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[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る
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印刷2011/03/05 21:04

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[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る

画像集#013のサムネイル/[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る
 トークの上手さでは,ピーター・モリニュー氏と肩を並べる逸材にして,多くのゲーム開発者やゲームファンが敬愛して止まないクリエイターといえば,「シムシティ」から「シムズ」,そして「Spore」まで,数々の異色作を手がけてきたウィル・ライト氏だ。現時点では,ゲーム業界から少し身を引いた場所にいるものの,やはりGDCでライト氏が登場しない年は,なんとなく締らない気がする。そんな空気は,GDCに参加する多くの開発者も嗅ぎとっていたのか,セミナーの最終日は,2年ぶりに姿を見せたライト氏を一目見ようと,今年のGDCはおそらく最長となる,長蛇の列ができあがっていた。

 今回,ライト氏が参加したのは,GDC25周年を記念して行われているお祭り的イベント「Classic Games Postmortem」(クラシックゲーム回顧録)の1セッションで,テーマはシムシティではなく「Raid on Bangeling Bay」(以下,バンゲリングベイ)である。1984年にリリースされた古い作品であることから,名前はともかく,実際にプレイしたことのあるプレイヤーは少ないかもしれない。実はバンゲリングベイは,ライト氏の処女作にして,開発途中でシムシティに繋がるイメージもできあがったという記念碑的な作品なのである。

「Raid on Bangeling Bay」
画像集#011のサムネイル/[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る

 バンゲリングベイは,プレイヤーがヘリコプターを操作するトップダウン型のシューティングゲームだ。ゲーム世界に6つの島があり,それぞれ1つずつ存在する敵軍の工場を爆破していく。その爆破の順序はプレイヤーが自由に選択できることから,初期型のオープンワールド型ゲームと呼べなくもない。工場を1つ壊すごとに巡洋艦や誘導ミサイルなどで敵側もパワーアップしていき,難度はなかなか高いゲームだった。

ライト氏の草案したマップと実際のマップ。100枚分のマップが繋がった,現代でいうところのオープンワールド型ゲームだった
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 さて,1980年代前半に,ルイジアナ技術大学で機械工学を専攻したライト氏だが,建築学や言語学,経済などさまざまな分野の講座を受けまくっていたらしく,当時はまだメジャーな分野ではなかった,コンピューターやロボット工学にまで手をつけていたという。アートカルチャーに憧れて,ニューヨークのグリニッジ・ビレッジに住んだりしていたが,初期のAIシミュレーション「Conway's Game of Life」や,コンピューターゲームに熱中するまま1年を過ごしてしまったため,せっかくだからゲーム製作を生活の糧にしようと,カリフォルニアに移住した。

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ゲームに熱中していた大学卒業後当時の,ライト氏の思い出に残る作品の数々。今回の講義のスライドでは,男優ニコラス・ケイジのさまざまな表情のクリップを,自分の若き頃に投影して多用していたが,その真意は不明。ただ笑えた
画像集#003のサムネイル/[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る
「ゲームが好きだから,ゲームで生きていこう」と決意したライト氏だが,最も熱中したのが,初期のライフシミュレーションとして有名な「Conway's Game of Life」。1年ほど,じっと見続けたというが……

 BASICとパスカル言語の知識を持っていたライト氏が考えたのは,発売されたばかりのCommodore 64のゲームだ。建前としては,ビデオ用のVICとサウンド用のSIDチップの構造が魅惑的だったと語るライト氏だが,実際のところは,Apple IIでは有能な開発者の作品が,すでに複数存在していたために,新しい市場を狙ったというのが本音のようだ。そのためか,ライト氏は開発をApple IIで行い,接続したCommodore 64に自動翻訳で流し込むという手法をとっていたという。

画像集#012のサムネイル/[GDC 2011]この男が壇上に姿を見せなければGDCは終わらない。ウィル・ライト氏が,その処女作「バンゲリングベイ」について大いに語る
 ゲームのコンセプトは,すぐにヘリコプターに決まった。5歳の頃に,ヘリコプターに初めて乗せてもらった思い出が強烈に残っていたからだそうで,ゲーム世界を作成するために,キャラクター製作用の「Chedit」と,地形を製作するための「Wedit」の2つのツールを自主開発。このWeditをいじっているのが楽しかったことから,バンゲリングベイの後に,「ただ世界を構築していく」というシムシティのアイデアが生まれたのである。
 
 さて,カリフォルニアでライト氏が門を叩いたのが,当時は最大規模のゲームパブリッシャーとして知られたBroderbundである。ダグ,ゲーリー,そしてキャシーのカールストン三兄弟によって1980年に設立された同社は,“当時最大規模”とはいえ従業員は17人しかおらず,なんと廃業した酒のディスカウントショップの店舗が,その看板も架け替えられないままオフィスとして利用されていたという。プログラマー5人が押し込められていたのは,元々は大型冷蔵庫として利用されていた,重いドアが1つしかない暗いスペースだったとか。
 ゲーム開発のノウハウを持たないライト氏だったが,1980年の「Galactic Empire」の成功で業界トップレベルのデザイナーとして知られていたゲーリー・カールストン氏が,突然Broderbundにやってきたどこの馬の骨とも分からないライト氏に,開発や業界に関するさまざまなことを教えてくれたことが,現在の自分を作ったとライト氏は説明した。

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Broderbundといえば,コンピューターゲームの黎明期に登場した有名なパブリッシャーだが,なんと酒のディスカウントショップがオフィスだったというのが凄い話である
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ライト氏が,GDCのトークで必ず行う「Russian Space Minutes」の今回のネタは,ヴォスホート2号と,人類で初めて宇宙遊泳を行ったアレクセイ・レオニョフ氏の話題。もちろん,バンゲリングベイとは何の関連もない

 ライト氏は「バンゲリングベイは資源のフローに問題があった」と言い,実際にはどういうフローになるはずだったのかを説明する,簡単な表を紹介した。油田→輸送船→タンク→工場,と移動していく資源(オイル)が透明であったことから,プレイヤーが流れを理解できず,難度の高いゲームだと誤解されたというのだ。「今でも間に合うのなら,やり直したい」と意外なことを語るライト氏だが,実はバンゲリングベイの企画書などの一切は,1991年にライト氏の住んでいたオークランドヒルズで起こった大火において,全焼した自宅と共に火に飲まれてしまい,当時を回想できるものは何も残されていないという。

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ライト氏が構想していた,資源のフローと,修理順位のフロー。これが明確でなかったために,難度の高いゲームだと思われたとライト氏は言う
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日本でも発売されたNESやMSX版は,Broderbundが移植したもの。オリジナルのCommodore版とは,かなり異なるグラフィックになっている

 こうしてCommodore 64向けに発売されたバンゲリングベイだが,海賊版の横行で実際に売れたのは2万本ほどしかなかったらしい。ただし,Broderbundが移植したNES版はカートリッジであったこともあってコピーされにくく,日本を中心に80万本のヒットであったという。このことから,招待された日本ではロックスター並の待遇も受けたとライト氏は語った。

日本では良く売れ,初の来日も実現。まるでスターのような待遇を受けたという思い出を話していた
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 現在,ライト氏はEA Maxisから独立し,自身の興味を追及するために,Stupid Fun Clubという自らが組織していた団体を会社化して,TV番組の企画やオモチャ作りなどさまざまな活動を行っている。「ゲーム的なこともやっているけど,今は詳しくは言えない。AAAタイトルだとか,ダウンロード型ゲームだとか,そんな類のものじゃないんです。今,私は人々が世界を関わりを持てるようなゲームを作りたいと思っている。世界から人を引き離してしまうような,これまでのゲームとは違うコンセプトでね」と,何か面白いことをやらかしそうな口ぶりで,今回のセッションを終えていた。

バンゲリングベイの発売時には産まれていなかったアマチュア開発者が,未だに(勝手に)バンゲリングベイの第1人称型3D版を製作するなどのパワーに,ライト氏は驚きを隠せないという
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