インタビュー
「普通はこうだから」って意見とは戦っていきたい――ニコニコ超会議3を総括する「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第18回
超会議とは,その年の“断面図”である
4Gamer:
そういえば,来年の超会議は「ニコニコ超会議4」じゃなくて,「ニコニコ超会議2015」って名称になるって発表がありましたよね。「4」じゃなくて年号にした理由は何かあるんですか?
川上氏:
いや,元々どこかでナンバリングはやめようってずっと思っていたんですよ。
4Gamer:
それはなぜですか?
横澤氏:
ナンバリングだと,なんというのかな。どうしても1より2,2より3,3より4みたいな感じで,前の年との比較になってしまうじゃないですか。超会議ってものを考えたときに,僕は「それはちょっと違うかな」って感覚があって
川上氏:
そうなんだよねぇ。
僕からすると,超会議って,あくまでもその年に起こったことの“まとめ”というんですかね。その年にはやったこと/はやったものが集まるのが超会議ってものだと思うんです。要するに,その年の“断面図”とでもいうのかな。そういうものだと考えていて。
4Gamer:
ふむふむ。なるほど。
横澤氏:
だから超会議というのは,2,3,4とか数字が“進んでいく”ようなものではなくて。今年の「超会議3」にしても,2013〜2014年っていう時代を切り取った断面図が,「超会議3」ってものだったと思うんです。その意味では,来年の超会議というのは2014〜2015年の断面図になるわけですから,「4」よりも「2015」の方が適切な表現だろうってことなんですよね。
川上氏:
まぁ,要するにそういうことなんだけど,年号にする意味っていうのはもう一つあって。つまり,今の日本においては,年号表記にすることで“ロード・トゥ・2020”って意味合いも生まれてくると思うんですよ。
4Gamer:
ああ,東京オリンピック開催に向けて,あるいはそれまでに何が出来るのか――みたいな。
川上氏:
そうそう。年号にすると,2020年に近づいていくっていうようなメッセージが少なからず出てくるだろうと。……ということを考えると,僕としては,やっぱりね,「ニコニコ超会議2020−5」とか,そういうネーミングの方が良かったかなって。ちょっと後悔しているんですけど(笑)
横澤氏:
ひく? ややこしい! そんなの却下!
川上氏:
えー。
4Gamer:
今の話からすると,超会議って何かオリンピックに向けた取り組みでも考えているんですか?
川上氏:
そこはもう,「2020年」っていうとなんか盛り上がるから,乗るしかないこのビッグウェーブに!くらいの話で。オリンピックの盛り上がりに乗っかりたい,あやかりたい人って日本中にたくさんいると思うんですけど,我々もその例外ではない!……と(笑)
中野氏:
その程度なんだ……。
川上氏:
でも,今の日本を取り巻く経済状況とか,国際情勢みたいなものを考えていくと,2020年の東京オリンピックって,日本の歴史の中で特別な位置を占めるのは間違いないとは思うんです。だから,ニコニコ超会議ってものがその時にどういう役割を担うものになっているのか。オリンピックってものを一つの節目に捉えて考えることに関しては自然なんじゃないですか。
4Gamer:
それは確かにそうですね。
川上氏:
あとはまぁ,超会議は「10年やる!」って宣言もしたわけだけど,超会議の2012年がスタートだから,その10年後っていうと2022年ですよ。2020年は通過点でしかないわけで。2022年のニコニコ超会議が一体どうなっているのか。いやぁ楽しみだよね。
横澤氏:
でも2022年って,なんかもう,僕的には「ドラえもん」みたいな感じに見えるんだけど……(笑)
一同:
(笑)
運営としての超会議3におけるチャレンジ
4Gamer:
話はだいぶ巻き戻ってしまうんですけど,今年の超会議3において,運営側のチャレンジって意味ではどういったものがあったんですか?
川上氏:
一つは,運営側のマンネリ化を防ぐって部分ですね。ニコニニ超会議自体については,僕は「超会議はマンネリ化を目指す!」って話を常々公言していたんだけど,それはあくまでお客さん側にとっての話で。
4Gamer:
“定番化”ってことですよね。今年も超会議の季節がやってきたぞ,みたいな。
川上氏:
そうそう。だけど,運営側がそこに慣れてしまうとマンネリ化になる。それはちょっと怖いし,かなり気にかけています。
横澤氏:
そこは,内部でもかなり口を酸っぱくして言ってましたからね。あと,その意味でいうと,今回のチャレンジとして一番大きいのは「組織」ですね。ドワンゴグループ1200人を巻き込みながらどうオペレーションするか。指揮系統が普段とは違う形にならざるを得ないので,何か問題が起きたときに,きちんと縦軸で落とし込んでエスカレーションできるかっていう部分は,かなりのチャレンジだったと思います。
4Gamer:
ちなみに,超会議って以前はどういう形で運営されていたんですか?
中野氏:
以前は,割となんかこう,パワープレイで人を集めてきて……。
伴氏:
基本は,ドワンゴとドワンゴコンテンツの人間が中心になってやっていて。他のグループ会社の人達に対しては「ご協力ください」みたいな感じだったんですよ。
4Gamer:
そうだったんですね。
だけど,「超会議は2022年までやる」って話も公になってしまったし,本当に10年続けるつもりなら,きちんと体制作りをしないとって。組織的な体制――それこそ人事評価だったり,指揮系統の見直しだったりも含めて,超会議に向けた体制作りを本格的に頑張ったのが今年なんです。
横澤氏:
やっぱり,グループの中には超会議みたいな面倒なことをやりたくないって人もいるわけで。そういう人達のモチベーションをどう高めればいいんだとか,半ば専門の独立組織を立ち上げたりだとか,かなりテコ入れをしました。
伴氏:
その過程で,ブレーン自体も結構入れ替わりましたからね。
川上氏:
むしろ,最初の超会議が奇跡的だったよね。たったの66日間で全部まとめあげたという(笑)
横澤氏:
いや,ほんと奇跡過ぎですよ。今ふり返ると怖いくらい。
川上氏:
いやぁ,あの時はめちゃくちゃだったよねぇ(笑)
4Gamer:
……。
横澤氏:
あと,チャレンジってお話でいうなら,実は今回からは,協賛企業や出展企業を募る営業をドワンゴ側できちんとやったんですけど,僕としては,これもかなりのチャレンジだったなと思っています。
4Gamer:
というか,むしろ,従来までもあれだけの協賛企業があったのに,ちゃんとした営業をやってなかったのかって方に驚きますが……(苦笑)
横澤氏:
まぁでも,やっぱりお金を頂くからには,その会社さんに何かしらメリットをお返ししなくちゃいけないじゃないですか。でもそれって,超会議の「全員主役」みたいなコンセプトからすると相反する部分もある。そういうものについても,どうやって共存,共栄させていくのかっていうのは,かなりの難題で。
4Gamer:
なるほど。じゃあ,もしかして,今年の超会議はちょっとは儲かったりはしたんですか? 今までずっと大赤字って話でしたけど。
川上氏:
いや,そこは全くぶれていません。
伴氏:
協賛はいっぱい増えたんですけどね……。
横澤氏:
その分,いっぱい使っちゃいましたから!
川上氏:
そもそも儲かる構造になってないから,超会議は(笑)
中野氏:
まぁ,制作部隊の顔ぶれとかを見ていても,かなり人が増えたなって感じはしますからねぇ。
横澤氏:
増えたというか,これまでが少なすぎだったんですよ……(苦笑)。今は,適正よりもちょっと少ないぐらいで,シェイプされつつ緊張感がある割と良い人数になってると思うけど。
超会議は「壁を壊す存在」であるべき
伴氏:
ときに川上さんは,ラッキースケベ体験(※)はされたんですか?
※「To LOVEる-とらぶる-ダークネス」ブースで行われていたアトラクション企画。参加者全員がヘッドセットをかぶり,みんなで画面上に映し出されるキャラクターの任意の箇所(胸とか)に視点を合わせると,そのキャラクターの服がちょっと透けて見えるというもの。
川上氏:
やんないよ,そんなの。
一同:
(笑)。
横澤氏:
伴さん渾身の企画が……。
川上氏:
あのね。確かに超会議って,いろいろな企画に触れ合う場だとは思っているけど,僕の中でフィルターはあるんですよ。だから,伴さんの趣味に付き合う気はない!(笑) ……正確に言うとちょっと興味があったんだけど,どこでやっているのか見つからなかったんだよね。
企画ブースのお話でいうなら,「しんかい6500」とかの展示はかなり凄かったですよね。あの無骨な造形は,見ていてちょっとワクワクしましたし。
中野氏:
あれは僕も乗ってみたかったんですが,結局乗れなかったんだよなぁ。
伴氏:
僕も乗りたかった。あれに乗れたユーザーさんは相当ラッキーですよね。事前の公募で抽選をしてましたけど。
横澤氏:
「しんかい6500」と言えば,千葉市長の熊谷俊人さんが視察で来てくれた時に乗って頂いたんですけど,操縦席に入ったらそのまま30分以上出てこなくて(笑)。僕が他のブースを案内しようとしたら「すいません。そろそろ時間が……」とか言って,結局は「しんかい6500」だけを見て帰ったというのが印象深いです。
伴氏:
ガチすぎる(笑)。でも,いいなぁ。
4Gamer:
まぁでも,相変わらず超会議って「何を見たらいいんだ」って感じですけどね。
中野氏:
僕としては,企業ブースとかにいるお客さんが「そろそろ横綱が出るらしいぞ」とかいって相撲を見に行ったりって光景をみて,「ああ,よかった」って思いましたけどね。普段,相撲を生で見に行かない,行けない人達に対して,見るキッカケをきちんと作れたんだって感じられて。
横澤氏:
でも,超会議ってそういう場所であり続けたいなとは思ってるんですよね。わざわざ見に行くのはきついんだけど,見たら絶対感動する!みたいなものをどんどんやっていきたいんです。
4Gamer:
そういう“出会い”があると,いろいろな意味で世界が広がるんですよね。逆に好きなことだけで閉じてしまうと,それはもったいないことだよなとはよく思います。
中野氏:
でも,そうした問題の片鱗は今回もちょっと感じられたんですよ。アニメブースとかステージ系は割と顕著だったと思うんですけど,どこか行きたい場所が明確にあると,もうそこしか行かなくなって。他を見て回ろうって気持ちが起きなくなってしまう。
ニコニコ超会議って,やっぱりね。僕は「壁を壊す存在」であるべきだと思っていて。だから,さっきの話と被るんだけど,もっと似たカテゴリをまとめて展示しろだとか,そういう意見には断固戦っていきたい。ジャンル毎,カテゴリ毎に固まっちゃう――コミュニティの分断を促進するような方向性は,絶対間違ってると思う。
横澤氏:
いや,まったく同意ですね。それに僕は,ネットサーフィンってものをリアルの場で再現するとしたら,「歩く」ことがネットサーフィンをしている状態だって思うんです。歩いて見て回ってるっていうのがネットサーフィンで,立ち止まって見るっていう行為がクリックに相当するんだろうと。
4Gamer:
なるほど。
横澤氏:
だから,その「歩く」って状態を作るのがニコニコ超会議の大事なポイントなんだって思っています。
川上氏:
だから,同じカテゴリの企画なんかは逆にあえて離れた場所において,不便にすべきなんですよ。
4Gamer:
ショッピングモールのエスカレーターの配置みたいな話ですよね。上の階に上がる時に,あえてぐるっとフロアを一周させるみたいな。
川上氏:
そうそう。
中野氏:
あと,細かい改善点で言えば,体験系の企画は回転率の問題で,どうしても捌ける人数に限りがあるのも課題ですね。
伴氏:
結局,一つの企画で1000人/日くらいが限界なんですよね。
中野氏:
一方で,大きいステージ系のコンテンツなんかは,体験できる人数がかなり多く取れるわけで。そうした企画の配置のバランスの取り方っていうのを,今後はもっときちんと考えていかないと駄目だなって気はしています。
川上氏:
何かに並んでると自然的に相撲が見れるだとか,ステージが見れるだとか,そんな感じがいいよね。
中野氏:
はい。直すべきこと,そのままにすべきこと,そして新しいことをどうやるか。次に向けて,すぐにでもいろいろと考えていかないとなぁと思っています。
4Gamer:
ってか,中野さんって結構ちゃんと仕事してるんですね……。
中野氏:
してますよ。4Gamerさんまで酷いな(笑)。今は,年の半分くらいが超会議の仕事です。
まぁ,曲がりなりにも社員ナンバー1番の中野くんが,こういうグループ横串のプロジェクトをやるのには最適だってことで。
中野氏:
とはいえ,もうドワンゴも人が多すぎて,知らない人ばかりですけどね。
川上氏:
しかし,超会議もこれはこれで頑張ってやっていくべきだと思うんだけど,今年は,そろそろウェブサービスの方も頑張るってところを見せたいですよね。
伴氏:
そうですね。本業の方でもそろそろ本気を見せないと。なんかもう,本当にイベントの会社だって思われちゃうし。
横澤氏:
実際,いまやイベントの会社でもあるけど(笑)
川上氏:
ここ2年くらいは,超会議だとか,いろいろなイベントで誤魔化してきたわけだけど,そろそろウェブサービスでも本気出すと。今日の結論としては,そこですかね。
伴氏:
言い訳じゃないんですけど,水面下では,インフラから何から2年くらいかけて作り直していたんですよ。
川上氏:
ユーザーさんが期待しているサーバーの安定化とかにも手を付けたりね。いろいろ大変だったんですけど,ようやく目処が付いた。だから,ぜひご期待くださいって感じで。
横澤氏:
本当にお待たせしました!って感じですよね。
川上氏:
だから今年は,ネットサービスとしてのniconicoも進化の年にもなると思う。でも,イベントも手は緩めませんけど!――っていうところで,今日の話はまとまったんじゃないですか?
4Gamer:
超会議座談会の結論がそれでいいんですか?
川上氏:
いいでしょ。今年のニコニコ動画,そして来年の「ニコニコ超会議2015」にもぜひご期待くださいってことで。
中野氏:
でも,比較はあんまりしないでください……。
川上氏:
そうだね。なぜなら……。
川上氏&横澤氏:
よそはよそ! うちはうち! 超会議は超会議!
(つづく)
川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウェア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。なお,本連載をまとめた川上氏の初の単著「ルールを変える思考法」も発売中。
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