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さくらインターネット,LotRO,DDO共に運営続行と公式に発表
オフィシャルな発表が出るまで明確な形で所感を述べることは控えていたが,無闇に不安を煽られていたプレイヤーも多かっただろうし,一段落した感のある今,改めて今回の件について触れてみよう。
今回の一件は,11月22日にさくらインターネットのIR情報として公開された債務超過になる旨のリリースが発端となってプレイヤー達に火がついたものだ。この時点で4億円近い特損(特別損失)が明言されており,遊んでいるプレイヤーとしては気が気ではなかったはず。
その後11月27日に発表された「平成20年3月期 中間決算短信」に至っては,「コア事業でありますデータセンター運営事業について、経営資源を集中し」(決算短信のPDFより引用)や「不採算の事業や子会社等につきましては、その事業の採算性を厳しく精査したうえで抜本的な事業構造改革を進めて参りたいと存じます。」(新社長田中邦裕氏の挨拶より引用)とあることからも,ゲームのサービス終了か? と騒がれていたものだ。
公式発表まで1週間ほどの時間が置かれて,よりプレイヤーの不安が増大してしまった感は否めないが,この規模の会社がそうそう簡単に公式声明を発表できるわけもないし,それは仕方がない。ともあれ今回の発表で,まずは一安心,である。
そんな上記の発表を踏まえ,ちょっと冷静に今後の展開を見てみることにしよう。
先に挙げた決算短信を読む限り「会員数が予想より大幅に少なかった」とのことだが,それによる運営費用や減価償却費が増大したにも関わらず,会社全体の売上高自体は前年同期比69.1%増で,本業が好調なことは数字より十分に伺える。
営業利益も経常利益も好調子ではあるが,予想を下回ってしまったオンラインゲーム事業の将来的採算性を鑑みて,そこに関する“重たいコスト”を一発で償却したのだということは推測できる。決算期まで待たない一発償却(しかも債務超過にしてまで!)そのものにやんわりと疑問を感じなくもないが,我々ゲーマーが見るべきところはそこではない。プレイヤーであれば,ぜひ数字以外のところに注目してほしい。
同PDFの「事業等のリスク」(8ページ目)に,DDOとLotROについて触れられているので,ここにそのまま引用してみよう。
・米国Turbine,Inc.との販売サービス契約(DISTRIBUTION AND SERVICES AGREEMENT)について
平成16年12月27日に米国Turbine,Inc.と「ダンジョンズ&ドラゴンズ・オンライン. ストームリーチ」の日本国内におけるゲームソフトの販売の契約を締結しております。この契約は平成16年12月27日より平成20年12月27日が契約期間となっております。また、平成18年8月31日に同米国法人と「ロード・オブ・ザ・リングス・オンライン アングマールの影」の日本国内におけるゲームソフトの販売等を締結しております。この契約は正式サービス開始より4年間が契約期間となっております。
しかし、いずれの契約も双方の合意をもって自動延長もしくは契約期間内での中途解約を認めるとあり、オンラインゲーム事業が想定した会員数に達しなかった場合であっても、双方の合意がなければ契約期間内での中途解約ができず、契約終了日までサービスの提供を継続しなければならない可能性があります。そのため、オンラインゲーム事業を継続するための運営費等が計上され業績に影響を及ぼす可能性があります。
株主向けに“リスク”として書かれているので,プレイヤーから見るとネガティブな表現でしかないが,そこは気にしなくてよい(株主に対して事業者はこう書くべきものなのだ)。読めばすぐ分かるように,LotROについては「正式サービスより4年間」が契約期間として定められている旨,明確に表記されている。むろん,文面を杓子定規に捉えるならば,双方の合意があれば中途解約も可能ではあるが,通常こうした契約には「解約違約金」が定められていることが多い。
本業が好調とはいえ,結果的に債務超過に陥ってしまったさくらインターネットが,自ら率先して違約金を払って(筆者の予想でしかないが,おそらくは数億円単位だろう)解約するとは,ちょっと考えづらい。すでに償却した案件であることなども踏まえ,客観的にビジネスライクに見積もっても,いましばらく――日本語の表現が難しいのだが,1年,2年という年単位だと思われる――は運営が継続されることが十分に高い確度で予想できる,というのが筆者の個人的考えだ。誤解を与えず正確を期すため,なんだか回りくどい表現で申し訳ない。
さくらインターネットは,我々ゲーマーの思いはどうあれ本業がゲーム運営でないことは疑う余地はない。ここで「オンラインゲームからの撤退」を選んだほうが,そのほか(=オンラインゲーム以外)の部分でのイメージが上がることもまた間違いない。しかし一人のオンラインゲーム好きとして,洋ゲー好きとして,業界として,それはあまりにも寂しい限りだ。
事実上の一発償却によって,この先ずっと赤字という線はほぼ消えたと思われるし,人件費などの定常コスト分の売り上げが立てば,数字的には問題ないものになるはず。今回の決断にエールを送りつつ,今後も末永く続けてほしい,と心から願うばかりだ。
しかし,なにより個人的に衝撃だったのは,笹田氏の辞任である。
自らがコアプレイヤーで,オンラインゲームが好きで,LotROが好きで,明確な意志を持って自分自身がワクワクしながら業界に参入してくれた人が結果的に減ってしまったことが,個人的には非常に残念でならない。
会社は利益を追求する団体であってボランティアではないし,数字的には失敗だったと言われれば確かにそれまでだが,「一発当ててIPOしてお金持ちだぜうひゃひゃ」みたいな,どこかで目的を取り違えたような風潮がいまだに健在なこの業界で,笹田氏のような人がいなくなってしまったことが,一人のプレイヤーとして心から悔やまれてならない。なぜ矢面に立つのが,彼のような人でなくてはならなかったのか。頭では「仕方のないこと」だとは分かっているが,メンタルな部分――多分に感傷的なものも含まれているだろう――で納得できない。
そんな笹田氏が引っ張っていたさくらインターネットだが,オンラインゲームが本業ではない,ということは,すなわち「他業種への影響も大きい」ことでもあり,それが筆者の憂いでもある。ベンチャーキャピタルやファンド筋などを引き合いに出すまでもなく,他業種から見たときの「オンラインゲーム」に対する評価が大きく下がり,結果的にリソース(=お金や新規プロジェクトや新会社など,そういったものをすべてひっくるめた意味)が流入してこなくなる懸念がある。
4Gamer読者であればご存じのように,ここ最近は,サービス休止をやむなくされる作品も目立つようになってきた。有象無象のあらゆるものが一斉に花開いて,その急速な盛り上がりに対する「最初のツケ」を払い始めている感のある日本のオンラインゲームマーケットに対して,今回表に出た数字は,大きな一石を投じる出来事となることだろう。
しかし,そんなこんなの色々な心配をよそに,LotROは日本オリジナルイベントなども開催されており,順調に運営が行われている。運営/開発チームの人員削減なども行われたとは聞かないし,LotROもDDOも,いままでどおり運営されていくことだろう。
筆者のLotROのキャラクターはLv.38になろうかというところだが,無料化の影響か,初心者エリアにずいぶんと人が増えた印象がある。なんでもかんでもとにかく人さえ増やせばオッケー! というつもりは毛頭ないが,人が増えてゲーム内が盛況になっていくことは,将来に向けてつながる重要なファクターとなる。人が人を呼ぶのはオンラインゲームの宿命であり,そうした意味でも,笹田氏が残した“クライアント無料化”という,一種のハイブリッド課金ともいうべき大胆な置き土産は,LotROにとって十二分に大きな転換期となる可能性がある。
安心して遊べる環境が再び提供された今,「指輪物語」の世界に則って進化し続けるLotROと,「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の世界に則って進化し続けるDDOの今後が,俄然楽しみになってきた。筆者も,いつかフロドが滅びの山に指輪を捨てるその日まで,LotROの世界でちんまりとノンビリと,活躍していこうと思う。
(12月6日11:55AM追記)
田中社長の公式ブログにて,5日夜に詳細説明がなされた模様。そこにはオンラインゲーム事業に関する説明も書かれている。
「最終的な着地地点として終了もしくは譲渡等、当社の事業からの切り離しを考えておりますが、ライセンス元との契約事項もありますことから、公式サイトでも公開させて頂きましたとおり、継続して提供させて頂くこととなります。」
「ライセンス元との契約条件についても改定の調整を行っており、本業部分への影響は最小限に済ませる形での再構築」
とあるので,月ベースでのロイヤリティ絡みの調整などを図りつつ継続されることが明言されたわけだ。「提供をさせて頂く限りは品質を低下させないよう、現状どおりのサポート体制をとらせて頂きたく考えており」とも書かれているので,運営体制が変わることもなさそうだ。
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