インタビュー
「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号
ロジックが人類の行く末を決めていく
4Gamer:
その意味でいうと,最近,インターネット上で人気の記事ジャンルの一つに,「ライフハック」と呼ばれるものがあるじゃないですか。例えば,就活マニュアルみたいなものだとか。全部が全部そうだとは言わないんですけれど,ああいう物を見ていると,なんというか,なんとも言えない気持ちになることが少なくないんです。
川上氏:
だからね。繰り返しになるけど,ああいうのは「判断を外部に委ねちゃっている」んですよ。もう,ネットが全然「外部記憶装置」じゃなくて,「外部に考えてもらっている」状態なんですよね。CPUとか,プログラムの一部を外部に任せちゃってるんですよ。それってもう,ミトコンドリアみたいな「かっての」微生物と何が違うのかって話で。
4Gamer:
でも,その流れは止めようがないし,これから世の中がそうなっていく前提の中で,我々はどうしていくべきかっていうのが川上さんの世界観なんですよね?
川上氏:
うん。どうしていくかなんだけど,最終的には,要するに世の中の行く末を決めるロジックの部分が,人間の中から外に出ていくというのが,今の人の歴史の流れなんだと思うんですよね。インターネット云々もそうだけど,社会システムにも同じことが言えて,例えば,オバマ大統領が「私有財産制度をやめよう!」と言ったところで,それを社会システムやシステムを司る“ロジック”が許さないわけですよ。最近の金融破綻だったりもそうだけど,ロジック(システム)が世の中を動かしていて,人間には制御できなくなっていっているわけです。
4Gamer:
そうですねぇ。
川上氏:
それがなぜ起こり得るかと言うと,今の世の中の進化というものは,実は人間そのものの進化じゃなくて,あくまでも「人間の外にあるロジックの進化だから」だと思うんです。そして,それが今までは「社会システム」とでも呼ばれるべきあやふやなものの中にあったんだけど,インターネットっていう極めて情報の伝達が早い媒体が登場して,そこに“乗っかって”しまった。
最近は,あんまり言われなくなった気がするんですけど,Googleニュースの取捨選択とか,あるいはGoogleの検索結果の並び順について,「あれはかなり危険なんじゃないか」という議論が一時期は結構ありましたよね。Googleの影響力が増していく一方で,世の中の情報の価値をGoogle(のアルゴリズム)が決めてしまっていいのかという話です。
川上氏:
ネットの世界では,国家の法律よりもGoogleのアルゴリズムのほうが影響力ありますからね。
4Gamer:
ええ。マスメディアの恣意的な情報操作が云々,みたいな話をする人がネットでは沢山いますけど,一方で,こっちはこっちで相当危ないよね,という意見は結構ありました。さらに,さっきの家畜化云々の話と組み合わせて考えてみると,自分で考えない人達が煽られて間違った情報を拡散させて,その結果を「Googleが価値があるものと判断する」という流れもある。それが世間の同調圧力を作り上げてしまう。
川上氏:
そうそう。「みんなの意見は案外正しい」なんて大嘘です。
4Gamer:
実際問題,インターネット上のニュースなんかを見ていると,煽り記事や飛ばし記事が“人気の記事”として上位に並んでくるわけですが,良いとか悪いとかという話は一端置いておいても,「なぜ,こういう現象が起こるのだろう」というのはよく考えるんです。
川上氏:
インターネットのアーキテクチャの話を一つすると,それが“酷い記事だって判断できる人”がどんどん減っていて。その結果,そういう現象が起きているんだと思いますよ。
4Gamer:
あるいは,インターネットが“一般化”するに連れて,相対的に“判断できる人”が減っている(判断できない人の方が割合は多いから)という流れもありそうですよね。
川上氏:
うん。なんというか,ロジックの進化が先鋭化されていくとさ,人間の個性って逆に失われていくんですよ。人間そのものが部品化していってしまう。
4Gamer:
で,最終的に“ミトコンドリアになっちゃう”というのが,川上さんの考えなわけですね。
※川上氏による注釈:
ミトコンドリアは細胞の小器官の中でも特殊で独自のDNAを持っていて,元々はミトコンドリア自体で単独の微生物だったものが細胞に取り込まれたものだと考えられています。だから独自のDNAをもっているわけですが,進化の過程でミトコンドリアの遺伝子のかなりの部分が細胞核に移っており,ミトコンドリアゲノムだけでは細胞の複製ができないようになってしまいました。ですから、DNAをもっているとはいえ,実質的には単独の生物というよりは細胞内にある器官のひとつになってしまったのが現在のミトコンドリアです。
川上氏:
たぶんだけど,宇宙人から見た場合,地球を支配している生命体は人間じゃなくなっている,みたいな感じになるんじゃないのかな。人間は個々のパーツとして働いているんだけど,地球を支配しているのは,人間を素子とする巨大なネットワーク……それが地球を支配しているんだ,みたいな。それが未来の人類の解釈になるんじゃないかっていうね。だから僕は,21世紀で人間の歴史は終わると思っているんですよ(笑)。
4Gamer:
その辺はもう,あれですね。古典SFの世界みたいな世界観ですよね。デストピアみたいな。
川上氏:
でも,実際起きている現象って結局その通りじゃないですか。今まで話していたこと――要するに集合意識みたいなのが地球を支配する――って,全部それなりにロジカルな話だし,すでに起きている/起きつつあることですよね。海外の古典SFなんかは,ずっとそういうテーマをやってきたと思うんですけど,やっぱりそれはきっと正しかったんですよ。
4Gamer:
それがインターネットの出現によって顕在化してきた,ということなんですかね。
川上氏:
古典SFのような発想って,それこそ100年前から言われてきたことですけど,現実社会がそうならなかったから,ただの絵空事で終わっていたわけですよね。「あ,現実ではやっぱり起こらないんだ」みたいな。だけど,それって実は“タイムスケール”の問題でしかなくて,実際はそっち(デストピア)の方向に向かっているんだと思うんです。非常に長いタイムスパンで変化が起きているので,人間が知覚していなかったというだけで。
4Gamer:
タイムスケール?
川上氏:
人間が思考する速度とかって,基本的には秒単位とか,あるいは分単位じゃないですか。原始的な知覚や反応であれば,もっと短いかな。で,それが複雑なもの,ロジカルなものになればなるほど,その思考の単位ってどんどん長く遅くなると思うんです。人間同士のインタラクションにしたって,言語を介すと少し遅くなるし,それを文字だったり,制度やシステムを介して行うと,さらにゆったりとしたタイムスパンになるわけですよ。
4Gamer:
ああ,なるほど。
川上氏:
要するに,巨大なものほどタイムスケールが段々大きくなっていく傾向があると思うんだけど,近年は,インターネットの出現によってそれが変化したと思うんです。
4Gamer:
そこで言う“変化”とは何を指しています?
川上氏:
つまり,インターネットの登場によって,社会とかシステムとか,そういう人間個々の上位にある思考(ロジック)の活動速度自体が飛躍的に上がったんですよ。さっきの集合意識というか,仮にそれを生命体だと考えると,その生命体の神経の速度が飛躍的に上がったのが,インターネットがもたらした一番の効果で。そのことによって,変化が速くなるし,進化も速くなった。それが,近年「ドッグイヤー」と呼ばれているものの正体なんじゃないかな。
インターネットで,人類のクロック数は上がったのか
4Gamer:
近代文明云々の話をすると,時間とか,時計の話がよく出てくるんですよ。要するに,昔の人ってあんまり時間に縛られた生活はしていなくて,あくまでも日の出と日没とか,そういったもので生活のリズムを作りながら,部族とか村みたいな,小さいコミュニティ毎に時間を同期させて生活を営んできたわけですよね。
だけど,現代人というのは時計(世界標準時間)というものに縛られて生きていて,さらに時計で社会を同期させながら生きていくようになった。僕らが「近代化」と呼んでいるものの正体の一つは,この時計(同じ時間で世界を同期させていく)のことなんじゃないかって話です。
川上氏:
いや,その意味で言うと,それは「時計の単位」の問題なんじゃないのかなぁ。
4Gamer:
単位,ですか。
川上氏:
うん。時計がなんであるのかっていうと,人と人とが同期するためだと思うんです。で,同期はなんのためにするかっていったら,個人じゃなくて,集団の力を発揮するために同期させるわけですよ。
4Gamer:
そうですね。
川上氏:
だから,集団の力を発揮するためにたくさんの人数を揃えて,かつそれらを同期させるために,時計の役割がどんどん重要になっていった。けど一方では,個人だったらすぐに意思決定できるんだけど,国とか会社とか,そういう大きな組織であればあるほど,意思決定には時間がかかるようにもなっている。
4Gamer:
はい。
その遅延というのは,人間の生活リズム……1日1回寝なきゃいけないとか,宗教上の理由でお休みだとか,そういう人間の同期のリズムによって左右されているわけだけど,その同期のリズムが,ある意味で人間という種の“クロック数”だと思うんです。要するに,人間というパーツを使ったコンピュータの性能は,並列化した小さいCPUの数(人間の数)と,それを動かすクロック数で決まるわけですが,インターネットの登場でその一部が超速くなったというのが,僕の理解で。
4Gamer:
うーん,なるほど。
川上氏:
で,話は戻るけど,クロック数が速くなったことによって,人間社会の変化が早くなったわけですよね。でもそれって生物的な進化とかではなくて,あくまで「ロジック」の進化なんですよ。そしてその意味でも,これからの人類の将来を決めるのは,そのロジックの側だろうと。
そうなると,どんどん人間の必要とされる場所が減っていく。でもその過程で,人間側も反抗すると思うんです。そんななかで,最終的にはダメかもしれないけど,その流れに抗ってやろう/一矢報いてやろうというのが,僕(あるいはニコニコ動画)の目標といいますか。
4Gamer:
しかし,ほんの5年くらい前を振り返ってみると,「インターネットは素晴らしいものだ」的な価値観っていうんですか。別に悪く言うわけじゃないんですけど,梅田望夫さんの「WEB進化論」であるとか,あるいは集合知が云々みたいな話だとか。ああいう考え方が力を持った時期ってあった(今もあるけれど)と思うんですよ。で,その時のインターネットの捉え方というのは,多くの人間(CPU)を同期させて一つの巨大なコンピュータに仕立てるんだ,みたいなものでしたよね。
川上氏:
そうですね。
4Gamer:
でも,現実として起きている現象がなんなのか。今日の川上さんの話を聞いていると,それってつまり,本来は100人の人間がいたら100個のCPUがあるはずが,実際はどこかに一つCPUがあるだけの状態で,性能は上がっていないのではないか――そういう話ですよね。
川上氏:
性能はむしろ下がっていますよ。集合知は,知性体としては優秀な人間よりは馬鹿です。そして集合知というコンピュータの中では,人間はもうCPUじゃないんですよ。人間はCPUじゃなくてリレースイッチか何かで,その事実に気が付いていないんです。
※川上氏による注釈:
最初期のコンピュータは,リレースイッチという電気のオン・オフをおこなう回路を組み合わせて,論理回路や記憶装置を構成していました。その後,遙かに高速な真空管やトランジスタにその役割をとって変わられたわけですが,人間がCPUのパーツであるという比喩を,最も原始的なコンピュータの部品で喩えているわけです。
4Gamer:
ああ,電気を通すだけみたいな。
川上氏:
そうそう。だってそういう役割をやっているわけでしょ。実際。ネットで炎上なんかの祭りに参加したり,政治の議論で工作員として活動する人たちは,完全にそれですね。自分ではなにも考えてない。
4Gamer:
川上さんの世界観でいうと,その「どこかにあるCPU」はどういう捉え方ですか。
川上氏:
それも繰り返し言ってるけど,人間個人にはコントロールできないもの,ですよね。さっきも話しましたけど,資本主義のルールを変えようって,オバマ大統領が言ったって変わんないわけじゃないですか。それってどういうことかというと,ロジックの方が強いってことなんですよ。ロジックの慣性力の方が人間よりも強いんです。
4Gamer:
ふーむ。
川上氏:
でも,そんな事は大昔からみんな分かっていたことなんですよ。国家や歴史に翻弄される無常さであるとか,個人の無力さとか,そういうのって文学の世界でも永遠のテーマじゃないですか。何年か前にGoogleが出てきた時だって,Googleの持つ可能性にみんなが「すげーっ」って言っている横で,一方では,Googleが支配する未来は本当に理想郷なのかって疑問を,多くの人が抱いていたはずなんです。機械でやれることは全部機械にやらせるって,彼ら(Google)はずっと言ってきたわけだけど,果たしてそこに僕らの居場所はあるんだろうかという。
4Gamer:
産業革命期の“サボタージュ”みたいな話を少し連想してしまいますね。機械が人間の仕事を奪ってしまう的な。ただ,先進国と呼ばれる国々の行く先みたいなものって,やっぱり,もうネットと切り離して考えられないとは思うんですよね。
川上氏:
科学技術が発達したおかげで,社会全体の生産力は増大していって,社会のほんの一部が働いていれば,全体が食べていけるっていう方向にはなっていくんですよね。そうすると,未来はきっと,有能だけど仕事もないし暇だという人間が増えていくっていう流れになる。であるならば,人間の社会というのは,暇な人間がいっぱいいるという前提で設計を考えなければならない――っていう視点もあるよね。
4Gamer:
それが,川上さんがよく言っている“ネット原住民”みたいな人達になるんですか。
川上氏:
うん。まぁただ,僕はそんな人間社会の設計云々はあんまり興味がなくて。あくまでも人類の歴史が終わるってところに関心があるんです(笑)。そして,人類の歴史が終わる前に,巨大な意思みたいなものに取って代わられる前に,そいつに一泡吹かせたいと思っているわけだけど,そこでの対抗策として,さっき話していた“大量に発生するであろう暇な人たちを使った”エンジンみたいなものがあったら,きっと面白いよねっていう。それが僕の中のテーマなんですよね。
4Gamer:
難しいテーマですね(苦笑)。まぁ総括すると,川上さん的には「インターネットの発達は人類にとってはあんまりよくない」ということですか。
川上氏:
何をもって「良い」のかっていうのはあるけどね。まぁただ,インターネットが発達することによって,世の中は便利になっていくと思いますよ。個人的にも,インターネットがあった方が凄く楽しいですしね。でも,大きなタイムスケールで考えると,人類という種にとっては良くないんじゃないか。そういう話ですね。
4Gamer:
分かりました。
川上氏:
しかし……。
4Gamer:
はい。
川上氏:
年末の記事用だっていうのに,こんな中二病的な話でいいのだろうか。
4Gamer:
ああ。なんかもう,学生同士の会話みたいですよね。「真剣10代 しゃべり場」みたいなノリというか(苦笑)。
川上氏:
そうですよね。学生っぽいですよね。とても,社会人二人の会話とは思えない(笑)。
(つづく)
川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。
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