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[GDC 2011]「DOOM」はこうして作られた。ジョン・ロメロ氏とトム・ホール氏が,発売から18年を経てDOOMの開発秘話を語った
DOOMシリーズ自体,「DOOM II」(1994年),「DOOM 3」(2004年)と続いたほか,数々の拡張パックが登場したり,さまざまなプラットフォーム向けに移植されたりした。
個人的には,1990年代半ばにATARIのゲーム機「Jaguar」でDOOMをプレイした経験があり,これはかなりのレアケースなのではないかと思っている。だからどうしたというわけではないですけど。
「Classic Game Postmortem - DOOM」と題されたレクチャーは,GDC開催25周年を記念した特別セッション「Classic Games Postmortem」(クラシックゲーム回顧録)の一環として行われたもので,これまたいろいろな意味で伝説的なゲームデザイナー,ジョン・ロメロ(John Romero)氏と,ロメロ氏らと共に1991年にid Softwareを立ち上げた経歴を持つトム・ホール(Tom Hall)氏が登壇した。
このうちロメロ氏は最近メディアに登場することが少なく,ゲーム制作からも距離を置いているようだ。今回,ロメロ氏が久々にゲームファンの前に姿を現すということで,開演前には長い列ができていた。
ロメロ氏はまず,DOOMの「Postmortem」が行われるのは初めてのことだと切り出した。
これまで,DOOM開発にまつわる逸話をテーマとする書籍が数冊刊行されており,Web上でもさまざまな情報が公開されているので気づかなかったが,当事者の口からDOOM開発当時の話を直接聞ける機会はこれが初めてなのである。
NeXTcubeを買いに行くカーマック氏(のイメージ) |
NeXTcube |
そんな12月のある日,id Softwareの設立者の1人で,現在も同社に在籍するカリスマ的なプログラマー,ジョン・カーマック(John Carmack)氏が吹雪をついて銀行に行き,1万1000ドルを下ろして購入したのが「NeXTcube」だった。
NeXTcubeは,現在AppleのCEOを務めているスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏が1985年に設立したメーカー,NeXTが販売していたワークステーションで,当時としては先進的なユーザーインタフェースを備え,DTPでも威力を発揮していた。
彼らは,当時開発中だった「Wolfenstein 3D」のヒントマニュアルをNeXTcubeで作成したのだそうだ。そしてその後,このワークステーションが,DOOM開発用のメインマシンとなる。
話は飛んで約1年後の1992年11月,Wolfenstein 3Dを無事リリースし,テキサスへと本拠を移していたロメロ氏らは,新たなFPSの開発を決定した。
DOOMと名づけられた,id Softwareの5作目のFPSは当初,ロメロ氏らがよく遊んでいたテーブルトークRPG「Dungeons & Dragons」にインスパイアされた内容となるはずだった。
しかし,各マップの最後の場所にある次元移動用ポータルを使って新たな世界に移っていくという,ホール氏のアイデアにカーマック氏が反対した。彼自身は,1つの大きな世界の中で戦いを繰り広げていくゲームにしたいと考えていたからだ。
そして対立の結果,ホール氏が1か月かけて書き上げたDOOM Bibleはゴミ箱に放り込まれることになったという。
今回のレクチャーでは,対立のくだりをロメロ氏が面白おかしく話していたので,実際,意見の対立がどの程度深刻なものだったのかはよく分からない。ただ,ホール氏はDOOMの完成を待たずにid Softwareを退社しているので,筆者の想像に過ぎないが,本当のところはカーマック氏とかなりやり合ったのかもしれない。
さて,1993年1月にプレスリリースが各メディアに配信され,DOOMの開発が正式発表された。プレスリリースの文面は以下のようなものだった。
PCプログラミングのもう一つの技術革新を告げるid SoftwareのDOOMは,386SX以上のCPUを搭載したPCの限界を押し広げます。私達は,DOOMのPC(MS-DOS)版を1993年の第3四半期にリリースする予定です。それに続いて,Windows,Windows NT,そしてNEXTSTEP(NeXTcube用のOS)向けのDOOMも発売する予定です。
議論の末に決まったDOOMの基本仕様や特徴は以下のとおりだ。
- テクスチャマッピング技術の使用
- 壁は直線的とは限らない
- 明るさの減衰を表現
- 場所によって高さの異なる床や天井
- カラーパレットのトランジション(切り替え)
- マルチプレイモードを用意
- スムーズかつシームレスなゲームプレイ
- オープンなゲーム(プレイヤーが独自コンテンツを作成可能)
何しろ20年近く前の話なので,壁に直線的でない部分があることや,場所によって床や天井の高さが異なることも,ゲームの特徴といえたのだ。DOOMをプレイした経験のある人なら分かると思うが,例えば敵のクリーチャーはポリゴンではなく,平らな絵で表現されていた。そのため,どの角度から敵を見ても正面の姿しか確認できないわけだ。
ちなみに,敵キャラクターがフルポリゴンで表現されるようになったのは,1996年に発売されたid Softwareの「Quake」から。この作品でやっと,敵の背後に回れるようになった。
その一つがビデオの利用で,コンセプトアートを元に敵キャラクターのクレイモデルを制作。それをビデオで撮影したあと,PCに取り込んで画像ソフトで加工することで,ゲームの素材を作ったという。
DOOMに登場するプラズマガンやBFG9000といった未来兵器のデザインは,ロメロ氏らがおもちゃ屋で買ってきたさまざまな玩具を撮影し,その映像を組み合わせて制作したそうだ。
ホール氏はまた,マップをデザインするため,古い陸軍基地やトーチカの写真などを集めたが,それらは結局,一つも使われなかったという。その理由は説明されなかったため,分からない。
DOOMもAliensもスペースマリーンとモンスターが戦うという物語で,やっていることはどう考えても一緒なのだが,やはり「私達のスペースマリーンが,私達のモンスターと戦っているほうがいい」(ロメロ氏)ということで,言うまでもなくこの話は流れてしまった。
そのすぐあとには,笑ってはいられない出来事が立て続けに起きたとロメロ氏はいう。一つは,日本のイマジニアと契約したスーパーファミコン版「Wolfenstein 3D」の移植が大幅に遅れ,約3週間もそちらにかかりきりになったため,DOOMの開発がストップしてしまったこと。
もう一つは,カーマック氏の制作したDOOMエンジンに問題が発生したことだ。
エンジンの問題とは,プレイ中に動作スピードが遅くなるというもので,もともと「ポリゴンが多すぎる」と心配していたカーマック氏の予想が的中した形だ。とはいえ,グラフィックスクオリティを下げるという方法はとらず,カーマック氏が自身で対処法を編み出して問題を解決した。
カーマック氏との確執も伝えられており,深い部分ではいろいろあるのだろうが,ホール氏は,「DOOMであれもしたい,これもやりたいと思っていたことができなかったからだ」とだけ語っていた。 ホール氏はその後,Apogee(3D Realms)に移り,「Duke Nukem 3D」(1996年)や「Prey」(2006年)の制作に関わっていく。
そして,1993年10月にはプレス向けのバージョンが完成。12月10日,ついにid Softwareの5作目のFPS,DOOMの販売が始まった。
レクチャーの最後にロメロ氏とホール氏は,DOOMとid Softwareのスタッフが成し遂げたこととして,「IPX(通信プロトコルの一つ)を用いたマルチプレイモードの実現」「Co-opとデスマッチモードの実装」などを挙げ,レクチャーを締めくくった。
ゲーム史にその名を残すタイトルをピックアップして行われた「Classic Games Postmortem」は,ゲーム業界の著名人の話が聞けるということで,いずれも高い人気を集めていた。
今回レポートしたDOOMの事後検証も,初めて明かされる事実こそ少なかったものの,当事者の話が聞けるという意味で,かなり貴重な機会だったといえるだろう。
- 関連タイトル:
DOOM 3
- 関連タイトル:
DOOM 3(Macintosh)
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