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世界最大規模のアナログゲーム見本市「SPIEL Essen 2024」の会場をレポート。20万4000人が来場しコロナ禍前の勢いが復活
SPIEL'24では多くの新作ボードゲームが発表されるとともに,世界的な賞であるドイツゲーム賞の表彰が行われることもあり,世界のボードゲームファンの注目を集めた。また,各国から業界関係者も多く来場し,作品の仕入れやクリエイターとのネットワーキングを行うトレードショウの顔も持つ。世界的なアナログゲーム市場にとって,大きな意味を持つイベントだ。
本稿では,SPIEL'24の全体的なレポートをお届けしていこう。
来場者数・出展数ともに拡大
開催当日,なんといってもその参加者の多さに驚かされた。SPIEL'24には,20万4000人が来場したという。昨年の来場者数が19万3000人だったので,約1万人の増加だ。
開催前日に一部の入場チケットの売り切れが公式に発表されたことからも,その参加者の多さが分かる。前日には4日通し券と木曜券,その後も金曜券,土曜券が売り切れとなった。
会場近くのエッセン中央駅も大混雑だ。会場に向かう地下鉄は,駅の外まで参加者の行列ができるほどで,入場規制が行われていた。特に初日の10月3日は「ドイツ統一の日」という祝日にあたることもあり,開会直後から大盛況であった。
出展規模も拡大した。出展者数は52か国923団体,新作数は1562にのぼる。会場面積としても6万8500平方メートルの広大な会場となった(昨年は6万2500平方メートル)。コロナ禍で一時規模を縮小していたのはSPIEL Essenも例外ではなかったが,20万9000人が来場したコロナ禍前の2019年の勢いを取り戻した格好だ。
SPIEL'24は複数のホールからなっているが,それぞれゲームのジャンルに応じてエリア分けされている。
まず,会場の大部分を占めるボードゲームエリアは言わずもがなの大盛況だ。メインの入場口である東口(Messe/Ost)を通ると,「カタン」で知られるコスモスやラベンスバーガー,アスモデといった世界でも有名な大手ボードゲームパブリッシャが立ち並ぶ。プレイブースも広大で,開場直後から買い物や試遊をする参加者でにぎわっていた。
大手企業ばかりでなく,インディーゲームや各国企業のブースが入り乱れるホールもある。こうしたブースでは買い物客はもちろんだが,ゲームの買い付けに来た業界関係者や作品の売り込みをするクリエイターの姿も多く見られる。まさにこれから世界に羽ばたいていくボードゲームが生まれる場となっているのだ。ドイツやフランスといった欧州企業はもちろんだが,アジアや北米・中南米からの出展もあり,さまざまな国のボードゲーム文化に触れられるのもこうしたホールだ。
そして,各国のゲームファンが集まるだけあり,長時間を要する重量級ゲームも充実しており,1つのエリアとして関連企業が集められている。各ブース共に広大なプレイスペースを設けており,重量級でありながら常に試遊する人々でテーブルは満席だ。
それに加え,近年ではこうした重量級ゲームを中心に,精巧なフィギュアをコマとして使うセットも増えてきている。「デラックス・エディション」などの名称で呼ばれ,100ユーロ(2024年10月現在では1万6000円相当)を超えるセットも多いが,飛ぶように売れていく光景は会場の熱量を感じさせる。
ボードゲーム以外のジャンルも盛況だ。特にTCGについては公式発表でも盛り上がっているという言及があった。
販売ブースでは昨年に引き続き,ディズニーキャラクターをテーマとしたラベンスバーガーのTCG「Lorcana」が大行列を作った。
それ以外では,今年スタートした新作TCG「Starwars: Unlimited」「Altered」が早くもブースを構えていた。日本からは昨年同様「ポケットモンスターカードゲーム」「遊戯王OCG」などが参加。そのほか,ミニチュアゲームやTRPGも販売エリアが拡大され,活況が見られた。
より楽しく,より快適なSPIEL Essenへ
SPIEL'24は,ブース出展以外でも大幅なパワーアップが見られた。
まずは,会期中に実施されるイベントの充実だ。従来から開催されていたボードゲーム専門家のセッションや,ボードゲームの教育活用に関するトークセッション「エデュケーターズ・デー」は今年も継続して開催。それに加え,キービジュアルにも登場していたメタルバンド「サルタティオ・モーティス」や同じくメタルバンド「ブラインド・ガーディアン」のサインセッションなども開催され,会場を盛り上げた。
また,昨年から登場していたネコのマスコットキャラクター「ミープス」を目にする機会も増えた。会場内では至るところでミープスの着ぐるみが歩き回っていたし,ミープスのマスコットを塗装するイベントも開催されていた。
休憩スペースや食事を提供するキッチンカーも大きく拡充され,より快適な会場になった。昨年から充実傾向にはあったが,今年は公式マップでの検索も可能となり,長丁場になりがちなSPIEL Essenではとても便利だ。ソーセージやポテトといったおなじみのドイツ料理はもちろん,メキシカンやタピオカミルクティーなどもある。
そして,今年に限ったことではないが,大人数の来場者が訪れるにも関わらず,数分と待たずスムーズに入れる入場システムには毎年驚かされるばかりだ。今年は昨年を大きく超える来場があったため,待たされるのではないかと不安だったが,杞憂であったようだ。
ドイツゲーム賞は「フォレストシャッフル」が受賞
日本でも話題にのぼるドイツゲーム賞(Deutscher Spielepreis)の表彰式もSPIEL Essenで行われる。ドイツのゲームファンによる一般投票で選ばれ,今年のラインナップは次のようになっている。
順位 | タイトル | デザイナー | メーカー |
---|---|---|---|
大賞 | Mischwald (邦題: フォレストシャッフル) |
Lookout Spiele | Kosch |
2 | Sky Team (邦題: スカイチーム) |
Luc Rémond | Kosmos / Scorpion Masque |
3 | Die weiße Burg (邦題:白鷺城/ホワイト・キャッスル) |
Sheila Santos, Israel Cendrero | Kosmos / Devir |
4 | Darwin's Journey (邦題: ダーウィンズ・ジャーニー) |
Simone Luciani and Nestore Mangone | Skellig Games / ThunderGryph Games |
5 | Too Many Bones | Adam Carlson, Josh J. Carlson | Frosted Games / Chip Theory Games |
6 | Revive (邦題: リバイブ) |
Kristian Amundsen Østby, Helge Meissner, Anna Wermlund, Eilif Svensson | Pegasus Spiele / Aporta Games |
7 | Harmonies (邦題: ハーモニーズ) |
Johan Benvenuto | Asmodee / Libellud |
8 | Obsession | Dan Hallagan | Strohmann Games / Kayenta Games |
9 | Helden müssen draußen bleiben (邦題: ヒーローお断り!) |
Luís Brüeh | Mirakulus / Brueh Games |
10 | Nukleum (邦題: ニュークレウム) |
Simone Luciani, Dávid Turczi | Giant Roc / Board & Dice |
○子供向け部門受賞作品
Die magischen Schlüssel
デザイナー:Markus Slawitscheck, Arno Steinwender
パブリッシャ:Game Factory / Happy Baobab
大賞を受賞した「フォレストシャッフル」は,動物や自然の描かれたカードを使い,動物や植物のための生息地を作っていくゲームだ。表彰式では作者のKosch氏が流通に携わったアスモデに感謝を述べるとともに,オンラインボードゲーム対戦サイト「Board Game Arena」について「ゲーム制作をする際のテストプラットフォームとして使うだけでなく,一般ユーザーがゲーム購入前に試せる場としてとても役立った」とコメントしていた。
また,ドイツゲーム大賞にノミネートされているゲームはほとんどが発表から1〜2年しか経っていない作品であるが,すでに10作品中7作品の日本語版が発売されている。興味があればぜひ手に取って遊んでみていただきたい。
「音楽」「サステナビリティ」「日本」がボードゲームの人気テーマに
最後に,今年の出展作品の傾向についても触れておきたい。開催前日(10月2日)に行われたプレスカンファレンスでは,出展ゲーム作品の傾向について述べられた。出展作品のモチーフには流行があるそうで,SPIEL'24で多く見られるテーマが3つ紹介された。
まず1つは「音楽」だ。SPIEL'24ではドイツのメタルバンド「サルタティオ・モーティス」とのコラボレーションにより制作されたTRPG「Finsterwacht」が注目作品として取り上げられていた。プレイヤーはサルタティオ・モーティスのメンバー扮するキャラクターとなり,危険なオークから人々の土地を守っていく。サルタティオ・モーティスのフロントマン,Aleaはシュピールエッセンのキービジュアルになっており,イベントを盛り上げていた。それ以外にも同じくメタルバンド「ブラインド・ガーディアン」とコラボレーションしたボードゲーム「From the Otherside」などが見られた。
こうしたコラボ作品以外にも,音楽をモチーフとした出展作は多い。バンドを率いてロックスターを目指す「Rock Hard: 1977」や,パーティーを盛り上げるべくホールに流す曲を選んでいく「HITSTER」などの作品が注目を集めていた。
「サステナビリティ」も多く見られた作品モチーフだ。ドイツゲーム賞大賞作の「フォレストシャッフル」をはじめ,自然や動物,環境保護の取り組みを取り上げた作品は多い。
それ以外でも会場ではシュミット・シュピールの新作「e-Mission」が大きく展示され目立っていた。温室効果ガスをゼロにすべく,主要国となって排出量削減に取り組む協力型ゲームだ。
AEG「Under Grove」も注目の作品だ。キノコが豊かに育つ森を作るべく,プレイヤーは植林を行っていく。大人気ゲーム「ウイングスパン」の作者,エリザベス・ハーグレイブ氏が制作した新作ゲームだ。
最後に「日本」だ。筆者らが日本から来ていることもあるかもしれないが,日本をモチーフとしたゲームは極めて多いように感じられた。これまでも日本をモチーフにしたゲームは少なくなかったが,日本の歴史や都市をモチーフにしたものが多かった印象だ。
一方,SPIEL'24では食や日本の風習などをテーマにしたマニアックなモチーフも見られた。こちらについては別記事で紹介する予定だ。
著者紹介:Im Karton
海外アナログゲームイベントを訪ねて旅する3人組。読み方は「イム・カートン」。これまでに世界最大のアナログゲームイベントであるドイツ「SPIEL Essen」(シュピールエッセン)をはじめ,アメリカ「Gen Con」(ジェンコン),フランス「Festival International des Juex」などを訪問。昨年はSPIEL Essenに行きたい旅行者向けのガイド「Essen Spiel Guidebook 2023」を同人誌として刊行。
Omochicard
Im Kartonメンバー。SPIEL Essenの訪問は今年で5回目。訪問時は旅行の計画や日本へボードゲームを送る宅配便の発送などを担当。海外ボードゲームが大好き。好きなボードゲームは「アーク・ノヴァ 新たなる方舟」や「Kemet: Blood And Sand」。
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