イベント
中国のオタクの今がここにある。上海で開催中の「BiliBili World 2024」は,ゲーム関連の出展も多い,二次元好きに向けた巨大イベントだ
イベントの主催であるbilibiliは,もともとは動画共有サービスを提供していた会社だ。ニコニコ動画のような,コメント機能を持った動画サイトの中国版という話は,聞いたことがある人もいると思う。
ただ,動画共有サービスから始まりはしたものの,ブログの運営やアニメ配信事業,ゲーム事業などを行うようになり,取り扱うコンテンツは増えに増え,中国のサブカルチャーにとって重要な企業になっていった。
そんな同社が2017年から主催している「BiliBili World」も,今では複合的なイベントへと成長している。単純に,動画配信者やアニメ好き,オタク向けのイベントという話ではなく,二次元好きがたくさん集まるなら,そこに向けてプロモーションしたい企業も出展するし,その中には当然ゲーム企業もあるし……といった具合に,ゲーム業界的にも注目度を増しているのだ。
夏の中国のゲームイベントといえば,4Gamerでも取材しているChinaJoyがあるが,現地で「あのタイトルはBiliBili Worldの出展だったんだよね」なんて声を聞くことも多かった。近年日本でも人気の中国タイトルといえば,HoYoverseやYostarのタイトルを思い浮かべる人も多いと思うが,それらのメーカーもBiliBili World側に注力しているという。
ええー!? BiliBili World,中国向けすぎて英語サイトすらないし,さすがに取材したことなかったけど,行ってみるしかないじゃん!
というわけで,4Gamerとしても初めて取材班を送り出してみた。前置きが長くなったが,まずはイベント全体の雰囲気をお伝えしよう。
中国のオタクのトレンドが実感できる,カオスで楽しいイベント
具体的な数値がないとイベントの規模を想像しづらいと思うので,公式発表まわりから紹介してみよう。まず,BiliBili Worldはチケット争奪戦が熾烈なイベントだ。今年のチケットは購入争奪戦に61.5万人が参加。そのうち,2.7万用意されたVIPチケット(高いが優先入場できる)が30秒で瞬殺され,10万以上用意された通常チケットも1分で完売している。開催期間が3日間なので,チケット購入者だけでだいたい1日5万人が来ると言っていい。
一般チケットの価格は128元(約2800円),VIPチケットは588元(約1万2900円)で,ほかにもグッズ付きチケットなどがある。というか,この倍率でチケットが先着なの,エグくない? 参加者はだいぶ選ばれしオタクである。
会場である国家会展中心もめちゃくちゃでかい。ChinaJoyの会場である上海新国際博覧中心も相当でかいのだが,BiliBili Worldがここ数回開催されている国家会展中心はさらにでかく,世界で2番目の規模らしい。筆者は外周を半周してちょうど反対側の入口に向かうトラブルに見舞われたのだが,急いで歩いても30分かかった。いや,でかすぎるでしょ。
もっとも,この敷地を全部使用しているわけではなく,ブースが出展されているのは8ホール中5ホールだ。まぁ,それでもむちゃくちゃ広いし,それでいて混雑しているところはまったく身動きが取れなくなるのだが。
会場の雰囲気としては,ものすごくごった煮だ。コンテンツの傾向ごとに場所は分けられているものの,新作の試遊ができるブースがあるかと思えば,同じホール内なのにほかのブースでは物販をやっていたり,ノリノリのステージで来場者がペンライトを振っていたりと,もはやなんでもアリ。そして,どこも混んでいてブースの写真を撮影するだけでも一苦労だ。
もちろん,もともと動画関係のサイトなので,配信者やバーチャルライバーが数多くのブースやステージなどに登場する。面白いところだと,同人誌即売会風な雰囲気で,バーチャルライバー個人のグッズ販売ブース(どうやら,二次創作ではない様子)なんてものもある。
また,アニメや漫画のブースもたくさんあって,とくに日本のアニメの出展も多い。最近の日本のアニメだと,「ダンジョン飯」や「怪獣8号」などのブースは力が入っていて,日本から声優も来るようだ。
物販ブースは,大半が日本の会社で,やはり日本のアニメなどのIPが中心になっている。
ごく一部,中国のフィギュアメーカーも出展していて,肌色多めな女性キャラのフィギュアをメインに展示しているあたりは,イベントの性質故という感じ。去年のChinaJoyのホビー系ホールではほとんど美少女フィギュアを見なかった(関連記事)ので,ある意味新鮮だった。
我々ゲーマーがなじみ深いゲーム系のブースや,ゲーマー向けハードウェアのブースなども,もちろんたくさんある。ゲーム系はどこの会社というよりは,どのタイトルのブースという感じで,「アズールプロミリア」などの新作のブースもあれば,すでにサービスされているタイトルが物販やグッズ配布をメインにしているブースもある。
サブカルチャーに強いイベントとして忘れてはならないのが,コスプレイヤーだろう。非常に多くの来場者がコスプレをしている。会場に更衣室はないようで,コスプレをしたまま来場して,そのまま帰っていく。閉会の時間になると,会場の外は駅に向かったり,タクシーを待っていたりするコスプレイヤーでいっぱいですごい光景だった。
ちなみに,会場内にコスプレエリア的なものはないのだが,空いてるスペースに(おそらく勝手に)撮影機材を展開するコスプレイヤー達が集まり,それっぽい場所ができあがっている。規制も緩いようで(そもそもあるのか?),混雑している会場内で,でかめの武器を持って歩いていたり,翼を広げていたりする人も。うーん,カオス。
会場内には痛車の展示エリアもあるのだが,より面白いのが一般来場者の痛車である。痛車専用の駐車場があって,ズラリと並んでいるのは壮観だ。BiliBili Worldは,扱うコンテンツが非常に広範囲なだけあって,歩いているとさまざまな面白いものに遭遇できる。
日本でオタクが集まる最大のイベントと言えば,同人誌即売会コミックマーケットだが,BiliBili World内にも小規模な二次創作の物販コーナーが設けられている。ただ,売っているものは同人誌ではなくグッズ類。下の写真を見てもらうと分かるのだが,出展サークルの半分はHoYoverseタイトルだ。とくに「原神」が強すぎる。
ちなみに,会場内のコスプレイヤーも,半分ぐらいはHoYoverseという印象で,中国のオタクのトレンドとして,やはりHoYoverseの存在感が大きいというのを実感する。
BiliBili Worldの最大の魅力は,現地でしか分からない中国のオタクの熱量を感じられることだと思う。何度もChinaJoyで中国に来ている筆者だが,「原神の中国での人気の高さはなんとなく分かる」から,今回で「半端ねえわ!」に認識が変わったし,何より同じオタクとして,この会場にいられるのが楽しい。
これが仕事でなく,遊びに来ていたなら大変素敵な中国旅行を満喫できただろう。チケットを取れる気はしないけど。
中国の二次元好きに向けたさまざまなゲームが出展されているだけでなく,「メタファー:リファンタジオ」でブース出展しているアトラスや,ステージで「三國志8 REMAKE」の発売日を発表したコーエーテクモゲームスなど,日本のメーカーも増えているBiliBili World。中国以外のゲーマーにとってもゲームメーカーにとっても,無視できないイベントになっていきそうだ。
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