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配信ガイドラインを作るとき気をつけることは? 法的な観点から考える,ゲーム実況の現状と問題点[CEDEC 2024]
登壇したのは,実況配信の黎明期からマネタイズに取り組んできたoldsport代表の近藤史一氏と,ゲームやエンターテインメント,eスポーツなどの法務およびM&Aを専門とするTMI総合法律事務所所属の弁護士,落合一樹氏だ。
セッションでは,まず落合氏が配信ガイドラインの問題点を整理するところからスタートした。実況配信はすでに一般的なゲームの楽しみ方の一つとなっており,各メーカーが自社タイトルを配信プラットフォーム上で利用する条件を定めた配信ガイドラインを広く公開することもまた,珍しいことではなくなってきた。
しかし,この配信ガイドラインが法的にどういう意味を持つのかは,十分に議論がなされていないと落合氏は指摘する。このセッションではそれを明らかにすることで,メーカー側にそのリスクを理解してもらい,同時にゲーム実況文化がより広がることを期待しているという。
続いて近藤氏から,配信ガイドラインの現状についての報告が行われた。氏は,今回のセッションのために,国内外の配信ガイドライン総計590件(国内437件/国外153件)の調査を行ったという。その結果,国内と国外ではユーザー側の権利意識の違いもあってか,国内向けのガイドラインのほうが,比較的細かく条件が定められている傾向にあったそうだ。
ガイドラインの中身を細かく見ていこう。
まず配信の可否そのものでは,全590件のうち98.4%にあたる581件が,配信を許可する内容だったという。そもそもガイドラインがない場合,配信はできないものと解釈されるのが通常であるため,この結果は必然ではある。
あえて不可としているものでは,「謎解き要素があるため」「未プレイの人への配慮のため」「私的使用の範囲を超えるため」などが理由として挙げられていたそうだ。
続いて収益化の可否については,近藤氏の分類により,5つのレベルに分けての分析が行われた。
レベル分けの詳細はスライドを確認してもらうのが早いが,レベル2とレベル3について少し補足が必要だろう。レベル2はプラットフォームが提供する機能による収益化は許可されるものの,一部の機能には制限を設けているパターンである。具体的には,いわゆるスーパーチャット(投げ銭)やメンバーシップ限定公開といったものが禁止される傾向にあるとのこと。またレベル3は,指定されたプラットフォームの機能を利用したものであればすべてOKだが,それ以外はNGとするもの。つまり,例えばYouTubeならいいが,それ以外のプラットフォームは不許可という形である。
この中で最も多かったのはレベル3で,ほぼ7割がこれに該当したそうだ。
配信可能範囲では,特記事項なしで無制限に配信可能なものが8割を占めていた。制限があるものでは,具体的な部分を指定してNGとしたり,期間を決めていたりするものがあったという。先の収益化の可否と合わせて,このあたりは利用者側もとくによく確認しておく必要があるだろう。
配信ガイドラインに関するページの有無では,約9割が専用ページを設けていたという。ページがない場合の例では,Steamの製品概要などに記載されていたり,稀ではあるが公式のXアカウントによるポストで許可が出されていたりするケースがあったとのこと。
最後にテキストマイニングを使った分析も行ったというが,ここからはあまり面白い発見がなかったそうだ。ただ,近藤氏が主な活動の場としているTwitchへの言及が,ほかのプラットフォームに比べて少なく,氏は悲しい気持ちになったそうだ。
配信ガイドラインを法律から考える
ここからは,落合氏による法的な観点による配信ガイドラインの分析が行われた。
まず配信ガイドラインを策定する意義だが,これは分かりやすい。ガイドラインが存在しない状態で配信を行えば著作権侵害になってしまうので,最悪の場合逮捕され,刑事罰を受けることにもなりかねない。
つまりガイドラインを明示しておくことは,配信者の法的地位を安定させることにつながる。メーカー側が配信を販売促進などに役立てたいのであれば,ガイドラインを用意するのは必要と言える。落合氏は,すべてのメーカーが同じ考えではないとしながらも,ベースにはこうした考えが含まれていると話していた。
ガイドラインの法的性質についての考察も行われた。配信ガイドラインは,一般の配信者に向けて広く公表されるものであるため,その文章は法的な用語を使わない,平易な文章で構成されたものであることがほとんどだ。氏が見たところ「活動を応援する」「権利侵害を主張しない」といった書き方が大多数で,「許諾する」と明示しているケースはかなり少なかったという。あえて避けているのだと思われるが,こうしたガイドラインを法的に捉えた場合,どのような効果になるのだろうか。
明示的な文献や前例がないので,あくまで落合氏の考えだが,仮に司法の判断を仰ぐことになった場合,これらの書き方であっても「許諾する」とした場合と法的効果は同じになるというのが氏の結論だった。理由はスライドなどを確認してほしいが,結局のところ「許諾する」としたほうが分かりやすいのでは,とのことである。
続いは利用権の成立についての議論だ。ライセンス契約というのは,通常は権利者と利用者双方の合意によって成立するもの(合同行為)。しかし配信ガイドラインでは,権利者が一方的に公表するのみで,合意のプロセスが想定されていない(単独行為)。それでも利用権の契約は成立するのだろうか。
これも結論から言えば,単独行為であっても成立が認められるケースが多数だろうとのこと。ただ疑問が残るのも事実なので,結局は両者の合意をもって利用権を成立させる形に整理していくほうが,法的にはクリアになるのではないかとも話していた。
配信ガイドラインの法的効果とは
以上の3点を踏まえたうえで,配信ガイドラインが持ちうる法的効果について,あらためてのまとめが行われた。氏の考える配信ガイドラインの効果は,主に次の二つだ。
- ホワイトリスト(許可リスト)化による著作物の利用に関する禁止権の解除。
- ブラックリスト(禁止リスト)化による犯罪行為などの一般予防。
ホワイトリスト的な使い方は分かりやすいので,ここではブラックリストについて詳しく紹介したい。これは到底許諾できない利用方法をあらかじめ明記しておくことで,自社の著作物の商品価値が下がるような行為を抑止しようという考え方だ。
例えば,少し前に話題になった“ファスト映画”問題や,ゲームのネタバレ動画を配信した裁判などは,このブラックリストを用意しておくことで防げる(あるいは非難しやすくなる)可能性がある。
なお件の裁判は複数の著作権侵害について争われたものなので,単純にガイドラインに違反した場合の判例として捉えるのは難しいそうだ。ただ,ガイドラインの存在が裁判所の判断に関与した可能性はあるとのことだった。
では一度公表したガイドラインを撤回したり,変更したりする場合はどうだろうか。
これは制限が課されるというのが落合氏の見解だ。根拠などはスライドを確認してほしいが,撤回や変更が権利の乱用に当たる場合,配信者側から提訴されることも起こりえる。また自社タイトルのみを扱う場合だけ許可するケースなど,著作権法の趣旨を逸脱するような場合には,独占禁止法が適用される可能性も考えられるとのこと。
いかな権利者であっても,どんな変更も許されるというわけではない。落合氏は,もし変更が必要な場合は,専門家に精査してもらうべきと話し,セッションを締めくくった。
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