企画記事
「儲けちゃ駄目」は道徳じゃなくて科学の話。論理的に駄目なんです――川上量生氏との特別対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第2回
成り行き任せでスタートした,ドワンゴの代表取締役会長・川上量生氏との特別対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。2回めとなる今回のテーマは,「事業を成功させるための方法論」について。
パソコン通信時代の話から始まって,サービスを立ち上げる時の考え方や,「ヒットするもの」に対する捉え方まで。相変わらず,いろいろな方向へと話題が拡散する氏との対談だが,今回も面白い話をたくさん聞けたので,ぜひお昼休みなどにでも読んでみてほしい。
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4Gamer:
本日もよろしくお願いします。連載2回めにして「何からお聞きしたものか」という感じですが,今回はどんなテーマから話を進めましょう。
川上氏:
今日は,パソコン通信時代の話を少ししたいな。
4Gamer:
パソコン通信というと,ニフティ・サーブ(Nifty-Serve)とかの話ですか?
川上氏:
いや,僕的にパソコン通信というと,ニフティよりも,その少し前から流行っていたアスキーネット(ASCIInet)とかの方の印象が強いんですよね。
4Gamer:
アスキーネットですか……。僕がパソコン通信に本格的に触れたのは'90年代の初め頃からなので,アスキーネットやPC-VANはあんまり知らないんですよね。
ニフティはねぇ……,今で言うとmixiみたいなポジションかなぁ(笑)。
4Gamer:
うーん。分かるようか分からないような……(笑)。
川上氏:
一方で,アスキーネットの方はもっとコアな,ギークな人達が集まる場所というかね。そういう雰囲気だったんですよ。それで,アスキーネットにあった「junk.test(※)」って掲示板があったんだけど,これが,今の「2ちゃんねる」にも繋がる匿名掲示板の始祖的なサービスだったんです。
※アスキーネットにあった,いわゆる練習用掲示板。年単位でログが保存されていた通常の掲示板と違って,一週間あるいは一か月でログが全部消去されるという形で運用されており,結果として“なんでもあり”な刹那的な書き込みが乱舞するコミュニティへと発展した
4Gamer:
名前は聞いたことがあります。
川上氏:
まぁこのへんには諸説あって,人によってはjunk.testよりも前にあったUNIXベース(※)のコミュニティが源流だ,みたいな話もあるんですど。ただ僕は,あれは本当にごく一部の人しか使ってなかったものだと思うので,実際というか,事実上の2ちゃんねるの源流になったのはjunk.testの方だと思っているんです。
※'70〜'80年代,主に北米の大学や研究所などといった教育機関を中心にUNIXベースのネットワークが構築されていた
4Gamer:
junk.testと2ちゃんねるの類似性は,いろいろな方がよく指摘していますね。
川上氏:
ある程度の規模で“ああいう文化”を体現したのは,日本ではjunk.testが一番最初だったんじゃないかな。ただ,あのパソコン通信という空間の中で作り上げられた文化は,インターネットの登場で一度空中分解して消滅しまうんですよ。
4Gamer:
確かにインターネットが人気になり始めた黎明期には,コミュニティが拡散していった時期があったように思います。パソコン通信の王者だったニフティも,インターネット化への対応は遅れに遅れていましたし。
川上氏:
そうそう。パソコン通信が廃れて既存のコミュニティが分散していく一方で,コミュニティの濃い部分は「あめぞう」とか「あやしいわーるど」とか,もうちょっとローカルなところでいうと「セガBBS」みたいなところに流れていって。そして紆余曲折ありながらも,最終的に集約されていったのが「2ちゃんねる」なんですよね。
4Gamer:
日本の電子掲示板の歴史ですねぇ……。
川上氏:
あと,これは前にどこかで言った気がするけど,パソコン通信の世界にあった「ハンドルネームで相手が分かる仮想のコミュニティ」も,パソコン通信が廃れるのと同時に,いったん消えるじゃないですか。
4Gamer:
mixiが「招待制」という形で,インターネットに非匿名性のスタイルを持ち込むまでは空白ができますよね。そもそも2000年代の初頭あたりは,2ちゃんねるなどの影響もあって,「インターネット≒匿名の世界」みたいなイメージすらありましたし。
川上氏:
インターネットの匿名性やオープンさが,パソコン通信の文化との対比で語られていた時代だよね。
4Gamer:
これからはオープンな(インターネットの)時代だ。世界に向けて情報発信をするんだ――的な。
川上氏:
そう。でも一方で,パソコン通信って今振り返ってみても,やっぱり“独特の空気”があったと思うんですよ。まるで秘密結社みたいな感じというのかな(笑)。ただパソコン通信をやっているというだけで,お互い妙に仲良くなったり。
4Gamer:
ああ,そういう感覚はニフティでさえありましたね。当時は,まだパソコン通信もそこまで一般的ではなくて,パソコン通信をやっているという時点で,属性がかなり偏っていたという理由もあったと思うんですが。だから,パソコン通信をやっている=気が合うっていうのは前提でコミュニケーションが交わされていたのはあったんだろうなと。
川上氏:
なんか,凄く“狭い”感じがしたんですよね。当時は,ネットをやっていること自体が,弾圧下におけるキリスト教徒みたいなノリというか。リアルな人間関係より,むしろこいつらの方が信用できるみたいな空気すらあったじゃないですか(笑)。
4Gamer:
それは,今の「2ちゃんねらー」や「ニコ厨」と言われる人達にも通じることなんじゃないですか。
川上氏:
でも,匿名の世界じゃなくて,ハンドルネームとか相手が識別できる環境のなかで,濃い関係が醸造されていくような仮想コミュニティって,最近はあんまりないと思うんですよ。それこそオンラインゲームのギルドくらいじゃないですか?
4Gamer:
確かに。最近流行っているSNSにしろTwitterにしろ,ゆるやかなコミュニティになっている傾向はありますからね。そもそもリアルの知人がベースになっていたりすることも多いし。
川上氏:
パソコン通信が流行っていた当時,そのパソコン通信で知り合った人と会社を作るってのが流行った時期があったんですよ。有名なところだと,「ブルースター」ってところとか。
4Gamer:
あー……。
川上氏:
そこまでの濃い関係性を,最近の緩いコミュニティの中で構築できるんだろうか?という気持ちは最近ちょっとあるんです。その意味で言うと,たぶんドワンゴっていうのは,パソコン通信時代のネット原住民(?)の第一世代が集まって作られた,最後の方の会社だったと思うんですよ。ほんと,第一世代の最期の生き残りみたいな集まりで。
4Gamer:
ドワンゴにBio_100%(※)が合流する経緯って,何かの本とかに書いてありましたっけ?
※アスキーネットを中心に活躍したフリーウェアおよびシェアウェアゲームの開発者集団。後にドワンゴに合流し,初期の開発部隊の屋台骨を支えた。
川上氏:
どうだったかな。ただ,少なくとも僕とBio_100%ってそんなに関わりがないんですよ。
4Gamer:
え,ドワンゴの社員だったのに,ですか?
川上氏:
はい。Bio_100%は,森さん(※)の縄張りだったから。僕はあんまりタッチしてないんです。まぁでも,本当に伝説的なグループでしたよね。Bio_100%は。
※森 栄樹。ハンドルネームはalty(アルティ)。Bio_100%の代表で,プログラマとして活躍。マイクロソフトでDirectXの開発に関わったのち,ドワンゴに合流した。ドワンゴの開発部長を経て,現在は独立。
4Gamer:
そうですね。僕でも知ってるくらいですから。
川上氏:
だって,Bio_100%(のメンバー)から「たまごっち」と「ドワンゴ」,そしてニコニコ動画が後に生まれたわけじゃないですか。これって何気に凄いと思うんですよね。Bio_100%がなかったら,たまごっちもニコニコ動画もなかったっていう。
ゲームは「勝ち方」を考えている時が楽しい
川上氏:
話をアスキーネットに戻すんですけど,アスキーネットが有料化した直後くらいのタイミングで,「ギャラクティック・フリートレーダー」(※,以下GFT))っていうゲームがサービスされて。これが当時としてはかなり画期的な作品だったんですよ。
※黎明期のネットワークゲームの一つで,宇宙を舞台にした交易ゲーム。プレイヤーは商船を率いて惑星間を飛び回り,No.1の商人を目指す。
4Gamer:
どんなゲームだったんですか?
川上氏:
いわゆるトレーディングゲームで,昔,ウチ(ドワンゴ)で出した「海運ジェネレーション」っていう作品が,ぶっちゃけ,このGFTのシステムを真似たゲームですね。いろんな星があって,その間を宇宙船で行き来して貿易するんですけど,星(港)毎に物資の値段が違う。安いところで買って高いところで売る。それを繰り返してお金儲けをしていくという内容で。
4Gamer:
なるほど。ちょっとイメージが掴めました。
川上氏:
で,このゲームの面白いところは,「この港で〇〇が安く売っている」「××では高く売れる」みたいな情報をネットを介してやりとりしながら,いかに効率的にゲームを進められるか,という部分だったんですね。
4Gamer:
まさに「ネットワークゲーム」の原型だったわけですね。
川上氏:
です。だから,このゲームに参加していた人達は,ゲーム内に用意されている掲示板とかを利用して,頻繁に情報のやりとり(交換)をしていたわけです。
4Gamer:
川上さんも同じようにプレイを?
川上氏:
いえ。僕はというと「銀河タイムズ」という,新聞みたいなものを発行して,ゲーム内で起こった事件とか,さっき言った港の情報なんかをまとめて,その情報自体の売り買いをして遊んでたんです。掲示板で新聞の宣伝をして,コンタクトを募って,お金や情報をもらったらメールで新聞の内容を伝えるってやり方だったんですけど。
4Gamer:
というか,それが一番儲かりそうだ(笑)。
川上氏:
そうなんですよ。銀河タイムズを運営しながら,「こっちの街の情報教えるから,そっちの街の情報を教えてよ」みたいなやりとりをずっとやっていたわけですけど,その過程で「僕がすべての情報を握っている」みたいな状態になってしまって(苦笑)。
4Gamer:
情報を仲介しているわけですからねぇ。
川上氏:
GFTには,一応,ゴールとなる星へたどり着く,みたいな目標が設定されていた――別にその後もゲームは続く――んですけど,情報を集約していくうちに,その座標すらもあっさり分かってしまったんです。
4Gamer:
ある種の“ズル”と言うか。
川上氏:
なので,「このままゴールしてしまっていいのだろうか?」と少し悩んだんですけど,結局は「クリアしたら他のみんなはどういう反応をするだろう?」って好奇心に負けて,さくっとゴールしてみたんです。そしたら……。
4Gamer:
そしたら?
川上氏:
なんか,「空気読めよ」みたいな嫌な雰囲気になってしまって(苦笑)。とても遊びづらくなってしまった。だから,2クール目以降は遊んでないですね。ただ,僕の作った新聞の仕組みっていうのは,そのあとも他のユーザーが受け継いでいったみたいで。
でも黎明期のオンラインゲームって,とにかく「ほかのプレイヤーと一緒に遊べる」というだけで新規性があって面白かったから,まだそういう“ルールの整備”みたいなものは整ってないものが多かったんですよね。「ウルティマ オンライン」とかにしても,サービス初期は悪党の巣窟(※)でしたし。
※βテスト時代〜サービス初期の「ウルティマ オンライン」では,ルールの不備を付いた詐欺行為が横行していた。……まぁ,それも含めて楽しい思い出なのだが。
川上氏:
でも,オンラインゲームって実は,そういう「ゲームの枠組み」からはちょっと外れたところでの工夫だったり,そういった工夫をやりとりしたりするところが一番面白かったりもするじゃないですか。今の物差しで考えると,単にルールに穴があるクソゲーってことになるのかもしれないけど。
4Gamer:
でも,その穴に気が付くかどうかも“ゲームのうち”だったんですよね。例えば格闘ゲームにしたって,人より早く,人よりたくさん検証をして,「あれ,この技って凄い強くないか?」と気付いた人が先行者利益を享受するみたいに。そして次のバージョンで修正されて,また新たな必勝パターンを探すと。
川上氏:
勝ち方というか,勝利するための“モデル”を考えるのが面白いんですよね。
4Gamer:
さっきのGFTの話で言うと,銀河タイムズの存在は,各々のプレイヤーからしたら1回のやりとりでたくさん情報が得られて楽なモデルだったということですよね。本来は,10個の星の情報を得るには10人とやりとりしなきゃいけないところが,銀河タイムズなら一回で済んだ,という。
川上氏:
そうそう。そういうモデル。あの仕組みはうまくできましたね。
4Gamer:
僕も「ウルティマ オンライン」では,冒険に行くのがめんどうだったから,洞窟の入口でほかのプレイヤーから物を買って,それを街に持って行って売る,みたいなことを結構やっていたんですけど,そういう感覚ですよね。
川上氏:
そうですそうです。ゲーム本来の目的とかさえ,もうどうでもよくなって,GFTでは,銀河タイムズを発行する事の方が僕は面白かったんですよ。
最近で言うなら,ブラウザ三国志を遊んでいた時も,僕は,プレイ時間の半分くらいは宣戦布告の文を作ったり,同盟のプロフィール部分を書き換えたりという部分に費やしていました。そこだけ凄い一所懸命にやって,戦い自体にはあんまり参加しなかったんです。
4Gamer:
そう言われてみると,戦闘で活躍している姿はあまり見ませんでしたね。
川上氏:
だって戦闘では,どうせ僕は主力になり得ないわけですから。だったら,戦いはバリバリの猛者達に任せて,僕自身は,みんなが楽しくゲームができるように,面白い文章を書いたりすることに力を割いたほうがいいなと。
4Gamer:
そのあたりは,マネージャー的な発想ですよね。
川上氏:
まぁ要するに何が言いたいかというと,何かしら「モデル」だったり「勝ち方」を考えることが大事だし,そういうのを考えるのは楽しいよねって話なんですけどね。
「最終的にどうなるか」から逆算する
4Gamer:
「勝ち方」という意味でいうと,川上さんと話していて,いつも「これは面白いな」と思うのは,“このまま推移すると,最終的にこうなるんじゃない?”ってところから逆算して,ビジネスのプロセスを考えていくって部分なんですよ。
川上氏:
ああ,最終的にどうなるかってイメージは最初に持つんです。もちろん,その最終的にこうなりそうっていうのは,時代が進むにつれて変化していくんだけど,大枠のところって実はそんなに変わらないですし。
4Gamer:
例えばですけど,ニコニコ動画を始めようという頃の“最終的なイメージ”ってどんなものだったんですか? 当時は,YouTubeをはじめとした動画サイトがいくつも立ち上がっていて,後追いでそれらと戦うのは,普通に考えたら難しかったはずだと思うんですけど。
川上氏:
ニコニコ動画って,結果として「動画」で勝負することになりましたけど,最初は生放送のサービスをやろうというところからスタートした企画だったんです。なぜかっていうと,おっしゃるように,当時すでにYouTubeというサービスがあって,その分野では「YouTubeの勝ち」っていうのが見えていたから。今更そこで勝負しても仕方ないよな,という思いがあったんです。
4Gamer:
そこでの“ライブ感”の模索が,今のニコニコ動画の“疑似同期的なライブ感”へと受け継がれていくんでしたっけ。
川上氏:
ええ。結局,試行錯誤しているうちに逆に「これは動画という分野で勝負できるんじゃないか」という話になって,今のニコニコ動画の方向性に落ち着いたわけですけど,その時に,将来的なビジネス展開という意味で何を考えていたかというと,長期的な競争でYouTubeに勝てるか/差別化できるかって部分なんです。
4Gamer:
でも,普通に考えて「YouTubeに勝てる要素」っていうのも難しいですよね。
川上氏:
強い弱いで言ったら,当然YouTubeは“強い”わけですけど,僕から見たら,やっぱり外資系の会社ってところが一つの弱点だと思ったんです。だから,少なくとも日本国内での展開を考えたときに,「日本市場におけるゲリラ戦」にはとても弱いだろうなと考えました。何か決めるにしても,海を越えた本国の判断が必要になりますし。
4Gamer:
兵法でいう“地の利”を活かす,という話ですよね。
川上氏:
あと,当時の僕には一つの仮説があったんです。それは,日本のコンテンツホルダー(権利者)と海外の事業者(YouTubeやGoogleなど)とは最終的に分かり合えないんじゃないかってことで。
4Gamer:
最近も,ちょうどAmazonが出版社に対して提示した条件が「厳しすぎる」と話題になったりしていましたしね……。
川上氏:
はい。で,もしそうだとすれば,日本でゲリラ戦を展開しながら,日本の権利者に味方だと思ってもらえるサービスにしていければ,長期的に見て,YouTubeに対抗できる勢力が作れるかもしれない。最終的にYouTubeに食われるサービスではなくて,日本で,日本だからこそ立っていられるサービスを作れる可能性があるんじゃないか。それを一番最初に考えたんです。
4Gamer:
これはニコニコ動画に限らずですけれど,数年前の動画サイトって,著作権的な問題を孕んでいたこともあって,とてもコンテンツホルダーと歩み寄るなんてイメージはなかったと思うんですよ。そこから歩み寄るまでの流れや経緯ってどういったものだったんですか?
川上氏:
ニコニコ動画の話でいうと,やっぱり自主パトロールをして問題がある動画を削除する(※)って決めたのは,かなり大きな決断でした。だって少なくとも当時は,YouTubeを始めとして,他の競合サイトはそんなことしてなかったわけですから。他で見られる動画が,ウチでは見れないという状況が生まれるわけです。普通に考えたら,その時点で勝負にならないわけですよ。
※動画サイトの多くは,通報があったら削除するという対応(それ自体はニコニコ動画も同様だが)を取っており,各テレビ局などは,監視・削除要請などを行う専任の部隊を設けるなど,対応に追われていた背景があった
4Gamer:
それでもなお,権利者との関係を重視して,他よりも先んじて手を打ったわけですよね。
川上氏:
権利者と仲良くやっていくんだというのは,ニコニコ動画のサービスを開始する前から決めていたことですからね。さっきもお話ししたように,そここそがYouTubeに勝てる可能性がある要素だと考えていましたから。
YouTubeとニコニコ動画が仮に同じくらいの強さになったときに,日本の権利者っていうのは,「日本だから」っていう理由で,ニコニコ動画に付いてくれる可能性がある。だから,そこは絶対外せない部分だったんですよ。
4Gamer:
でも,その選択(動画の削除)が結果として,ニコニコ動画の独自性の強化に繋がっていくんですから,面白い話ですよね。
結果的には,それによってニコ動の文化っていうものが,逆にある意味濃くなちゃって,それが競争力を生み出すっていう源になっていったわけですが,当時は,そうなるという確信もなかったわけですからね。危うい賭けだったと今でも思います。
4Gamer:
2008年頭くらいだったかな。ひろゆきさんへのインタビューで,彼が「ニコニコ動画に,テレビ的なコンテンツや違法コンテンツ(※)は必要ない」ときっぱり言い放っていたことがとても印象的だったんですよ。
最近でこそ,そういった違法動画はだいぶんなりを潜めましたが,昔は,YouTubeからしてそういう動画の温床でしたし,映像業界のコンテンツに“ただ乗り”して集客していたという側面は少なからずあったと思うんです。そしてそれが,コンテンツ業界の方の不信感にも繋がっていました。
※ここで言っているのは,アニメやドラマなどを丸ごとアップすることを指す。厳密に言うなら,いわゆるMAD動画などもこの範疇に含まれるはずだが,そのあたりの詳しい話は別の機会に譲りたい。
川上氏:
ひろゆきは,その時から「みんなは“ネタ”を肴に盛り上がりたいだけだから,コンテンツの中身の良し悪しが重要なのではない」「違法動画をなくしても,他の動画で盛り上がるだけなんじゃないか」みたいな話をしていて。みんなが悩んでいる時に「多分いける」って言ってたんですよ。
4Gamer:
あの時点,あの状況でその判断は,本当に凄いんじゃないですか。
川上氏:
凄いよね。ある意味,僕らもひろゆきのその意見に助けられて,一歩踏み出せたわけですから。
4Gamer:
でも今のお話を聞いて,ニコニコ動画が目指す方向性みたいなものが,また少し理解できた気がします。
川上氏:
まぁ,話を戻すと,何か事業を興すのであれば,自分の武器となり得るのは何なのかを考えないと駄目ってことです。そしてそれは,別に“現時点で装備できる武器”じゃなくてもいい。ゲームでもそうですけど,レベルが低いと使えない武器ってあるじゃないですか。でも,筋力をこのくらい上げれば,きっとこの剣を持てるに違いない,みたいなね(笑)。
4Gamer:
それは分かりやすい例えですね(笑)。
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