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デベロッパ支援の果てに,ファイナルファンタジーとSIEのような関係性を描きたい。「China Hero Project」インタビュー[CJ2024]
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印刷2024/07/27 13:03

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デベロッパ支援の果てに,ファイナルファンタジーとSIEのような関係性を描きたい。「China Hero Project」インタビュー[CJ2024]

 中国のゲームショウ「ChinaJoy 2024」(CJ2024)で,PlayStationの中国展開を支える,Sony Interactive Entertainment Shanghai(以下,SIE上海)の包 波(Bao Bo)氏に,今年もインタビューできた。

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 中国・上海で開催中の「ChinaJoy 2023」にて,SIE上海で「China Hero Project」のディレクターを務める包 波氏にインタビューを行った。中国国内のデベロッパに対して,SIEがサポートを行うゲーム開発振興プログラムとして2016年から続いている本施策について,その現状や目指すところなどを聞いた。

[2023/07/29 12:52]

 包 波氏は,PlayStationの中国展開を推進すべく,中国デベロッパなどに対してコスト負担や課題解決などの面で協調する,ゲーム開発振興プログラム「China Hero Project」を主導している人物だ。

 4Gamerでは昨年のCJ2023でも話をうかがい(関連記事),「Game of the Yearを取れれば最高です」と,グローバルに打って出たい姿勢を見せられたのだが。はてさて,2024年のSIE上海はどうだろうか。

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FFとSIEのような関係を目指して


4Gamer:
 昨年に引き続き,お話を聞かせていただきます。あらためてですが,「China Hero Project」(以下,CHP)の現状はどうですか。

包 波氏:
 CHPは発足から7年,全21タイトルの入選作品を発表できました。
 このうち7タイトルはリリースすることができ,CJ2024で発表したマルチプレイオープンワールドARPG「Unending Dawn」,シングルプレイアドベンチャー「楼兰 Kroraina(Loulan)」,武侠アクションRPG「Brocade-Clad Guard」を含めた14タイトルは,支援先の各デベロッパにて開発中です。現在はこれら第3期入選タイトルの大詰めとなっています。

第3期タイトルラインナップ
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CJ2024発表での新作はこのうち3作
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4Gamer:
 CHPは現在,7年前の目標に達せていますか。

包 波氏:
 当初の目測と比べると,展開タイトル数は若干少なめに推移してしまっています。ただ,私自身はSIE上海に入って約3年ほどしか経っていないため,当時のミッションについては代弁できない身です。
 そのうえで,プロジェクトの動向は確実にスピードアップしてきているので,今後は秀でた作品をより早く,より多く送り出せるはずです。

4Gamer:
 この1年,支援策の強化や見直しはありましたか。

包 波氏:
 今年だけでもさまざまな強化を図ってきました。
 まず,CHPにSIE上海のプロフェッショナルなスタッフ3人が加わり,チームが増強されました。それとグローバルな戦略を練るミドルオフィスからも,より後押しされるようになってきています。
 支援先のデベロッパに対しても,ローカライズチームやデバッグチームの協力がより密になるよう,体制を改善してきました。

4Gamer:
 CHPスタッフには,どのような人が多いのでしょう。

包 波氏:
 チームメンバーはみな,なにかしらのプロデューサー経験を持つ人たちです。そうした彼らの知見がチーム全体に分配されるため,状況ごとの課題解決もすばやく的確に行われてきました。
 マネージメントが欠けている開発なら,そのための知見を共有する。アート面でひと味足りないとなったなら,私の場合だと外部の専門家に連絡し,よりよい結果を導き出せるよう動きます。

4Gamer:
 つまり,エリート的な集団と言っても?

包 波氏:
 少なくとも,みなそれぞれゲーム業界に長く従事してきた人たちですので。経験に裏打ちされたプロジェクトマネージャーやアートデザイナーなどがキャリアの末に集まった,という一面はありますね。
 ただ,プログラミングだけはいまだにプロフェッショナルがいません。そうした自分たちの知見も及ばない部分については,リスクを分析し,社内にレポートして,問題解決につながる要点を洗い出しています。


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4Gamer:
 支援先への対応と同じことを,チーム内でもやっていると。
 ちなみに,これまでのCHPの展開には手応えを感じていますか。

包 波氏:
 かなり成功していると思います。それというのも,ここ数年での中国ゲーム市場の変化が大きな追い風になっているからです。
 正直,CHPの第1期〜第2期タイトルのころは,中国ではコンシューマゲーム機がほぼ普及していませんでした。しかし,最近はPlayStationプラットフォームが急速に浸透したことで,遊ぶ人が飛躍的に増加し,中国のゲーマーたちにも自然と触れてもらえるようになったんです。

4Gamer:
 中国ではPS5とPS4,どちらが強いのでしょう。

包 波氏:
 正確なシェア数は把握できていませんが,私の知る限り,PS5が圧倒的ですね。これは今話したように,PS4の頃は中国にコンシューマゲーム機が根づいていなかったのに対して,ここ数年は「新しく興味を持った人は自然とPS5から入るのが当たり前」な状況だからです。

4Gamer:
 シリーズの概念を持つコンテンツがうらやましがりそうな話で。
 続けて,CHPはデベロッパから作品を募集し,入選対象に支援を行うとされます。昨年も似たようなことを聞いておりますが,それら応募作品の成否を分ける審査基準はどのようになっているのでしょう。

包 波氏:
 基準に関しては昔から変わりありません。
 1つ目は「チームの執着力」。開発側のプロデューサーからその熱量をうかがえるか,またチームメンバーがプロジェクト遂行のために動けるかを注視します。2つ目は「ゲームデザイン」。CHPでは応募時,作品概要のドキュメントも送付してもらっていますが,そこに書いてあることからデザイン性や開発の技術力を査収します。最後は「ゲーム体験」。遊びのコアが,遊ぶうえで魅力的に感じられるかどうかです。
 過去の入選作品はいずれも,この3点が基準に達していました。

4Gamer:
 なるほど。クオリティを図る基準は,分かりやすいものだとどうしてもグラフィックスが先立ちそうですが,そこはどうでしょう。

包 波氏:
 そこも見るべきポイントではありますが,やはりゲームのコアの審査は欠かしません。ついでに言うなら,ストーリーテリングも見ますね。あとは,ゲームエンジンをちゃんと使いこなせているかなども。
 といっても,それらすべてが完璧な開発チームというのは,世界中でもそう多くはいません。大半の集団はなにか1つや2つ欠けていて当然です。けれど,世の中にはそこを補って余るほどの魅力がこもった作品が多いので,改善の一助として,我々CHPが手助けしたいのです。

4Gamer:
 次に,これもまた昨年尋ねていますが,今回の新規発表タイトルもまた“ソウルライクばかり”に思えました。
 この点については,あくまで「おもしろい作品が結果的にソウルライクだけだった」とおっしゃられていましたが,そこも変わりなく?

包 波氏:
 その質問は数多くのメディアさんに聞かれてきました(笑)。
 実のところ,昨年まではその質問に対してなんとなくの所感で答えてしまっていたのですが,それではいけないと思い,あらためて分析してみたんです。そしたら答えは簡単でした。過去のCHPの応募作品は単純に,「アクションゲームの応募数が圧倒的」だったんですよ。
 第3期では100作品以上の応募がありましたが,そのうち50〜60,いえ70〜80タイトルくらいはアクションゲームでしたので。

4Gamer:
 現代の3Dアクションのトレンドを味方につけるためなら,まあその方向性にするのが正しいはずですしね。

包 波氏:
 ちなみに,私自身はシューティングゲームが好みですが,同ジャンルの作品は2作しかありませんでした。そのうちの1つ「EXILEDGE」は入選していて,今はリリースに向けて開発中です。

4Gamer:
 この記事を読んだデベロッパが「なら,シューティングで応募すれば当選確率が上がるじゃん!」と思いそうなものですが。
 当然のことながら,そういう話でもありませんよね。

包 波氏:
 そうですね。審査基準は先ほどのとおりですので,特定のゲームジャンルだからといって有利になることは絶対にありえません。もちろん,私の好みが審査に反映されることもまずないです。
 ひとつ言えることは,中国ではアクションゲームの人気が飛び抜けていて,それをみな分かっているからこそ,アクションに挑み,クオリティを高め,差別化を図り,独自の魅力を押し出そうとしています。そうした競争の結果として,自然と高品質化が図られてきたわけです。
 一方でシューティングゲームは,実物の銃器に触れる機会がまずなく,実際に触れたことのある人もごく少数です。そのため国民の性質として,ガンシューティングの類が生まれづらいとも言えます。とはいえ,そんな国柄の中で作られたシューティングゲーム作品だからこそ,独自の魅力を備えているものが多く,意気込みも人一倍なんです。

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4Gamer:
 デベロッパへの支援では,CHP自体が「こういうゲームを作ってよ」とトップダウンで指示することはなく,あくまで開発のサポートに努めるようですが,アドバイスは積極的に行うのでしょうか。

包 波氏:
 CHPの入選タイトルは,大別すると2種類あります。端的に「SIE上海のパブリッシング作品」「別会社がパブリッシングをする作品」です。いずれの場合も支援内容は公平ですが,前者の場合は市場でより幅広く受け入れられるために,一歩踏み込んで修正を依頼することがあります。一方,後者の場合はあくまでアドバイスにとどめています。

4Gamer:
 パブリッシングするものと,しないもの。その判断基準とは。

包 波氏:
 やはり,商業的に大きなサクセスが見込めるかどうかです。

4Gamer:
 CHPは最終的に,デベロッパとどのような関係を築きたいのでしょう。作品の入選から協力関係となり,開発への支援を進めて,いつの日か無事にリリースにこぎ着けたあと。そこから先は一期一会の精神なのか。あるいは,継続的ななにかを望んでいるのか。

包 波氏:
 CHPとしては,一度縁のできた相手とは継続的な関係になれるよう努力します。タイトルのリリース後も,PlayStationプラットフォームでのセール施策などで,長期的な提携関係を続けていきます。
 本プロジェクトの骨子も,優秀なデベロッパを探し,彼らに助力することでさらなる向上を目指してもらい,結果としてSIE上海の利益につなげる,そうした形を目指すものですから。
 日本の皆さんに分かりやすい例としては,スクウェア・エニックスさんの「ファイナルファンタジー」シリーズとSIEが10年,20年と続けてきた関係でしょうか。我々はそうした関係性を生み出したいんです。

4Gamer:
 とても分かりやすい。
 そうすると,人の営みにおける栄枯盛衰はそのときどきとしても,理想型ではパートナー企業が指数関数的に増え続けていくわけですから,CHPチームもどんどんと拡大していくことになりそうですね。

包 波氏:
 ええ。手段としては人を増やすか,リリースサイクルを早めつつ最適化することでの負担低減しかありませんしね。

4Gamer:
 いろいろと興味深い話をありがとうございました。
 最後に,包さんが注目する昨今のトレンドはなんでしょう?

包 波氏:
 個人的には,Game Scienceが手がけた西遊記モチーフのアクションゲーム「Black Myth: Wukong」です(日本発売は2024年8月20日)。
 同作については,数年前に初のトレイラーが披露されたときから大きく注目していましたし,仏教が根強い中国では題材的にも合っていて,格闘への思い入れも強いですから。ゲーム界隈のみならず,ここ1年は中国で大きな話題を博していたタイトルと言えます。

4Gamer:
 なら,次期もソウルライクないし3Dアクションが強そうな?

包 波氏:
 かもしれません(笑)。

参考に,会場を歩いていた悟空(Black Myth: Wukong)
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