Flagship Studiosは,2007年5月に「Hellgate: London」の“エリートメンバー”から料金を徴収することを正式に発表した。欧米のゲーマーの間では,賛否両論に分かれ議論が活発に行われている。しかし,こういった料金体系はHellgate: Londonに限らず,今後は増えていきそうだ。「無料で追加サービスが受けられる」というPCゲームの特典は,過去のものになってしまうのだろうか。
月額制が決まったHellgate: London
先月初め,Electronic Artsは「Hellgate: London」の北米地域におけるオンラインサービスの料金体系を発表した。その内容は,当サイトのニュース記事が詳しいが,毎月9.95ドル(日本での料金は未定)を支払うエリートメンバーには,以下のような特典サービスが設けられる。
- 24時間のオンライン/電話サポート
- サーバー混雑時の優先プレイ権
- 12以上のキャラクター所有
- アイテム保管用のスロット増加,およびサーバー間でのアイテム移動
- 強力な特殊アイテムの所有,および交換(売買)
- 高速移動手段の使用
- ギルドの編成と運営権
- 特定の“ゲームタイプ”がプレイ可能
- 月ごとの新エリアへのアクセスと,追加コンテンツの独占的利用
多くのゲーマーの期待を集める「Hellgate: London」は,夏にリリースされる予定。北米ではエリートプレイヤーの月額料は9.95ドルだが,地域によってビジネスモデルや料金が異なる
Hellgate: Londonは,MMOタイプのゲームではなく,オンラインプレイの要素が加味されたシングルプレイヤー用アクションRPGだ。もちろん,一般プレイヤーは無料でインターネットなどを介した協力や対戦プレイを楽しめるが,「モンスターがドロップしたアイテムを売買したり,新しいコンテンツを楽しんだり,サポートを受けたいのなら月額料を払う」という料金体系になっているわけだ。つまり,Blizzard Entertainmentの「Battle.net」において無料で楽しめた「Diablo II」に,プレミアムサービスの概念を導入するようなものなのである。
無料でオンラインプレイを楽しみたい一般プレイヤーにとって,エリートメンバーの特典の中で羨ましいのは,「アイテム保管用のスロット倍増,およびサーバー間でのアイテム移動」くらいかもしれない。だが,問題もある。例えば,「強力な特殊アイテムの所有,および交換(売買)」という点で,PvPサーバーではエリートメンバーが一般プレイヤーを圧倒することになってしまうという可能性があるのだ。
発売前から,版権の売買などですでに50億円近い利益を得ているともウワサされるなぜ,Flagship StudiosはHellgate: Londonにこういった料金体系を導入することにしたのだろうか。
Hellgate: Londonと
Games for Windows Live!の類似性
これまで,ロールプレイングゲームを含めた,多くのジャンルのPCゲームでは,ソフト購入後も無料でアップデートされるコンテンツを楽しめた。開発者が,追加コンテンツを無料で提供することで,そのサービス精神が評価され,ファンコミュニティが形成されていったのである。
例外といえるのがMMORPGで,サーバーの維持費やGM(ゲーム管理者達)に対する人件費という名目で,月額料金を我々に課してきた。考えてみれば,MMORPGではないとはいえ,Hellgate: Londonの対戦サーバーのメンテナンスや,新コンテンツの制作にだって費用は当然のようにかかる。しかし,無料でDiabloシリーズなどを遊び尽くした古参のプレイヤーには,どこか納得できない部分もあるのではないだろうか。
まだ正式発表はないものの,PCへの移植が確実視されているEpic Gamesの「Gears of War」。現在Xbox Live!で最も遊ばれているアクションゲームで,Xbox Live!の牽引役ではあるが,内情は少々複雑なようだ
なぜ,Flagship StudiosはHellgate: Londonにこういった料金体系を導入することにしたのだろうか。Flagship Studios側は,「より良いサービスを提供し続けていくため」と答えているが,無料でそれができればより大きなファン層を獲得できるのは重々承知しているはずで,なにか別の狙いがあるような気がする。完全に筆者の憶測に過ぎないが,この料金制の導入と,どこか関係のありそうな話が2か月ほど前に起こった。
その話とは,Xbox 360用のアクションゲームで,「Halo 2」以上に大ヒットした「Gears of War」を開発したEpic Gamesと,その発売元であるMicrosoft Game Studiosの間にあったことである。
これは,アメリカの某ゲーム系ニュースサイトで行われた,Epic Gamesのティム・スウィーニー(Tim Sweeney),マーク・レイン(Mark Rein)両氏のPodcastインタビューから始まった。スウィーニー氏とレイン氏は,「Games for Windows Live!」を大きく批判した。「Epicは,長年新しいコンテンツを無料で提供することで,独自のコミュニティを築いており,古くからボイスチャットなどもサポートしてきた。Xbox Live!の商用化によるメリットは,サーバー安定性以外にはほとんどなく,今のところ我々がGames for Windows Live!に参加するかは分からない」という内容である。
ゲーマー側の“無料制”と,
ビジネス側の“プレミアム制”
Games for Windows Live!は,Xbox Live!と同様に無料で提供される「シルバーメンバーシップ」と,有料の「ゴールドメンバーシップ」がある。元々PCゲーム開発社として出発したEpic Gamesが,これではファンを失うことになりかねないと主張しているわけだ。
Xbox Live!は,いわばPCのオンラインゲームサービスをコンシューマに応用したサービスだ。そしてプレミアムサービスのシステムが,近々「Games for Windows Live!」として,PCに逆輸入されようとしているのである。今後のPCゲームのサービス体系を占う意味でも,Hellgate: Londonがゲーマー達にどう受け入れられるのか注目だ
話がこじれたのは,この中でレイン氏が,「Gears of Warも本来は,Xbox Live!で無料コンテンツをファンにサービスしたかったのだが,Microsoftの意向により,Halo 2と同じく追加コンテンツにお金を払ってもらっている」とコメントしたことだ。
2週間後には,Microsoft Game Studios副社長であるショーン・キム(Shawn Kim)氏がこれに反撃し,ロイター誌の取材に対して「お金を稼ぎたがっているのはEpicのほうではないか? 無料コンテンツをファンに提供することで,結果として多くのファンを獲得できる。ファーストパーティのソフトであるGears of Warは突出させやすいが,結果としてサードパーティのソフトが売れなくなることで,(サードパーティからの)不満も出てくるのだ」と,強い口調でプレミアムサービス制の正当性を主張している。
この後,この件に関しては両者とも沈黙を保っているが,オンラインコミュニティを築いてきた開発者側と,Xbox Live!成功のフォーミュラをPCに逆輸入したMicrosoftで,かなりの温度差があるようだ。
Hellgate: Londonは,韓国のHanbit SoftとFlagship Studiosが共同で立ち上げたPing0が,北米でのオンラインサービスを行う(パッケージの販売はElectronic Arts)。したがって,Games for Windows Live!が本作をサポートするとは考えにくい。しかし,Xbox Live!で確立されたプレミアムサービス制の流れが,PCゲームでも十分に浸透すると見込んだうえで導入を決めたとも考えられる。
消費者視点からの「無料で遊ぶのが当たり前」な状況と,ビジネス面で見た「プレミアム料金制により,良いサービスを維持する」という二極の熾烈な争いが,今後PCゲーム業界に訪れようとしている。PCゲーマーが軍配を上げるのは,果たしてどちらなのだろうか!?