インタビュー
「普通はこうだから」って意見とは戦っていきたい――ニコニコ超会議3を総括する「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第18回
4月26日と27日に幕張メッセにて開催された「ニコニコ超会議3」。会場の延べ来場者数12万4966人,公式生放送を視聴したネット総来場者数が759万5978人。前回を大幅に上回る動員数を達成したニコニコ超会議3ですが,4Gamerでは,今年もまた本イベントをふり返る特別座談会をお届けします。
座談会に集まってくれたのは,お馴染みのドワンゴ・川上量生氏に加え,ニコニコ超会議3の統括プロデューサーを務める横澤大輔氏,ニコニコ動画の運営長として知られる中野 真氏,そしてドワンゴ内の開発を統括しつつ,同社の二次元担当としても知られる伴 龍一郎氏の3名。
大相撲とのコラボーレションや新設されたアニメエリアなど,今年も大いに盛り上がったニコニコ超会議3ですが,運営の当事者達は何を考え,その結果をどう捉えているのか。また,川上氏の考える「ニコニコ超会議のあり方」とは……? 今回も興味深い話が盛り沢山の内容になっているので,ぜひご一読ください。
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企画の数は去年の2倍ぐらい
川上氏:
というわけで,今年も恒例のニコニコ超会議についての総括座談会をやりたいと思うんだけど。そうだなぁ,とりあえずは反省会から始めてみる?
横澤氏:
いや,反省会はまたの機会でやりましょうよ。
中野氏:
そうですね。反省点はいっぱいあるし,ここで細かい話をしても……という。
それこそ反省だらけなんですけど,あんまり反省ばっかりしてても気が滅入ってしまうだけですから,良かったところと駄目だったところをもう少し整理して,きちんとレビューしたいんですよね。
川上氏:
まぁ,毎回新しいことをやってるわけだし,いろいろな問題や軋轢はどうしても出てくるよね。それに対しては謙虚に頑張るけど,だからといって,安定志向でまったくチャレンジをしなくなったらダメだもんね。
中野氏:
一つ一つの要素を細かく見ていくと,「どうにかしなきゃな」って部分と,「まあしょうがないな」って部分と両方あるって感じなんですよね。
4Gamer:
イベントの規模自体は,去年と比べても大きくなっているんですか?
横澤氏:
ドワンゴが直接関わった企画の数でいうと,去年の2倍ぐらいですかね。いや,もっとあるかな?
4Gamer:
えっ,そんなにあるんですか。
伴氏:
僕らが作ってた管理表の項目数からして2倍以上ありましたからね。
横澤氏:
その分,オペレーションも2倍になっていたわけですが。
川上氏:
ふうん,凄いねぇ。来年はもっと増やすつもりなの?
横澤氏:
いや,これが限界だと思うんですよね。
川上氏:
あ,もう人(社内リソース)としての限界ってこと?
横澤氏:
それもありますけど,純粋にイベントの時間とスペースが限られているわけで。そこでやれることには限りがあるって話ですね。今回もかなり詰め込んだので。
川上氏:
そっちもか(笑)。もう純粋に物理的な問題(時間と場所)だと。
中野氏:
だから,冗談半分で「もう,会場を2階建てにするぐらいしかない!」みたいな話もあったくらいですし。
川上氏:
あと,音の問題も重要じゃない?。あれもなんとかしないと駄目なんじゃ。
伴氏:
音関係はあれでもずいぶんと頑張って洗練されたんですよ。
でもやっぱり,自衛隊の人が講演してる横で突然ドラムが鳴りだして声が聞こえないだとか,個々のイベントやブースを見ていくと,どうしてもハレーションを起こしちゃうんですけど。
横澤氏:
結局,どんなブースであっても音は出てしまいますからね。
4Gamer:
とはいえ,あの“カオス感”が超会議の大きな特徴ですから,そういった部分の線引きは難しそうですよね。
伴氏:
まぁただ,「まるなげひろば」とかは,逆にまだまだ広げる余地があるなって感じましたけどね。「まるなげひろば」って,ユーザーさんが勝手に広げていけるような取り組みだから,来年はあれをもっと拡大できるといいですよね。
横澤氏:
今年は,「空き地化戦略」っていうのをやったんですよね。大枠のルールはあるんだけど,それ以外は自由にできるよってスペースを意図的に用意していて。「まるなげひろば」は,超会議3で一番うまくいった企画の一つだと思う。
中野氏:
すごくいい雰囲気でしたよね。
川上氏:
「まるなげひろば」は面白かった。あの路線は拡大していきたいな。
中野氏:
個人的に,「まるなげひろば」で印象的だったのは,Oculus RiftをiPhoneを使って再現してた奴なんですけど。
ああ,あれは凄かったよねぇ。
伴氏:
ダイソーで売ってる100円の虫眼鏡を使って作ったみたいだけど,ちゃんとそれっぽく見えましたからね。いくつかその場で配ってたみたいです。
中野氏:
Oculus Riftのソフトが集まっていた「超Ocufes」コーナーも凄かったですよね。ドワンゴ側でも,Oculus Riftを使った企画は用意していたんだけど,もう完全にユーザーさんの方が上をいってて。伴さんなんか,始まる前から敗北宣言してましたよね。
伴氏:
完敗だなぁと思って。悔しい……。
川上氏:
負けでいいじゃん(笑)。MMD(※)とかもそうだけどさ,ニコニコ超会議っていう場はユーザーさんが主役なんだし。僕らはあくまでそのプラットフォームを提供しているだけなんだから。
※「MikuMikuDance」の略。無償公開されているフリーの3DCGムービー製作ツール。
中野氏:
そうなんですよね。僕らはプラットフォームを提供していくってところに注力するべきで。中身のコンテンツをドワンゴが作っているとか思われたら,ツライだけだですし。
川上氏:
それはマイナスだよね。僕らは盛り上げ役をやってるだけって立場ですから。
横澤氏:
うんうん。その意味でも,「まるなげひろば」はかなり理想的な形だったと思います。
伴氏:
そうですね。実際,ドワンゴが用意したブースと合わせると,日本であんなにOculus Riftを使ったイベントって初めてだったんじゃないですか。
横澤氏:
新しめの技術とかも展示されていましたよね。Oculus Riftを使った360度生放送のデモとか。
川上氏:
うんうん。あれはとても有意義な場になっていたと思いますよ。
来年こそは「リアル鬼無双」をやりたい
4Gamer:
しかし,今年の超会議3の目玉って意味でいうと,運営的にはどのあたりだったんですか?
川上氏:
今年の目玉は,なんと言っても相撲じゃないですか。相撲は想像以上にシュールで良かったよね。
いやぁ,力士は万能すぎますよ! 自衛隊と力士,Oculus Riftと力士,初音ミクと力士……何と組み合わせてもそれだけで絵になるっていうか。それだけで面白い。
中野氏:
なんか,MADみたいになってましたよね。
川上氏:
それにお相撲さんって,実物を見ると「こんなにも大きいのか!」ってびっくりしますよね。そういうのも若い人に伝えられて良かったなと思ってます。
横澤氏:
僕は,ウチの荒木さん(※)よりも巨大な人間を生まれて初めて見たというか。こんな大きい人間が存在するんだって,ちょっとびっくりしました。あれは勝てないですね。
※荒木隆司(あらきたかし):ドワンゴ代表取締役社長。
中野氏:
うん,勝てない。
横澤氏:
相撲ってことで言うと,今回僕らがこだわっていたのは,「朝稽古」って部分だったんですよね。超会議って朝の10時に開門なんですけど,物販やイベント目当ての人は,開門と同時にダッシュしていくわけです。で,走り抜けて行く途中でふと横をふと見ると,力士が朝稽古をしているっていうね。そういう構図を作りたくて,わざわざ9時から朝稽古をやってもらったんですけど。
伴氏:
ダッシュしつつも,目はお相撲さんに釘付け,みたいな。
中野氏:
力士の控え室が,開場前の待機列の横なんです。だから,並びながらも「相撲やってる!」みたいなね。
横澤氏:
そうそうそう。そういうのが“超会議らしいよな”と。超シュールでいいなと思って。
4Gamer:
そもそも,超会議3に大相撲を呼ぶというのはどういう経緯で決まった話だったんですか? もう,コラボが成り立つこと自体,凄く不思議なんですけど。
川上氏:
あれはですね。元々はニコニコ町会議の方で何かできないかって話が本筋だったんですよ。相撲って地方巡業があるから,ニコニコ町会議と併催する形で何かやらせてもらえませんかって,最初はそういう話で。僕としては,そこで「鬼無双(※)」みたいな企画をやってみたくて(笑)
※大相撲の取り組み映像に,格闘ゲームやドラゴンボールのような派手な効果音やエフェクトをかけたMAD動画のこと。
横澤氏:
もともとは「来てもらう」んじゃなくて,「僕らが乗り込む」って提案だったんです。
川上氏:
そうそう。そういう形だったら,まだ先方的にも負担が少ないし,話に乗りやすいだろうと。だから,「巡業地のどこかでご一緒させてください」「コラボさせてください」って交渉をずっとしていたんです。
4Gamer:
なるほど。
川上氏:
……だったんだけど,そんな話を進めていたら,あるとき,先方から「超会議だったら出てもいい」という,予想もしないような返答を頂いて。
横澤氏:
「えっ。来てくれるんですか?」みたいな。
逆にびっくりしたんだよね(笑)。まぁただ,実はドワンゴが大相撲の携帯サイトを作ってたり,試合の中継をしたりだとか,以前からやりとり自体はあって。相撲協会との関係の下地みたいなものはできていたんですよ。だから,そうしたベースがあったうえで,運良く花開いたっていうのが今回のお話だったのかなと思います。普通は,なかなかこんな取り組みは成立しませんからね。
4Gamer:
そうですよねぇ。
横澤氏:
それに,力士の人たちって若い人が多いじゃないですか。だから,なにげにニコ厨な人もいっぱいいるらしくて。超会議3での巡業が決まった時に喜んでくれた力士さんも多かったって,そういうお話も聞きましたよ。
川上氏:
実際,力士の人たちも当日は空いている時間に普通に超会議を歩き回って見物していましたよね。あちこちで見かけたし。
中野氏:
力士といえば,横綱の白鵬関が何かのインタビューで「来年,再来年と続いてほしい」みたいな話をしてくれてたみたいですしね。「普段,相撲を見に来ない,とくに若いお客さんがたくさん来てくれたから,これはポジティブに捉えていい」みたいな。
川上氏:
へえ。白鵬関がそんな話をしてくれてたんだ。それは嬉しいですね。
相撲協会の方も,「さて。来年はどうしましょうか?」みたいな感じでしたよ。「お,次も来てもらえるのか」って感じで(笑)
川上氏:
じゃあ,来年こそは「リアル鬼無双」をやりたいですね。今だったら,前向きに聞いてもらえないかな(笑)
伴氏:
どうすれば実現できますかね。技術的に。
川上氏:
体のどこかにARマーカー(※)を付けてもらってって感じになるかな。
※AR(augmented reality)とは,「拡張現実」という意味。
横澤氏:
でも,力士ってみんな裸ですよね。まわしとかに付けるにしても,あれはきっと神聖なものだと思いますし,ARマーカーみたいなものを付けたりしてもいいのかな。
川上氏:
力士って手にテーピング巻いたりはしてますよね。ARマーカー付きのテーピングとかなら行けるかも。
横澤氏:
なるほど。それなら大丈夫かも?
川上氏:
じゃあ,まず我々が開発すべきなのは,ARマーカー付きのテーピングってことで。それはぜひ作りましょう!
伴氏:
というか,それ,相撲だけじゃなくてどんなスポーツでも使えますよね。
横澤氏:
使える使える。これでAR活用の新境地を切り拓け……ないかな(苦笑)
川上氏:
いいじゃんいいじゃん。まぁウチが作ってもいいし,どこかそういう技術に長けた会社さんとかが,この記事を読んで名乗りを挙げてくれたりすると嬉しいんですけど。電王手くんみたいに!
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