「リネージュIII」,チーム開発責任者のリストラ&事実上の開発チーム解散。リネージュIII,Aion,そしてPlayNC――NCsoftで今起こっていること
耳の早い読者はすでに知っているかもしれないが,NCsoftのリネージュシリーズの開発総責任者がリストラされた。その情報がネットを駆けめぐったのは,2月6日の話だ。PlayNCの停滞,Aionの大幅な遅れ,情報の出ないリネージュIIIなど,周辺事情も含めて混乱期にある韓国No.1のパブリッシャであるNCsoftで,一体何が起こっているのだろうか。ここ数日で,韓国業界関係者から集めた情報や,筆者が抱え込んでいた情報を含め,NCsoftの現状についてまとめてみたい。
※筆者注※ 本稿は,すべて韓国のNCsoftの状況について書かれたものです。日本法人であるエヌ・シー・ジャパンとは何ら関係がありません。
今回起こった事件は,前述のとおりリネージュIII(Project L3)を開発するE&Gの開発総責任者,Park Yong Hyun氏が緊急免職させられたというものだ。リネージュIIプレイヤーであれば,人が走るアニメーションロゴの「E&G」という名前に見覚えがあるだろう(ちなみにE&Gとは,“Endeavour&Guts”から採っている)。誤解を恐れずにいえば,事実上リネージュIIIのステータスは,「開発中」から「まったくの未定」へといったんシフトすることになったわけだ。 今回,匿名を要求した韓国ゲーム業界関係者は,本件について以下のように語ってくれた。
NCsoftは,リネージュIIの開発室長をつとめてきて,リネージュIIIの開発をもリードして来た人物,Park Yong Hyun氏を兔職しました。そもそもの発端は,Park氏が会社側にリネージュIII開発チームを外部スタジオ形態として分社させてくれと要求したことなのですが,NCsoft取締役会は,Park氏の行動を「会社に対する反抗的な態度」として,事実上クビにしてしまったのです。
別な話によれば,Park氏はリネージュIIで莫大な利益を生み出したにも関わらず,その収益が,ヒットゲームを生み出すこともなくプロジェクトが中断されるばかりの他の開発チームに吸い取られているのを,不満に思っていたとのこと。どの業界でもどの業種でも普通に起こりうることなのだが,それがNCsoftにも,比較的大きな規模で起きていたわけだ。 なにしろ,リネージュIIとリネージュIIIの間を埋めるべく作られていたAionの遅れによるコスト増と事業計画の狂い,予想を大きく下回ったPlayNCの実情,Tabula Rasaの大幅な遅れによる,結果としての莫大な投資は,NCグループ全体に暗雲として重くのしかかっていることだろう。好調な事業で上げた収益を,今後の発展のために投資することそれ自体は,ごく当たり前のことである。むろん,限度というものはあるのだが。
当サイトのヒット数を見ても,日本のプレイヤーの注目を集めていることが見てとれるMMORPG「Aion」。昨年のG★で,E3バージョンのキャラの顔を替えただけでほとんど進捗がなかったのには,それなりの理由があるのだ
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しかしPark氏は,この状況が今後もしばらく続くと判断。このままでは(自分のチームの)開発者達のモチベーションが保てないと考え, 1)リネージュII開発チームを分社させること 2)社員へのインセンティブ制度を改善すること を会社側に要求したと言う。数か月前から各方面から聞いていた話を鑑みても,伝聞で伝わっているに過ぎないこの情報が,ほぼ正しいものであろうことは推測できる。 彼らのチームが上げてきた収益と,そのほかのプロダクトの正直な現状を考えるに,そう思うのも無理からぬところだ。なにしろNCsoftは,リネージュII以降,会社の屋台骨となる次のタイトルを育てられていない。カジュアルゲームともコミュニティともMMOともつかない別なプロジェクトを育てているとも聞いているが,それとていつ陽の目を見るのかと考えると,過剰な期待をかけられるものでもないだろう。 NCsoftの名誉のために追記しておくと,このオンラインゲーム特有ともいえる状況は,同社に限った問題ではない。初回の大ヒット以降,それに代わる(もしくは並ぶ)作品を生み出せないのは,日本もアメリカも韓国も,どこにでも適用できる話である。メガヒットクラスのオンラインゲームタイトルを二つ以上抱えるパブリッシャなど,片手で数えるほどもないのが実情だ。
なおPark氏のリストラに連動する形で,同氏とともにリネージュIIIを開発してきた70人ほどのメンバー達も,すべての開発環境と情報を放棄して自宅待機する命が下ったという。 ちなみにNCsoft側は今回の事件に対して,
リネージュIII開発プロジェクトを再点検した結果,改善すべき様々なことが見つかりました。いまだ開発の初期段階であるリネージュIIIプロジェクトを再整備するための一環として行ったことです。
と韓国メディアを通じてコメントしている。なるほど,確かにリネージュIIIの“成果物”は,筆者が聞いている限りでもまだ企画書とテストムービーくらいしかできておらず,「順調に進んでも2年後あたり」(韓国ゲーム業界関係者)というラインだったのだ。NCsoftの言うことは,極めて真っ当だ。そもそもリネージュIIIは,当初の事業計画上では2006年にサービスインしているべき作品なのだし。
しかしそれにしても,NCsoftはやや荒れている。 昨年も,韓国最初のMUDゲームを作った著名なクリエイターKim Ji Ho氏が辞めているし,韓国開発者協議会の会長兼Toy Strikersの開発責任者だったJung Mu Sik氏も,Gorilla Banana Studioを設立してオンラインアクションアドベンチャー「Red Blood Online」を開発中だ。 また,日本でも期待を集めているAionにしても,本来意図していた期日から大幅にズレ,途中には,開発者はおろかプロデューサーまでもを含めた人材入れ替えが起こっている(最新の情報では,2007年夏にクローズドβとのことだ)。社長であるTJ Kim氏が期待した成果が出なかったとされ,PlayNCの開発総責任者は何度も替えられているし,その一方では,(会社から見た場合に)一向に成果を上げていないTabula Rasaというプロジェクトが,いまだ幅を利かせていたりする。 このTabula Rasaプロジェクトがまた厄介だ。筆者個人はGarriott氏にまだまだがんばってほしいのだが,現実的に見て,予算だけを遣い続けているプロジェクトであることには違いない。NC内部でも相当風当たりが強いと聞くし,今年が「最後の判断」を下すタイミングだという情報もある。
ウルティマ オンラインによって,MMORPG時代へ移行するためのトリガーを引いた男Richard Garriottが作る「Tabula Rasa」。そのあまりに長い開発期間と幾度かにわたるコンセプトのチェンジは,最終的にどのような形でアウトプットされるのだろうか
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NCsoftで公開されているIR情報より抜粋。WoWのプレイヤー数は別格としても,リネージュシリーズがまだまだ現役であることが見てとれる
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以前よりNCsoftは,その膨大な財力とネームバリューを背景に,優秀な開発者達を片っ端からスカウトして多くのプロジェクトを進めてきたが,サービスインまで進んだものは少ない。そういう一連の動きをもって,「韓国ゲーム業界の健全な発展を妨げているにすぎない」という声が多く聞こえていたことも否めない。 リネージュIIIについては,いくらIPもデータも企画書も会社に残っているとはいえ,ゲームを実際に考えて作るのは人間だ。決してPCではない。Park氏の代わりを「ほいさ」とつとめられる人は,いかに優秀な人材が揃うNCsoftといえども,そうそうなことでは見つからないだろう。今回の件で,リネージュIIIの開発が事実上(いったん)暗礁に乗り上げることは,ほぼ間違いないラインであると思われる。
公の場にはほとんど姿を現したことはないが,Park氏はクリエイターとして「とても真面目な人」として知られている。純粋に作品のクオリティを上げることを考えているクリエイターだがマネージャとしても優秀で,良き開発室長として,リネージュシリーズの影の“主”として,その名が聞こえた人物だ。幸いなことに筆者も何度か雑談する機会があったが,とてもまっすぐに作品とスタッフのことだけを考えているという印象を持った。 それだけに,かねてより何度かTJ Kim氏と衝突しており,うっすらと「立場がまずいのではないか」という噂は聞こえていたのだが,今回ついに,トリガーが引かれてしまった形だ。 彼が辞めるとなれば,彼といままで行動を共にしてきた30名ほどの「開発コアメンバー」も会社を去る可能性があるし,その下にいる数十名の開発スタッフや,もしかしたら別部署の開発スタッフまでが,自らの意志で会社を去る可能性も否定できない。 とはいえ,
それは結果として,韓国ゲーム業界へのヒューマンリソースの供給という意味では,大きく役に立つのではないでしょうか(前述の関係者)
という意見も聞かれるこの事件,Park氏を含めた「リネージュIIを作った開発者達」が今後どこで何をするのかが,しばらくは業界の噂話として駆けめぐっていくに違いない。
いくら(日本での)サービスインから2年半の時が経っているとはいえ,リネージュIIは,まだワールドワイドで120万人ほどのアカウント数を誇る作品だ。FFXIが約50万,EQ1が約20万,EQ2が約20万,DAOCが約13万であることを考えると,まだまだ一線級として君臨できる。それを作り上げた傑出した人物の離脱が,PlayNCを旗印として“巨艦主義”から脱出せんと図るNCsoftにとって,吉を出るのか,凶と出るのか。数年後には,その結果が出ていることだろう。
経営サイドとの意見の相違による開発者の流出は,どの会社にも起こり得ることだ。国内においても,滅多に表に出てこないだけで,いくらでも転がっている話だ。 別にオンラインゲーム開発だけに限った話ではないが,「徹底的にプレイヤーの方向を向くこと」「とても素晴らしい作品を作り上げること」は,短期的に見た場合,それがそのまますべて会社のためになるわけではない。会社は利益を追求することが目的の組織である以上,そもそも開発サイドとは見ている先が違うのだ。いい作品でなければ利益が出ないのは明白だが,いい作品を徹底的に追求されることは,会社にとっては違うところでのマイナス要因が増えることになりがちだ。そこで争点となるのは,コストかもしれないし時間かもしれない。その折り合いをうまくつけていくのが,経営レイヤーと開発レイヤーのトップ達の主たる業務になるわけだ。
過剰な作品供給による既存ビジネスモデルの崩壊,アイテム課金モデルの読みの難しさによる予想と実績の乖離,開発期間の長期化,開発/運営コストの高騰など,歴史の浅いオンラインゲーム業界は,すでに経営レイヤーでの「第一次試練」を存分に受けつつある。それが良くない形で表面化してしまったのが,今回の事件というわけだ。 前述のTabula Rasaの件もそうだ。クリエイター達は,彼ら自身の仕事を真っ当に遂行しようとがんばっている。しかし個人的にはとても悲しいことなのだが,Garriott氏やBlackthorn氏の“威光”が薄れかけているこのご時世に,Tabula Rasaに莫大な投資を行って作品を作り上げる必要があるのかと問われて,明快な答えを出せるNCsoftの社員が一体何人いるのだろうか。そもそもTJ Kim氏自身は,その明快な「解」を持っているのだろうか。
NCsoft,Webzen,Nexonなど,“巨艦主義”で押してきた韓国の大手パブリッシャ達は,こぞってカジュアルゲームを重視する方向へとシフトしつつある。大作MMORPGとカジュアルゲームの,どちらが正しい選択なのかということは,誰にも分からない。そんな状況下で,リネージュのような重厚長大な作品に対し,今後のパブリッシャの経営陣が,流行に左右されない判断力と明確な思想を持って理解を示せるのか。そして一方開発側は,会社が利益を追求する組織であることを理解したうえで,メリットを明示できるのか。互いの(もしくはどちらかの)トップがその判断を誤ると,このような憂き目が繰り返されてしまうに違いない。そしてそれは最終的には,プレイヤーに大きな影響を及ぼすことになる事柄なのだ。 一見すると単なる内部抗争に見えてしまうが,その趨勢の片鱗が見えるという意味においても,注目すべき事件なのかもしれない。(Kazuhisa)
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リネージュII 〜The Chaotic Throne〜 |
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Aion: The Tower of Eternity |
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