業界動向
政府公認RMTサイト? 韓国ゲーム業界のちょっと変わった文化「アイテム仲介サービス」は,政府の情報保護認証取得済み
居間でコンソールゲームを楽しんだり,PCバン(ネットカフェ)でみんなで集まってオンラインゲームを楽しんだり,いつでも気軽にモバイルゲームを楽しんだり,Play to Earnでお小遣いを稼いだり。
その中でも韓国のゲーム文化は,せっかちな国民性が反映された姿になっている。どんなにコンテンツ量が多くても,消化するペースがほかの国のユーザーに比べて速く,その速度を補うために,現金取引でゲームマネーとアイテムを購入することもあるし,成長したほかのユーザーのアカウントを購入することもある。
そう,実は20年前に,韓国で世界初のオンラインゲームのアイテム仲介サービスが作られ,今も普通に運営されている。韓国ならではの特殊な状況で,アイテム仲介サービスは崩壊することなくいまなお維持されているのだ。
そのサービスについて,日本ではあまり知られていないかもしれないので,ちょっと紹介してみよう。
韓国で,ゲームアイテムの現金取引を開始
古いゲーマーであれば皆ご存じのように,1990年代後半から韓国でもPCのMMORPGブームが本格的に吹き荒れた。そのころの韓国は,NEXONの「風の王国」とNCSOFTの「リネージュ」が中心である。どちらもマンガを原作にして開発されたゲームで,1か月の利用料を払えば24時間いつでもゲームを楽しむことができた。
プレイヤーは皆,ゲーム内マネーや重要なアイテムを手に入れたい。手間をかけずに手に入れたい人もいるし,逆に長くプレイしていて,ゲーム内マネーや重要なアイテムをたくさん持っていて売りたい人もいる。
直接会って,アイテムを交換して現金を渡す方式の取引が多く,いま聞くと驚きだが,当時はそんなに違和感がなかったのだ。
そんな風にオフラインで取引するのが最も確実な方法ではあったが,利用者の立場から見ると(当たり前だが)なかなか不便だし危険だった。取引のために会ったら暴行を受けたり,お金やアイテムだけを奪われることもあったり,そもそも距離が遠い場合は取引すら容易ではなかったからだ。
1兆ウォン規模の世界初のアイテム仲介サービス誕生
このような不便さを解消するために2001年に発足したのが,世界初のオンラインゲームのアイテム仲介サービスである「ItemBay」(アイテムベイ)だ。オンラインを通じてアイテムの売り手と買い手を繋いでくれるサービスで,取引が成立すると一定割合(通常5%程度)の手数料を受け取る方式のビジネスモデルをとっていた。
アイテムを登録する方法も簡単だ。売り手は,ゲームとサーバー,アイテムの種類と詳細情報を入力し,価格を決めて登録するだけ。購入者は検索を通じてアイテムを探して,希望の数量を入力し,購入及び現金決済をする。参考のため売り手には「信用度」という数値があり,取引の決定に役立つようになっていた。
決済が完了すると,売り手と買い手が,お互いの主な身元情報を確認することができる。ここには連絡先があり,キャラクターが会う場所と時間を電話で協議することになる。その後二人のキャラクターが会って取引を行い,取引が完了したら,売り手は商品配送完了処理を,買い手は購入確定処理を行う。仲介サービスは,手数料を差し引いた残りの金額を売り手に入金することになる。極めてシンプルだが利便性は高い。
アイテムやゲーム内マネーには安いものもあるが,大変に高価なものもある。
最も有名なのが,「リネージュ」に出てくる「真冥王の執行剣」だ。基本価格が2〜3千万ウォン(約219万円〜約329万円)ほどで,+4強化に成功した執行剣は1億ウォン(約1099万円)を超えた。
もし+9強化に成功した執行剣が出品されたら,5〜18億ウォン(約5501万円〜約1億9804万円)程度になると予想されている。
MMORPGだけでなく,PCパッケージゲームでも現金取引はあった。代表的なゲームが,Blizzard Entertainmentの「ディアブロII」だ。
拡張パックである「Lord of Destruction」で,「Stone of Jordan」(スキルだけでなくマナのMAX値も増加させる,キャスター向けの逸品)をはじめとする様々なアイテムが現金で取引されたこともあった。最新作である「ディアブロIV」も,アイテム取引サービスの定番タイトルだ。
執行剣ほどではないにしても高価なアイテムも多いので,なんとこのサービス,利用者が詐欺などの被害に遭わないよう本人認証システムを使って運営されていた。
このためアイテム仲介業者は,政府の情報保護管理体系(ISMS)認証を取得し,相手の電話番号で詐欺申告の履歴照会ができる機能を入れるなど,利用者の個人情報および資産保護に努力したのが,ほかの国とは大きく違うところだろう。
しかし時間が経つにつれ,ItemBayとItemManiaという2強体制に固まることになり,当初はItemBayが優勢だったが,2007年からはItemManiaが変わらず業界1位を維持している。
これには,業者間の競争が激化したこともあるが,政府の情報通信倫理委員会が,アイテム取引サービスを「青少年有害媒体物」に指定したということも影響している(そのため,取引サイトの利用者は大人に限定される)。
結局,競争で生き残ったItemManiaの親会社であるB&M Holdingsが2014年にItemBayを買収し,事実上の独占体制が構築された。そして取引される種類も,ゲーム内マネーとアイテムだけでなく,アカウントにまで広がった。両サイトの加入者数を合わせると,2000万人を超える。韓国の人口は5000万人なのに!
「青少年有害媒体物」に指定されたため,アイテム取引サービスは有害であるというのが世間一般の認識だったので,両社は積極的に社会貢献事業を展開し,アイテム取引に対する社会的認識の改善に取り組んでいる。
無料炊き出し所の運営,違法著作物根絶プロジェクトの運営,国内外の地域奉仕活動,奨学金及び後援金支給……など,様々な社会奉仕活動を行っている。
アイテムの現金取引は,ゲーム会社の立場から見ると「毒」であり「ホットポテト」
ゲーム会社の立場から見ると,アイテム現金取引は「毒」であると同時に「ホットポテト」だと言える。熱いジャガイモは手に持ってられないし,食べるのも難しいし,どうしようもない。
まず「毒」となる要素は,ゲーム内経済システムの崩壊である。一部の人々は,多くの装備と人手を投資して“作業場”を作り,アイテムとゲーム内マネーを作り出して購入者に販売する。
問題は,作業場が過剰にアイテムとゲーム内マネーを作り出すと価値が下落し,最終的にゲーム内の経済システムが崩壊する可能性があるということだ。そのため,メーカーは作業場に対する取り締まりを積極的に行っている。
そしてこの問題が「ホットポテト」である理由は,結局のところ現金取引を取り締まらずに放置するしかないという状況だからだ。ゲーム会社はアイテム取引を通じてより多くのユーザーを誘致することができ,現金取引をする購買層が増えれば自然と課金も増える。
さらに,アイテム取引サイトで取引ランキングが高ければ,それだけ人気があるゲームだという指標になるため,詐欺やハッキングなど個人の資産に被害が及ぶ深刻な問題が発生しない限り,ゲーム会社は現金取引に対する制裁に対して非常に消極的な場合が多い。
では,アイテム取引市場の規模はどのくらいだろう?
ItemBayが発足した2001年は,規模が100億ウォン(約11億円)にも満たないほどだったが,翌2002年にまたたく間に1000億ウォン(約110億円)を超え,5年後の2006年には,1兆ウォン(約1103億円)を突破した。現在は正確な数値が表に出ることはないが,その数字はさらに伸びて,現在も維持されていると言われている。
2006年当時の韓国のオンラインゲーム市場規模が1兆4千億ウォン(約1544億円)だったのだから,ゲーム会社からしたら「宝の山」だ。ItemBayのシステムをゲーム内に導入できれば,ゲームでさらに多くの売上を上げることができるのでは? しかし,ゲーム会社の立場ではそうすることができなかったのだ。
まず最初の問題は,ゲーム会社は約款を通じて,ユーザー間のアイテムの現金取引を禁止しているからだ。この約款は,2000年と2005年の2回にわたり,公正取引委員会から有効性が認められている。
そのためゲーム会社は,現金取引をできないようにするために「帰属アイテム」という概念を作り出した。「NO DROP」や「Bind」など呼称はさまざまだが,入手直後にそのキャラクターに帰属する「獲得時帰属」と,装備した瞬間にそのキャラクターに帰属する「着用時帰属」システムがある。
一番決定的なのは,ゲーム産業振興法に基づき,ゲーム内では両替または両替を斡旋したり,再購入をしたりすることができないということだ。
この行為をすると「射幸性ゲーム」と判定され,サービスが中断される可能性がある。つまり韓国では,ゲーム内でゲームマネーを現金で購入することはできるが,ゲームマネーを現金に変えることはできない。この大原則のため,韓国ではブロックチェーンベースのPlay to Earnのゲームサービスが一切禁止されているわけだ。
対立の対象から協力の対象へ
過去,ゲーム会社とアイテム仲介業者は裁判まで繰り広げた過去がある。しかし,大法院(日本での最高裁判所)が2009年に個人間のアイテムの現金取引は可能という判決を下し,それまでの空気感は一変した。さらにゲームのトレンドがモバイルゲームに移り変わり,両者の紛争は事実上雲散霧消した。
現在ではむしろ,アイテム取引サイトとゲーム会社が手を取り合って,積極的な提携を展開する方向へと変わっている。各取引サイトのメインページに入ってみると,様々なゲームとイベントを行い,ゲームの告知もここで確認することができる。ある程度のボーダーラインを守りながら共存しようとしている雰囲気だ。
これから先,なんらかのタイミングでゲーム産業振興法が改正され,ゲーム内現金取引が許可される……ということも起こりえない話ではないが,その可能性はいまのところ大変少なそうだ。もし現金取引が必要なのであれば,必要なときに,必要な分だけ,健全にアイテム取引サイトを利用するのが韓国のゲームプレイスタイルであって,これで多くの人が楽しいゲームライフを楽しんでいる。(著者:パク・サンボム,ザン・ヨングォン)
- この記事のURL:
キーワード