インタビュー
[インタビュー]「界の軌跡」の世界観を,AI翻訳エンジン「ELLA」はどう解釈するのか? TGS会場の4GamerブースやWeb上でその実力をチェック&アンケートに回答しよう【PR】
「ELLA」とは,4Gamerを運営するAetasと同じデジタルハーツグループであるデジタルハーツが,AI自動翻訳開発を行うロゼッタと共同開発したゲーム特化型AI翻訳エンジンだ。
TGS会場および本記事では,「ELLA」を使用して日本ファルコムの新作RPG「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-」(PlayStation 5 / PlayStation 4。以下,「界の軌跡」)の無言シーンに,今回のイベントのために日本ファルコムから特別に用意してもらったセリフを翻訳してみた結果を,以下のパターンで紹介している。
・日本語セリフを英語に翻訳した案×5
・中国語の繁体字に翻訳した案×5
・中国語の簡体字に翻訳した案×5
・英語に翻訳したセリフをさらに日本語に翻訳した案×5
このうち,どれが一番「それっぽい」と感じられるものになっているのかを,来場者および読者に回答してもらうというのが,今回の企画の趣旨である。日本ファルコムの近藤季洋社長にも同じアンケートに回答してもらい,近藤社長と同じ回答を選んだ人の中から抽選で50名に,「界の軌跡」のポスターをプレゼントする。奮って参加してほしい。
「界の軌跡」にAI翻訳エンジン「ELLA」が挑戦!
投票期間:
2024年9月26日(木)10:00〜9月29日(日)23:59
賞品:
「英雄伝説 界の軌跡」ポスター(抽選で50名様)
「界の軌跡」にAI翻訳エンジン「ELLA」が挑戦!回答フォーム
※投票サイトは,デジタルハーツが用意したものに遷移します
※当選者には10月下旬を目安にデジタルハーツより連絡します
ここでわざわざ書くまでもないが,賛否両論ありつつも加速度的な進化を遂げる「AI」(とくに生成AI)。ゲーム開発においても例外なくその波は押し寄せている。
とはいえ,グラフィックスや音楽,シナリオなどで,生成AIをほいほい使えるかというと,リーガル的な部分などを考慮すると,まだまだ積極的な実用化には高いハードルが残っている。それこそ,「誰かが描いたイラスト」を学習して素材データとして使った……かもしれない生成AIのイラストを,ゲームのキャラとして採用するのはリスクが大きすぎる。
しかし翻訳はどうだろう。ChatGPTやClaudeを引き合いに出すまでもなく,スマホで普通に日常会話レベルの翻訳 / 通訳が出来るこのご時世。翻訳作業は法的問題もなく,AIのパワーが存分にいかせるジャンルなのではないだろうか。
……と考えたのかどうかは分からないが,4Gamerと同じデジタルハーツグループのデジタルハーツが,ゲーム特化型AI翻訳エンジンである「ELLA」なるものを作り始めたらしい。
とはいえ,ゲーム特化型AI翻訳エンジン……と言われてもなかなかピンとこない読者も多いだろう。そこで今回4Gamerでは,「ELLA」とは何ぞや? といったあたりを,デジタルハーツ グローバル事業部 部長 山科真二氏に聞いてきた。
「ELLA」公式サイト
感情豊かな自動翻訳を実現した「ELLA」のサービス
繰り返しになるが,「ELLA」とは,デジタルハーツとAI自動翻訳開発を行うロゼッタが共同開発した,ゲーム特化型AI翻訳エンジンである。そのベースとなるのは,自然言語で入力された情報を数値に変換するAIと,数値をもとに文章に個性を与えて翻訳するキャラクタージェネレーターAIの2つだ。
そこにデジタルハーツが長年ゲーム翻訳において培ってきたノウハウや,ロゼッタのAI翻訳技術を組み合わせることにより,これまでの機械翻訳では困難だった,「感情豊かな表現を用いた自動翻訳」を実現したという。デジタルハーツでは,「ELLA」を活用した翻訳サービスをゲームデベロッパ向けに提供している。
そこで,キャラクター性やキャラクターの感情を,AIの自動翻訳で表現できないか? という発想が,「ELLA」を開発する発端になったそうだ。
そんな「ELLA」のコンセプトは「クオリティ」と「スピード」。とくにスピードは翻訳において重要なファクターとなっていると山科氏は説明する。ただし「ELLA」は,デジタルハーツの社内のみで稼働しており,よくある翻訳アプリのように,1つのテキストボックスに英文を入力すると,もう1つのテキストボックスに日本語訳が出力される,といった類のものではない。
というのも,「ELLA」を利用しての翻訳では,あるキャラクターのセリフを翻訳するにあたって,男性か女性か,大人か子供か,どんな性格かといった,そのキャラクターの設定を先に入力する必要があるのだ。そしてその結果,「Hello」を翻訳したときに「こんにちは」になるキャラクターもいれば,「オッス!」になるキャラクターもいるなど,同じ言葉でも,キャラクターごとの特徴に応じて翻訳されるのである。
デジタルハーツでは,「ELLA」を「翻訳者に多くのアイデアを提供するツール」と位置付けて,AI自動翻訳サービスを展開している。というのも,「ELLA」は原文テキストに対して,キャラクターの設定に応じた5つの翻訳案を出力するからだ。
翻訳者はそれらを読み比べ,キャラクターに合っているもの,言い回しが優れているものといった基準で,どれが一番いいかを選択できるのである。さらに,選択した翻訳案に翻訳者が手を加えることも可能だ。
これについて山科氏は,「AI自動翻訳と言っても,『ELLA』の場合は翻訳者のアイデアやスキルが大きく関わることになります。そのためクオリティは,人間の翻訳者が翻訳した場合とほぼ変わりません。一方,スピードは人間だけで翻訳した場合の約3倍となっています」と語る。
こうしたスピードを実現できたのは,上記の人間の翻訳者とAIが協調して翻訳する「ケンタウロスモデル」を採用したからであるそうだ。人間が得意とすることと,AIが得意とすることを組み合わせ,単独では到達できなかった高いパフォーマンスを発揮できたというわけだ。
ちなみに,翻訳者が「ELLA」の出力を見て,そのまま使うケースもあるし,まったく採用せずに自分で書いてしまうこともあるという。あるいは,翻訳者が自分で書くにしても,ELLAが出力した5つの翻訳案の中から一部だけ採用するといったことも可能だという。
こうした利用法によって,翻訳者が原文を読んで理解する時間,どんな表現が適しているかを考える時間を大幅に短縮できるのが,「ELLA」の特徴であるそう。
現在,「ELLA」が対応しているのは日本語と英語のみ。将来的には中国語の簡体字と繁体字,韓国語,フランス語,イタリア語,ドイツ語,スペイン語と多言語に対応する予定だ。例えば日本語をドイツ語に翻訳するにあたっては,設定もドイツ語で入力しないとあまりいい結果にならないとのことで,その意味でも言語に長けた翻訳者が使うためのツールと言えそうだ。
AIのリスクと指摘される部分が「ELLA」ではプラスに
ほかのAI自動翻訳ツールにない「ELLA」の特徴は,そのクリエイティビティである。
例えば「Are you OK ?」,つまり普通に翻訳すると「大丈夫ですか?」となるセリフを,ELLAを介して「田舎娘」という設定のキャラクターにしゃべらせると,「お前さん,大丈夫?」となったりする。さらにELLAは,同時に5つの翻訳案を出してくるので,採用した「お前さん,大丈夫?」以外の4つのアイデアを別のキャラクターに適用することもできる。
こうしたケースについて山科氏は,「現在のAIはハルシネーション,つまり事実に基づかない情報を生成してしまう,嘘をついてしまうことが問題になっている。しかし『ELLA』の場合は,それがプラスになることもある」と語る。
例えば,「What do you want ?」(何をお望みですか?)というシンプルなセリフを,ELLAを使って高飛車な学者にしゃべらせると,「何を望むのかね? 君のような者には理解できないだろうが」といったように,キャラクター設定に基づいてそれっぽい言葉を勝手に付け加えたりするからだそう。
そしてその翻訳結果を読んで,「ちょっとやりすぎかな?」と翻訳者が思ったならば,そこで手直しをすれば良いというわけだ。「一般的にはAIのリスクと言われている部分でも,うまく活用すると面白いものになることが分かってきた」と,山科氏は語っていた。
もちろん,日本語の原文を英語に翻訳するにあたっても,上記のような事例は発生する。例えば「何か御用ですか?」は普通であれば「Can I help you ?」となるが,設定によって中世のイギリス英語や,2000年代のカリフォルニアにいるティーンエイジャーが使っているような英語で表現する……といったことが可能であるという。
実際のところ,翻訳者はそれぞれ得意分野があり,若者が使う英語は得意だが,シェイクスピアみたいな言葉遣いは苦手……というケースもあるそうだ。しかし「ELLA」であれば,それらをすべて網羅したうえで,さまざまな形で翻訳のアイデアを提案してくれる。
また,「ELLA」はキャラクター同士の関係性を考慮した翻訳もできる。
例えば「会えてうれしい」というセリフは,王様が相手だと「お目にかかれて光栄です」となるし,友達相手なら「会えてうれしいぜ」といった具合に,関係性を踏まえて言葉を変化させるのだ。
これについて山科氏は,「AIに限らず人間も,文脈だけ捉えて翻訳していると,話している相手を取り違えることがある」と指摘。これを解消すべくデジタルハーツでは,「各国ネイティブのゲームファンによる言語検証サービス『LQA』で品質チェックを行い,そうした取り違えや誤字,誤訳,ニュアンスの違いなどを修正」しているとのこと。
そして「最終的に仕上がった翻訳テキストは,読んだだけではAIが関わっているかどうか区別が付かないかもしれない」レベルに至っているという。
逆に言うと,人間が手を加えなければならない点も,ELLAにはまだまだあるということだ。例えばテキストの改行位置や,ムービーにおける日本語と英語のセリフの尺合わせなどは手動で調整する必要がある。
ただ,山科氏によると「当初,そういった細かい仕事をAIに任せて,クリエイティブな部分を人間が担うイメージだったが,AIにクリエイティブな翻訳のアイデアを出させ,それを推敲したり,改行や文字数など細かい部分を人間がていねいに磨いたりしていくことで,最終的にいいものに仕上がる」ことが分かってきたそうだ。
とくにAIには,良くも悪くも人間のような認知バイアスがないため,「ELLA」は先入観なく次々とクリエイティブな翻訳を出力してくるらしい。
例えばオープンワールドタイプのゲームなどのように,多種多様なNPCが登場するコンテンツでは,セリフを他言語に翻訳すると世界観がフラットになり,没入感が低くなるケースもある。しかし,「ELLA」を使うと,その世界観をそのまま感じられるよう,NPCごとにバリエーションの異なるセリフに翻訳できるそうだ。
こうした「ELLA」の特徴を踏まえ,山科氏は「1つのプロジェクトの中で,メインキャラクターのセリフは人間が担当し,NPCのセリフは『ELLA』の力を借りるといった協業も考えられる」と語る。
また,開発チームが小規模で複数言語への対応が難しいインディーゲームの翻訳にあたっても,「ELLA」であれば,最初の段階で一緒にプランを立てるなど,普通に誰かに翻訳を発注するよりも,クリエイターのニーズに沿った翻訳ができるような体制をととのえているとのことだ。
今回のイベント用に特別に用意した「界の軌跡」のセリフを「ELLA」が翻訳すると……?
冒頭でもお伝えしたとおり,明日開幕するTGS2024の4Gamerブースでは,「ELLA」の特設コーナーを設置している。
この展示は,日本ファルコムの最新作「界の軌跡」に登場するキャラクターのセリフを今回のイベント用に特別に用意し,ELLAが翻訳。その翻訳案のなかから,どれが一番しっくりくるかを,来場者および読者に選んでもらうというものだ。
ちなみに,今回起用したレビュアーが「軌跡」シリーズの大ファンであったこともあり,ELLAの出力に違和感があった場合は設定を変えるなどして対応できたのも大きかったそうだ。
そんなこんなで今回,「界の軌跡」から抜粋された,本編ではセリフがない4シーンに日本ファルコムで特別に用意してもらったセリフをもとに,日本語セリフを英語に翻訳した案を5つ,中国語の繁体字に翻訳した案を5つ,中国語の簡体字に翻訳した案を5つ、英語に翻訳したセリフをさらに日本語に翻訳した案を5つ,それぞれ用意してもらった。
日本ファルコム側が,「ELLA」での翻訳にどんな懸念を抱いていたのかも含め,紹介していこう。
【シーン(1)】
原文:アーロン「ようオッサン。ようやくお戻りかよ。」
翻訳のポイント:
今回のシーンでは,ひと仕事終えて夜遅くに戻ってきたヴァンに対し,「オッサン」と茶化しながらも,どこか安心したような雰囲気を見せるという微妙なニュアンスを,AI翻訳で対応できるかが気になる点です
【シーン(2)】
原文:ユメ「ヴァンおかえり〜。ユメ,寝ないで待ってたんだよ…zzz」
翻訳のポイント:
子供っぽさや,眠気が我慢できない様子をAI翻訳で表現できるかが気になるポイントです
【シーン(3)】
原文:ジュディス「ママ,あたしの私生活はこの通りちゃんとしてるってゆーか…(汗)」
翻訳のポイント:
「部屋の掃除はちゃんとしているのか?」「周りに迷惑を掛けていないのか?」「そもそもちゃんと一人で生活できているのか?」など,次々と言葉を浴びせられてタジタジになっているジュディスが言葉に詰まってしまい,語尾が「…(汗)」となる部分を,AI翻訳がどう解釈するかがポイントになりそうです
【シーン(4)】
原文:クロウ「いやぁ〜、カルバードでの朝風呂ってのも乙なもんだねぇ。」
翻訳のポイント:
気心の知れた二人がリラックスした状態で言葉を掛けあうシーンですが,クロウが伸び伸びとしている様子が感じ取れる「いやぁ〜」というセリフや「乙なもんだねぇ」という表現をAI翻訳で表現できるかどうかが気になります
これらのシーンがどのように翻訳されているのか,気になった人はTGS 2024の4Gamerブース,もしくは特設ページで「ELLA」の実力を確認してみよう。今回のアンケートの集計結果は,後日,あらためてお伝えする予定だ。
「界の軌跡」にAI翻訳エンジン「ELLA」が挑戦!
投票期間:
2024年9月26日(木)10:00〜9月29日(日)23:59
賞品:
「英雄伝説 界の軌跡」ポスター(抽選で50名様)
「界の軌跡」にAI翻訳エンジン「ELLA」が挑戦!回答フォーム
※投票サイトは,デジタルハーツが用意したものに遷移します
※当選者には10月下旬を目安にデジタルハーツより連絡します
「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-」公式サイト
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