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「甲虫王者ムシキング」と「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の開発者が,当時と今後を語る。「黒川塾 98(九十八)」聴講レポート
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印刷2024/11/13 13:31

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「甲虫王者ムシキング」と「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の開発者が,当時と今後を語る。「黒川塾 98(九十八)」聴講レポート

 トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾 98(九十八)」が,2024年11月7日に,東京都内で開催された。このイベントは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏がゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものだ。

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 今回のテーマは,「甲虫王者ムシキング+オシャレ魔女 ラブ and ベリー 開発者トーク・ナイト」。約20年前に,子どもたちを中心に大ブームを巻き起こしたカードゲーム「甲虫王者ムシキング」(以下,ムシキング)と「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」(以下,ラブベリ)を開発した,セガの根布谷朋範氏近野俊昭氏をゲストに迎え,両タイトルにまつわるトークが繰り広げられた。
 また,「ラブベリ」に多大な影響を受けたという,声優の夜道 雪さんが司会進行のサポートを務めた。

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根布谷朋範氏
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近野俊昭氏
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夜道 雪さん
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黒川文雄氏

 2003年1月に稼働を開始した「ムシキング」(2018年夏にシリーズの稼働が終了)は,“昆虫”をテーマにしたキッズ向けコンテンツを作る構想から始まったと話す根布谷氏。ただ「ムシキング」を開発し,ロケテストまでは実施できたものの,当時のセガが得意としていたジャンルとは異なるため,全国展開できる規模の売上を出せるのか疑問視されるなど,製品化に至るまではいろいろあったそうだ。

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 そんな「ムシキング」だが,いざ稼働が始まると小学生男子を中心に大人気となり,2004年2月には東京・銀座の博品館 TOY PARKに「ムシキングミュージアム」がオープンする運びにもなった。
 そうした状況について根布谷氏は,「自分の作ったものが店頭に置かれて,皆さんが遊んでくれるのはすごくうれしい」とする一方で,「規模が大きくなると関係者が増え,開発チームだけで物事を進めることができなくなる」とも話す。

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次世代ワールドホビーフェアの「ムシキング」ブースや,JALの「ムシキングジェット」も紹介された

 「ムシキング」は,プレイヤー同士の対戦が盛んに行われており,公式大会は10万回以上も開催されたそうだ。根布谷氏によると,当時は毎日のように全国のどこかで公式大会が開催されており,氏自身も「ネブ博士」として,おもにムシキングミュージアムに出演していたという。

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岐阜・オアシスパークには「ムシキング」の観覧車が設置されていたことも。同施設のバーチャル水族館を,セガが手がけていたということから実施に繋がった

 「ムシキング」と同じ筐体を使った「ラブベリ」は,2004年10月に稼働を開始している(稼働終了は2008年秋)。当時は,小学生女子がゲームセンターに行ってアーケードゲームを遊ぶという文化がなく,そこにどうやって切り込むかを,近野氏らは考えることになったという。
 そこで,「ムシキング」には「父親と息子の会話の延長線上で楽しんでほしい」というテーマがあったため,「ラブベリ」は「母親と娘のコミュニケーション」をテーマにできないかということになったそうだ。

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 近野氏が,バービー人形やリカちゃん人形を使った母親世代の子どもの頃の遊びを,現代的なゲームに置き換えたと説明すると,夜道さんが「うちの母も同じことを言っていました。子どもの頃に人形遊びが流行ったから,娘にも『ラブベリ』のようなもので遊ばせてあげたかったそうです」と同意。夜道さんのお母さんも曲を覚えてしまうくらい「ラブベリ」にハマっており,親子で楽しんでいたという。

 なお夜道さんのお母さんは,当時すでにクラブという呼称が一般的になっていたにもかかわらず,なぜ「ラブベリ」ではディスコという古めの言葉を使っていたのか疑問に思っていたらしい。
 近野氏によると,当時のクラブは10代後半から20代が集うアンダーグラウンドなナイトシーンというイメージが強く,そうした世界に小学生女子を誘うのはどうなのかという議論があったとのこと。それなら1960〜70年代の映画に出て来るような,華やかなディスコのイメージを楽しんでもらえばいいのではないかと考えたとの説明がなされた。

 「ラブベリ」もまた,全国各地の店舗で「オシャレコンテスト」が開催された。ただオシャレをテーマにしたゲームであるため,男性である近野氏ら開発スタッフは前面に出ることを避け,怪しまれない程度に遠くから見たり,あとから報告を聞いたりしていたという。

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 じつのところ,近野氏は2人の息子の父親であり,小学生女子の好みなどについては当初まったく分からなかったことも明かされた。そうであるからこそ,当時流行っていた女児向けのファッションブランドや,もっと年上向けのファッションなどを研究し,流行の先読みをしていたそうだ。
 その過程は非常に楽しかったそうで,結果的に小学生女子から大きな支持が得られ,売上も上がり,会社から「よくやった」と褒められるという素晴らしい循環が生まれたと話していた。

 「ラブベリ」のオフィシャルショップではアパレルも展開していたが,プロのサポートを得つつ,すべてセガの社内で企画していたことにも言及がなされた。素材やカードに描かれた衣装の再現にこだわり,近野氏自身も中国にある工場に出向き,色や縫製のチェックを行っていたという。

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 「ムシキング」シリーズはすでに稼働を終了しているが,2023年には「世界の珍しい甲虫&甲虫王者ムシキング20周年展」などのイベントが開催されるほど根強い人気を誇っている。
 根布谷氏は,かつては家族と一緒に公式大会などに参加していた小学生のファンが,大人になったいま,今度は自身の子どもと一緒にイベントを見に来てくれるのがすごく嬉しいと語る。
 なお,2023年に開催されたムシキング20周年展には,根布谷氏もネブ博士に扮して登場したのだが,当初は開場前に会場を内覧するだけのつもりだったとのこと。しかし,開場後の盛り上がりに対し,「これは行かなければマズい。ファンの盛り上がりを見なければ」と,急遽会場に出向いたことも明かされた。

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ムシキング20周年展には,ファンのサインやコメントが記された筐体も展示された。「大人になったらセガに入りたい」と書いたファンが,実際にセガに入社したというエピソードも紹介された

 「ラブベリ」は,今年で20周年を迎えた。こちらも稼働を終了しているが,いまだに人気はあり,8月から9月にかけて全国3会場にて開催された「オシャレ魔女 ラブ and ベリー展 〜オシャレまほうミュージアム〜」には,累計2万人以上のファンが訪れたそうだ。

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「ラブ and ベリー展」では,ラブとベリーそれぞれの部屋や,ドレスなどを再現する展示もあった。当時はまだデジタルに移行する過渡期だったため,CGデータや開発資料の発掘は難航したらしい

 この展覧会のキービジュアルは,新たに描き起こしたものだという。夜道さんが「新たな何かが始まるのか期待してしまう」とコメントすると,近野氏は「会社を動かすのはなかなか難しいが,ファンの皆さんひとりひとりの声がたくさん集まれば状況が伝わるかもしれない」と回答する。
 また,「ムシキング」や「ラブベリ」の新シリーズが仮に実現するとしたら,1プレイ100円という価格設定を再現できるかという質問には,根布谷氏も近野氏も「したい」と回答していた。

 夜道さんは,当時「ラブベリ」をプレイするかたわら,「ムシキング」のプレイを見て,1回100円でかなり長く遊べるゲームだという印象を抱いていたという。
 実際に根布谷氏らも,トータルで見たらトレーディングカードゲームなどよりも安く遊べると考えていたそうだ。さらに,ロケテスト時は100円で「虫カード」と「技カード」の2枚を排出していたことも明かされた。

 その一方で,夜道さんは「ラブベリ」がかなり鬼畜な仕様だったと話す。当初は6ステージあり,それぞれに合うヘアスタイルと衣装,靴を集めなければならず,また組み合わせてコーディネートする必要があったため,最初の20プレイくらいは必死にカードを集めていたのだという。

 ただ,「ラブベリ」に登場する衣装は20年経っても可愛く,とくにドレスは自身の衣装にしたいくらいの完成度であるともコメント。そして夜道さんが,指定されたラッキーカラーをフィーチャーしたのに,点数が伸びないことがあるという疑問を投げかけると,近野氏がトータルコーディネートで評価されると回答した。
 その背景には,子どもたちにコーディネートやTPOなどの知識を学んでほしいというエデュテイメント的な意図があったことも明かされた。

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 「ムシキング」も「ラブベリ」も,小学生の心をガッチリ掴んだからこそ大ヒットにつながったわけだが,根布谷氏は企画の軸に自身の子どもの頃の原体験があったとする。
 すなわち,幼い頃に夢中になった遊びや漫画などを思い出すことから始めて,それを踏まえて現代はどうなっているか調べ,いまのゲームだったらこうなるだろうというものを作っていったというわけである。

 また「ムシキング」の技名が,根布谷氏自身の好きなプロレスやゲーム,当時流行っていたフィギュアスケートなどからヒントを得ていたことにも言及がなされた。加えて,技のモーションを作る際にカブトムシとクワガタのフィギュアを手に持って実演していたことや,親子で遊ぶ場合に身体的な能力差が出ないようジャンケンをモチーフにした遊びにしたことなどが明かされた。
 話題が,開発チーム内でも「ムシキング」の対戦が盛り上がっていたことに及ぶと,近野氏も「ラブベリ」を「自分たちで本気で遊べるゲームを届けたい」という主旨で作っていたとコメントしていた。

 「ラブベリ」をオマージュした,テレビのバラエティ番組の1コーナーにも言及がなされた。近野氏によると,開発チームも番組の放映を見て初めて知ったとのことで,当初は公認ではなかったそうだ。
 しかし,映画「オシャレ魔女 ラブ and ベリー しあわせのまほう」のキャストに,その番組コーナーの出演者が起用されるなど,次第に公認する形になったという。近野氏は,自分たちの作ったものがオマージュされることは大変光栄だったと感想を述べる。その一方で根布谷氏は,IPを守りたいという気持ちもあるので,何でもかんでも公認するわけにはいかないとも話していた。

 セガの社内では,ゲームを中心としてほかのジャンルにIPを展開していくことを,「トランスメディア戦略」と呼称しているそうだ。「ムシキング」や「ラブベリ」の周年イベントもこの戦略の一環で,ゲームの周辺が非常に盛り上がったわけだが,ゲームそのものとしては稼働を終了した時点のまま止まっている。
 仮にゲームの新シリーズが登場すれば,時代や環境に合わせて新しいアプローチや新要素を加えることも十分考えられると根布谷氏は指摘した。当時のファンに喜んでほしい半面,いまの子どもたちにも楽しんでもらいたいという気持ちがあるため,新要素を入れすぎることなく,時代や環境が進んだからこそのアプローチをしていきたいとも語った。

 近野氏も,たとえばキッズアミューズメントゲーム「ひみつのアイプリ」と「ラブベリ」のコラボのように,原体験としての「ラブベリ」のイメージを損なうことなく新しい遊びや表現をしていきたいと話す。
 また,コラボで使われた「ひみつのアイプリ」のキャラクターモデルは,「ラブベリ」のものを参考データとしてタカラトミー側で新たに作ったことも明かされた。

 「ムシキング」や「ラブベリ」に続くタイトルが出てこないという話題では,根布谷氏が「それまでなかったものを作ったことが,ヒットの要因だった」と分析。また近野氏は,「よくも悪くもベンチマークが蔓延し,あのゲームがダメだったからここを直して売上を出そうという作り方になっている」とし,「新しいジャンルに切り込んでいって,経営層を説得して絶対作るという気概を持った開発者が必要」と語った。

 夜道さんが当時の思い出として,自分より年上のプレイヤーがカードをサッと取り出してシャーッとスキャンする姿がカッコよかったと振り返る一幕も。根布谷氏によると,カードを上からスキャンして,もう一度下からスキャンする「V」が理想とのこと

 セッションの終盤には,あらためて両タイトルの新シリーズの可能性について質問が投げかけられた。近野氏は,「できるともできないとも言えないが」と前置きしつつ,「何らかの形でファンに届けたいという思いはある。現場にいる限りは作り続けたいし,作り続けなければならない」と個人的な見解を示した。
 また20周年は通過点であり,当時のファンが大人になったいま,その子どもたちが10年後に当時のファンと同じくらいの歳になって初めて循環が生まれるという持論も示していた。

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「甲虫王者ムシキング」公式サイト

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