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ゲーム業界における知的財産権の重要性とは。任天堂をはじめ,国内メーカー5社の法務担当者が登壇したセミナーレポート
登壇したのは,奥山幹樹氏(カプコン 法務・資産管理統括知的財産部部長),西浦光二氏(任天堂 知的財産部担当部長代理/弁理士),西村智稔氏(コーエーテクモホールディングス 常務執行役員・管理本部副本部長 法務担当),桝本菊夫氏(セガ 上席執行役員コーポレートデベロップメント統括本部長),村瀬俊介氏(コナミデジタルエンタテインメント 法務部・知的財産部 部長)の5名。ACCSの専務理事,久保田 裕氏が司会を務めた。
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健全なファンに厳しく接する意図はない
ゲームソフトの知的財産権と一口に言っても,著作権,商標権,特許権,意匠権など,さまざまなものがある。最初に取り上げられたテーマは,プレイヤーにとっても身近な「著作権」だ。
コーエーテクモの西村氏によれば,同社は「ファン文化やオタク文化にかなり寛容」なスタンスだが,健全なファンコミュニティの形成にとって不適切なもの,いわゆるアダルトな同人誌などには著作権法に基づいて発行を差し止めているとのこと。これはSNS上のイラストなども同様で,年間3000件近く削除を求めているそうだ。
こうした取り組みにより,ファンや作り手の気持ちだけでなく,正規の許諾を受けた会社の利益を守ろうとしている。
カプコンの奥山氏は,動画配信のガイドラインについて説明した。個人が作成した同社作品の動画はYouTubeの広告収入,視聴者からの投げ銭を通して収益化ができる一方,企業や団体,それらに所属するタレントやストリーマーなどはライセンス契約が必要となる。また,ゲームのネタバレを含むもの,差別を助長するようなものなど,不適切な内容をガイドラインで禁止している。
とはいえ,ユーザーの楽しみ方の範囲であれば動画配信というものを肯定的に見ており,「ガイドラインに沿った形で安心して動画配信をしていただきたい」とまとめた。
このように,ゲームメーカーはユーザー個人に対して寛容な立場をとることが多い。それでは,同業他社に対してはどうなのだろうか。
セガの桝本氏は「ゲーム業界の歴史的な成り立ちもあり,アイデアをある程度参考にしたり,類似してしまうことは仕方のない面もある」としたうえで,「それでも許容限度を超えてしまう事例は少なくない」と語る。その場合,まず警告を行い,問題となった点(たとえばキャラクターデザインなど)を変更してもらえることが大半ではあるそうだ。
一方,任天堂が頭を悩ませているのは,同業他社よりも「ゲームソフトの違法コピーの問題」だ。
弁理士の西浦氏によれば,近年はNintendo SwitchにMODチップを取り付けることでセキュリティを回避する手法や,エミュレータを介して違法なソフトに誘導する手法が横行しているとのこと。これは任天堂だけでなく,プラットフォームでビジネスを行うソフトメーカーにも悪影響を及ぼすため,対策には力を入れて取り組んでいると語る。
権利はどのように活用されているのか
ゲームメーカーは著作権をはじめとする知的財産権の管理に力を入れているわけだが,その背景をコナミの村瀬氏とセガの桝本氏がそれぞれ解説した。
両氏の発言を要約すると,ゲームビジネスで動くお金が年々莫大なものになっているため,特許のライセンス料も開発費を回収する手段の1つとして捉えているということ。また,それらをないがしろにして不当な利益をあげる個人や団体が存在する場合,正当なライセンス契約を行っている側が「損」をしてしまう。
仮にフリーライドする者を野放しにした場合,新たな「楽しさ」を発明してもすぐに真似され,産業の健全な発展を阻害することになる。
そして,ここで著作権ではなく「特許権」の根本と言える考え方が示された。
著作権法は「具体的な文章や絵などの創作物」の権利を守るための法律であり,システムやゲームメカニクスといった「アイデア」に相当するものは該当しないことをご存じの人もいるだろう。そこで各社は特許権や商標出願なども含む,いわゆる「知財ミックス」により,作品に関する権利を多面的に保護している。
ただ,これは新規参入を阻むためのものではなく,ライセンス料の支払いやクロスライセンスなどによって誰もが使える状態にすることで,業界全体で面白いゲームを作り,ゲーム産業を盛り上げていきたい……というのがACCSの主張である。
続いて,西浦氏が任天堂の知的財産権の活用例を紹介した。
2015年発売のWii U用ソフト「スプラトゥーン」とほとんど変わらない海外製アプリが出てきたときは,もちろん見た目の表現がそのままなので,著作権侵害で対応することができた。
キャラクターの見た目は違うが,ゲームの仕組みが「スプラトゥーン」そのものという海外製アプリも登場した。こちらは著作権の侵害にはあたらず,タイトルも異なるので「登録商標」の侵害にもあたらない。そこで,技術的なものを保護する特許権の出番となった。
そして,無許諾のハードウェアへの対応には「意匠権」が活用できる。
Nintendo Switchのコントローラ「Joy-Con」はいくつかのバリエーションで意匠登録されており,見た目がよく似た模造品は意匠権で差し止められる。
一方,外見のデザインが大きく違うものなどには,技術思想を保護する特許権を用いて一網打尽にしている。具体的には「本体にJoy-Conを取り付けるためのレール先端の裏に端子が隠れていて,本体の端子と電気的に接続される仕組み」が特許である。この仕組みを持つコントローラを販売する際は任天堂を契約を交わし,ライセンス料を支払うなどの必要があるわけだ。
今回のセミナーでは,知的財産権を適切に用いることで,ゲーム産業を世界に通用する産業として持続・発展させる重要さが示された。これを疎かにしていると,ゲームメーカーが本来得られるはずの利益が得られなくなり,とくにワールドワイドでのビジネスにおいて支障をきたしかねないという切実な背景がある。
もちろん,各社は「ユーザー個人が楽しむ」範囲についてまで,知的財産権により厳しく制限しようとしているわけではない。むしろ,安心してファン活動や動画配信を楽しんでもらえる環境を維持するため,健全なビジネスを続けていきたいというのが共通の目的だろう。
ユーザーが知的財産権について過敏になりすぎる必要はないが,しかし非正規製品の購入や違法なダウンロードを行わないといった,節度あるゲームとの接し方が求められる。
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