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印刷2008/09/13 15:19

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[CEDEC 2008#13]「ファンタシースターオンライン」,アジアにおける苦闘の軌跡を「他山の石」に

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 相対的にテクノロジー寄り,コンソールゲーム寄りの講演が増えたCEDEC 2008。思えばコンソールゲーム市場は,これから本格的なオンライン対応の波がやってくるわけで,PCのそれを含めて,オンラインゲームの話題は運営経過や営業ノウハウの話題が多かったように思う。
 そんななかで,当サイトの記事として目新しい話題になるのは,セガの第3CS研究開発部 見吉隆夫氏の講演「ネットワークゲームの開発と海外展開について」であろうか。この講演は「ファンタシースターオンライン」の海外展開と,「ファンタシースターユニバース」のサービスにおいて,突き当たった困難を中心に語るものだ。
 どちらの作品も,日本国内市場で十分な成功を収めていることもあり,微笑ましい話題なども交えられていたものの,講演の主眼は各メーカーに,「もって他山の石とする」ことを期待したものだろう。

 「ファンタシースターオンライン」は,プラットフォームにコンソールゲームを含むという限定を付けなくても,スクウェア・エニックスの「クロスゲート」などと並び,比較的早期に広く海外展開した国産オンラインRPGの一つとして貴重な事例だ。独自に工夫された外国語チャットツールこそあまり活用されなかったものの,アメリカ,ヨーロッパではおおむね好評を博し,ゲームプレイをきっかけとした国際結婚の事例も,報告されているという。

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 しかし,ふだん当サイトの記事をお読みの方であればなんとなく想像がつくと思うのだが,アジア各国におけるサービス提供は,そうそう一筋縄でいくものではないのだ。

 まず台湾におけるサービス。ここで突き当たったのは,チートの問題だ。セガは台湾で「ファンタシースターオンライン」のPCパッケージ版を発売し,サービスを提供した。だが,ご承知のように同作品はMO形式であり,キャラクターデータそのほかはクライアントPC側に保存される仕組みだった。台湾サービスでは早々にチーティングが発生し,サービスが荒れ,発売から3か月でプレイヤー数が激減してしまった。性善説的な構造のオンラインゲームは,耐えられなかった。そして哀しいことに,この構図は韓国サービスでもまったく同様だったのだ。

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 そんな経験を生かして……かどうかは分からないが,中国ではキャラクターデータなどをサーバー側で管理する,「ファンタシースターオンライン ブルーバースト」がサービスされる。チート問題はほぼ解消したものの,ここではまた違った市場環境の問題が浮き彫りになる。

 一つは操作体系だ。もともとゲームパッドを前提に作られた作品を,本当にマウスとキーボードだけで操作する前提でサービスすることには,多くの問題があったという。
 ご存じのように,中国市場はなんといってもPC用MMORPGが圧倒的な環境だ。したがって,マウス主体のターゲット固定型アクション要素(いわゆるクリックゲー的操作)以外は,なかなか受け入れられなかったのである。実際,W/A/S/Dキーによるキャラクター移動ですら,一般に「World of Warcraft」以降初めて広く受容されたといわれている。
 パッドの存在を基本的な前提として,軽快なアクションとコンボ技を多用する「ファンタシースターオンライン」シリーズの,魅力を引き出すことの困難さは想像するに余りある。
 公式サイトでの操作ムービー提供などといった努力は重ねたものの,これが躓きとなったことは否めないという。

 第二の問題は課金形態だ。基本無料のMMORPGがすっかり定着している中国市場で,プレイ時間による従量制課金によるサービスは,受け入れられにくかったとのこと。
 最後に,中国オンラインゲームシーンで重要な役割を果たす,ネットカフェの問題が来る。ネットカフェサービスに参入せずして,中国でのヒットを狙うことは考えられない。ところが,「ファンタシースターオンライン ブルーバースト」のサービス提供に際して手を組んだ現地パブリッシャは,不幸なことにネットカフェサービスにおいて,影響力を持っていなかった……。

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 かくして,初代「ファンタシースターオンライン」のようなチートによる激甚な凋落こそなかったものの,中国市場で「ブルーバースト」がバーストすることはなかった。

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 ただし,「ファンタシースターオンライン」シリーズに関しては,心暖まる話も含めていろいろエピソードがあるようで,例えばマッキンリー登頂を控えて,頂上に立てたいからとプレイヤーさんから旗の提供依頼があったり,セガがチーターを特定し,交通費を出してまで会社に来てもらって「そんなにセキュリティに挑戦したいなら,うちでセキュリティ開発業務に就かないか?」と誘ったが,「いや,とにかくゲームの中でチートがしたいのだ」と断られたりと,講演ではその驚くべき一端が示された。

 会場からは,「ある程度困難が予想され,また実際に困難だった海外サービスに,なぜあえて固執したのか」という質問が出た。これに対しては,前段階としてソニックというキャラクターの成功があり,「ファンタシースターオンライン」の企画立案に当たっては,世界展開が当然の前提という認識だった旨の回答があった。
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 続いて話題は「ファンタシースターユニバース」に移り,チート対策も踏まえてオンラインとオフラインのゲームモードを作ったら,作業量が厖大になったことや,PC版・コンソール版を合わせたパッケージ初期出荷本数である10万本からオンラインモード接続者数を3万から3万5000程度と推定してサーバーを用意していたところ,フタを開けたら5万人以上が殺到し,処理能力がぜんぜん足りなかったなどという,トラブル事例を報告した。

 そうした痛手もあって,日本でのサービスは当初大きな落ち込みを経験するものの,現在ではその痛手から回復し,順調に運営されているとのこと。

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聴講者はざっと150名ほど。もちろんコンソールゲームメーカーの人も,多数含まれていたことだろう
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 アジアサービスにおけるトラブルは,個々に見ていけば,もはやPCオンラインゲームでは常識に属する事柄かもしれないが,これから世界のオンラインゲームサービス市場に乗り出すコンシューマゲームメーカーにとっては,タイムリーな報告であったに違いない。

 実際,具体的な数字周りこそそれほど明らかにしていないものの,ここまで赤裸々な告白が目玉になっているとは,聞き手としてあまり予想していなかった。各メーカーにはぜひ,先達の苦労を教訓にした飛躍を期待したいところだ。
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