インタビュー
[インタビュー]制作の裏側をあえて見せる「ポラポリポスポ」の狙いは? 目標は,歌も演奏もすべて“生”でおくる世界初のCGライブ!
「ポラポリ」の物語は,公式サイトやYouTube公式チャンネルを中心に展開されている。また,本プロジェクトはキャラクターたちのコンテンツだけでなく,制作の裏側もあえて見せることでも話題になっている。
4Gamerは,「ポラポリ」のプロデューサーであるバンダイナムコアミューズメントの福田未和氏,技術面を支えるgNuuwの布川茂明氏,ユークスの研谷佳生氏,古田弘美氏というスペシャリストたちの話を聞く機会を得た。本稿では,作品を支える技術や,裏側を見せる理由,開発陣の作品にかける熱い想いをたっぷりとお届けする。
なお,本プロジェクトのCGバンドライブ「ポラポリポスポ 1st CG STAR LIVE 色即是空 空即是色」が,2024年6月29日(全2公演)に神奈川県民ホールにて開催されることが決定している。何と各公演1000人(合計2000人)を無料招待するとのことだ。招待チケットの一次抽選は本日より始まっているので,詳しくは下記をタップorクリックして確認してもらいたい。
ユーザーの数だけ,キャラクターがいる。余白のある物語
まずは「ポラポリポスポ」について教えてください。
福田未和氏(以下,福田氏):
キャラクター的な面でお話しすると,WAKAZO(わかぞう)とchirp×chirp(ちゃぷちゃぷ)という2つのバンド,そして彼らの中学時代と現代という2つの時代が交差することで生まれる“変化”が物語の特徴になっている作品です。全体として“変”と向き合うことを大きなテーマとしていまして,キャラクターや物語が変化していく様子を描いています。
「ポラポリ」は,バンド活動をしていることが物語の大きな軸になっているため,バンドをどう表現するかや,音楽面をとても大切にしています。
4Gamer:
音楽ジャンルもさまざまなモノがありますが,そのなかからバンドを軸にした理由は何でしょうか。
福田氏:
“自分の代わりがいない”“それぞれが異なる役割を全うする”ことで,“1つのモノができること”を表現したいと考えました。最初はオーケストラやチームスポーツも考えたのですが,ショウ形式のコンテンツにしたかったことと,最少人数でIPの立ち上げが可能なことも考えてバンドという形態を選びました。
4Gamer:
では,世界観の見どころを教えてください。
福田氏:
私としては,ミステリ小説のようなコンテンツを目指しています。今はまだ隠されている部分も多く,コンテンツを追うことで,キャラクターのバックストーリーが少しずつ明かされていきます。公開されている情報をつなぎあわせて,推理することで,キャラクターのことが分かっていく,謎解きのような形で楽しんでいただけたらなと思っています。
4Gamer:
全貌が見えないからこそ考察したり,友達同士で意見を交換したりする楽しみがありますよね。
福田氏:
私は,キャラクターには余白がたくさんあったほうが面白いかなと思っています。コンテンツに触れてくださる皆さんそれぞれに,自身が思い描くキャラクター像を作ってもらえるとうれしいです。
4Gamer:
物語で,現代と中学時代,違う年齢のキャラを追っていくのも面白い展開ですね。
福田氏:
中学時代と現代,異なる時代を同時並行で見せるのも特徴的な部分です。それぞれの時代で,活動しているバンドや関係性も変化しています。「仲良しだったのに,ケンカ別れしてるっぽい…」「恋心を抱いていたけど,片想いに変わってる」など,過去に何があったのかを追いかけていただけたらありがたいです!
中学時代から現代に至る過程については,本人が語る昔話をボイスドラマで聞ける「千夜一夜」をYouTubeで公開しています。2月7日に,シーズン2として「千夜一夜 日向編」(リンク)が公開されました。序盤なので,分からないことだらけですが,ヒントはたくさん散りばめられています。
4Gamer:
まだまだ謎の多いキャラクターたちは,どんな子たちなのでしょう。
福田氏:
とにかく,“変な子”たちばっかりです。「現代社会で,こんなことまで表現しちゃっていいの?」というギリギリの部分まで,踏み込めればと思っています。
私は,キャラクターたちを“プロの手によって創り上げられた存在”として扱っていますが,“人間としてリアリティのあるキャラクター”にしたいとも思っています。人間の美しい部分だけではなく,醜くて目を背けたいような部分もオモテに出していきたいんです。
4Gamer:
本作は,キャラの動きやバンド演奏も,あとから人の手による加工を行わない「ゼロエディットモーションキャプチャー技術」によって制作されているのも特徴です。素人ながら,楽器の表現はかなり難しそうだと感じたのですが,やはりハードルは高かったのでしょうか。
福田氏:
モーションキャプチャで楽器を演奏することの難度の高さは,十分承知していたので,技術的にクリアできなければ,プロジェクトはスタートできませんでした。そのため,コンセプトが先ではありますが,見せ方も同時進行で模索していきました。
業界有識者の皆さんからは「歌って踊ることはできるんですけどねぇ……」と言われましたが,どうしてもバンドがやりたいと相談したところ,ユークスさんだけが「できるかもしれない」と言ってくださったんです。
もともとALiS ZERO®(アリスゼロ)※は,弊社が開発したプロレスゲームのエンジンを改良して作りました。プロレスは体格差,接触,段差を飛び越えるなど難しいアクションが多く,入場シーンには多彩な衣装も登場します。そのノウハウが売りで,そこを活かせるのではと思ったんです。
※ALiS ZERO®とは,撮影されたモーションアクターのキャプチャデータを,リアルタイムで高精度CGデータとして表示する技術
福田氏:
2020年にキャラクターを1体作り,ギターやベースを弾かせようという技術研究をするところからプロジェクトが始まりました。キャラクターもので技術研究から始めるって,なかなか珍しいと思います(笑)。
4Gamer:
gNuuw,ユークスの皆さんは,モーションキャプチャ技術でバンドをやるというコンセプトを聞いたときに,どう思われましたか。
バンドというコンセプトを,リアルタイムで,かつコンスタントに安定して表現できるかという部分を技術者的にまずは考えました。確かに,業界的にも経験のある技術者でも,バンドは難しさを感じる部分があります。
4Gamer:
やはり,長年現場にいる方でもそう思われる技術なんですね。
布川氏:
ですがダンスやほかのゲームのアクションなど,さまざまなモーションキャプチャ技術の経験を積み重ねたことで,「こうすればできるのでは?」というアイデアは浮かんできます。また,数は少ないですが,今までもバンドのモーションキャプチャはありましたし,そのときの問題点も経験として蓄積されているので,その部分を工夫したうえで,かつそこに独自開発したシステムを入れることで可能になるのでは? と……。なので弊社としても,最初から断言するというよりも「できるかもしれません」という始まりでしたね。
私も,一筋縄ではいかないなと思いました(笑)。キャラクターにダンスをさせたり,歌わせたりするのは経験もあり,自信のあるところです。ただしマイクを持たせるだけでも,キャラとモーションアクターの体格差で,持っている位置がずれてしまうことがあるんです。
4Gamer:
モーションキャプチャを使用したコンテンツで,マイクを持ったパフォーマンスをよく見ますが,裏ではそんな苦労があるんですね。
研谷氏:
マイクを持つだけでも難しいのに,より複雑な動きが必要な楽器は,絶対に動きを合わせられないだろうと思いながら始めました。でも検証するうちに,布川さんがやってくれるのでは,できるのでは? という期待感が出てきました。
福田氏:
1回目の検証から,かなり楽器を弾けていましたよね。
布川氏:
ギターやベースは,手がキャラが持つ本来の位置からズレるのは絶対に起こることです。それをできるだけ回避するには……と,いろいろな検証をしていきました。それがうまくいって,本来のキャラクターで動かしてみようとなったときに,キレイにハマってくれました。
研谷氏:
今だから話せる裏話ですが,動きを合わせやすいように,キャラクターの体型をモーションアクターさんに寄せてみたこともあったんです。
古田氏:
もともと試してみたい検証で,このプロジェクトのおかげで試すことができました。頭のなかで「こうしたらできそう」というのは皆あったのですが,実際に挑戦させていただけたというのは大きかったですね。
布川氏:
そうですね。
古田氏:
考えていたアイデアを検証し,その成果が少しずつ集まって,今の形になった感じです。
布川氏:
アクターさんのサイズに合わせてキャラクターを作ったときは,もちろん動きは合うんです。
福田氏:
腕の長さや位置,肩の位置も,全部ちゃんと測りましたからね。
研谷氏:
そうすると,ポラポリポスポのキャラクターとは違うものになるんですよね(笑)。
布川氏:
いろいろなキャラクターモデルを動かしてきましたが,あのスタイルは初めて見ました(笑)。
4Gamer:
二次元と三次元では,どうしても越えられない壁がありますよね。
古田氏:
人間とキャラクターの体つきのバランスの違い。楽器演奏させるにはまさにこれが今回のお題だったわけです。
布川氏:
そこから,キャラクターにアクターさんの動きを合わせる方向性が見つかったのが成功のカギでした。
4Gamer:
最初の検証から,実際にキャラクターに楽器を弾かせるまで,どのくらいの期間がかかったのですか。
古田氏:
モデルができてから一度,モーションキャプチャを撮らせていただいて,データを取って,翌月ぐらいにもう1回試して検証しました。
研谷氏:
布川さん的に,こうすればできるかもというのが見えたのはいつくらいですか。
布川氏:
もともと僕のなかで考えていたシステムはある程度完成していて,ほかのコンテンツでも使用して,実績的にうまく行きそうという気持ちはありました。
モーションキャプチャで1番ネックになるのは,アクターさんとキャラクターの体格差です。今お話しいただいたように,キャラクターをアクターさんのサイズに合わせるなら,僕のシステムがなくてもある程度できるだろうというのはありました。
それでも手の厚みなど合わせづらいところもありますが,キャラが合うなら動きも合うよねと思ったので,失敗や改良などもなくスムーズにできました。
福田氏:
考えていることを実行したら,本当にできた! みたいな感じですね(笑)。1回目はキャラクター1人だけだったんですが,2回目はキャラクターを2人同時に動かして,複数人で実現できるか試しました。2022年の段階では,3人同時に演奏できるようになって,だんだんステップアップしながら進めていきましたね。
4Gamer:
そんな試行錯誤があったのですね。ちなみに最初にお話を聞いたとき,チャレンジできるワクワク感,難しい課題だけど挑戦してみたいといった思いがあったのでしょうか。
古田氏:
技術者なので,そんな気持ちばっかりです(笑)。
布川氏:
僕はそれが生きがいです(笑)。
古田氏:
そういう人ばっかりが集まってきますよね。
布川氏:
先ほどもお話ししたとおり,難しいポイントもあるのですが,そういうことを乗り越えるためにずっとやっています。逆にすんなりいきすぎて,「もっと,課題をちょうだい」って思うところもあります(笑)。
4Gamer:
技術者の方ならではのお言葉ですね(笑)。先ほどユークスさんに相談したというお話がありましたが,どのような経緯で共同制作することになったのでしょうか。
福田氏:
モーションキャプチャで楽器が演奏できる技術が無ければ,「ポラポリポスポ」というコンテンツは成立しないので,実現可能なパートナーさんを探していました。そのなかでユークスさんだけは前向きなお返事をくださり,布川さんをご紹介いただき,先ほどお話した通り技術研究から始まりました。
もともと2018年にユークスさんの「ARP」(エーアールピー)※のCGライブを拝見し,いつか一緒にオリジナルIPを立ち上げたいと考えていたので,それが実現して運命の出会いだったと感じています。
※最先端の技術で現実で会える4人のARダンスボーカルグループが活動する,ユークスによるアーティストプロジェクト。2022年9月末をもって活動休止している
4Gamer:
5年越しの夢が,形になったんですね。
福田氏:
はい。少し商業的なお話になってしまいますが,昨今のIPは歌とダンスによるアイドル的な展開が王道になっています。そのためパブリッシャも,ダンスやトークモーションの開発に投資し,業界全体の技術が進化しました。
一方でバンドは,IP展開の王道から少し外れているため,楽器演奏を実現するようなモーション技術にはあまり投資が進んでいませんでした。ですが,モーションで楽器の演奏が実現できれば,それ以外の動きの幅も広がっていくはずだと考えてます。そして,結果として「IPの表現」がもっと多種多様になれば,世界がもっと楽しくなるなと,ひっそり願っています。
4Gamer:
そんな想いが実り,YouTubeの公式チャンネルで滑らかなMVを見られるのですね。それだけに,実在するアーティストとしてプロモーションもできたはずですが,舞台裏といいますか,制作工程をあえて見せる理由を教えてください。
福田氏:
今現在もいろいろな方から,裏側を見せることについて考え直すように言われますし,お客様のなかにも賛否があることを理解しています。それでも「ポラポリ」はあらゆるプロに支えられて作られていることはまぎれもない事実なので,それを隠す必要はないと思っています。なので,今後も裏側は積極的に公開していきたいと考えています。
また,裏側を見せることの副産物として,本プロジェクトを面白いと思って,力を貸してくださる新しいパートナーも見つかります。これまであまりアニメやキャラクター業界に携わっていない方とも,パートナーシップを組めるという可能性が広がって……。これから,意外なところと一緒に,面白いことをやるかもしれません。
本プロジェクトで裏側を見せる理由は,2つあります。1つ目は,プロジェクトそのもののファンを増やすためです。キャラクターの愛し方やポラポリとの向き合い方は,お客様それぞれでもちろんOK! という前提はありつつ,プロジェクトそのものに興味と愛着をを持っていただくことで,今後キャラクターの増加など今後プロジェクトやIPが,さまざまな形で発展していっても,ずっと応援していただけるファンの基盤を作りたいと考えています。
4Gamer:
なるほど。2つ目は,何でしょうか。
福田氏:
2つ目は,長年キャラクターコンテンツに携わる仕事をしていて,「なぜ,こんなにすごいものを作っている人たちの存在を隠すのか」と疑問と迷いを感じていました。現場に行けばすごい技術と情熱を持っている方々がたくさんいらっしゃいます。彼らが表に出ないのは純粋にもったいないと思ったんです。
キャラクターは,素晴らしいプロの仕事によって支えられている存在だと知っていただきたい。そしてキャラクターに携わる仕事がたくさんあることを知っていただき,その仕事を目指す若者が増えれば,将来エンタメ業界を支えるあらゆるプロの方々が増え,エンタメ業界が発展し持続可能な環境になっていけば最高です!
4Gamer:
福田さんから裏側を見せたいという話を聞いて,皆さんはどう思われましたか。
布川氏:
すごくうれしかったです。福田さんも話していましたが,技術者は表に出ないというのが暗黙の了解でした。それをあえて見せていただけるというのは,若い世代に興味を持ってもらえるきっかけになり,次につながるというのは大きいです。
モーションキャプチャのエンジニアは意外に少なく,不足しています。また,ダンスがメインで,コンスタントに時間をかけずにできる技術があるところは限られています。それに興味を持って,業界に入って来てくれる人が増えるとうれしいです。
研谷氏:
弊社のALiS ZERO®は,コンテンツによっては使用していることを公表できない場合もあります。本作のように最初から使用していることを公開していただいていると,プレッシャーもありますが,完成したときの達成感も大きいです。本当に,ありがたいし,うれしいです。
4Gamer:
日常的にゲームやアニメなどのコンテンツに触れていますが,本作の取材でこんなにすごい技術があることを初めて知りました。やっぱり,知るきっかけがあるって大事ですよね。
布川氏・研谷氏:
大事ですね。
「ポラポリポスポ」を支える技術
今回のインタビューでは,ALiS ZERO®のシステム担当 瀬戸賢太郎氏(管理本部 管理部 業務・システム担当 課長)と,横浜CS事業部 アニメーションディレクターの牧 達也氏より,実際の器材,システムを使用しながら,「ポラポリポスポ」の制作工程を聞くことができた。
説明の流れは,下記の画像にそった内容になっているので,ぜひ動画の内容をチェックしてほしい。
4Gamer:
では,gNuuw,ユークスが携わっている分野についてお聞きしていきます。まず,ALiS ZERO®について教えていただけますか。
研谷氏:
まず,モーションスーツを着てアクターさんに動いてもらい,動きのデータを取ります。楽器を演奏しているMVは,実際に演奏できる方が,モーションアクターも担当しているんです。
その動きを撮りながら,同時にキャラクターのCGを制作できる技術がALiS ZERO®です。歌ったり,演奏したりだけでなく,衣服や髪の毛の動きもリアルタイムで表示され,表情もその場で専門のスタッフがつけています。
4Gamer:
取材させていただくまで,モーションキャプチャで映像を作るときは,もっと時間がかかるものと思っていました。
研谷氏:
従来は,一度モーションアクターさんの動きのデータを持ち帰って,フェイシャル(表情)をつけたり,髪の毛や衣服の揺れを調整したり,楽器や指の位置を直して,そこで初めてMVの素材としてお渡しできる形でした。しかし,弊社のシステムなら,その場で「これを使ってください」と完成したものを渡すことができます。そこが,ALiS ZERO®の強みです。
4Gamer:
布川さんの関わられている分野も教えてください。
布川氏:
完成形の映像になるように,ユークスさんにその場でモーションデータをお渡しするのが役目です。モーションキャプチャは,全身に専用のマーカーをつけてデータを取るため,キャラクターのデータが壊れたり,ブルブル動いたりするのが一般的です。でも,あとから修正しない本作の場合,一瞬でもそれが起こるとNGになります。
そのためバンドは,楽器によって隠れる場所も多いですが,できるだけエラーが起こらないように工夫しています。ほかにも弊社が開発したシステムで,アクターさんとキャラの差を吸収して,ギターやベースと手の位置ができるだけ合うようにしています。
4Gamer:
それを現場でリアルタイムでやっているというのが,すごいですよね。
布川氏:
本来は動きを撮影して,持ち帰ってからマーカーが消えているところや,指などを全部手作業で直して,時間をかけてキャラクターを動かす準備をしています。ですがその準備も現場でやって,1日で完成させているんです。ちなみに,私1人で動かしています(笑)。
4Gamer:
すごすぎます。作業されていて,とくに難しい部分はどこでしょうか。
布川氏:
身体が隠れる部分が多いので,ドラムが難しそうなイメージを持つ方も多いと思いますが,技術者視点で見ると意外に簡単です。素早く叩いている動きがありますが,ドラムのモデルを移動させるなどして対応しています。どちらかと言えば,ギターに手を合わせるほうが各段に難しいです。
4Gamer:
以前,モーションアクターに挑戦したことがあるのですが,手を近づけすぎると重なってしまいますよね?
布川氏:
まさに,そこです。キャラクターとアクターさんの差によって,どうしても合わない部分ができてしまいます。一般的な動かし方だと普通に拍手するだけでも手がクロスしてしまう場合も多いです。そのせいもあって,経験のあるアクターさんのなかに,最初から気を使ってくれて,手を浮かせて合わせないような動きをされる方もいるくらいです。
しかし,本作の場合は差を吸収して動きに反映しているので,手を合わせないと逆に合わないので,ちゃんと手を合わせてくださいと説明しました(笑)。
研谷氏:
楽器を演奏したアクターさんはミュージシャンの方なので,ドラムの位置も決まっているんですよね。撮影前に自分に合った位置に動かしてもらって,ドラムについたマーカーが,CGモデルと合うようにしています。
古田氏:
布川さんと一緒に手掛けているプロジェクトは,ほかにもあります。「ポラポリポスポ」が最先端技術ではありますが,ほかの作品でも関わったアクターさんが「こんなにすごいんだ」と驚いていました。アクターさんも,バク転など,いろいろな動きをやってみたいと話していましたね。
4Gamer:
前回,モーションキャプチャの撮影現場を取材させていただいたときも,アクターさんがいろいろな動きを試されていましたよね。
声優の小松昌平さんや川島零士さん,古田一紀さんがモーションアクターに挑戦! 「ポラポリポスポ」モーションキャプチャ収録レポート
バンダイナムコアミューズメントが展開する「ポラポリポスポ」は,空想・創造・共創をキーワードに自由な世界を開き,ファンと一緒に成長していくことを目指したプロジェクトだ。本稿では,モーションキャプチャ収録の様子をレポートしていく。
古田氏:
目の前の画面にいるキャラクターCGに,動きがすぐに反映されるので,いろいろ試して見たくなりますよね。
布川氏:
実は,一般的な動かし方でも,キャラクターとアクターさんの動きを合わせようと思えばできなくはないです。でも合う,合わないがあって,体格差ややり方にによっては操り人形のような動きになってしまうこともあります。
また,「〇〇から手を離さないでください」「移動しないでください」など,技術面の都合で動きに制限をかける場合もあります。でも今回は,アクターさんの動きに制限をかけることなく自由に動いてもらっている部分も非常に大きいと思います。
4Gamer:
自由なぶん,アクターさんや楽器を演奏する方の個性がより出るんですね。
布川氏:
そこがとても重要ですね。1曲3〜5分ほどで,その間の僕の仕事は,データを壊さないことです。一度ズレていると監督に指摘されたこともありますが,大きなトラブルもなく撮影できているのがすごいとは思います。長年携わっていますが,自分でも「できちゃった(笑)」と驚きました。
福田氏:
あと,ドラムのシンバルが動くのが自慢です!
研谷氏:
叩いて動く場所は問題なかったんですが,当日にハイハットを動かすためのデータが取れないと判明したんですよね。そこで,急きょ布川さんが対応してくださいました。
布川氏:
本物のドラムで撮影することも可能だったんですが,身体が隠れる部分が増えるとリアルタイムでのデータが壊れるリスクも高いので,電子ドラムを使用しました。ですが電子ドラムのハイハットは,閉じ開きする動きはないんですよ。そこで方法は秘密ですが,現場で動きを再現できる仕組みを考えました。
4Gamer:
そんな裏側があったんですね。ちなみにキャラクターの動きは,福田さんもチェックしているんですか。
福田氏:
そこは,監督やアクターさんご自身にお任せしています。事前にキャラクターを深く研究したうえで演技指導してくださるので,現場でいい感じに仕上げてくださっています。
4Gamer:
キャラクターの魅力を引き出すため,動きと同様に,表情も重要になると思います。表情のつけ方を教えてください。
牧 達也氏(以下,牧氏):
表情に関しては設定資料や,表情リストに従って,事前にパターンを作成しています。表情のパターンのほか,まぶたをゆっくり閉じたり,ウインクをさせたりなどの動きを,ゲーム機のコントローラで操作できるように設定されています。
また,表情ではありませんが,しゃべっていないときに変な方向を向いてしまうこともあるので,正面を向かせるような操作もできるようにしています。
4Gamer:
どのキャラクターも,表情豊かです。
牧氏:
フェイシャルアクター(表情づけ担当者)の方には事前に台本を見て練習いただき,リハーサルで「こうしたほうがいいよね」という打ち合わせを重ねながら,最終形にもっていきます。
しゃべっていないときでも手を振ったり,リアクションをしていたりすることがあるので,そのとき用の口の動きも準備しています。コントローラのスティック操作で口角を上げる,下げるもできるので,そちらでも感情を表現することができます。
4Gamer:
アクターさんのリアルタイムの動きに合わせて,表情をつけるのは,かなり難しくないですか。
古田氏:
アクターの動きを見つつ,キャラの表情も見てなので,とても難しいです。フェイシャルアクターは,瞬発力があって先読みができ,コントローラ操作にも慣れたゲーマーが多いです。
牧氏:
格闘ゲームや,リズムゲームが得意な人に向いています(笑)。セリフに合わせていただいているんですが,テイク(撮影カット)によってアクターの動きが微妙に変わったり,アドリブがあったりするので,フェイシャルアクターさんの瞬発力が重要です。
4Gamer:
ゲーマーが活躍できる職場ですね!
牧氏:
はい。ご説明した動きが全部コントローラでできるようになっているので,ゲームの必殺技コマンドを全部覚えた状態で,フェイシャルアクターさんは収録に挑むことになります(笑)。
「笑顔って,どのボタンだっけ?」と悩んでいるうちに,そのシーンは終わってしまうので,フェイシャルアクターさんは慣れた方にお願いすることが多いです。キャラによって口の形が違ったり,覚えたりすることも違うので,1キャラにつき1人に操作をお願いしています。
4Gamer:
リップ(くち)の動きは,どうなっているのでしょうか。
牧氏:
事前にボイスを収録している場合は,フェイシャルリグにボイスを流し込むことでリップが動くように設定しています。しかしリアルタイムで,しゃべる動きが必要になるコンテンツも中にはあります。そのときのために,マイクの声に合わせて,リップが動くシステムがあります。ミキサーを挟むことで音量や声量に合わせたり,ノイズが入らないようにすることも可能です。
古田氏:
リアルタイムでボイスを入れるときは,事前調整が重要になりますね。
4Gamer:
いろいろな準備が必要なんですね。
牧氏:
事前収録の場合でも,ちゃんと声に合わせた口の形になるようにしています。極端な例ですが,かすれ声の方と,アナウンサーの話の方では,同じ「あ」の発音でも波形が全然違うので。
4Gamer:
「すごい!」しか,感想が出てきません。ほかに,ここもアピールしたいというポイントはありますか。
牧氏:
カメラアングルを調整できるようになっているので,「もっと,こういう画角で撮りたい」というディレクションがあったとき,すぐに対応できます。画角の数だけカメラが必要になり,NGなものがないか確認して,カメラが決まったら撮影が始まります。
4Gamer:
本当に,リアルタイムで完成させられるだけに,こだわり抜いて撮影されているんですね。
福田氏:
私たちは「キャラクターは作られた存在である」と明言していますが,リアリティーのある人間になるように動きには,かなりこだわっています! アウトプットに人の手が極力介在しないからこそ,準備に時間はかかりますが,動きは人間そのものなんですよね。
古田氏:
撮り直しとか修正ができないので,全力です。福田さんは,実際に楽器を弾ける方にアクターをお願いしたいと,かなりこだわっているんですよ。
福田氏:
通常のモーションキャプチャでは楽器の当て振り(演奏しているお芝居)をすることが多いですが,「ポラポリポスポ」は動きがそのままキャラクターに反映されるからこそ,「本物」にこだわりました。
古田氏:
担当してくれたギタリストさんや,ドラマーさんも興味を持って協力してくれました。彼らが最初の“バンドモーションアクター”ですよね。
福田氏:
本作のような新しい技術が確立できたことで,バーチャル世界における音楽表現の可能性が大きく広がるかもしれない! と期待しています。そして,この挑戦に興味を持ち,協力してくださる方たちもいらっしゃいます。
4Gamer:
夢や希望も広がりますね。
福田氏:
そうなんですよ。バーチャルな世界でもリアルタイムのライブをやっている作品はもちろんありますが,バンドや楽器を持ち込んだ作品はまだないと思います。今後は,楽器そのものが進化するとか,面白い取り組みができるかもしれないです。
4Gamer:
今のお話にもあったように,役者さんや声優さんなど,多彩な方がモーションアクターとして参加されています。撮影で印象に残っていることはありますか。
福田氏:
「ポラポリ」のモーションアクター撮影をご経験されたことで,キャストさんご自身の学びや表現の成長などにつながったら,すごくうれしいです。キャストさんのお一人は,モーション撮影に参加しながら「ここで何か動きを入れたいのに,自分の声がない!」というジレンマを覚えたそうです。その影響なのか,モーション撮影以降の音声収録では,アドリブが増えました(笑)。
モーション撮影と音声収録は,現場としてはまったく違いますが,ポラポリという一つの作品を通して,お互いポジティブな影響を与え合えたらステキだなと思いました。
研谷氏:
声優の皆さんは,皆お上手でしたね。普段は声のお芝居がメインなのに,こんなに動けるんだと驚きました。ご自身の動きがキャラクターに反映されている映像をその場で見られるので,いろいろ動いてくださっている姿が微笑ましかったです。
布川氏:
現場の気持ちもノリますよね。
いつかは,生演奏によるライブも!?
4Gamer:
福田さんは,東京デザイナー学院の卒業制作課題として,本作の素材を提供する取り組みもされています。その意図を教えてください。
福田氏:
私は,モノづくり(創作活動)は素晴らしいものだと感じており,敬意を持っています。そんな活動を何か応援したいという思いがあって,自分が関わっているコンテンツを使って,支援ができないかと考えました。まだ模索段階ではありますが,公式素材をご提供し,クリエイターさんには自由に創造してもらいました。
弊社(バンダイナムコ)と仕事をしたという実績や,プロのお仕事に触れたことで,若手クリエイターの自信や刺激になってくれたらいいなと願っています。
4Gamer:
今後「ポラポリポスポ」で挑戦してみたいことや,注目してほしいところを教えてください。
福田氏:
音楽もモーションも,すべて“生”の世界初のCGバンドライブをやるのがプロジェクトの目指しているところです。まずは,その実現に向けて頑張ります。
古田氏:
キャラクターCGだけなら,リアルタイムでの公演はすぐにでも可能だと思います。最大の難関は,音ですね。
布川氏:
生音という言葉が出ると,難度がさらに何倍も高くなるんです。モーションキャプチャ的には手袋をしていただき指にもマーカーを付ける必要もあり,本作では従来のものよりかなり弾きやすくはしていますが,それでも外せないポイントはあります。ギタリストの方とお話したら,実際に演奏するなら「手の平は出ていないといけない」と言われて,なるほどと思いました。
4Gamer:
楽器の演奏上,欠かせないポイントですね。
布川氏:
モーションキャプチャの環境も,アクターさんがやりやすい,演奏しやすいものにシフトしていく必要があると思っています。また,生音にこだわるなら,本物のドラムにマーカーをつけて,ちゃんと本来の音が出るのかとか……。僕自身も経験したことがない,モーションキャプチャ都合の課題を,皆さんとちょっとずつ解決していき,実現させたいという前向きな気持ちでいます。
古田氏:
ミュージシャンの方たちも,自分たちで弾きたいでしょうしね。でも熱が入るほど,マーカーが飛びそう(笑)。
布川氏:
ミュージシャンに寄せ過ぎると,こちらの技術的に難しくなるので,そのバランスが課題ですね。
研谷氏:
リアルタイムライブを目的にして作ったエンジンなので,今のような映像づくりが可能になっています。それでも音を含む,すべてをリアルタイムで,お客様に届けるライブをするには,2段階,3段階も課題がありますね。
福田氏:
「ポラポリポスポ」はまだまだ成長途中ですが,抱いている夢だけは大きいです!
4Gamer:
最後に,作品を楽しんでくださっているファンの皆さんに,メッセージをお願いします。
布川氏:
技術的なことも含め,「ポラポリポスポ」を純粋に楽しんでいただけたらなと思います。今回のインタビューのような裏側の記事を読んだら,ちょっとでも目を通してもらえるとうれしいです。
研谷氏:
チャレンジがたくさん詰まったコンテンツです。ぜひ,チャレンジを見て,一緒に盛り上がっていただきたいです。
古田氏:
ファンの皆さんが「このプロジェクトすごいんだよ」と思ってくれるようなプロジェクトにしたいです。
福田氏:
いつもありがとうございます!! 「ファンの皆さまにとって史上最高」のエンタメを創り上げるので,その理想郷までこれからも一緒に歩いていただけるとうれしいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
――2024年2月1日収録
「 ポラポリポスポ(メディアミックスプロジェクト)」公式サイト
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ポラポリポスポ(メディアミックスプロジェクト)
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