RepubicのないE3はE3じゃない! とまではいわないが,ここ数年はてっきり恒例となってしまっているのが,Eidos Interactive社の
「Republic:The Revolution」(以下,Republic)である。すでに4月ごろにβテストも始まっており,欧米ではおそくても7月頃の発売が見込まれている。それで今年が最後の展示になるからというわけではないが,E3の一発めには,やはりRepublicしかないだろう。
これまで本サイトで取り上げるたびに疑問に感じていたことが,シミュレーション部分に異様なこだわりを見せるRepublicが,ゲームとしてどのようにまとまっていくのか,ということだった。そういう誤解があったのは,これまでRepublicをピュアな「リアルタイム戦略ゲーム」として捕らえていたからなのかもしれない。このゲームの真髄は,子供っぽいグラフィックスには馴染めない大人でも十分に楽しめそうな,政治をモチーフにした濃厚なテーマにあるのだが,政治で連想されるのは"相手との駆け引き"である。つまり,Republicは最近のユニットを進めていく一般的なリアルタイム戦略ストラテジー形式ではなく,
まるでキャラクターAIや物理シミュレーションのマスクを被った「カードゲーム」の戦略性を秘めたゲームなのである。
デモで最初に説明されたのは,Republicのバックグラウンドにあるストーリーである。Republicが,ソビエト崩壊の直前にあたる'80年代頃に設定されたノヴィストラーナ共和国であるというのは,以前何度かお話しているが,Republicはさらに28年前へと遡る。両親の愛を一手に受けて育っていた主人公の少年(プレイヤー)だったが,ある日政治活動家だった両親がKGBに連行されて消されてしまう。そのKGBの長官を務めていた男が出世街道をまい進し,やがて28年後には大統領としてノヴィストラーナの頂点に立っているのである。この背景ストーリーによって,プレイヤーには混乱する国家をまとめて大統領になるという目的ばかりでなく,もっとパーソナルな目的も付加されたのである。
ゲーム開始前に行うキャラクター設定もユニークで,政治家,軍人,ビジネスマン,宗教家,暗黒組織のリーダーの中から一つの初期設定を選んだ後は,プレイヤーの政治思想や経歴に関する質問に八つ答えることで,自然にテンプレートが出来上がるようになっている。これによって決定するのは,基本的な四つのアトリビュート(ステータス,コントロール,カリスマ,プレゼンシー)と,政治思想として社会主義,自由主義,共産主義のどれに傾倒しているかである。政治思想は,やがてゲーム中に出会う人々とのインタラクションに強く影響することになる。
ゲームが始まると,
プレイヤーのミッションはメモに書かれた内容で把握できるようになる。最初は,町にいる3人の旧友の中から1人と会うというもので,2Dマップ上に点在するキャラクターの顔グラフィックにカーソルを合わせて,これら3人の情報を得る。彼らは,プレイヤーとの古くから関わりを持つ人間であると同時に,特定の思想や能力も持っている。彼らを自分の陣営に最初に引き入れることになるのだが,選ばれたキャラクターは,プレイヤーの参謀役として,ゲームが終了するまで忠実に戦ってくれることになると,開発チームをまとめるデミス・ハサビス(Demis Hassabis)氏は説明する。
この3人の中から1人を選んでカフェで待ち合わせのアポを取るのだが,さきほどカードゲームのような戦略性と説明したのは,この説得シーンを見て感じたことなのである。プレイヤーを含めたキャラクターには,最大で8枚の会話カード(実際はただの数字)を持っており,これを好きなように並べて出し合う。
例を挙げると,プレイヤーが7を出し,相手は2しか出さないと,プレイヤーが1回分の勝利で得点が加算させる。1ターンには5秒しか与えられていないので,事実上瞬間的な判断しかできず,運やランダム性に依るところが多いようだ。こうやって8回プレイし,規定の得点に達すればプレイヤーの勝利となるのである。
いまのRepublicというゲームは,どうやらこういったミニゲームの積み重ねで成り立っているようだ。すでに公開済みだが,大統領が権力誇示のために送り込んだ戦車の一団の前に,天安門事件のときに中国人学生がやっていたように,両手を広げて人道的に阻害しようというシーンもある。これは,戦車の前進に合わせてどれくらいのスピードで後退していくかを,プレイヤーがバーを調節しながら決定する。戦車と人間の駆け引きを楽しんでいるわけだ。立ち止まらせると,戦車の下敷きになって価値ある政治活動家の部下を失ってしまうことになるのだが,
事前に群集や大きな海外メディアに連絡しておくことで,大統領の権威を失落させることも可能だ。
ほかに見せてもらったイベントには,派手に活動させてしまったために,大統領が送り込んだKGBによって部下が暗殺されるというものだ。これは,早朝突然武装警官を乗せたトラックがプレイヤーの部下キャラクターのアジトに乗り付けるというムービーシーンなのだが,実際に屋内で起こっている銃撃シーンは見せず,妻らしき女性の叫びなどでシュールに表現されている。ほかにも,ドアからドアへと回って支持者を集めるとか,大統領のポスターの上からプレイヤーのポスターを張りつけるゲリラ的な政治活動などのシーン,そして威信を上げるために大統領が行ったスピーチの様子などが紹介された。
このような活動は,事前にスケジュールウィンドウを開いて実行する日時と担当の部下を設定しておき,次のターンでその様子のムービーを見た後に,その結果を判断材料にして新しいスケジュールを組むということを繰り返していく。プレイヤーが何をすべきかは,ゲーム中になるメモを見て簡単に理解できるようになっているばかりでなく,一つのミッションを選んだら,インタフェース上で次に何をすべきかの選択肢が出てくるという仕様になっており,何をしてよいか混乱することはないよう配慮されていた。
高性能のシステムでは,最大で150人ほどのキャラクターが1スクリーンに表示されるというが,都市ごとに分かれた複数のマップには
総計で100万人のキャラクターが用意されており,一人一人が個別の名前や政治思想,そして生活パターンを持っている。今回のデモで使われていたのは,Pentium4/2.4GHzというシステムだったが,ゲーム中でカク付くこともなく稼動しており,開発もラストスパートに入っていることを思わせた。(奥谷海人)