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[OGC 2010]iPhoneは儲からない! じゃあどうすればいいんだ? 新清士氏が語る次世代アプリの目指すべきもの
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印刷2010/02/17 18:58

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[OGC 2010]iPhoneは儲からない! じゃあどうすればいいんだ? 新清士氏が語る次世代アプリの目指すべきもの

IGDA Japan代表 新清士氏
画像集#002のサムネイル/[OGC 2010]iPhoneは儲からない! じゃあどうすればいいんだ? 新清士氏が語る次世代アプリの目指すべきもの
 2月17日,東京・神田で「Online Game & Community service conference 2010」(OGC 2010)が開催され,そのなかでIGDA Japanの新清士氏による 「iPhoneアプリ,ソーシャルアプリに見る2010ゲーム開発の潮流〜 価格と価値の適正バランスはどこに向かうのか」と題した講演が行われた。タイトルにもあるとおり,iPhoneの話題からスタートしたものの,全体的にはネットコンテンツ産業全体やゲーム業界まで関連する広い内容で,昨今のコンテンツビジネス全般の課題を扱っていたといえるだろう。


iPhoneは儲からない!


 さて,冒頭で示されたiPhoneコンテンツ市場の現状はといえば,
  儲からない
の一言に集約される。iPhoneアプリは増加の一途をたどっており,1日あたり80本ペースで増え続けて,2010年1月の時点ですでに17万5659本に達している。一方で,アプリ価格の相場は下がり,平均単価は3.12ドルにまで下落している。ゲームに限っていえば,平均1.35ドルという下落ぶりだ。全体の1/4以上が無料アプリであり,残りの8割は3ドル以下というデフレが進行している。

ハドソンのネットジャン狂は,ポイント制での独自課金を目指すが,Appleからの認可がいまだにおりていないという
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 こうなると,コンテンツ自体の販売ではなく,サービスに対しての課金,つまりアイテム課金のようなアプローチしかなくなるわけだが,これが非常に難しいという。一応,iPhone OS 3.0以降では,サービスに対する課金のスキームが追加されている。しかし,申請を出してもAppleによる審査を通らないのだという。このあたりで,以前のゲームプラットフォームと比較し,プラットフォーマーが国内にいないことの不利が強調された。iPadなどについても海外では技術情報が開示されたようだが,日本では行われない。かつてのゲーム機は,すべて日本製であったため,比較的話は通りやすかったのだが,iPhoneあるいはKindleなどではそうはいかず,事実上日本のマーケットは閉ざされているのだという。
 現在のところ,iPhoneアプリで稼ぐ方法は確立されつつある。すなわち,いかに多くのアプリを投入して,ユーザーを自分のところに引きつけるかだ。ほとんど消耗戦の様相を呈しているといってもいいだろう。
 新氏は,まずポイントとすべき重要な価値として「時間」を挙げた。時間は,現代では最も重要で蓄積も代替も不可能な価値である。いかに,自分の時間を使ってもらうかの奪い合いが始まっており,時間あたりの価値が認められるものにしか,お金を払ってもらえなくなっている。つまり,「5分しか待ってくれない」「1時間で面白さが分からないとやめてしまう」などといった状況だ。

 翻って,昨今流行のソーシャルアプリを見ると,mixiアプリがすでに1000本を超え,似たような状況が作り出されている。こういった混戦状態では,勝者となるのはほぼ一人だけで,優位になったところにどんどん勢いは流れていく。こういった状況で収益を上げるにはどうすればいいのか? 

 続いて,収益を上げる手段としては,かなりぶっちゃけた話だが,「プラットフォーマーになるしかない」と述べる。これにはプラットフォーム内でプラットフォームを作ることも含まれるとしているが,前述のようにiPhone内でのポイント制などはAppleが止めているので,なかなか難しいところ。

 それ以外の収益を上げる考え方として,制作方針の転換に関した話も展開した。曰く,iPhoneの登場は,ファミコンが築き上げた,

  ハード + ソフト

といった課金スキームを破壊してしまったという。iPhoneが構築した垂直構造のスキームは,サービスパイプラインの通過時に課金をするものであり,これまでのものとは根本的に異なるとしている。Appleの場合は,ソフトを限りなく安く流通させることでハードの売り上げを伸ばすといった「ソフト → ハード」のビジネスも併在しているとは思うのだが,結果的にユーザーのコスト意識を変えてしまったのは間違いない。日本のメーカーではそれに対応できていないところが多いようだ。
 かつてはゲーム1本に7000円近く払うのが当たり前だったのだが,最近では1ドルちょっとで十分楽しめるゲームが提供されている。ゲームメーカーは,この大きすぎるギャップに直面している。対抗するには,1タイトルを100万〜200万円程度で制作する必要があるのだが,そのためには切り捨てなければならないものが非常に多くなる。
 「Travian」(モドキを含む)の大ヒットは,結局のところ,美麗なグラフィックスや賢いAIがなくても面白いゲームが実現できることを示したとし,新氏は「一番面白い対戦相手は人間」であるとの見解を示している。グラフィックスのコストを下げ,AI開発をやめ,対戦に特化することで安価なゲームを作るという方向性だ。
 まあ,このあたりは「韓国ゲー面白いか?」とか,先日の宮本茂氏の講演に見られる安易に対戦に逃げない姿勢を,カウンターとして思い浮かべる人は多いだろうが,実際のところ,ソーシャルゲームの多くはそういうレベルで展開されているのも事実であろう。
 
iPhone上で動くQuake 3 Arenaのデモ動画を上映
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 今後の戦略としては,新しいプラットフォームに切り替わるチャンスを見逃すなと語る。これは必ずしもハードウェアの話ではない。プラットフォームの変更は必ずやってくると,新氏は断言する。なぜなら,ハードウェアは,いまなお進化し続けており,そこで生まれたパワーが新しいビジネス展開を可能にするという。そして現在,スーパーコンピュータクラスの性能は,ほぼ10年で家庭内に入ってきており,高性能PCのスペックも10年で携帯電話にまで落とし込まれている状況を説明した。低スペックの製品は作られなくなり,CPUパワーなどが余ってくると,それを利用したサービスなどが必ず立ち上がるとの見解だ。

 そういったものが出てくる前兆というのは,必ずあるとも力説する。韓国のオンラインゲームでは,AIを省略して対戦に焦点を絞った展開をかねてから行っていたり,iモードが携帯電話の裾野を広げていたり,かなり以前から中高生の女子はまったくゲームをやっていないというデータが出ていたりと,時代の変化の兆しはあちこちに出ていたとする。女性のゲーム離れでいうと,大ヒットゲームが生まれにくくなり,代わりにBlogやソーシャルメディアへの流れが始まっており,すでに現状のソーシャルゲーム流行の下地はできつつあったことが分かるという。そして多くの企業では,それらを見逃している。


 涼宮ハルヒはなぜ売れたか?


 また,氏は,今後のコンテンツ展開でのキーワードとしては,「ストーリー」を挙げていた。コンテンツデフレが進行するなかでは,新たな価値としてストーリーが重要な役割を果たすという。このストーリーは,ユーザーにとって体験的なものでなければならないとする。
 ここで新氏は,涼宮ハルヒがなぜ売れたかに対する,スニーカー文庫編集長である野崎岳彦氏の言葉を挙げ,物語の背後にある「ハルヒ憲法」のような枠組みによって,読者がさまざまな展開を独自に解釈可能になっていることを指摘する。また,「Apple iPad対Amazon Kindle」のような話題が盛り上がるのも,巨人対阪神のようなストーリーが楽しめるからだとする。Appleなどは,すでにほとんどの人が周知の製品を,意図的にストーリー性を持たせて盛り上げるなどの手法を取っているという。ユーザーが参加しやすい仕組みを意図的に作るという意味では,セーラームーンやエヴァンゲリオンのほうが分かりやすいかもしれない。

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 さらに将来の方向性としてもいくつか挙げている。曰く,「人間は未来や将来を感じさせてくれるものに投資する」とのことで,iPhoneやTwitter,Second Lifeなどの例を挙げた。未来を感じさせてくれるものを所有したり,それに対してBlogを書いたりすることで,自らの価値が高まるといった心情はビジネスになりうるかもしれない。そういったストーリーに対しては,人はお金を払い続けてくれるという。今後は,こういったストーリーを作っておいて,製品展開に結び付けられるかなども商品設計で重要であるとしている。

 なお,こういったストーリーと関連した問題点としては,誤情報であっても,それを信じたがる人がいることから,情報が一人歩きする危険を指摘していた。中国人が先にアメリカ大陸を発見していたとする書籍「1421」の内容が中国首相の発言に反映されるなど,社会的な問題として無視できないものになってきているという。

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 ソーシャルゲームについては,アメリカのSNS事業者の言葉を借りて,キリスト教でいうところの七つの大罪,すなわち「暴食」「色欲」「強欲」「憂鬱」「憤怒」「怠惰」「虚飾」「傲慢」を挙げ,それらを刺激することがキーになるとした。人間のコンプレックスを商品化することに世界は向かっているという。
 さらにクリス・アンダーソンの「フリーミアム」から,有料のものと無料のものをミックスさせる,ほかでもできるモノは有料コンテンツにならない,人気コンテンツでは金を取ってはいけない,有料コンテンツはニッチな部分に訴求するものを,ニッチであればニッチであるほどよい,などの提言を紹介していた。

 このような時代でどのように動くべきか。上記のような,人間の心理を突いた行動経済学はビジネスのやり方の一つではあるが,やがて,その揺り戻しが必ずくるはずだと指摘する。新氏は,そこにチャンスを見ているようだ。戦略としてはさまざまなものがあるようだが,次代のイノベーションによる変化は予測がしづらいため,「やってみるしかない」。ただ,自分が変化の先端にいるかどうかは判断できるとする。
 氏は,IGDAで最近盛り上がっているARG(代替現実)などを挙げ,まだまだビジネスのタネは多いと語る。すでに参入の隙がなさそうなくらいコンテンツであふれかえっているiPhoneにおいても,いろんなものと結び付けることによって新たな需要が喚起できるとの見方を示した。


 散発的にさまざまなトピックが飛び交っていたものの,大枠において,iPhoneやソーシャルゲームなどの,次世代プラットフォームでひと山当てたい系の人が陥りがちなポイントを押さえた講演であった。ただ,指針などは,まだまだ具体性を欠いているようにも思われた。
 消費を促すには,人間の欲望を刺激する必要があるのは確かである。七つの大罪で分かりやすくいうと,色欲,つまり「エロは儲かる」というのは誰にでも分かってはいるのだが,より重要かつ難しいのは,それをどのように実装していくかという部分だろう。傲慢や嫉妬なども安直に刺激するのは別に難しいことではない。普通に課金アイテムなどを考えれば,自然とどれかに該当するものが多くなるだろう。
 また,結局のところ,対戦しかコンテンツがないゲームの問題点や,俺TSUEE欲を満たす課金での限界などは,オンラインゲーム業界ではとっくの昔に通過したトピックにすぎない。対戦格闘ゲームだって日本で生まれたのだ。どう広がって,どう収束したのか。常識的に考えれば,一歩先二歩先が読めないわけはない。
 「変化は予測できないので,いろいろやってみるしかない」というのも手ではあるのだが,ソーシャルゲームなどの展開を見ると,先人が落ちた落とし穴をしっかり踏み抜いているような事例もいくつか見かける。実は模範解答は身近に転がっていたりはしないだろうか?
 「Second Lifeは儲からない」「iPhoneは儲からない」,おそらく来年は「ソーシャルゲームは儲からない」といった問題が出てくるのだろうと思われるが,同じ失敗を繰り返している人は,根本的なアプローチを疑ってかかるほうがよい気はするのだが。

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