが好き,という設定に合わせて子供っぽくふるまうのもいいですが,一人になったら内省的な様子を見せたり,旅の合間,休息時に皆と離れたところでぽつんとパイプ草をくゆらせる,なんていう演出も面白いと思います。
では,これがケンダーやらグラスランナーになるとどうなるか。彼らにも,いろいろな特徴がありますが,ホビットから受け継がれた部分のうち,「いかなる困難にも耐え,あきらめない」といった側面については,皆を励まし支えていく言葉や態度で示していけばいいと思います。自然にね。
ただし,それに通じるところの「どんな時でも陽気に騒ぐことができる」の部分は,どう表現するか少し考えたほうがいいかもしれません。仲間が戦いで死んでしまって,それを励ますつもりで陽気な歌を奏で,そして「こんな時になんなんだ!」と怒られる。なんていうのは,ドラマとしては,喪失感を強調する痛切さにあふれた演出ですが,ちゃんとそれが通じるかどうかを見極めないと,単なる「不愉快な人」になってしまいます。自分(のキャラクター)が,そういう行動をとっている理由を,きちんと理解してもらえているかは重要ですよね。
例えば戦闘の真っ最中でも歌ったり踊ったりしてる場合,シリアスに戦いたい人からは「邪魔だ」と怒られるかもしれません。けれど,物語上や戦術上の意味を,きちんともたせることだってできるはずです。誤解して襲ってきた村人や,なりたてて更生の余地がある山賊とかとの戦いであれば,殲滅するより「戦ってられるかよ」といった空気にしちゃうほうがいいこともありますから。
踊りながら戦っていると命中や回避にハンデを負いそうですが,それによって戦術が変わることだってありえます。敵が仲間より強い場合,踊っていようがシリアスにやろうが,どっちにしても攻撃をもらってしまいますよね。でも踊っていれば腰が入らないから,命中する回数は一緒でも,トータルのダメージは少なくてすむ……なんて言い訳だってできるかもしれない。
なんて戦術的な意図を滔々とまくしたててケムに巻きつつも,実際には「面白いやん,そのほうが」というのが,この系統の種族を演じる醍醐味だと私は思います。このあたり,戦闘の状況や支援魔法の有無,そしてそれによって生じる確率の変化については,総合的に理解しておく必要があるので,ゲームに慣れないうちはなかなか難しいかも知れません。その難しさこそが楽しいんですけど。
一方で,とくに盗賊を生業とするホビット系種族の皆さんにお願いしたいのが,「倫理観がほかの種族と異なっている設定」をどう扱うか,卓を囲むメンバーときちんと確認しておきましょう,ということです。
例えばケンダーならば,種族の倫理として「他人の持ち物」という概念が曖昧だったりします。しかし,その設定を皆が「当然知っていて,受け入れている」という思い込みは危険です。なので「ケンダーが存在する世界」を冒険の舞台に選ぶなら,そこをまず摺り合わせておくべきでしょう。
確かめたうえでOKが出たのなら,次はどう使うかです。今回の冒険の目的が,法の隙間を縫って悪事を働く連中の,陰謀の証拠探しだったなら。まともな倫理観を持ったパーティメンバーが頭を抱えるなか,「あっれええ,不思議だなあ。ぼくのカバンの中に,なぜか例の書類が入ってるよ。届けてあげたほうがいい?」なんていいながら,重要な証拠を差し出すなんて,面白いんじゃないでしょうか。ケンダーなら一度は言ってみたいセリフです。
とまあ,倫理観がズレたキャラクターを演じるなら,なんにしても周囲との摺り合わせは欠かせません。暴走(と思われがちな行動)を納得してもらいつつ,うまく制御してもらうのがこの手の種族のコツだと思いますよ。
さて次回の予告ですが,ここまでエルフ,ドワーフ,ホビットと善良な種族のお話をしてきましたので,次は悪の側に回りがちな種族達についてのお話をしてみたいと思っています。次回の更新は,7月30日となる予定です。では,またよろしく。
■■友野 詳(グループSNE)■■ 1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト) |
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