米国時間2006年7月22日以降,北米のニュースサイトを中心に「AMDがATI Technologiesを買収する」という情報が飛び交っている。
実はこの噂自体は,2006年春以降,何度か出て,そのたびに否定されてきたもの。ただ,今回は様相が少し異なるようだ。ATI Technologies(以下ATI)本社のあるカナダの有力ニュースサイト「globeandmail.com」※1が“第一報”を伝えているうえに,その内容は「買収金額は56億米ドル(約6500億円)」「AMDの取締役会が買収を承認」などと,非常に具体性を帯びている。この報道があるまで,噂/伝聞レベルの話のみを伝えてきた北米や欧州のPC系ニュースサイト,そして通信社系サイトも追随しており,少なくともこれまでの「買収するかも?」的な話よりは,信憑性が高そうな気配だ。
※1 カナダの全国紙「The Globe and Mail」を発行するBell Globemedia Publishing運営のWebサイト。日本でいうところの大手新聞社系サイトという理解で問題ない。
仮に,「噂が正しかった」場合,AMDが得ることになるメリットと,生じ得る問題は,筆者がざっと思いつく限り,以下のようなものになる。
AMDがATI買収で得ると思われるメリット- 「Radeon Xpress」チップセットがもたらすグラフィックス機能内蔵のローエンドチップセット市場における一定のシェアと利益
- 「Radeon」がもたらす,グラフィックスカード市場における一定のシェアと利益
- 「FireGL」がもたらす,ワークステーション向けグラフィックスカード市場における一定のシェアと利益
- AMDの「Torrenza」構想を,「Xilleon」や「Theater」,「Imageon」,そしてRadeonやFireGLが後押しする可能性※2
- XilleonやTheater,Imageonがもたらす,デジタル機器やモバイル市場における一定のシェアと利益
- Xbox 360やWii用GPU(グラフィックスチップ)がもたらす直接的な利益と,ゲーム機市場におけるブランドイメージ向上(AMDロゴがゲーム機に貼られる?)
- ATIがIntelとのクロスライセンスによって得た技術(これは入手できない可能性も十分にある)
AMDのATI買収により生じ得る直接的な問題- AMD64ファミリー向けチップセットビジネスにおけるAMDとNVIDIAとの蜜月関係解消
- Intel製CPU向けチップセットビジネスにおける,IntelとATIの蜜月関係解消
- ATIが持つ“非PC”ビジネスを,AMDがハンドリングできない可能性
※2 Torrenzaは,さまざまなハードウェアをこれまでよりも柔軟な形でCPUと接続する構想のこと。詳しくは2006年6月8日の記事を参照してほしい。次にXelleonとImageonは,順にデジタルテレビと携帯機器向けのシステムオンチップ(SoC)で,Theaterはビデオプロセッサ。いずれもデジタル機器や携帯機器市場では一定のシェアを持っている。
globeandmail.comによれば,カナダ時間で23日からの週に,買収提案が正式になされるとのこと。報じられているとおりなら,今週中に何らかの動きがあるだろう。上で示しただけでも,PC業界を揺るがす大きな事件になる可能性を秘めているだけに,ゲーマーとしても無関係を決め込むわけにはいかない状況といえる。 買収や合併,業務提携といった何らかの発表がなされるのか,はたまた今度も噂で終わるのか。北米で24日を迎える,日本時間24日夕方以降の両社に注目しておきたい。(佐々山薫郁)
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