インタビュー
東亜プラン40周年に生まれた「SNOW BROS. WONDERLAND」に込められた思いとは。製作のキーマン達に,その目指すところを聞いてみた【PR】
元気な雪だるまがモンスターを雪玉にして倒す「スノーブラザーズ」シリーズの最新作「SNOW BROS. WONDERLAND」(PS5 / PS4 / Switch)が,2024年11月28日に発売される。
「スノーブラザーズ」は,「究極TIGER」「TATSUJIN」といったシューティングゲーム作品(以下,STG)で知られる東亜プランが,1990年にリリースしたアーケード向けの名作1画面アクションゲームだ。「SNOW BROS. WONDERLAND」は,そんな同作をベースにしながらも,3Dグラフィックスを用いたトップビューのタイトルとしてリファインが行われている。
「SNOW BROS. WONDERLAND」公式サイト
本作の開発を手がけるのは,かつての東亜プランで中核スタッフの一人であった弓削雅稔氏だ。氏は2017年に開発会社のTATSUJINを設立し,東亜プランIPの権利を取得。かつての名作を現在に復刻する道筋を整えた人物でもある。
TATSUJINは2022年にスウェーデンの大手パブリッシャであるEmbracer Groupによる買収を受け入れ,「SNOW BROS. WONDERLAND」のほかにも「TATSUJIN EXTREME」「Amusement Arcade TOAPLAN」(iOS / Android)といった東亜プランIPを活かした新作を発表するなど,現在も精力的に活動している。
弓削氏とTATSUJIN,そしてEmbracer Groupは何を目指しているのか。そして発売が迫る「SNOW BROS. WONDERLAND」には,一体どんな思いが込められているのか。東京ゲームショウ2024に合わせて来日したEmbracer GroupのAli Manzuri(アリ・マンスゥリ)氏とMartin Lindell(マーティン・リンデル)氏,そして弓削氏の3名に話を聞いてみた。
TATSUJIN代表取締役の弓削雅稔氏。数々の東亜プラン作品にサウンドプログラマとして関わり,数々の名作,名楽曲を生み出してきたレジェンドクリエイターとして知られる。開発会社TATSUJINの立ち上げ後は,東亜プランのIPを継承したタイトルの開発に従事している |
Embracer Groupのクラシックゲーム部門であるFreemodeで,Senior Operation & Business Developmentを務めるアリ・マンスゥリ氏。パブリッシングや事業開発,運営などの業務を担当している |
Embracer Group Senior Advisorのマーティン・リンデル氏。クラシックゲームに関連したパブリッシングを担当しているほか,デベロッパの買収といった業務にも携わっている |
マンスゥリ氏と同じくEmbracer Group Freemodeで,日本の事業開発を務めるJames Wragg(ジェームス・ラグ)氏。今回は通訳として参加してもらった |
東亜プランの存在を,全世界へ発信すること
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回はEmbracer Groupの皆さんが同席されていますし,まずは自己紹介も兼ねて,皆さんのご経歴を簡単に教えていただけますでしょうか。
Ali Manzuri氏(以下,マンスゥリ氏):
Embracer Group Freemodeのアリ・マンスゥリです。1996年にスウェーデンの小売に勤めているときに,Embracer GroupのCEO(Lars Wingefors氏)と知り合って,2000年代に今の会社に入りました。
Martin Lindell氏(以下,リンデル氏):
Embracer Groupのマーティン・リンデルです。私も1990年代中頃に小売としてゲーム業界に関わるようになり,それからゲーム史の本を書いたり,ブランドマーケティングの仕事をしたりして,その後にEmbracer Groupに入りました。もちろん,日本も日本のゲームも愛しています。
4Gamer:
おお。ちなみに,お二人のお気に入りのゲームをうかがってもいいですか。
リンデル氏:
そうですね。一つに絞るならスーパーファミコンの「天地創造」でしょうか。欧州では「Terranigma」というタイトルでしたが,美しいドット絵と,最後までプレイヤーの心を離さないストーリーが感動的でした。ターン制のRPGも好きですが,アクションRPGのほうが好みというのもあります。
4Gamer:
「天地創造」とは,なかなか渋いチョイスですね。マンスゥリさんはいかがですか。
マンスゥリ氏:
……非常に難しい質問ですね。強いて一つを選ぶなら……やはり「TATSUJIN」※でしょうか。元々STGが好きで,それまでも「River Raid」などを好んで遊んでいたんですが,「TATSUJIN」は衝撃的でした。なにせ16ビットのハードで遊んだ,初めてSTGだったわけですから。
※「TATSUJIN」……東亜プランから1988年にリリースされたアーケード用縦スクロールSTG。タイトルどおり高い難度とド派手なグラフィックス,そして後述する“達人ボム”シスステムで人気を博し,今に続くSTGの基本デザインを確立させた。
4Gamer:
つまり,グラフィックスが印象的だったということですか。
マンスゥリ氏:
もちろんグラフィックスも素晴らしかったです。なにせ,ボムを使ったら巨大なドクロマークが出てくるんですから(笑)。でもそれだけじゃなく,ボムの扱い自体が面白かった。北米や欧州のSTGでは,“ボムは集めて使うもの”という考え方が主流でしたが,「TATSUJIN」では初期装備としてボムを持っているじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。ボムを緊急回避手段として使う,その最初期の作品だったように思います。その「TATSUJIN」を手がけられた弓削さんですが,改めて経歴を教えていただけますか。
はい。TATSUJINで代表取締役をしています。1980年代からゲーム開発に携わり,東亜プランではさまざまなタイトルに関わりました。東亜プランがなくなったあともずっと業界にいまして,業界歴は今年で43年になります。2017年にTATSUJINを立ち上げて,今は「SNOW BROS. WONDERLAND」と「TATSUJIN EXTREME」「Amusement Arcade TOAPLAN」の3タイトルを開発しています。
4Gamer:
ちょうど1年前にTATSUJINがEmbracer Groupに買収されるというニュースが流れ,それと同時に発表されたのが「SNOW BROS. WONDERLAND」を始めとした3タイトルだったわけですが,この買収はどういった経緯で決まったものなのでしょうか。
Embracer Groupが日本のゲームメーカーTATSUJINの買収を発表。東亜プランタイトルの移植を予定。“指輪物語”と“ホビットの冒険”のIPも取得
スウェーデンに本拠を置く大手ゲーム企業のEmbracer Groupが,日本のゲームメーカー,TATSUJINの買収を発表した。Embracer Groupが日本企業を買収するのは,これが初となる。このほか,Middle-earth Enterprisesの買収による「指輪物語」「ホビットの冒険」のIP取得なども発表されている。
マンスゥリ氏:
5年ほど前に,東亜プランのSTGを復刻するプロジェクトを,メガドライブなどのレトロゲームを扱っているRetro-Bitという会社と一緒に進めていました。そのために東亜プランのIPを管理している人物とコンタクトを取る必要があり,ネットを通じてTATSUJINを紹介してもらったのが,弓削さんとの最初のご縁でした。
4Gamer:
Embracer Groupとしては,当初過去作のライセンスアウトを受けるだけのつもりだった?
当初はそうでした。しかしEmbracer Groupとしては,日本の懐かしいIPを復活させたいという考えがありました。一方で,弓削さんから「散逸していた東亜プランの権利が取得できそうだ」というご連絡をいただいて。それならば単なるライセンスアウトだけでなく,リメイクや続編といった形で,東亜プランの素晴らしいIPを全世界に届けられるのではないか。そういった夢が,急に現実味を帯びるようになっていきました。
4Gamer:
そこから買収の話に転がっていったんですね。TATSUJIN側としては,Embracer Groupの申し出をどう感じたのでしょうか。
弓削氏:
「STGの東亜プラン」と言われることは多いですが,我々としてはSTGに特化したメーカーというつもりではありませんでした。自分達がやりたいものを,気の向くまま作っていただけで。ただチャレンジはすれど,売上がついてこないという状況だったわけです。その後,東亜プランは倒産してしまうわけですが,当然ながら多くのやり残しを置きざりにしてしまいました。むしろ,やり残ししかないくらいに。
そんなところに,Embracer Groupから「IPだけでなく,TATSUJINと一緒に仕事がしたい」なんて話をいただいたわけですから,大変ありがたい話だと思いました。
マンスゥリ氏:
何より,弓削さんと一緒に仕事をしたかったんです(笑)。
弓削氏:
それならば,Embracer Groupさんから認めていただけるように頑張っていけば,皆で幸せになれるんじゃないか。そういう思いがあって,Embracer Groupの申し出を受けることにしました。
4Gamer:
なるほど。海外から見ると,東亜プランとその作品群はどういった印象なのでしょうか。日本のゲーマーから見ると……率直に言ってややマニアックな,しかしコアなファンが多いメーカーといった感じなのですが。
マンスゥリ氏:
やはりSTGのイメージが強いので,そこは日本と変わらないと思います。「タイガーヘリ」や「TATSUJIN」「究極TIGER」と,とにかくクオリティが高いタイトルを次々に送りだし,STGを人気ジャンルに押し上げたメーカーの一つという認識です。
東亜プランというメーカー名こそ知られていませんが,近年の移植版のおかげでタイトル自体の知名度は高いので,「TATSUJIN」ブランドは海外ファンのなかでは大きな存在感があると思います。それにゲーム自体は遊んだことがなくても,「All your base are belong to us.」※のミームを知らない人はいませんから(笑)。
※「All your base are belong to us.」……東亜プランから1991年にメガドライブ用として発売された海外版「ゼロウイング」のデモ画面に登場するセリフ。文法的な誤りによって生まれたコミカルさが海外ファンに大ウケし,2000年代に定番ミームとして定着した。
4Gamer:
ああ,それは確かに(笑)。
リンデル氏:
ですので今後ブランドとしての東亜プランを確立していくためには,未移植のタイトルを含めた多くのタイトルを,多数のプラットフォームで遊べるようにするのが大切だと考えています。
4Gamer:
「TATSUJIN」の話題が出たので,同作について少し聞かせてください。縦スクロールSTGの基礎を築いたといって過言ではない「TATSUJIN」ですが,弓削さんご自身ではどう評価されているのでしょうか。
弓削氏:
やっぱり思い入れ深いタイトルですね。なにせ私が企画とプログラムとサウンドをやり,たった3人で,通常1年〜1年半かかるところを7か月で仕上げたタイトルですから。さっきみたいに「お気に入りのゲームは」と聞かれたら,「TATSUJIN」と答えるくらいには印象深いです。
4Gamer:
当時,人気を博した理由をどう分析されていますか。
弓削氏:
作っている最中は,何がウケるかなんて分かってないですからね。「こうやったら面白いんじゃないか?」って,日々考えながら開発していたように思います。ただ後から考えると,そうやって常に新しいものを考えていたからこそ,受けいれられたんじゃないかとと。その最たるものが,先の“達人ボム”ですね。
4Gamer:
「TATSUJIN」のボム――達人ボムは,発射して即発動するのが新しかったですね。それまではタイムラグがあるのが普通だったので。
弓削氏:
ええ。あとはグラフィッカーの荻原さん(荻原直樹氏)の力も大きかった。彼は東亜プランのグラフィックスの基礎を作り上げた人ですけど,彼のデザインから私の企画アイデアが生まれ,私のアイデアを彼がデザインに落とし込むという,いい相乗効果がありました。例えば件のドクロマークも彼のアイデアですし,私も彼のデザインした敵キャラクターを配置しながら,曲を作ったりしていました。
4Gamer:
ああ,「TATSUJIN」のあのテンポ感――楽曲とゲーム展開がリンクするかのような気持ちよさは,そうやって生み出されたのですね。
弓削氏:
少人数で開発できた,当時だからこそできたことですね。とはいえゲーム開発も納期のある仕事ですから,100%満足いくものが作れたわけではありません。これからも100%満足なんてのは作れないとは思いますが,そこに少しでも近づきたいと思いつつ,この歳になっても,こうしてゲーム業界に身を置いているわけです。
「スノーブラザーズ」が生まれた理由,そして新作へと
4Gamer:
少し脱線してしまいましたが,ここからは今回の主題である「SNOW BROS. WONDERLAND」についてうかがいたいと思います。先ほどのお話で,東亜プランのIPを復活させる狙いは分かったのですが,その第1弾として「スノーブラザーズ」を選んだのはなぜなのでしょうか。
これはシンプルに,海外では「スノーブラザーズ」が大人気だからです。日本ではそこまで売れなかったんですが,アジアやスペイン,あと南米では大ヒットしたんですよ。
4Gamer:
そうだったんですね。南米でもヒットしていたとは意外でした。
弓削氏:
そもそも「スノーブラザーズ」自体,「海外でウケるものを作ろう」というところからスタートしたタイトルでしたからね。アイテムがお寿司やご祝儀袋だったり,敵が忍者や関取だったりするのも,海外ウケを狙ったのものです。
4Gamer:
そうだったんですか!? いや,確かに「なんでお寿司やご祝儀袋なんだろう」とは思っていましたが……。
弓削氏:
東亜プランは当時としてはちょっと珍しい,売上の7割が海外市場というメーカーだったんです。独創的なスタッフ達が集まっていたこともあって,皆で作ると世界中をまんべんなくフォローするようなタイトルが作れたんですね。
4Gamer:
そう言われてみると,モンスターひとつを取っても個性的というか,ちょっと海外っぽさを感じるデザインに思えてきました。開発スタッフの中に,海外出身の方がいらっしゃたのでしょうか。
弓削氏:
そういうわけではありません。でも,毎年誰かが海外に行って,向こうの文化を持ち帰ってくるような視察は行っていました。
4Gamer:
弓削さんご自身も行かれたんですか。
弓削氏:
僕が行ったのは東亜プランの前身であるオルカ時代ですが,当時「バスター」というロボットゲーム※を作っていて,それを売り込みにアメリカに行きました。アーケードゲームのバイヤーさんが集まるホテルに常駐して,タイトルを見せるんですよ。ああいう経験をすると,見えるものが変わりますね。
※「バスター」……1983年にセサミジャパンからリリースされたアーケードゲーム。ライフルと盾を持ったロボットが戦う縦画面の横スクロールSTGで,当時人気だった「機動戦士ガンダム」の影響が感じられる。
4Gamer:
日本やアメリカ,あと韓国などにはアーケード文化があったと聞きますが,ほかの国はどうだったのでしょうか。
弓削氏:
アメリカや韓国は,ファミレスや空港,バーのカウンターの端にゲーム機が置かれていることが多かったですね。あとドイツはカジノの中にゲームセンターがありました。暗い部屋の半分がギャンブルマシンで,もう半分がビデオゲームといった感じに。
James Wragg氏(以下,ラグ氏):
イギリスにもゲームセンターがけっこうあって,プレイしているとガラの悪い兄ちゃんによく絡まれました(笑)。あとはフィッシュアンドチップス屋なんかのテイクアウトにも,アーケード筐体がよく置いてありましたね。
リンデル氏:
私の地元のスーパーなんかにもありましたよ。よく覚えているのは,レジ横にあった「ガンスモーク」ですね。
※「ガンスモーク」……1985年にカプコンからリリースされたアーケード用STG。西部劇をテーマにした縦スクロールSTGで,保安官を操作して悪漢を打ち倒していく。
マンスゥリ氏:
私の住んでいたスウェーデンには,残念ながらゲームセンターがありませんでした。ですので東亜プランのタイトルに触れたのは,コンソールに移植されてからなんですよ。
リンデル氏:
そうした地域が少なからずあるからこそ,当時の作品は“眠っている宝”なんですよ。
4Gamer:
なるほど……。では失礼ながら日本人があまり知らないだけで,海外には「スノーブラザーズ」ファンがたくさんいるのですね。
弓削氏:
そうですね。2022年に発売された「スノーブラザーズスペシャル」は韓国で制作されたライセンス作品ですが,そのときは韓国の開発者の方から,「子供の頃からずっと好きだったシリーズなので,ぜひアレンジ版を作らせてほしい」と言われました。実際,発売後のセールスも好調でしたし。
4Gamer:
実際,「スノーブラザーズ」はよく練られた1画面アクションだと思います。敵をまとめて倒すほど,高級なネタのお寿司が出てくるセンスも含め,好きな作品でした。「SNOW BROS. WONDERLAND」は,そんな「スノーブラザーズ」のエッセンスを残しながらも,3Dフィールドを使った見下ろし視点のゲームへと変化していますが,なぜこの形を選んだのでしょうか。
弓削氏:
開発当初は,実は従来どおりのサイドビューで制作していました。アクションが決まったときだけ,カメラが回り込んで3Dグラフィックスらしい演出になるといったような。しかし,これではアクションやゲームデザインに制限が多くて,トライアンドエラーの末,現在の形に落ち着いた経緯があります。
4Gamer:
かなり大胆な変更に思えますが,制限が多いとはどういうことですか。
弓削氏:
単にアレンジするだけじゃなく,常に新しい遊びを作らなければ,魅力を保つことができないということですね。IPを大事にしながら,常に新しいものを追い求めるのがTATSUJIN流です。奇をてらうだけでなく,楽しくてグッとくる,プレイヤーを驚かせるようなものを考えようって,スタッフに言い続けているくらいですから。
4Gamer:
ではそのIPを大事にするという部分,つまりは「スノーブラザーズ」らしさをどうお考えですか。
弓削氏:
ゲームとしてのテンポの良さが「スノーブラザーズ」らしさだと思います。「SNOW BROS. WONDERLAND」ではゲームデザインを変更したとはいえ,「スノーブラザーズ」からかけ離れたものにならないように調整するさじ加減に苦労しました。企画書の段階で答えは見えていたんですが,実現するのに時間がかかってしまったといったところです。
4Gamer:
確かに,テンポの良さは「スノーブラザーズ」の大きな魅力だと思います。調整というと,もう少し具体的にはどの辺りですか。
弓削氏:
一番苦労したのはカメラワークですね。とくに今作はオフラインでの4人同時プレイに対応していますから,複数のプレイヤーが同時に動いてもプレイの妨げにならないよう,最後の最後まで調整を重ねています。
4Gamer:
「スノーブラザーズ」では多くの敵を巻き込んで倒すことで高得点を狙う,いわゆるスコアリングがやり込み要素になっていましたが,今作も同様でしょうか。
弓削氏:
そうした遊び方も可能です。フィールドが3Dになって自由度が増したので,ちょっと複雑に感じられるかもしれませんが,慣れれば安定してスコアを狙えるようになります。
4Gamer:
主人公キャラクターに着せ替え要素が用意されているあたり,今っぽい作りだと思いましたが,こうしたコスチュームはどうやって手に入れるのでしょうか。DLCとか?
弓削氏:
追加課金要素は本作にはありません。コスチュームにしても,プレイを進めていただくことですべて手に入るようになっています。開発初期にはDLCも考えましたが,「それでお客さんが喜ぶだろうか?」という疑問があったので止めてしまいました。
これまでの40年と,これからの40年に向けて
4Gamer:
今回はEmbracer Groupの皆さんに直接お話を聞ける機会でもあるので,先日発表された同社の組織改革についても少し聞かせてください。3つの企業に再編されるとのことですが,TATSUJINとの取り組みにこれらは影響するでしょうか。
Embracer Groupがボードゲームや版権管理,インディーゲームを担当する3つの会社に分社化へ。それぞれがスウェーデンで再上場を予定
経営再建中のEmbracer Groupが,Asmodee Group,Coffee Stain & Friends,Middle-earth Enterprises & Friendsという3つの会社に分社化し,それぞれがスウェーデンのNasdaq Stockholmに再上場する予定であることが発表された。取締役会と経営幹部により株主に提案され,承認されているという。
マンスゥリ氏:
TATSUJINで作っているタイトルには,今のところ影響はありません。組織改革が決定した背景にはプロジェクトが多すぎたことや,昨今のインフレやコロナ禍といったさまざまな事情がありました。ただ我々は失敗から学ぶことができますし,TATSUJINとのこれからのプロジェクトにも,この学びを生かしていきたいと思っています。
4Gamer:
ということは,Embracer GroupとTATSUJINの協力関係は今後も続いていくと考えていいですか。
マンスゥリ氏:
もちろんです。
4Gamer:
「SNOW BROS. WONDERLAND」のあとにも,「TATSUJIN EXTREME」も控えています。
弓削氏:
「TATSUJIN EXTREME」は,Embracer Groupさんの助力を得ることで実現したタイトルと言って過言ではありません。ずっと作りたかったタイトルですし,以前からある程度は開発を進めていましたが,なかなか効率よく進みませんでした。これが完成すれば,ゆくゆくは「究極TIGER」や「飛翔鮫」の現代版も作ってみたいと思っています。
4Gamer:
それはとても楽しみです。では,今後は往年の東亜プラン作品のリメイク,あるいは続編をメインに活動していくわけですね。
弓削氏:
もちろん完全新作も考えていますよ。ただ,そのためには東亜プランのブランドを世界に認知してもらう必要があります。そうでないと,良いゲームを作っても埋もれてしまいますからね。完全新作に踏み出すのは,その後だと思います。
4Gamer:
ということは,何か新作の構想がある?
弓削氏:
構想とまではいきませんが,STGをベースにしたまったく新しいジャンルの作品になる気がします。STGには人間の本能に訴えかけるものが詰まっていますし,シンプルなだけに多くの人に訴求できる力がある。なので,プレイヤーに「あ,こんな本能が自分にはあったんだ」と気づかせるような,そんなゲームを追求していきたいです。
確かに,STGには撃つ/避ける/倒すといったプリミティブな快感が詰まっているように感じますね。
弓削氏:
STG以外にも,そういうゲームはありますけどね。例えば「テトリス」なんかは,元々人間が持っていた感覚を呼び起こすようなところがあります。ゲームをプレイしてなくても,頭の中に図形が浮かんでくるような。ああいったものが本能なんじゃないかな。
リンデル氏:
「ジャンルを越えた」と言いますが,弓削さんはそうしたゲームをすでに生み出していますよ。その一例が,ゲームボーイアドバンスの「くるくるくるりん」※です。独特の気持ちよさがあるゲームで,弓削さんが関わっていると知ったときは,本当にビックリしました。STGだけでなく,こんな新しいゲームまで。
※「くるくるくるりん」……ゲームボーイアドバンスのローンチ用タイトルとして,2001年に任天堂から発売されたアクションパズルゲーム。回転する棒を操作して,壁にぶつからないように棒をゴールへと導いていく。
弓削氏:
「くるくるくるりん」のステージは,ほとんど私が作ったんですよ。ジャンルこそ違いますが,考え方自体はSTGと変わらなかったですね。狭い隙間や難所を抜ける気持ちよさは,STGの弾幕に通じるところがあります。
4Gamer:
アーケード出身ということもあってか,弓削さんのゲーム作りは複雑なメカニクスや物語性をあまり頼らない,プリミティブな快感を重視しているように感じます。
弓削氏:
そうですね。曲を作るのと同じ感覚で,ずっとゲームを作ってきました。もう少し言語化できたら良かったんですが,今でも毎回悩みながら作っています。
4Gamer:
近年は,東亜プラン作品をリスペクトしたインディー作品が増えてきたように感じています。弓削さんご自身は,こうしたものをどう見ているのでしょうか。
弓削氏:
ほかの人が作ったゲームを遊ぶと心が動いてしまうのでプレイはしていませんが,リスペクトしていただけるのは嬉しいですね。
ただ,我々は自分達が産み出したものを超えたいと思っているので,新しいものに挑戦していきたい。東亜プランの当時も,ロケテストでお客さんの反応を見て,その反応を新作に生かしたりしていましたから,これからもそういうサイクルを大事にしていきたいです。
4Gamer:
ロケテストでは,どういうところを見るんでしょうか。
弓削氏:
プレイヤーの反応をじっと観察していると,どこでウケたのかが分かるんですよね。例えば「BATSUGUN」なんかはいい例で,敵の攻撃が激しいほうがウケがいいってことで,ああいう作品になりました。それがのちの弾幕STGにつながったわけですから,そうやってジャンルが発展し,業界が活気づくのはいいことなんじゃないでしょうか。
4Gamer:
確かにそうですね。……となると,コンシューマ向けタイトルである「TATSUJIN EXTREME」は,アーケードとは作り方が大きく変わるのではないですか。いわゆる“インカムのために死んでもらう”必要がないわけですし。
弓削氏:
そうですね。コンシューマだと,まずいろいろなモードを入れなくてはならないので,そこが大変です。ただインカムのためではないにせよ,ミスは咎めなくてはならないので大きくは変わらないと思います。
4Gamer:
なるほど……。
弓削氏:
むしろ大事なのは,“納得のいく死に方でなければらない”ところですね。それもアーケードと一緒ですけど。完全にコンシューマ向けのSTGを作るのは確かに初めての試みですが,スタッフはこのジャンルを作り続けてきたツワモノ揃いなので,そこはご期待いただければと。
4Gamer:
分かりました。2024年は東亜プランの40周年イヤーですが,何か思うところはありますか。
弓削氏:
40周年というのは早いものです。マーケティングのスタッフから今年が40周年に当たると聞いたときも「ああ,なんか全然大人になってないな」と思ったくらいに。なのでここで原点に立ち返り,初心を取り戻して次の40年に臨みたいですね。
4Gamer:
東亜プラン作品のファンに向けて,何かメッセージをいただけますか。
弓削氏:
40年間,皆さんに支えていただいたことを誇りに思っています。当時は少しマニアックなもの作りをしていた自覚があるので,今後はもっと幅広い人を感動させられるゲームを作ることを目標に,気を引き締めて頑張りたいと思います。
今回の「SNOW BROS. WONDERLAND」にしても,昔の「スノーブラザーズ」を知っている人はぜひ一度プレイしていただきたい。そして面白いと感じたなら,それを周囲に伝えてほしいです。そして良いところだけでなく,もし悪いところを見つけたら,それを私達に教えてください。今後も,皆さんからの反応を参考にしつつ,アップデートを続けていくつもりですので,ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
Embracer Groupのお二人からも,メッセージをお願いできますか。
ファンの皆さんが東亜プラン作品を長らく支えてきてくれたことに,まずは御礼を言わせてください。そのお陰もあって,今回弓削さんと一緒に,新しい作品を世に出すことができました。今後もより多くの人に東亜プラン作品をお届けしたいと思っていますので,応援していただけたら嬉しいです。
マンスゥリ氏:
我々の使命は,皆さんに良いゲームをお届けすることだけです。会社の体制が変わっても,それは変わりません。TATSUJINとEmbracer Group,両社の今後の取り組みにご期待ください。そして,All your base are belong to us!
4Gamer:
ありがとうございます(笑)。ところで「All your base are belong to us.」って,何がそんなにウケたんでしょうか。もちろん文法が間違っているのは分かるんですが……。
リンデル氏:
いろいろありますが,ネットミームとして広がったのは,そのイジりやすさからじゃないでしょうか。例えば選挙のときなんか,baseをvoteにして「All your vote are belong to us.」なんて言ったりします。
弓削氏:
あと間違いを指摘するときに,「All your base?」なんて言うらしいです。「それ間違ってない?」くらいの意味で(笑)。
4Gamer:
なるほど……東亜プランは,今やゲームの枠を越えて広がっているわけですね。本日はありがとうございました!
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