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リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年
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印刷2024/06/12 08:00

インタビュー

リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年

 ダンジョンRPGの古典「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」のリメイク版(PC / PS5 / PS4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Switch)が,2024年5月23日に正式リリースされた。
 1981年に発売された初代Apple II版をベースに,のちに発売されたファミリーコンピュータ版(1987年)などの移植作品の要素も加味しながら生まれ変わった同作は,開発陣の情熱のほどがうかがえる,力の入ったリメイクとなっている。

画像集 No.009のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年

 その力の入りっぷりは先に掲載したインプレッションに詳しいので,そちらを参照してもらうとして,本稿ではリメイク版の発売を記念して行われた,狂王ことRobert Woodhead氏と,ライターにして作家のベニー松山氏の対談をお届けしたい。


 Robert Woodhead氏は言わずとしれたシリーズの生みの親の一人であり,ベニー松山氏は1980年代後期に「ファミコン必勝本」(創刊時はJICC出版局)などの雑誌媒体上でファミリーコンピュータ版「ウィザードリィ」の関連記事を数多く執筆,日本国内における同シリーズのエヴァンジェリストとして活躍した人物として知られる。
 またリメイク版の開発を担当したDigital Eclipseのプロデューサー,Justin Bailey氏にも同席いただき,オリジナル版発売当時の状況や,シリーズへの思い入れなどについて,大いに語ってもらっている。
 シリーズファンの読者は,先のインプレッションと合わせて読み進めてもらえたら幸いだ。

画像集 No.004のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年

「Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord」公式サイト



35年越しの再会


4Gamer:
 本日はお時間をいただき,ありがとうございます。日本の「ウィザードリィ」ファンにはよく知られた二人が同席されるということで,今日は楽しみにしてきました。そもそもなのですが,松山さんはWoodheadさんと交流はあったのでしょうか。

ベニー松山氏(以下,松山氏):
 実は,お目にかかるのは35年ぶりなんです。あれは「隣り合わせの灰と青春」を書き終えたタイミングだから,1989年ぐらいだったと思います。アスキーのパーティー会場で……緊張していて,感謝をお伝えしただけだったと思いますけど。

※「隣り合わせの灰と青春」……ベニー松山氏の手による1988年の小説作品。シリーズ第1作である「ウィザードリィ 狂王の試練場」のノベライズにあたり,「ファミコン必勝本」誌上での連載ののち単行本が発売された。

4Gamer:
 Woodheadさんは,そのときのことを覚えていますか?

Robert Woodhead氏
画像集 No.002のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年
Robert Woodhead氏(以下,Woodhead氏):
 応援させていただいたのは覚えています。でも正直時間が経ち過ぎていて,どういう話をしたかまでは曖昧ですね(笑)。

4Gamer:
 「隣り合わせの灰と青春」をはじめとした松山さんの著作は,残念ながら英訳版がなかったと思いますが,内容は把握されていましたか。

Woodhead氏:
 日本で活躍されている方だとは伺っていて,内容もある程度は把握していました。ですが,自分はその時点でSir-Tech Softwareから離れてしまっていたので,細かいところまでフォローしていたとは言えませんね。
 ただ原作者として,ほかのクリエイターが作品を広げてくれることを光栄に感じています。自分自身,制作中はすごく楽しかったですし,その楽しさを共有できたのだとしたら,とても嬉しいですよ。

松山氏:
 僕がウィザードリィを初めてプレイしたのは16歳の頃でした。その3年後にはライターとして記事を書くようになり,20歳で書いたのが「隣り合わせの灰と青春」だったんです。それが今では56歳。都合40年ほど,小説やシナリオ,ライターの仕事を続けられたことになる。それもこれもウィザードリィのお陰なんですから,Woodheadさんにはどれだけ感謝してもしきれません。

Woodhead氏:
 自分の作品がこれほど多くの人に影響を与えることになったのは,幾つもの偶然が重なった結果だと思っています。でも,結果としてそうなったのはとても嬉しい。
 よく思い出されるのは40年前,あるお医者さんからいただいた手紙のことです。その方の患者だった少年が,ウィザードリィを介することで初めて自分の感情を話すようになり,治療の助けになったというもので,当時にしてすごい話だと思ったものです。

4Gamer:
 とてもいい話です(笑)。

松山氏:
 でも本当に,ウィザードリィは多くの人に影響を与えたと思います。自分も,この歳までこういう仕事をやり続けられるとは,想像すらしていませんでした。

画像集 No.006のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年


ウィザードリィと出会った少年


4Gamer:
 ウィザードリィの開発当時の話は,以前のインタビューでも詳しくうかがいました。ですので今回は,松山さんに当時の話を聞いてみたいと思います。16歳ということは高校生だったと思いますが,まだアスキーの日本語版は発売されていませんでしたよね。

※日本語版……初の日本語版(PC-9801,FM-7など各種国産PC向け)は1985年に発売された。

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 「Wizardry」の開発者の一人であるRobert Woodhead氏。作中に登場する狂王・Treborその人としても知られる同氏は,コンピュータゲーム黎明期の裏側を知る,数少ない証人の一人でもある。その氏が「AnimeJapan 2016」のために来日するとの情報を聞きつけた4Gamerは,さっそくコンタクトをとり,会場で話を聞いてみることにした。ぜひご一読を。

[2016/04/09 00:00]

松山氏:
 そうですね。ただウィザードリィというすごいゲームがあるんだというのは,当時のパソコン誌を読んで知っていました。それで高校のコンピュータークラブに入ったら,3年の先輩が,純正のApple IIを持っていた。そこで新入生達が先輩のお宅に押しかけて,遊ばせてもらったんです。

4Gamer:
 「LOGiN」(アスキー)や「テクノポリス」(徳間書店)ですね。アメリカの大ヒット作として紹介している1982年のLOGiNを,自分も見た覚えがあります。

ベニー松山氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年
松山氏:
 で,それで感動した同じクラブの同級生が,お年玉貯金を崩してApple IIのコンパチ機を買ったんですよ。彼は近所に住んでいたので,それからは毎日通い詰めです。少し後になるとクラブにあったコンパチ機を借りて,僕も自分の家で遊ぶようになるんですが……フロッピーディスクドライブがなかったんですよね。だからドライブだけその友達に借りてました。贅沢にも2台持ってたので(笑)。

4Gamer:
 なるほど(笑)。ライターとしてウィザードリィに関わるようになるのは,どういった経緯だったのですか。

松山氏:
 ファミコン版(1987年12月発売)の2か月ほど前に,当時ライターをしていた「ファミコン必勝本」の編集部にサンプルが届いたんですよ。基板がむき出しの,4階までしか遊べないバージョンでしたけど,それをちょっと遊ばせてもらったら……これが素晴らしい出来で。
 当時の移植作品って,それはもうヒドいものも多くて,あまり期待していなかったんですけど,触って10分くらいで「これは僕にやらせてください! 大丈夫,全部分かってますから!」ってなりました(笑)。

4Gamer:
 ファミコン版より前に各種PC向けの日本語版が発売されていますが,そちらの記事も担当されていますよね?

松山氏:
 そうですね。「チャレンジ! AVG&RPG」という攻略ムックが電波新聞社から出ていまして,その3冊目でウィザードリィを扱っています。その記事は,僕がPC日本語版をプレイして書いたものですね。
 実は,その中で「将来ウィザードリィの小説を書いてみたい」というようなことをポロッと書いたんですけど,それを「ファミコン必勝本」の編集者だった平林久和さんが覚えていて,それが後の「隣り合わせの灰と青春」につながったという。

※「チャレンジ! AVG&RPG」……松山氏が所属する編集プロダクション・スタジオベントスタッフの山下 章氏の企画による,「マイコンBASICマガジン」(電波新聞社)での連載と書き下ろしの記事から構成された攻略ムックシリーズ。1985年から1990年までに5冊が刊行された。

4Gamer:
 「チャレンジ! AVG&RPG」は,自分もいち読者として,当時参考にさせてもらいました。このPC日本語版はIBM PC版をベースにUIを一新したものでしたが,松山さんは当時どう感じましたか。

松山氏:
 ウィンドウ型のインタフェースに違和感はありませんでしたが,IBM PC版はゲームバランスがApple II版とかなり違っているんですよね。MAKANITOがポイゾンジャイアントに効かなかったりとか。僕はApple II版が好きだったので,ほぼApple II準拠のファミコン版がとても気に入ったんですよ。

Woodhead氏:
 数ある移植の中でもファミコン版が一番だと,私も思っています。ああもちろん,今回のリメイク版もいいですけどね。ファミコン版には,私が描いた拙いモンスターグラフィックスが使われてなくて,それが素晴らしかった。

4Gamer:
 改めてお聞きしたいのですが,Apple II版のモンスターはすべてWoodheadさんが描かれたんでしょうか。

Woodhead氏:
 すべてではないですが,ヘタクソなのは概ね私です(笑)。当時は専属のアーティストなんていませんでしたから,エディタ上でピクセルを一つ一つを打って描いてました。

松山氏:
 末弥 純さんが描かれたファミコン版のモンスターデザインは,当時のファンタジーのど真ん中といった感じで,本当に想像力を掻き立てられました。皆も同じ気持ちだと思って,「隣り合わせの灰と青春」ではモンスターの描写に力を入れたんですが……返ってきた反響はむしろ「小説を読んで,初めてモンスターのことが分かりました!」といったものが多くて。

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4Gamer:
 それは,むしろ成功なのでは?

松山氏:
 そう……かもしれません。ただ,それでもっと皆の想像力を刺激する本が必要なんじゃないかと思い,モンスターの解説を書くようになりました。

4Gamer:
 当時は“ファンタジー”というジャンル自体,日本ではまだそれほどメジャーではなかったと思うのですが,松山さんご自身はウィザードリィ以前からファンタジー作品に親しまれていたのでしょうか。

松山氏:
 正統的なファンタジーではないかもしれませが,マイケル・ムアコックの「エルリック・サーガ」とかは読んでいて,ある程度の知識はありました。でも「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はプレイする機会がなくて……ウィザードリィと出会ったのは,まだ日本語版の赤箱が出る前でしたし。だからドラゴン一つとっても,漫画の「Dr.スランプ」の扉絵などで描かれるドラゴンのイラストが一番身近な資料だったくらいです。

4Gamer:
 せっかくですので,Woodheadさんにウィザードリィで一番お気に入りのモンスターを聞いてもいいでしょうか。

Woodhead氏:
 一番気に入っているのはクリーピングコインですね。早く倒さないとどんどん増えてしまうゲーム的なギミックが面白いですし。
 あとは,やっぱりワードナでしょうか。ウィザードリィは,私とアンディがお互いをからかったり意地悪したりでできあがってるわけですけど,プレイヤーによって無限に殺され続けるワードナは,ある意味最高の嫌がらせなんじゃないかと(笑)。

※アンディ……ウィザードリィのもう1人の開発者であるAndrew Greenberg氏のこと。本作のラスボスであるワードナ(WERDNA)は,彼の名前を逆さに読んだものとなっている。

4Gamer:
 ちなみに,今回のリメイク版ではいかがでしょうか。

Woodhead氏:
 気に入っているモンスターはたくさんあるけど……そうだな,ジャイアントでしょうか。元のデザインをインスパイアしつつも,フロストジャイアントとファイアージャイアントの特徴を描き分けていて,ユニークな表現になっていると感じました。
 ただ,今さらですけどダンジョンにジャイアントって,おかしいですよね。入りきらないんじゃないかな(笑)。

(一同笑)

4Gamer:
 Woodheadさんからその話が出るとは。ちなみにダンジョンの天井って,どれくらいの高さがある想定だったんでしょうか。

Woodhead氏:
 ダンジョンの1マスが,幅も高さもそれぞれ10フィート(約3メートル)ですかね。まあ,当時はあまり深くは考えてなかったのですけど(苦笑)。

松山氏:
 だからワイバーンなんかも迷宮内では飛べないし,それほど大きくもないんじゃないかって,勝手に想像を巡らせたものです(笑)。

画像集 No.008のサムネイル画像 / リメイク版「ウィザードリィ」発売記念対談。ロバート・ウッドヘッド氏とベニー松山氏が語る,灰と青春の40年


3Dグラフィックスで甦る,灰と青春


4Gamer:
 今回のリメイク版ですが。まずは率直に,フル3Dになった狂王の試練場を目にしてみて,どう思われましたか。

松山氏:
 表現がすごくリッチになりましたよね。玄室に滝が流れているのを見て,これならワイバーンだって飛べるじゃないかって(笑)。それでいて,内容は本当にApple II版そのままなんだから,何も言うことはありません。楽しませていただきました。

Woodhead氏:
 本質的には同じものなのに,ハードウェアスペックに応じてデザインや表現方法が異なるのは,率直に面白いですよね。

4Gamer:
 同席いただいているJustin Baileyさんは,リメイク版の開発を手がけたDigital Eclipseのプロデューサーとうかがっていますが,ご自身のウィザードリィとの出会いはどのようなものだったのですか?

Digital EclipseのプロデューサーにしてSCOのJustin Bailey氏
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Justin Bailey氏(以下,Bailey氏):
 私はティーンエイジャーの頃,当時のアメリカでは珍しいパソコンショップでアルバイトをしていたのですが,その店頭に並ぶ,あの緑のドラゴンのパッケージを目にしたのがウィザードリィとの最初の出会いでした。
 その店では長く働いていて,最初はワンコーナーに過ぎなかったゲーム売り場がどんどん大きくなり,ついにはゲーム専門店のようになっていったの覚えています。ゲーム業界がものすごい勢いで進歩している実感があった時代でした。

4Gamer:
 Baileyさんはまた,今作が権利許諾を受けるに当たって尽力された方ともうかがっています。1980年代,日本では松山さんの小説をはじめ,多くのウィザードリィ派生作品が生まれました。しかし,本国アメリカではそうはならなかった。その理由には,アメリカにおけるウィザードリィの権利がネックになっていたようですが,今後はそうした状況も改善されていくでしょうか?

Bailey氏:
 そうですね。権利があやふやになっていたことで,そもそもシリーズの初期作品が,現在の環境で長らくプレイできない状況が続いていました。それが今,解決の兆しを見せている。移植などはまさにこれからの動きになりますが,ようやく話ができる状況になったとは言えると思います。

4Gamer:
 今回は第1作のリメイクでしたが,2作目以降のリメイクも考えていますか。

Bailey氏:
 現時点で決まっていることは何もありませんが,それがチームの夢ではあります。今回のミッションは,長らくプレイ環境がなかった第1作をまず復活させることでした。そのためには,作品への愛が感じられるものでなくてはなりません。ここに居る松山さんにお声がけしたことや,故・羽田健太郎さんの楽曲を許諾を得て使用しているのもそのためで,これまでウィザードリィに深く関わってこられたクリエイターの皆さんへのリスペクトの姿勢は今後も崩すことなく,続けていければと思っています。

4Gamer:
 期待しています。松山さんは今回,ゲーム内モンスター図鑑の日本語テキストを書かれたそうですが……いかがでしょう,創作意欲に火が点いたというようなことはありましたか。

松山氏:
 実のところ,「ダイヤモンドの騎士」(シリーズ第2弾「Wizardry II: The Knight of Diamonds」)の小説を書きたいと思っていて,すでにプロットも完成しているんですよ。どこから出版するとか,そういうのはまだ全然なんですが,現在の権利元はドリコムですので,まずはそこから話をしていくことになるかと思います。

4Gamer:
 おお! それはすごい。ぜひ,読んでみたいです。

松山氏:
 そう言っていただけると励みになります(笑)。

4Gamer:
 最後に,松山さんとWoodheadさんから読者に向けたメッセージをいただけますか。

松山氏:
 先ほども話があったように,今回僕はモンスター図鑑の解説文を書いているんですが,当初は昔に書いた「ウィザードリィのすべて」(1989年,宝島社)の文章を再利用する話だったんです。ですが「だったら全部書き直しますよ!」と自分から申し出て,今の形になりました。こういう形でウィザードリィにまた関われたのは,本当に光栄なことです。皆さんも,ぜひ図鑑を完成させて楽しんでください!

Woodhead氏:
 今回の開発を担当したDigital Eclipseは,オリジナル版のスピリットをしっかり引き継いでいるか,そしてファンの皆さんの期待に応えるものになっているかという点に,強いこだわりをもって制作してくれました。そして,それは成功したと確信しています。どうか,お楽しみください!

4Gamer:
 ありがとうございました。

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