[WinHEC 2006#02]Windows Vistaの動作条件が明らかに
Windows Vistaの発売が迫っていると聞いても,「うちは当面Windows XPでいいや」という人も少なくないだろう。しかし,ゲームに関していえば,E3 2006のレポートでも紹介した「Live Anywhere」構想に基づく,Windows Vista専用,あるいは推奨のタイトルがかなり積極的にリリースされてくる予定となっている。長々と無関係を気取るのは,プレイヤー自身とって不利益となる可能性があるのだ。
それを踏まえて,Windows Vistaを動作させるためにはどのようなスペックのPCが必要になるのだろうか。WinHEC 2006では,そんな疑問に対する一つの回答ともいえるセッションが行われた。
■Windows Vistaの動作にはメインメモリ1GB以上が必要
コンシューマ向けのWindows Vistaには,最低限の機能が提供される「Home Basic」と,上位版「Home Premium」,そしてオフィス向けの機能も含めた全機能を搭載する「Ultimate」の3ラインナップが発売予定となっているが,その動作条件は以下のように発表された。
要求仕様が高いWindows Vista。Home PremiumとUltimateの最低環境は「All other SKUs」の段を見てほしい。ちなみに,光学ドライブはUSB接続などの,いわゆる外付けでも問題ないとのこと
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Windows Vistaを動作させるには,最低でもCPUは動作クロック800MHzクラス,メインメモリ512MB以上が必要というのは,古めのPCで,がんばってカジュアルゲームをプレイしてきたような人には,かなり“寝耳に水”的な要求に思えるだろう。
Home Premium以上のWindows Vistaでは,グラフィックスサブシステムが3Dグラフィックスに一本化され,Direct3D9(D3D9Ex)による新しいGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)「Aero」※が提供されるのは,知っている人も少なくないだろう。そして,Aeroを利用できる環境では,1GHzクラス以上のCPUと,1GB以上のメインメモリが必要となる。 しかも,これはあくまで必須環境。「そこそこ使えるための要求」仕様だ。この倍のスペックくらいは満たしていないと,快適に使うのは難しいかもしれない。
Home Premium以上で1GBものメインメモリ容量を必要とする理由を示したスライド(左は上で挙げたスライドの注釈)。Aeroを利用するには,512MB以上のメインメモリが必要となるのだが,グラフィックスメモリをメインメモリとシェアする,UMA(Unified Memory Architecture)の場合,搭載するメインメモリが512MBだと,最大64MBがグラフィックスメモリとして確保されるので,512-64=448MBとなって,この条件を満たせない。一方,最近のチップセットは多くがデュアルチャネルメモリアクセスをサポートするから,UMAシステムでは512MB×2=1GB分のメモリモジュールが搭載されていなければならない,というわけだ
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■AeroにはDirect3D 9世代のSM2.0が必要 ■グラフィックスメモリにも細かな規定が
Aeroの概要を示したスライド
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Windows Vistaの新GUIシステムとなるAeroにおいては,デスクトップは言うに及ばず,各ウィンドウや,タスクバー上のプレビュー画面に至るまで,すべてのビジュアルが3Dグラフィックスサブシステム「Direct3D 9 EX」によって描画される。文書,画像,ビデオのすべてが,単一の統合化されたグラフィックスサブシステムで管理されることによって,スムースかつ直感的なGUI操作が可能となり,理想のWYSIWYG(What You See Is What You Getの略。ディスプレイ表示内容と処理内容が一致するように表現する技術)環境が実現される……というのが,Microsoftの描くシナリオだ。
ピクセルシェーダ2.0をハードウェアでサポートするグラフィックスチップがAeroの動作には必要。ちなみにAeroはWindows XP用ドライバだと動作しない
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Direct3D 9 EXというのは,Windows Vistaに統合されたDirect3D 9系列のサブシステム。Windows Vista専用の3Dグラフィックスサブシステムといえば,Direct3D 10(DirectX 10)が知られているが,Direct3D 9 EXもDirect3D 10と同様にWindows Vista専用であり,Aeroを動かしているのはこのDirect3D 9 EXである。 さて,“Direct3D 9”というキーワードから連想した人も少なくないと思うが,Aeroを動作させるためには,DirectX 9世代のグラフィックスチップが必要だ。シェーダの仕様的には,プログラマブルシェーダ2.0(Shader Model 2.0,以下SM2.0)以上。具体的にいえば,ATI Technologies製品ならRadeon 9500以上,NVIDIA製品ならGeForce FX以上ということになる。
そして,ただGPU世代がSM2.0世代であればいいというものでもない。UMAの話でも出てきたように,グラフィックスメモリ容量が重要になってくるのである。しかも,利用したいデスクトップ解像度によって必要になってくるグラフィックスメモリ容量が変わってくるというから,話は一筋縄ではいかない。具体的な要件は以下のとおりだ。
シングルディスプレイ環境
- 1280×1024ドット未満……64MB以上
- 1280×1024ドット〜1920×1200ドット……128MB以上
- 1920×1200ドット超……256MB以上
デュアルディスプレイ環境- 1280×1024ドット未満……128MB以上
- 1280×1024ドット以上……256MB以上
要するに,制約なしでAeroデスクトップを使うためには,グラフィックスメモリ容量が256MB必要になるというわけである。
さらにいうと,実はグラフィックスメモリに関しては,容量だけでなく,パフォーマンスにも“足切り”ラインが存在する。Windows Vista(のAero)では画面描画の大半が3Dグラフィックス処理におけるテクスチャ処理になるため,グラフィックスメモリバス帯域幅が重要になってくるのだ。 もっとも,“最低合格ライン”は1600MB/s。2006年5月下旬時点の現行製品中,最も性能が低いグラフィックスカードであるGeForce 6200 with TurboCache(64bitメモリバス版)でも,メモリバス帯域幅は2800MB/sあるから,まあ,それほど厳しい制限ではない。
■自分のPCでAeroが動くかどうかの検証ツールが公開予定
Aeroの動作条件は,これまでの「CPUが○MHz以上,メインメモリ△MB以上,HDD空き容量□GB以上」といった,一般のPCユーザーが見慣れたスペック表記では示されなくなるため,若干の混乱は予想される。4Gamerのハードウェア記事を普段から楽しんでくれているような人であれば,何の心配もいらないが,普段PCでゲームをプレイしないような人にとって,グラフィックス機能というのは,これまで気にもしていなかったスペックだろう。
また,話を少し戻せば,1600MB/sという値は,あくまでMicrosoftが求める実効性能。スペックでクリアしているグラフィックスカードでも,本当にこの値を満たしているかどうか調べるのは,なかなか難儀だ。
そこで,Microsoftは一般ユーザー向けに,「Windows Vista Upgrade Advisor」を提供する予定になっている。これはWindows XPでもWindows Vistaでも動作するチェックツールで,現在英語β版が公開中。手持ちの環境がWindows Vistaの動作環境をクリアしているかどうかを,簡単にチェックできるというものだ。
1600MB/sというメモリ帯域幅を実効レベルでクリアしている必要があり,それをチェックするため,一般ユーザー向けにはWindows Vista Upgrade Advisorが提供される。ちなみに,MicrosoftのOEMとなるPCメーカー向けには,「Aero acceptance test」(AeroAT)が提供される予定
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■Aeroの有効/無効に深くかかわる「WinSAT」の正体
もっとも,Windows Vistaでは,こういったテストプログラムを事前に実行して環境を整えておく必要はない。なぜなら,Windows Vistaは起動中に「WinSAT」(Windows System Assessment Tool)と呼ばれる,標準搭載のベンチマークソフトを(おそらくハードウェア構成が変更されたタイミングで)実行し,接続されているディスプレイの台数と画面解像度,グラフィックスメモリ容量,グラフィックス性能を検査して,必要条件を満たしていれば自動的にAeroを有効化するようになっているからだ。もちろん,Aeroはユーザーが後から手動でAeroしたり,再び有効化したりできる。
さて,このWinSATは,別にグラフィックス性能の専用テスターではなく,PCシステムの総合的な性能を測定するもので,具体的には以下のような項目の性能をテストする。- CPU
- Aeroやゲームグラフィックスの描画機能
- メインメモリ
- ストレージ
- ビデオ再生
左:実行ファイル「WinSAT.EXE」の概要。Windows Vistaに標準搭載されるが,単独で実行可能なプログラムなので,適当なディスクにコピーして,別のシステムで動作させることも可能だ。もっといえば,Windows XPでも実行できる
右:WinSATのブロックダイアグラム
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具体的に見ていこう。CPUテストでは,LZWの圧縮展開テスト,AESなどの暗号の符号化/復号化テスト,WMVエンコードテストなどを行う。そのシステムがマルチコアCPUであれば,これを活用する形で実行する。
グラフィックステストは,二つの側面から行われる。一つは前述した足切りの話にも関係した,グラフィックスメモリパフォーマンスのテストだ。テスト方法は,Aeroを実際に実行するときの負荷と似たようなストレスを描画システムにかける,というもの。 もう一つは,3Dグラフィックスのそのものの実効パフォーマンスを測定するものだ。SM2.0,あるいはそれ以上の仕様を想定したグラフィックスチップに対して,シェーダの演算性能,シェーダのテクスチャ処理能力,レンダリングしたフレームのポスト合成処理能力などをテストし,結果をフレームレートで出力。レンダーターゲットは従来の32ビットバッファ(RGB各8ビット整数)だけでなく,64ビットバッファ(RGB各16ビット浮動小数点)までが選択可能になっている。
メモリシステムへの負荷テストはランダムアクセスではなく,データの一気転送(バースト転送)テストになる。初期レイテンシを重視しないテストというわけだ。 一方,ストレージのテストではランダム読み込み/書き込み,シーケンシャル読み込み/書き込みのテストを行う。メモリシステムとストレージのテストはともに結果がMB/sで返される。
ビデオ再生はWMV HDの再生を行うものだが,フレームレートではなく,1フレームのデコードにかかった時間を計測する。Windows Vistaのビデオ再生サブシステムである「Media Foundation」と,従来のWindowsシステムでサポートされてきた「DirectShow」の双方に対応しており,デコードエンジンは64bit&マルチコアのプロセッサに対応している。
ちなみに,WinSAT自体はCUI(コマンドライン)ベースの,初心者にはかなり扱いづらいものだ。そこで,これをWindows Vista上から見やすいGUIベースの形で表示してくれる「WinSPR」(Windows Vista System Performance Rating)も提供される。WinSPRでは,WinSATの実行結果をもとに,PCの性能を各項目別に5段階評価し,総合評価までしてくれる,分かりやすいものだ。
WinSPRのウィンドウ(左)。このように点数評価が行われる。総合評価は3だと「Aeroがまあまあ動く」,4だと「高解像度映像の再生もこなせる」,5だと「Windows Vistaによって提供されるすべての機能がその思惑どおり機能する」ことを示すという
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ツールはMicrosoftの特設ページで公開されるとのことだったが,2006年5月24日時点ではまだ公開されていない
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Microsoftは,β版のWinSATとテストのためのドキュメントを下に挙げたURLの場所で掲載予定なので,公開されたら,ぜひ自慢のPCで実行してみてほしい。また,この夏,PCのアップグレードを考えている人は,このさいなので,今回紹介したツールを適宜使いつつ,Windows Vistaを快適に動作させることを考えながら行うといいだろう。(トライゼット 西川善司)
ツール公開予定のWebサイト:
http://www.microsoft.com/whdc/system/winsat/
※以前は根幹技術が「Aero」,インタフェースが「Aero Grass」と呼ばれていたが,最近は区別されていないため,本稿でもそれに倣っている。
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